メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 2000年1月     掲載紙から   トップ


なんてかいてあるの?

リンデルト・クロムハウト 作 アンネマリー・ファン・ハーリンゲン 絵 
野坂悦子 訳
PHP研究所 1200円


 わが家では、子どもたちが小学校に上がるまで、文字や数字を一切教えませんでした。それどころか、覚えたそうにしてても、じゃましたぐらい。その前に、泥遊びだの虫取りだの、やっておくべきことはいっぱいあるんだから。
 で、この本、字の読めないサルくんが、手紙をもらったところからはじまります。やっぱりほとんど読めないヤギやアナグマ、ロバなんかをまきこんで、解読しようと大騒ぎ。最後にブタくんのところにみんなでおしかけてみると……。まだ、文字の読めない子に、そして、読める子にも、ぜひ読み聞かせてあげてくださいね。
 ちなみにわが家の子どもたち、いまでは国語がいちばんの得意科目だったりします。


はじめはりんごのみがいっこ
いとうひろし 作
ポプラ社 950円


 一方、こちらは数の本。ページをめくるたびに、出てくるものが1、2、3……とふえていく、ごくごく単純な構造のカウンティング・ブックなのですが、さすがに子どもたちから絶大な支持を受けているいとうひろし、一筋縄ではいきません。
 告白すると、わたし、とちゅうで大笑いしてしまいました。おいおい、いいのか? と思わずつっこみをいれたくなるような意外な展開、登場人物たちのすっとぼけた表情などなど、物語絵本としてもしっかりおもしろいんです。


リディアのガーデニング
サラ・スチュワート 文 デイビッド・スモール 絵 
福本友美子 訳
アスラン書房 1600円


 大恐慌時代のアメリカを舞台にした絵本です。かといって、暗い話ではありません。父親が失業して、しばらくパン屋をしているおじさんの家にあずけられることになった女の子リディア。両親から離れてのはじめての都会暮らし、にこりともしないちょっととっつきにくいおじさん、なれない仕事のお手伝い。でも、そんなこと、ちっとも苦にせずいつも明るいリディアは、ほんとうにすてきです。
 得意のガーデニングで少しずつまわりを花で飾り、とうとう最後に計画したこととは……。さあ、リディアはおじさんをにっこりさせることができたでしょうか。


ねぶそくの牧師さん
ロアルド・ダール 作 クェンティン・ブレイク 絵
久山太市 訳
評論社 1200円


 イナラシモレダという村の教会の新任牧師マントさん、はじめての仕事ということもあって、大はりきり。ところがマント師には、言語障害という病気がありました。ときどき、単語がさかさまになって出てきちゃうんです!「白樺」は「馬鹿らし」に、「罪と罰」は「唾と蜜」にといった具合に。しかも、本人は気づかないのだから、さあたいへん。日曜の礼拝では、熱弁をふるえばふるうほど、村人たちから冷たい視線をあびせられる始末です。 言語障害の協会へのチャリティーのために書かれた作品。翻訳者のはしくれとしては、原文が気になることば遊びの本です。


恋のダンスステップ
ウルフ・スタルク 作 
菱木晃子 訳 はたこうしろう 絵
小峰書店 1200円


 いまや日本でも大人気のウルフ・スタルクの新刊です。作家をめざすウルフ少年の、十二歳と十五歳のときの二編の恋物語。
 表題作は、友だちの誕生パーティーであこがれのアグネッタと踊ることを夢見て、日夜ダンスの練習に励むウルフの話。当日、いよいよアグネッタとペアを組み、自信満々に踊りはじめたのはいいけど、なにかが変だぞ!
 二編目は、イギリスでのホームステイ・プログラムに向かう船のなかでであったソフィーとの恋。
 あいかわらず、おかしくて、切なくて、なつかしい、珠玉のスタルク・ワールドです。



ルイス・サッカー 作 
幸田敦子 訳
講談社 1600円


 事実を元にしたのではなく、人間の想像力だけで作り上げる物語とは、極言すればほら話です。どうせほらなら、読者を目一杯楽しませて、あちこちひきずりまわして欲しいもの。この本は、文句なしにその望みをかなえてくれます。
 無実の罪で更正キャンプに送り込まれ、毎日穴を掘ることを強制される少年の冒険が核なのですが、まわりには、運や不運、欲や友情、魔術や悲恋の伝説などに彩られたさまざまなエピソードがちりばめられています。それらが、最後にすべて意味を持ち、一カ所に収斂していく心地よさ、物語作りのうまさには心底感嘆しました。


