メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 2001年1月    掲載紙から   トップ

★幼児

わらって! リッキ
ヒド・ファン・ヘネヒテン 作・絵
のざかえつこ 訳
フレーベル館 1200円


 この絵本を読みはじめた多くの人が、主人公のウサギのリッキを見て、思わず「かわいい!」という声をあげるにちがいありません(何度も何度もね)。ほんとうにかわいいんだから! でも、かわいいだけによけいに不憫でたまらなくなってしまうのです。
 リッキはほかの仲間たちとは違った身体的な特徴を持っているためにからかわれていて、笑われないようにしようと努力する姿が、逆にさらなる笑いをさそってしまうのですから。
 さて、リッキはどうやってこの苦境を乗り越えるのでしょうか。前向きなリッキの姿勢はぜひ見習いたいものです。


きりのなかのはりねずみ
ノルシュテインとコズロフ 作 ヤルブーソヴァ 絵
こじまひろこ 訳
福音館書店 1300円


 ロシアを、いや世界を代表する偉大なアニメーション作家ノルシュテインの傑作のひとつが、大判の絵本になりました。十年以上も前にはじめて彼のアニメ作品を見て感じた、その芸術性の高さへの驚きや感動が鮮やかによみがえりました。
 友だちの家を目指して夜の道をひとりで歩き出したはりねずみ。やがて、濃い霧がしのびより、あたり一面をおおってしまいます。見慣れた景色が一変して、幻想的でおそろしい世界になってしまったときに感じるはりねずみの心細さが、読者にも伝わってくるでしょう。夜の霧のように静かにヒタヒタと。


★低・中学年

そーくん
ねじめ正一 作 南伸坊 絵
佼成出版社 1400円


 テレビなどで時折見かけるねじめ氏って、なんとなく苦手だなと思っていました(作品も読まずに!)。なにより、ジャイアンツの熱烈なファンなのが気に入らない(笑)。
 で、そのねじめ氏が児童書を書いたというのですから、お手並み拝見といった思いで読んでみました。ところがところが、これはすごい。これだけ子どもの視点から書かれたものってなかなかあるもんじゃありません。
 小3のそーくんとお父さんとの交流、野球を通じての大人とのつきあい、淡い初恋や知り合いの死との遭遇までもが、さわやかな筆致でとてもリアルに描かれていたのです。ファンになっちゃいそう。


ちえちゃんの卒業式
星川ひろ子 写真・文
小学館 1400円


 写真には撮る人の人間性が現れるといわれますが、どこにどう現れるかなんてわからないですよね、普通。でも、星川さんの写真を見ているとそれがわかるような気がします。星川さんはそばにいる人の心をなごませてくれる、そんな人です。きっと。だって、この本のなかのちえちゃんは、いつも安心したようなやわらかい表情をしているんだから。
 肢体不自由に生まれたちえちゃんが小学校を卒業するまでを記録したこの本は、ちえちゃん本人にはもちろん、友だちをはじめ、ちえちゃんを見守ってきた多くの人にも、これからの人生を生き抜いていく上での大きな力となることでしょう。
 そう、読者のあなたにもね。


高学年以上

ネシャン・サーガI ヨナタンと伝説の杖
ラルフ・イーザウ 作
酒寄進一 訳
あすなろ書房 2400円


 ハリー・ポッターの登場で火のついた感のあるファンタジー界に、これはまたすごい作品があらわれたものです。
 車椅子の生活を強いられた少年ジョナサンには秘密があります。ときおり、強烈な現実感をともなう夢を見るのです。時代も場所も異なる世界で、国の存亡にかかわる重大な使命を帯び、苦難に満ちた冒険の旅に出る少年ヨナタンの夢を。
 ジョナサンのけっして楽しいとはいいがたい日常と、ヨナタンの冒険が交互に進んでいくのですが、やがて、その二つの世界がふと交錯して……。
 あー、続刊が待ち遠しい!


