★幼児
うみ
G.ブライアン・カラス 作・絵
くどうなおこ 訳
フレーベル館 1365円
この絵本は「ぼくは うみだよ」という文章からはじまります。そう、語り手は海なのです。わたしたちが住む地球というすばらしい星にとって、海がなくてはならないものであることはだれもが認めるところでしょう。「うみ」は、そのかけがえのなさをあますところなく語ってくれます。 しかも、うっとりするような詩のことばで。
生命のふるさと、気象現象の源、水の大循環のかなめといった科学的な側面がやさしくわかりやすいことばで語られていきます。さらには、人間が生み出す詩や絵画といった芸術にインスピレーションを与え、人々の心を優しく癒すという側面にも気づかせてくれます。
科学と詩情、そして美しい絵が作り上げる雄大な世界にしばし酔いしれましょう。
ダニエルのふしぎな絵
バーバラ・マクリントック 作
福本友美子 訳
ほるぷ出版 1470円
ダニエルは絵を描くことがなによりも好きな女の子。写真家のお父さんには、目に見えたままの絵を描くようにいわれますが、ダニエルの手から生み出されるのは翼の生えたカエルや、洋服を着飾った動物など、ふしぎな絵ばかり。
貧しいながらも楽しく暮していたふたりでしたが、冬のある日、お父さんは高熱に倒れてしまいました。ダニエルはかいがいしく看病をしますが、一週間がすぎたころには、お金がなくなってしまいます。
意を決したダニエルはお父さんの写真道具一式をかついで、売れる写真を撮るために雪の町へとでかけていくのですが……。
親子の愛情、そしてダニエルの絵への情熱が、あたたかく、みずみずしく描かれています。
★低・中学年
金魚はあわのおふろに入らない!?
トリーナ・ウィーブ 作 しまだ・しほ 絵
宮坂宏美 訳
ポプラ社 1050円
ペットを飼いたくてしょうがないのに、環境が許さず飼えない子どもはたくさんいることでしょう。ペット禁止のアパートに住むアビーとテスの姉妹もそうでした。
でも、アビーはあきらめません。自分の家で飼えないのなら、よそさまの家のペットのめんどうをみる仕事をしようと思いついたのです。
ちゃんとできることを証明して、お母さんにも認めてもらおうと、まずは、ご近所の留守中に金魚の世話をすることになったアビー。妹テスのせいで、トラブルにまきこまれたり、あずかっていた鍵をなくしちゃったり……。さて、アビーはぶじにやりとげることができるのでしょうか。
犬や猫、小鳥にはじまり、ヘビやカメ、アリジゴクまで飼っていた自分の子ども時代は幸せだったんだなあ。
みつばち
くもん出版 1260円
丘修三ときけば、いまだにデビュー作『ぼくのお姉さん』を読んだときの衝撃が鮮明によみがえります。その丘さんの最新作をこうしてまた紹介できるこの幸せ。
どこにでもいる小学生たちの平凡な日常にまぎれこんだ、いささか平凡ではないできごとを描いた四編の物語。
分厚いメガネをかけた和くんと道夫の淡いけれど深く心に残る交流。誤配された同姓同名のおじいさん宛ての手紙を直接届けようとしたことからはじまる研之介の「冒険」。ちょっとしたはずみでひったくりをしてしまったしゅんちゃんとこうちゃんの葛藤。仲良し三人組の女の子たちのあいだに亀裂を生じさせた謎めいた事件。と、それぞれ趣向はちがうものの子どもたちに寄り添う丘さんのあたたかいまなざしは健在です。
★高学年以上
気分はもう、裁判長
北尾トロ 作
理論社 1260円
近々裁判員制度が実施されることに決まったといっても、なかなか実感はわきません。裁判員でさえそうなのですから、自分が裁判の当事者になるなんてことは、考えたくもないというのがごくごく一般的な考え方でしょう。犯罪をおかして被告になることなんて想像したくないし、被害者として原告になるのもまっぴら。
でも、否応なくまきこまれてしまうかもしれないのも人生。そんなとき、この本を読んでおくかおかないかで、心構えはずいぶんちがってくるかも。窃盗(万引き)から殺人まで、いろいろな犯罪の裁判の傍聴リポートなのですが、新しい知識を得られるだけでなく、知らない世界をのぞくわくわく感まで得られます(ちょっと不謹慎?)。
冒険の日々
熊谷達也 作
小学館 630円
作者がほぼ同じ年代ということもあってか、子ども時代を描いた自伝的作品というこの本にはどっぷりはまりました。住んでいた土地はちがっても、おなじように田舎で、時代の空気も手にとるようにわかるためなのでしょう、とても共感できます。でも、年代的バックグラウンドがちがう人が読んでも絶対楽しめます。だれにも共通するなつかしくて甘酸っぱい思い出の扉を開いてくれるはず。