北海道新聞 2000年4月     掲載紙から   トップ

いぬはてんごくで…
シンシア・ライラント 作
中村妙子 訳
偕成社 1400円


 犬を飼ったことがあって、先立たれた経験のある人は、この絵本、涙なしには読めないかもしれません。といってもあたたかい涙です。
 犬の天国には広い広い野原があって、すきなだけ走り回れるし、いっしょに遊んでくれる子どもたちもいます。やさしい神様が見守っていてくれるから、夜、怖い夢を見ることもありません。ときどきは地上にもどり、元の飼い主をたずねて、ものかげからのぞいたりもできます。そう、犬たちは天国でしあわせに暮らしているんです。そして、あなたが天国にいくとき、犬は入り口でむかえてくれるのです。交通事故で死んだエルも、むかえにきてくれるかな。


にたものランド
ジョーン・スタイナー 作
トーマス・リンドレイ 撮影
まえざわあきえ 訳
徳間書店 1700円


 これはいわゆる「だまし絵」の立体版とでもいえるでしょうか。ページをめくるたびに駅や雑貨屋さん、サーカスや港といったミニチュアの世界が広がっているのですが、よくよく見ると、ちょっと変。
 駅の天井には、あれ? こんなものが。公園のこの木、なんだかおかしいぞ。ホテルのロビーに置いてあるソファは、うふふ。
 隅から隅まで見ていると何時間でも楽しめそうです。この絵本を完成させるまでに三年半もかかったそうですが、それもうなずけます。でも、その三年半、ものすごく楽しかっただろうな。


地獄の悪魔アスモデウス
ウルフ・スタルク 作
アンナ・ヘグルンド 絵
菱木晃子 訳
あすなろ書房 1300円


 この欄ではすでに何度かウルフ・スタルクの作品を取りあげていますが、ふたたび紹介させて下さい。だって、おもしろいんだもん。
 今回の設定はすごい。主人公は地獄に住む悪魔の子なのです。でも、この子、あばれたことも、だれかをいじめたこともないし、意地悪やおこりんぼうって、ほめられたこともありません。心配したパパは、息子を地上に送りこんで、人間の魂をうばってくるよう命じるのですが……。
 善悪のひっくりかえった、はちゃめちゃな世界に、きっと子どもたちは大喜びすることでしょう。それにしても、アンナ・ヘグルンドの絵、あいかわらずぶっとんでるなあ。


サイテーなあいつ
花形みつる 作
垂石眞子 絵
講談社 1400円


 児童文学にはいじめを描いたものがずいぶんありますが、これほどリアルなもの、なかなかないです。でも、この本のテーマがいじめだといったら、作者に怒られるかな。これは友情だ!って。とにかく、徹底的に子どもの視線で描かれています。小気味いいぐらいにずばずばと。しかも、この作者、根っからのエンターテイナーだからぐいぐい読ませます。日本の学校ものにありがちな説教臭さ(現役および元先生が書いてるものが多いせいでしょうか)のない、健全な読み物です。だからこそ、子どもたちの心にもまっすぐに届くでしょう。


さびしい時間のとなり
草谷桂子 作
永井泰子 絵
ポプラ社 1000円


 転校早々のあいさつで失言をしてしまい、クラスにとけこめない清野。はじめての万引きを見つかってしまった直樹。お母さんが急死した後、まわりにSOSをだせずに無理をするマキ……。現代を生きる子どもたちの日常をていねいに描いた連作短編なのですが、この本の主人公は、実は図書館です。
 図書館という空間にやすらぎを得、図書館を取り巻く人々とのふれあいで自分を取りもどし、図書館とかかわるなかで、ときには他人にも影響を与えている。図書館の、ある種、魔法ともいえるそんな魅力が、静かな筆致で語られています。あなたのまわりにも、こんなすてきな図書館、ありますか?


バイバイわたしのおうち
ジャクリーン・ウィルソン 作
ニック・シャラット 絵
小竹由美子 訳
偕成社 1200円


 アンディーは、両親の離婚で、一週間ずつ父母の家をいったりきたりすることになりました。ところが、お母さんの新しい家族も、お父さんの新しい家族も、どいつもこいつもへんてこで、いやなやつらばっかり。その上、お父さんの結婚相手キャリーのおなかには、赤ちゃんがいるんだからいやになる。はてさて、アンディーは自分の居場所を見つけることができるでしょうか。
 両親の離婚という深刻なテーマをあつかってはいますが、あくまでも明るく楽しく描かれていて、何度も笑っちゃうことでしょう。そして最後には、さわやかな感動が待っています。