ケルトの白馬
ローズマリー・サトクリフ 作
灰島かり 訳
ほるぷ出版 1400円


 児童書ではなかなかお目にかかれませんが、芸術をテーマにした作品は大好きです。その上、まだ文字をもたない古い時代の話だというのですから、興味はいっそう募ります(学生時代に美術史や考古学をかじっていたもので)。
 イギリスの丘陵地帯に、二千年以上も前に作られたといわれる巨大な馬の地上絵があります。歴史小説の書き手としてゆるがぬ実績を持つサトクリフは、この「白馬」が作られた背景を、独自のひらめきをもとに美しくも悲しい、そして壮大な物語に仕上げました。
 この白馬の実物を見てみたいと強く思いました。


北海道新聞 2001年4月     掲載紙から   トップ

★幼児


佐藤忠良 画 木島始 文
福音館書店 362円


 世界的な彫刻家である佐藤忠良さんには、絵本の仕事として、日本中のほとんどの子どもが一度は必ず接するのでは、といってもおおげさではない『おおきなかぶ』という傑作がありますが、この本にも古典になりそうな気品がただよっています。
 スケッチブックを抱えて出かけた散歩の先で出会った、様々な木のデッサンを並べた絵本。あえていえばただそれだけなのですが、たった一本の鉛筆で、それぞれの木の持つ個性や生命力まで描き出すそのゆるぎない技術は、感動的でさえあります。
 絵を描くということは対象物との対話なのだということもとてもよく実感できます。じっと絵を見ているだけで、木と佐藤さんの会話が聞こえてきそうなほどで、その点からいえば、添えられた文章が饒舌すぎて気になるぐらい。


おにのめん
川端誠 作
クレヨンハウス 1165円


 落語を元にして作られた絵本です。爆笑系というよりは、心あたたまる人情噺系。
 田舎を離れ、町の荒物問屋に奉公に出ている少女、お春は、道具屋で見かけたおかめのお面に母親の面影を見て、毎日のように店に通います。事情を知った道具屋のおやじは、お金のないお春にそのお面をゆずってやりました。それからというもの、お春は仕事のあいまに、お面を取り出してはじっと見つめるようになりました。
 ところが、それを知った若だんなが、ちょっとしたいたずら心でそのお面を鬼のお面とすり替えてしまったものですから、さあ大変。母親の顔が鬼の顔になっているのをなにかの凶兆と思いこんだお春は、だれにも告げずに店を飛び出し実家に向かうのですが……。
 はらはらさせる場面もありますが、最後にはすべて丸く収まって、読者の心もほっこり。


★低・中学年

こんなのへんかな?
村瀬幸浩 文 高橋由為子 絵
大月書店 1800円


 「ジェンダー・フリーの絵本」という全六巻のシリーズの一巻目です。ジェンダー・フリーとは、つまり、男らしさ、女らしさといった社会的文化的に作り上げられた性別による既成の枠を取り払って、ひとりひとりが、自由に自分らしく生きていこうよ、ということです。
 こうした考え方を、子どもたちにも身近な例をあげて、楽しくわかりやすく教えてくれる画期的な絵本のシリーズといっていいでしょう。でも、このテーマ、現状では、子どもたちよりも大人たちこそ学ばなければならないものですので、ぜひとも親子で、学校で、子どもとともに読んで下さい。
 そう、「主夫」なんていうのも、ジェンダー・フリーの考え方からいえば、ちっとも不自然なことではないんですよ!


にんきものをめざせ!
森絵都 文 武田美穂 絵
童心社 900円


 本書は久しぶりに出た「にんきものの本」の三巻目にあたります。で、実は一巻目の「にんきもののひけつ」も本欄で取り上げているんです。おなじシリーズの作品をくりかえし取り上げることには多少の躊躇はあったのですが、やっぱり紹介させて下さい。だって、なにしろおもしろいんだから。
 いつも元気であねご肌のかなえちゃんは、顔も頭もスポーツもぱっとしない、けいたくん(「ひけつ」の主人公)に淡い恋心を抱いています。でも、あろうことか、突然、強力なライバルがあらわれて、かなえちゃんの心おだやかではない日々がはじまります。
 小さなことに一喜一憂する、豊かな感性で毎日を送る現役の子どもたちには、とってもリアルに映る世界でしょう。
 それにしても、森絵都と武田美穂は、帯のコピーにもあるように、いまや、最強コンビだ!