ただし、自伝的作品とはいっても、座敷童子に、河童に天狗、鬼や山姥まで登場する異色作。いったいどうして共感できるんだと問い詰められるとちょっと困ってしまうのですが、よくよく考えると、自分の思い出のなかにも、確かにそんなもののけたちがいたような気がしてくるのですから、これまたふしぎ。
★幼児
おじいちゃんがおばけになったわけ
キム・フォップス・オーカソン 文 エヴァ・エリクソン 絵
菱木晃子 訳
あすなろ書房 1365円
大好きだったおじいちゃんが亡くなって、エリックは悲しくてたまりません。ところが、お葬式の夜、エリックのところにおじいちゃんのおばけがあらわれます。どうやら、この世に忘れ物があるため、天国へいけないようなのです。それなのに、おじいちゃんにはその忘れ物がなになのかわからない。
そこでエリックは、おじいちゃんの忘れ物さがしを手伝うことにしました。ヒントを見つけるために、次々とむかしの思い出を話してもらったり、いっしょに町を歩き回ったりします。そして、とうとう思い出したその忘れ物とは……。
死をあつかった話ですが、明るくて楽しい絵本です。そして、最後にはきっと熱い涙を流さずにはいられないでしょう。
ともだちのたまご
さえぐさひろこ 文 石井勉 絵
童心社 1365円
ともだちのほしいちびうさぎは、手作りのクッキーを持って森へでかけていきました。ところが、リスもサルも相手にしてくれません。そこにあらわれたのはカラス。カラスは「ともだちのたまご」とひきかえにクッキーを全部持っていってしまいました。どうみてもふつうの石にしか見えない「たまご」ですが、ちびうさぎはカラスのことばを信じてだいじにします。
偶然出会った嫌われ者のこぎつねは、カラスにだまされたんだと笑いますが……。さあ、たまごからともだちは生まれるのでしょうか。
人を見たら詐欺師と思え、と教えなければならないような世知辛い昨今ですが、できることなら、こどもたちには人を信じる純粋な気持ちをいつまでも持ってほしいですよね。
★低・中学年
ひげねずみくんへ
アン・ホワイトヘッド・ナグダ 作 井川ゆり子 絵
高畠リサ 訳
福音館書店 1155円
四年生のジェニーのクラスでは、二年生の子たちと文通をすることになりました。それも、自分がねずみになったつもりで手紙を書くのです。ところが、クラスのみんなにはちゃんと返事がくるのに、ジェニーの文通相手サミーラからは全然届かずがっかり。
サミーラはアメリカにやってきたばかりで、英語もよくわからないらしいことを知ったジェニーは、直接二年生のクラスにでかけていって、なんとかサミーラと仲良くなろうとするのですが……。
新しい環境に戸惑うサミーラの心が、ねずみ君によって少しずつときほぐされていく過程はとてもほほえましく、あたたかい気持ちになりました。そして、ユニークで自由な授業に拍手! 教師のみなさんも、ぜひ読んでみて。
渡りをするチョウ
佐藤英治 写真・文
新日本出版社 1470円
渡り鳥のように、季節にあわせて長距離を移動するチョウがいることは知っていましたが、日本にも海をこえて渡ってくるチョウがいることは知りませんでした。
羽の大きさがほんの五、六センチしかない小さなチョウが、二千キロも離れた台湾からもはるばる渡ってくるというのですから、ただただビックリ。でも、正直なところ、いちばん驚いたのは、そのアサギマダラというチョウの渡りを研究する人たちのネットワークがちゃんと構築されているということと、その研究方法。なんと、チョウの羽にマジックで直接記号を書き込んで放し、別の場所での発見報告を待つというのです。 奇跡的といっていい偶然を頼りにしていながら、着実に成果をあげているというその事実! 虫好き、おそるべし。
★高学年以上
宮廷のバルトロメ
ラヘル・ファン・コーイ 作
松沢あさか 訳
さ・え・ら書房 1680円
舞台は十七世紀のスペイン。十歳の少年バルトロメの背中には大きなこぶがあり、体は六歳の妹よりも小さく、人の手を借りなけばちゃんと歩くこともできません。王女の御者を務める父は、そんなバルトロメが出世の障りになりはしないかと、人目につかないように隠しています。
ところが、ある日、はからずも幼い王女の目に触れることになり、バルトロメは宮廷に召しだされることになります。気まぐれな王女のペットの「ワンコ」として!