北海道新聞 2000年7月     掲載紙から   トップ

幼児

みんなあかちゃんだった
鈴木まもる 作
小峰書店 1300円


 生まれたばかりの赤ちゃんが、少しずつ成長していく姿を、たくさんのエピソードでつづっていくスケッチ風絵本。描かれている赤ちゃんの愛らしさに、ほおはゆるみっぱなしでした。子どもを育てたことのある人には思い当たることもいっぱいあるのでは。
 この本は、ぜひお子さんをひざの上にのっけて読んであげてください。お子さんが赤ちゃんだった頃の思い出を語るために、何度も脱線しながら。赤ちゃんだった自分への愛情を感じ取った子どもは、それが現在の自分への愛情でもあることを感じて、きっと幸せで満ち足りた気持ちになれるのですから。


電子の虫めがね(たくさんのふしぎ 2000年7月号)
西永奨 写真
澤口たまみ 文
福音館書店 667円


 この本をはじめて開いてみるときの子どもたちの様子、かなり具体的に目に浮かびます。「スッゲー」とか「なにこれ!?」といった感嘆の声をあげる子、びっくりするあまり、ポカンと口を開けてただじっと見入る子、それから、こわがって逃げていく子……。
 それはなにも子どもばかりではありません。大人だって、走査電子顕微鏡という魔法の道具がとらえた、昆虫や植物の想像を絶するような姿を目にしたら、ただただ驚嘆するにちがいないのですから。
 そして、造形の妙とでもいうべき神秘的な美しさに、畏敬の念をすら感じてしまうかもしれません。


低・中学年

のはらクラブのこどもたち
たかどのほうこ 作
理論社 1000円


 野原の好きなのはらおばさんは、野原を歩きながら花や草の話をするクラブを作ることにしました。のはらおばさんと、メンバーになった女の子たちは、お弁当をもって散歩にでかけます。
 すずめのかたびら、からすのえんどう、ねこじゃらしなど、野原で見つけた草花について、おたがいに知識を披露しあったり、草花遊びをしたりしながら散歩は楽しく続きます。でも、よくよく見ると、あれ? このメンバーたち、どこかが少しかわってるぞ。
 読んでいるうちに草花についての知識がたくさん身に付く上に、ちょっと不思議なファンタジーとしても楽しめる、一粒で二度おいしい本です。


空とぶ鳥のおりがみ
桃谷好英 著
誠文堂新光社 1500円


 これはもう、タイトルそのまんまの本です。ハヤブサ、カワセミ、カツオドリなどなど六〇種類ほどの鳥の姿をした折り紙の作り方を図説しているのですが、これ、飛ばせるんです。紙飛行機みたいに。
 なかには、なかなか凝った作りのリアルなものもあって、こんな形で本当に飛ぶのかなあと心配になりますが、実際に飛ばしてみると、意外や意外(作者の方、ごめんなさい)、きれいに滑空します。
 鳥の特徴をとらえた美しいフォルムを保ちながら、うまく飛ばせるんですから、折り方を編み出すにはなみなみならぬ研究と努力がそそぎ込まれているんでしょうね。


高学年以上

ティーパーティーの謎
E・L・カニグズバーグ 作
小島希里 訳
岩波書店 680円


 現在ご存命の世界中の児童文学作家のなかでも、一、二を争うことはまちがいのない書き手、それがアメリカのカニグズバーグです。久々の新刊も、期待にたがわずおもしろかった!
 それぞれに微妙な問題を抱えた子どもたちの一人称で書かれた描写が、複雑にからみあいながら、繊細な物語を紡いでいくそのうまさには舌を巻きます。しかもその根底には、子どもたちに注がれる暖かい愛情が満ちあふれている。
 この人の作品、子どもだけに読ませておくのは、絶対にもったいない。いわゆる読書人の大人にも、きっと満足していただけると思います。

DIVE(ダイブ)!! 1
森絵都 作
講談社 950円

 カニグズバーグにも負けず劣らず新作が楽しみな作家が、日本にもいることをうれしく思います。一見非現実的に見えるテーマでも驚くほどリアルに描き、読むものを引き込んで離さない語りの技をもつ森絵都が、今度は「スポ根」に挑んだというのですからファンにはたまりません。しかも、シリーズで!
 平凡な高飛び込みの選手である中学生の知季は、ひょんなことからオリンピックをめざすことになります。いわくありげなライバルが登場し、兄弟、コーチとの葛藤があれば、友情や恋もある。青春てんこ盛りのこの物語、あー、2巻目が待ち遠しい。

