私と子どもの本
第6回『大どろぼうホッツェンプロッツ』
<お気に入りの挿絵>

 誰でも読みたい本を表紙や挿絵で選んだことがあると思います。私は子どもの時からそうでした。本の中の絵を眺めているのが好きだったんです。そして絵をまねて描く練習をして、夏休みに毎年行く蓼科でらくやきの絵皿に描いたりしていました。好きだった本を思い出すと、今でもストーリーと一緒に挿絵を思い出します。


 大どろぼうホッツェンプロッツのシリーズはとくに。ちょっと間抜けな泥棒、ホッツェンプロッツは、ひげもじゃで大きなワシ鼻にはぼつぼつがたくさんあって、羽飾りのついた帽子をかぶっていて、いつも不機嫌で、独特のとぼけたエピソードで物語ができています。ペンのような硬筆のタッチの線でできたイラストレーションはとてもいい感じでした。色刷りのページもあります。


 ホッツェンプロッツは、かぎたばこが好きで、話の中に何度もでてきます。袋の中からひとつまみ出してかぐのです。ホッツェンプロッツのキャラクターにかぎたばこはとてもあっていて(見たこともかいだこともないくせに)どうしてホッツェンプロッツがかぎたばこをおいしそうにかいでいる絵がないのか残念でした。当時、私の父は猛烈なヘビースモーカーでしたので、ホッツェンプロッツで知ったかぎたばこというものを試したことがあるかどうか聞いてみたけれど、意外とそっけなく、日本にはないんじゃないの、といわれただけでした。


 どんなふうにかぐのか、吸い込みすぎて鼻の穴に煙草の粉がはいっちゃったりしないのか、本の中で時々ホッツェンプロッツがくしゃみをするのはそのせいなのか、そういうディテールを知りたかったし、でもそれを知り得なくても想像するのが楽しかった。小さなカットにきんちゃく袋の絵があって、その袋に縫い付けてあるラベルに【かぎたばこ はなのなぐさめじるし】とあったり、ホッツェンプロッツの家のなかに蜘蛛の巣がはっている絵があって、いかにも掃除が嫌いそうなのを見て大いに喜んだりしてました。


 そんなふうにストーリーとイラストレーションが重なって、本のイメージがふくらむというか、立体的になる瞬間が好きだったんだと思います。


 同じころ読んだまどみちおの「まめつぶうた」では詩と挿絵と余白、という世界を知りました。それまでに読んだ物語や絵本に比べて、詩と絵の距離、詩と詩、絵と絵の間の広々としたゆったりとした感じは新鮮でした。


 いまでも本を読んで、すてきな挿絵を見たり、新発見や驚きがあると嬉しくなります。そういう本に、これからもたくさん出会えたらいいなと思います。

堀川理万子
1965年生まれ。画家。毎年銀座・京都等で個展を開く一方、子どもの本の分野でも活躍中。主な挿し絵の仕事に「きつねのスケート」(徳間書店)「ハロウィーンの魔法」(偕成社)など。

徳間書店『子どもの本だより』1999年5月/6月号 第5巻 号掲載
徳間書店と堀川理万子さんの許可を得て転載しています。
無断掲載禁止

『月刊児童文学翻訳』のインタビューに戻る