残酷な運命に翻弄されながら、希望を失わず大きな夢にむかって前向きに生きていくバルトロメの姿には、胸が熱くなります。
私利私欲で行動し、人の不幸など気にもかけない人間と、リスクを背負いながらも彼を見守る人々の対比が鮮烈。
嵐の中のシリウス
J・H・ハーロウ 作
長滝谷富貴子 訳
文研出版 1365円
海難救助犬として知られる大型犬、ニューファンドランド犬のシリウスと少女マギーの物語。マギーたちの暮らすニューファンドランド島の漁村では、土地の有力者によって、おそろしい法律が可決されてしまいました。羊を襲うからという理由で、牧羊犬以外の犬を飼うことを禁じる法律です。この法律によって、マギーの愛犬シリウスも処分されることに。
マギーは必死でシリウスを隠し通そうとしますが、ついには見つかってしまった! そんな折りも折り、はげしい嵐に襲われて客船が沖合いで難破してしまいます。果たして沈没しかけている船から百人もの人々を救うことはできるのでしょうか……。
子どもの頃に飼っていた犬のことを久しぶりに思い出し、しばし、幸福な気分に浸りました。。
★幼児
ぼくじょうにきてね
星川ひろ子・星川治夫 写真・文
ポプラ社 1260円
乳牛を育てる牧場の毎日のようすを描いた写真絵本です。朝夕の搾乳、牧草の刈り入れ、牛舎の掃除、子牛の誕生など、北海道ではなじみの光景が次々とくりひろげられているのですが、五歳の女の子まどかちゃんの視点で展開しているところが新鮮。
牛はすごくでっかいし、一生懸命手伝いをするお兄ちゃんはとてもたのもしく見えます(背はまどかちゃんとほとんど同じなんですけどね)。
名前までつけてかわいがっていた子牛が、雄だからという理由で売られるときの悲しみものりこえ、成長していくまどかちゃんのようすがしっかりとらえられています。
学生時代、十勝の牧場で一月ほど住み込みでアルバイトをしていたときのことをなつかしく思い出しました。
見えなくてもだいじょうぶ?
フランツ=ヨーゼフ・ファイニク 作 フェレーナ・バルハウス 絵
ささきたづこ 訳
あかね書房 1470円
小さな女の子カーラが街角でわんわん泣いています。両親とはぐれて迷子になってしまったのです。でも、都会の喧騒の中、気づいてくれる人すらいません。そのとき、やさしく声をかけてくれたのは、白い杖をつき、犬をつれた目の不自由なお兄さんマチアスでした。
目の見えない人になにができるんだろうと、最初は不安なカーラでしたが、マチアスと盲導犬のシンディに両親さがしを手伝ってもらううち、目は見えなくてもできること、目が見えないからこそできることがたくさんあることを知ることになります。
マチアスの立場から身の回りの世界を見つめ直すというすばらしい体験をしたカーラの、そしてこの本の読者の世界観は、ひとまわりもふたまわりも大きくなるでしょう。
★低・中学年
むしのうんこ
伊丹市昆虫館 編
角正美雪 構成・文
柏書房 1470円
人間もふくめ、動物のうんこについての絵本や写真絵本はいろいろ思い浮かびます。子どもたちはうんこのことが大好きですから。しかし、虫のうんことなると本書がはじめてかもしれません。正直言って、あまり気にしたこともなかったのですが、こうやって見てみると、おもしろい!