★高学年以上

シカゴよりこわい町
リチャード・ペック 作 
斎藤倫子 訳
東京創元社 1900円


 夏休みを田舎のおばあちゃんの家で過ごす兄妹の物語、といえば、きっとのどかで、おおらかな、心安らぐ日々が描かれていると思うでしょう、普通は。
 ところがどっこい、その田舎町は、普段二人が暮らすアル・カポネらギャングが暗躍する禁酒法時代のシカゴよりもこわいのです。そして、その原因はといえば、当のおばあちゃんにあるのだから!
 なにしろ、このおばあちゃんがひとりいるだけで、町の犯罪率が飛躍的に高まっているというんだからすごいでしょ。でも、この町を、情けの通った、正義が悪に屈しない町にしているのもおばあちゃんあってのことなのです。
 痛快このうえないエピソードの連続で、読書の醍醐味をたっぷり味わえます。そして、ラストでは、きっとほろりとさせられることでしょう。


スターガール
ジェリー・スピネッリ 作
千葉茂樹 訳
理論社 1380円


 ある平凡な高校に、スターガールと名乗るとっても変わった新入生がやってきました。足首まで覆う長いドレスを着て、ウクレレを背負い、ペットのネズミを連れ歩いている。でも、それはまだまだ彼女のユニークさの氷山の一角にしか過ぎなかったのです。
 あまりにも人とちがいすぎる人間が突然やってきたとき、まわりはいったいどう反応するでしょう。とまどい、賞賛、誤解、いじめ、そして恋に彩られた物語はめまぐるしく展開し、最後には……。
 ポップでありながら痛々しいまでにせつなく、魔法のような不思議に満ちた物語、ぜひ多くのみなさんに読んでいただきたいと願っています。
 拙訳書ですが、当欄を担当して丸五年、この間出した二十冊以上の訳書中はじめての自薦です。


北海道新聞 2001年7月     掲載紙から   トップ

★幼児

だめよ、デイビッド!
デイビッド・シャノン 作
小川仁央 訳
評論社 1300円


 のっけから金魚鉢をひっくりかえすは、壁に落書きするは、泥だらけで家に上がりこむは……
 次から次へとはちゃめちゃな悪さをしては、ママに「だめよ!」とおこられてばかりのデイビッドくん。その無邪気な顔を見れば、悪気なんてないことはよーくわかるんだけど、やっぱり親としてはおこりたくもなるよなあ。
 お子さんをひざの上にのっけてこの本を読み聞かせてあげれば、わくわくしながらデイビッドくんの無茶な行動に共感するお子さんの気持ちと、はらはらしながらママに共感する親の気持ちが、どんどん高まり、最後にはひとつになって、親子の絆が強まることうけあいです。
 それにしても、これはまさに我が家の話だと思う人、きっとたくさんいるだろうな。


ツーティのうんちはどこいった?
松岡達英 絵 越智典子 文
偕成社 1200円


 やたら「うんち」に関心を示す時期って、子どもにはありますよね。そんなときにさりげなくこの本を読んであげてみては?
 中米の熱帯雨林に暮らすハナグマの子ツーティは、赤ちゃんの頃から一度もおもらしをしたことがありません。だって、おむつなんかしてないし、どこでしたっていいんだから。
 きょうも高い木の上からうんちをポトンと落としたツーティですが、ふと、疑問を覚えます。自分だけではなく、ジャングルに住むたくさんの動物たちが毎日しているうんちはどこにいくのだろう、と。だって、いくら落としっぱなしにしても、森はうんちだらけなんかにはならないのだから。そこでツーティは、自分のうんちを見張ることにしたのですが……。
 うんちを通して、豊かな生態系の一断面が、鮮やかに、そして楽しく浮き彫りになります。


低・中学年

ぼくのコレクション
盛口満 文・絵
福音館書店 1700円


 この本を作るのは、著者の盛口さん、本当に楽しかったんじゃないかあ。まず、ものを集める段階が楽しそう。自然のなかにでかけていって拾ってきた「宝もの」のその数と質たるやすごいんです。植物でいえばものすごい数の木の実、葉っぱ、花。虫の数も半端じゃない。目に見えないほど小さな卵まで集めてるし。さらに動物がらみでは、ネズミの巣や鳥の羽、フンに死体に骨もある。挙げ句の果ては足形まで!
 そして、さらに楽しそうなのは、それを絵に描く作業。ひとつひとつ写実的に描き取り、色をつけていくのは大変なことだろうとは思うけど(タンポポの花をバラバラにして、パーツを全部描くなんてこともやってるんです)、うはうはいいながら楽しんでいる姿が目に浮かぶようです。
 だから私も、ページをめくるたびにどんどん楽しくなりました。