北海道新聞 2000年10月     掲載紙から   トップ


★幼児

びっくりめちゃくちゃビッグなんてこわくない
トニー・ロス 作 
金原瑞人 訳
小峰書店 1300円


 大人が子どもに本を読んでもらいたいと思うとき、どうしても『役に立つ』ものを求めてしまいがちです。徳目に役立つ教訓とか、情操教育に効く感動だとか、お勉強になる知識だとかね。で、そんなものはなにもないけど、ただおもしろい本、っていうのは白い目で見られてしまう。その結果、出版される本も役に立つものばかりにかたよって、かえって子どもの本離れに拍車がかかり……。断じてそうはなってほしくありません。そんななかでこのような本に出会うとほっとします。ただただばかばかしい(これ、最上級のほめ言葉です、念のため)オチには大笑いしてしまいました。


しぜんで工作しよう
塩浦信太郎 文・絵
岡田邦明 写真
岩崎書店 1500円


 舌の根も乾かないうちになにをいいだすやらと思われるかもしれませんが、これはとても役に立つ本です。
 タイトルの通り、小枝や落ち葉、石ころや流木などといった自然の材料を使う工作や遊びの、いわばハウツー本なのですから。
 豊富な写真やイラストでいろいろと具体的な技法やアイディアのヒントが散りばめられていて、子どももおとなも創作意欲をかきたてられるでしょう。宿題の工作に役立てるなんていうみみっちい使い方ではなく、親子で自然とふれあうきっかけとして大いに役立ててほしいものです。


★低・中学年

森のスケーターヤマネ
湊秋作 著
金尾恵子 絵
文研出版 1200円


 残念ながら北海道には住んでいないそうですが、このヤマネ、小さくてとてもかわいいらしい生き物です。実は私も以前、アフリカヤマネという種を見たことがあるのですが、かわいそうになるぐらい臆病で、はかなげな動物でした。ところが、どっこい、生きた化石といわれるほど古くからいる哺乳類で、ある意味ではとてもたくましい動物であることを今回知りました。
 本書はあるヤマネの家族の一年を物語仕立てでクローズアップしながら、生態をくわしく教えてくれる科学読み物です。さりげなく、しかし、自信に満ちた筆致は、大変な苦労の伴う長年にわたる研究に裏打ちされたものなのだろうなと感動。


ダーウィンのミミズの研究
新妻昭夫 文
杉田比呂美 絵
福音館書店 1300円


 長年にわたる研究という意味ではこちらもすごい。ビーグル号での世界一周の成果として進化論を打ち立てたダーウィンが、自宅の裏の散歩道での四〇年にもわたる地道な研究の結果『ミミズの作用による肥沃土の形成とミミズの習性と観察』などという地味な本を書いていたというのです。
 本書はそのダーウィンの研究をわかりやすく解説してくれる絵本なのですが、ダーウィンにあこがれて学者になった著者は、わざわざイギリスの元ダーウィン邸まででかけて、一五〇年後の追加ミミズ研究をおこなって報告してくれてます。学者っていうのは!


★高学年以上

ローワンと魔法の地図
エミリー・ロッダ 作
さくまゆみこ 訳
佐竹美保 絵
あすなろ書房 1300円


 火の山、魔法使いの老婆、洞窟に竜と、ファンタジーではおなじみの要素がこれでもかと盛りこまれた作品です。ただし、ヒーロー像がちょっと珍しい。ひ弱で臆病で、チビな男の子なのです。そして、それ故に、ありきたりといってもいい設定の物語に、新しくてさわやかな風が吹き抜けていく。
 竜が起こした災いを取り除くための一行にこのローワン少年が加わらざるを得なくなった瞬間から、旅は、真の強さとは何なのかという問いが常に突きつけられる冒険へと形を変えたのです。すべてのファンタジーファンと、泣き虫、弱虫たちへ。


五月の力
橋本香折 作
長新太 絵
BL出版 1400円


 これはまた、なんとも不思議な手触りの作品です。これまで読んだ本の、どんな分類にもあてはまらないような。ああーおもしろかった、と読み終えたことはまちがいないのですが、その「おもしろ感」以外は、たちまちふわーと煙になってどこかへ消えてしまうとでもいうか。学園もの? いじめがテーマ? ファンタジー? うーん、やっぱりわからない。登場人物たちの造形はくっきりしていて、その思いや言動や悩みはどれもとてもリアルなのに。
 結局、物語のキーとなるキャラクター、カメ吉にケムにまかれたってことなんだろうな。この不思議感、ぜひ、あなたも体験してみて下さい。


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