バッタ、ゴキブリ、トンボやカブトムシといったぐあいに種類によってそれぞれ形状や量がちがうし(においもだそうです)、成長の過程によってもずいぶんちがうんですね。
ちゃんと研究をしている人がいることを知ったのもうれしい。カブトムシは幼虫のあいだに何個のうんこをするのかなんて、しっかり数えている人がいるんですよ!(答えは読んでのお楽しみ)
動物であれ、虫であれ、排泄行為が生きている証であることを再確認できます。
クモ
今森光彦 文・写真
アリス館 1470円
わが家の庭には夏になるとたくさんのクモが巣を張ってなかなか壮観です。そのせいで、わが家には入ってこられないというクモが大の苦手な知り合いの方もいらっしゃいましたっけ。でも、けっして意地悪してるわけじゃありませんから。実はけっこう好きなんです。朝露をいっぱいためてきらめくクモの巣なんて、自然が作る最高に美しい造形のひとつだと思いません?
この写真絵本では、クモが巣を張っていくようすや脱皮の瞬間、産卵の過程など、めったにお目にかかれない場面がもりだくさんで、心がときめいてしまいました。
偶然ですが、ほぼ同じ時期にもう一冊クモをあつかった本が出ています。こちら『8本あしのゆかいな仲間クモ』谷本雄治・文(くもん出版)もさまざまなクモの情報満載でお勧めです!。
★高学年以上
星の歌を聞きながら
ティム・ボウラー 作
入江真佐子 訳
早川書房 1980円
「天才」に強いあこがれと興味を持っています。特に芸術面での天才に。類まれな音楽的才能や絵画的才能を持っている人に世界はどう見えているのでしょう。本書を読んでその一端を垣間見ることができたような気がします。
主人公のルークはピアノの才能に恵まれながら、最愛の父を失った悲しみから逃避するために不良たちとつきあい、自暴自棄な生活を送っています。そんなルークは、あるとき世捨て人のような人嫌いの老女といつも泣き暮らす盲目の少女とであいます。
常にルークを取り巻いているルークにしか聞こえない音楽は、彼になにをもたらすのでしょう。そして、ルークが奏でる音楽は少女と老女にどんな力をおよぼすのでしょう。ページをめくる手の止まらない感動の一冊です。
カチューシャ
野中ともそ 作
理論社 1575円
主な登場人物は、なにをやるのもスローモーで、クラスのみんなから相手にされず進級さえあやぶまれる高一の少年、その同級生で派手に染めた髪にそりこみのはいった不良、怪しくも折り目正しい日本語を話すロシア人の老人、その老人の孫娘にして超美人の謎めいた転校生、となると、非日常的な別世界の物語かと思ってしまいそうですが、とんでもない。
この本を手にとった人は、だれもが自分たちの物語だと感じるにちがいありません。はがゆくて、せつなくて、おかしくて、こそばゆい……。そんな高校時代のきらめきが封じ込められた、いとおしい物語です。
登場人物それぞれの個性がしっかり描かれているからこそ、まるで自分のまわりで本当に起こっていることのように感じられるのでしょう。
★幼児
あお
ポリー・ダンバー 作・絵
もとしたいずみ 訳
フレーベル館 1260円
バーティーは青い色が大好き。セーターもくつも、イヌの首輪も青色。でも、イヌは飼っていないんです。イヌがほしくてたまらないバーティーですが(もちろん青いイヌが!)、いなくてもなんとかだいじょうぶ。イヌがいるつもりになって遊べるし、自分が青いイヌになったつもりになるという手もあります。
そんなバーティーのもとに、ついにすてきなイヌがやってきました! でも、このイヌ、残念ながら青くないんです。悩みに悩んだ末に、とってもいい解決方法を思いつきました。それはね……。
バーティーとイヌの豊かな表情を見ているだけで幸せな気分になれる絵本。新人といっていい若い絵本作家のようですが、すばらしい完成度です。いずれ古典になるような大傑作を生み出す気配あり。今後に大注目です。
くうきのかお
アーサー・ビナード 構成・文
福音館書店 1575円
頻繁にというわけにはいきませんが、美術館へでかけて絵を鑑賞するのは、とても好きです。ところが、美術館では首をかしげたくなるようなシーンをよく見かけます。絵のよこにある作品解説ばかり食い入るように見つめて、かんじんの絵をあまり見ていないような人が多いんです。もっと、絵そのものとむきあいましょうよ!