エイボン家の小さなひみつ
ラルフ・フレッチャー 作 小泉るみ子 絵
はらるい 訳 
文研出版 1300円


 大家族の泣き笑い。本書の内容はこのひとことにつきます。でもその「泣き」も「笑い」も密度が濃いんです。ものすごく。
 クリスマスにはじまりクリスマスに終わる一年間の物語は、六人兄弟の長男クリフの目を通して描かれます。損な役回りだと不満を抱く長男。一歩引いたクールな二男。おしゃまな長女に、人のいい三男、野生児の四男にまだ歩きはじめてまもない末っ子……。いずれも個性的な六人の兄弟がひとつ屋根の下で暮らしているのですから、衝突もしょっちゅう。
 でも、大家族だからこそ愛情もたっぷりだし、大きな悲しい出来事が起こったときもひとつになって立ち向かうことができるのです。
 最後の章で家族みんなが爆発的に笑うシーンでは、私もいっしょになって笑いましたが、笑いを取り戻した家族の姿を見るのがうれしくて、ちょっぴり涙が出てしまったことを告白します。


★高学年以上

エリアは北へ
山口理 作 夏目尚吾 絵
アリス館 1400円


 なにかにつけて、すぐ短気を起こし、しかもなにもかもを人のせいにする小六のエリア。そもそも、エリアなんていう女の子みたいな名前をつけて、そのいわれも教えてくれずに交通事故で死んじゃったとうちゃんが悪いんだ……。
 ところが、そのエリア、ひょんなことから夏休みに、2人の友だちと叔父のゴローちゃんとで、北海道縦断を含む千キロにもおよぶサイクリング旅行に出かけることになります。
 さまざまな事件や困難にでくわしながらも、北の果てにたどいついたエリアは、どう変わるのでしょうか。
 学生時代にはカニ族(死語?)として道内をうろついた経験のある私としては、自転車で道内のあちこちを巡るのもいいかもなあ、と旅情をくすぐられました。でも、子どもを乗せる荷台のついたママチャリしかもってないのが問題だ!


ゼブラ
ハイム・ポトク 作
金原瑞人 訳
青山出版社 1500円


 現代(いま)そのものを生きる子どもたちの姿を描いたヤングアダルト向け短編集です。
 現代を舞台にしたYA作品といえば、過激なテーマのとんがったものをイメージされる方も多いと思いますが、本書には「しっとりした」という表現があてはまりそうなほど穏やかな時間が流れています。
 夏期講習の臨時の美術教師との交流を描いた表題作をはじめ、いずれも、小さな出会いや事件を期に揺れ動く主人公の心を繊細に描き出し、ささやかに見えて、実はその後の人生にとって大きな大きな意味を持つであろう成長を遂げるその瞬間に立ち会わせてくれるのです。
 きっとみなさんも、短編なのに一編一編の主人公になつかしい愛おしさを抱き、また近いうちに再会したいと思っている自分に気づくことでしょう。


北海道新聞 2001年10月     掲載紙から   トップ

★幼児

ポール
岡本順 作
佼正出版社 1500円


 この絵本、一ページが細かくコマ割りになっていて、画面の中に台詞の吹き出しがあります。つまり、「マンガ」なのです。と書くと、なんで書評欄でマンガなんか取り上げるんだとお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。でも、それは偏見というもの。文章と絵とが互いにからみあってストーリーを展開して
いくという点において、本質的に絵本とマンガにちがいはありません。
 通常、一ページもしくは一見開き単位で場面が変わっていく絵本にくらべて、本書は場面が細かく分割されている分、とても繊細で、独特な間(ま)を持つ「絵本」として、大きな成功をおさめているといっていいでしょう。
 少女と老犬の一夏の思い出がしみじみと描かれています。少女と犬双方の微妙な表情に注目してご覧になってください。


のら犬ウィリー
マーク・シーモント 作
みはらいずみ 訳
あすなろ書房 1300円


 こちらも犬が登場する絵本です。ピクニックに出かけた先で出会ったのら犬に、ウィリーと名前をつけて、子どもたちはその日一日楽しく遊びます。夜になって別れたあとも、お姉ちゃんも弟も、ウィリーのことが気になってしかたありません。おやおや、どうやらお父さんとお母さんも!
 ウィリーのことを思ってうわのそらの毎日がすぎてゆき、次の土曜日がやってきました。おなじ場所に出かけていった家族はウィリーとまた出会うことができるのでしょうか……。
 『はなをくんくん』『木はいいなあ』などで知られる一九一五年生まれの大ベテラン、マーク・シーモントの最新作です。うれしいなあ。もっともっと長生きをして、すばらしい絵本を生み出しつづけてほしいと思います。


低・中学年

紅葉と落ち葉
平野隆久 写真 片桐啓子 文
山と渓谷社 1600円


 自分の名前のせいなのか(千の葉が茂る樹)木のことは気になります。三人の 子どもの名もいずれも木にちなんだもの。だから(ちょっと強引?)こんな本にはつい手がのびます。なにせさまざまな木の葉の美しい写真が、どのページにもたくさんちりばめられているのだから!
 葉っぱの形そのもののおもしろさはもちろん、色を変えていく過程がうかがえるような微妙なグラデーションや虫食いのあとにまで美を感じて、ゆっくりページをめくりながら幸せな気分になれます。
 子ども向けに作られた本というわけではないのですが、きっと子どもにもおもしろいはず。そして、もちろん、この本を手に子どもといっしょに落ち葉拾いにでかけましょう! 同時にでている『ドングリと松ぼっくり』もぜひ。


エレベーター・ファミリー
ダグラス・エバンス 作 矢島眞澄 絵
清水奈緒子 訳
PHP研究所 1200円


 本書はいわゆるナンセンス。突飛な設定の物語です。でも、読んでいくうちに、こんなこともあるかもなあ、とか、できるものならこんな家族と出会ってみたい、とか、あげくのはてには、自分もこんな休暇を過ごしてみたいと思っている自分に気づいてドキリとするかも。なにより、家族のことが大好きになっていることでしょう。
 四人家族のウィルソン一家、旅行先のホテルで満室と断られてしまうのですが、すてきな部屋を見つけます。ドアは自動に開閉し、次々とお客さんがやってきて、いつも上がったり下がったりして、ドアが開くたびにちがう階につく部屋。そう、それはエレベーターだったのです。なんともとんちんかんなウィルソン一家ですが、数日間を過ごした後、ホテルの支配人から感謝されて意気揚々とホテルをあとにします。さて、なにがあったのかな。


★高学年以上

X(エックス)をさがして
デボラ・エリス 作
もりうちすみこ 訳
さ・え・ら書房 1300円


 十一歳の少女カイバーの母親は元ストリッパー。双子の弟は自閉症で、家は貧しく、父親はいない。ここまで読んで、そんな重いテーマの本はパスだな、と思った方、多いと思います。実は私もそうでした。確かにカイバーの肩に負わされている荷物はあまりにも大きいように思えます。
 でも、たとえ一見豊かな環境にあるかに見えるあなたのまわりの子どもにしても、ひとりひとりが味わっている孤立感や、無理解な社会への怒り、将来への不安や家族へ寄せる愛憎の入り交じった感情などの重さは、けっしてカイバーのそれと大きなちがいはないのでは、と思いいたったとき、この作品は俄然光を放ちはじめます。
 痛々しい物語ではありますが、美しい物語でもあるのです。アフガニスタン難民を支援するNGOで活躍する著者の作品が、テーマはちがうとはいえ、いまこの時期に出たことは偶然とは思えません。


ふたごのルビーとガーネット
ジャクリーン・ウィルソン 作
小竹由美子 訳
偕成社 1200円


 見た目はそっくりなのに、性格はまったくちがう双子の女の子、ルビーとガーネット。切っても切り離せない仲良しです。ところが、会社をリストラされたお父さんが、田舎に引っ越して長年の夢だった本屋さんをはじめるといいだしたところから、少しずつ生活は変わっていきます。新しい環境に立ち向かわざるを得なくなったとき、ふたりの個性がそれぞれにちがった解決法を求めだしたのでしょうね。そして、ちょっとした思いつきではじめたことのせいで、思いがけず、ふたりは離ればなれになってしまうことに……。
 明るく楽しいけど、ちょっとせつないお話です。
 注目すべきは、ほとんど見分けのつかないルビーとガーネットの挿し絵。実は二人の絵描きさんで描き分けてるんです。なんという芸の細かさ!


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