この絵本では古今東西のさまざまな絵画を見開きで紹介しています。そして、絵の中の「空気感」に注目した詩のようなことばがちりばめられているのですが、そのほんのささやかな問いかけによって絵の見え方ががらりとちがってくるのです。ほんとうに絵の中から吹いてくる風を感じられそう!
タイトルや制作のいきさつなどといった解説ではなく、こんな問いかけが掲げられた絵画展、ぜひいってみたいな。
★低・中学年
歌う悪霊
ナセル・ケミル 文 エムル・オルン 絵
カンゾウ・シマダ 訳
小峰書店 1890円
絵本なんて、お子様むきの甘ったるい、とるにたらないものだと思っているそこのあなた。ぜひ、北アフリカに伝わる昔話を絵本化した本書を手にとってみてください。
まず、その絵に度肝を抜かれるでしょう。まがまがしくて邪気に満ちた悪夢のような世界がそこには開けています。さらに文章を読んでいくとまたまたびっくりすること請け合い。絵にまさるともおとらない不気味で容赦のない展開が待ち受けているのです。
死んだおやじから受け継いだ貧乏を、自分のこどもにだけは継がせたくないと、悪霊がつかさどるとされる荒野を耕すことにした男の運命は……。
そくぞくするほどおそろしい話なのに、物語と絵がみごとに融合された絵本の真髄ともいえる作品に出会えたよろこびに胸がおどりました。
絵描き
いせひでこ 作
理論社 1575円
昨年、児童書の挿画などで活躍していた年下の絵描きの友人を亡くしました。どこへ行くにもスケッチブックをもち、絶えず手を動かしていた、絵を描くことがなによりも好きで、自分の絵を見てよろこんでもらえることを無上のしあわせと感じていた純粋な人でした。
美しい風景に出会うため、それを描きとめるために旅をつづけるひとりの絵描きの心象をつづったこの絵本を読んでいると、彼のことが思い出されてしかたありません。
美を追求するという途方もない旅の途上の「絵描き」たち、その卵たち、そして彼らに共感を寄せるすべてのひとびとにぜひ読んでもらいたい一冊です。
彼はきっと、あちらの世界でも絵を描きつづけているんだろうな。
★高学年以上
つくも神
伊藤遊 作
ポプラ社 1365円
自分の子どもの友だちの消息って、気になりませんか? もう何年もごぶさたで、きっと会ってもわからないぐらい変わってしまっているのだろうに、ふとした折に名前が口をついてでて、「コウタくんはどうしてる?」とか「サトシは元気かなあ?」なんてわが子にたずねたりして……。きっと、彼らのことも自分の友人のように思っているからなのでしょうね。そんな思いを抱くのはどうやら人間ばかりではないようです。
すまいの土蔵を追われそうになった「つくも神」(道具に宿った妖怪のようなもの)たちと、土蔵の持ち主のおばあさん、そして幼い頃土蔵で楽しく遊んだ思い出を持つ子どもたちの交流と「たたかい」を描いた物語の根底に流れているのは、幼い友人たちのすこやかな成長を願う気持ちなのだと感じられて、ちょっとせつなくなりました。
イクバルの闘い
フランチェスコ・ダダモ 作
荒瀬ゆみこ 訳
鈴木出版 1470円
ブームに便乗して、それまで見向きもしなかったファンタジーなどの児童書に手を染める出版社があとをたちませんが、正直ちょっと不安です。つづくのかなあ、と。
これまで絵本を中心にだしてきた出版社が、海外児童文学をだしはじめたときいて一瞬、またぞろ? と思ったのですが、とんでもない。ラインナップを見て拍手を送りたい気持ちです。ヒットラーに娘がいたら、という想定の『ヒットラーのむすめ』(これもおもしろかった)や、難民キャンプを舞台にした作品など、子どもたちをとりまく国際情勢や社会問題に真正面から取り組んだ好企画です。
本書もパキスタンのじゅうたん工場で奴隷のように働かされる子どもたちを救うために立ち上がり、13歳をむかえずになにものかに殺されてしまった実在の少年を描いた感動作。
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