メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 1996年6月     掲載紙から   トップ


おもしろとうさん

さとう わきこ 作・絵
フレーベル館 1200円


 家にいるときはいつもごろごろしているとうさん。子どもに無理やり外にひっぱり出されて、いざ遊びはじめると、一転して子どもも顔負けのはしゃぎよう。あたりが夕焼けに染まるまで、親子は思い存分遊びまわります。
 最近子どもと遊んでないなあ、と思っているそこのお父さん、これは子どもたちの願いがこめられた絵本でもあるんですよ。
 わが家で読み聞かせたら、おとうちゃんにそっくりだと、かなりうけました。確かに丸顔に眼鏡のとうさんは似てるかもしれない。でも、前半のぐうたらとうさんの部分をさしていってるとしたら、主夫としてはゆゆしき問題だ。


まんじゅうこわい

川端 誠
クレヨンハウス 1200円


 子どもは絵本を読んでもらうのが大好きです。しかし、子どもに絵本を読んで聞かせることの楽しさを知らない大人は多いんじゃないでしょうか。もったいない。
 ハラハラするお話では緊張に口を固く結び、楽しい絵本ではクスクス笑い、怖い場面では思わず後ろにのけぞる……。そんな子どもたちの反応を間近に見る快感といったら!
 そんな意味では、この落語絵本なんかは、とびきりの素材といえるでしょう。おなじみの噺を、すっかり落語家気分で語れるんですから。登場人物ごとに声色を変えて、思う存分楽しみましょう。ちなみに、うちの子たちは読み終えたとたん、ステーキこわい、タコヤキこわい、アイスクリームこわいと大合唱……

小さな男の子の旅

エーリヒ・ケストナー 作
榊 直子 訳 堀川理万子 絵
小峰書店 1165円


 その名前を聞いたとたんに子ども時代がよみがえって、胸がきゅんとするという存在は、誰にでもあるのではないでしょうか。ある人にとっては月光仮面だったり、力道山だったり、キャンディーズだったり……。私にとってケストナーはまちがいなくその一人です。『飛ぶ教室』『点子ちゃんとアントン』などのケストナー。そのケストナーの未邦訳の作品に、この歳になって出会えるなんて本当に感激です。
 でも、母と子の絆を描いた本書の二つの短編が、これほど胸に迫ってくるのは、決して私の思い入れのせいばかりではないはずです。ぜひ、読んでみて下さい。

園芸図鑑

さとうち 藍 文
藤枝 つう、佐野 裕彦 絵
福音館 1500円


 図鑑といってもひと味ちがう。園芸植物がたくさん紹介されているのはもちろんのこと、道具の紹介にその手入れの仕方、土づくりにはじまって、育て、収穫するまでの園芸に必要な様々な情報が、写真や楽しい図版とともに細かい気配りで網羅されています。
 そのうえ、古今東西の文学作品に登場する庭を紹介した「庭づくりの夢」という章や、庭から採れたくだものや木の実、ハーブなんかを使った料理のレシピーが載っている章まであります。うちには庭なんかないという人も、きっと楽しめる一冊です。



北海道新聞 1996年9月      掲載紙から   トップ


ナヌークの贈りもの

星野 道夫 作
小学館 1500円


 世界でも屈指の動物写真家、星野さんの突然の訃報には本当に驚きました。
 北極圏に生きる少年が、ある日、風の中にシロクマからの大事なメッセージを聞くというこの写真絵本をあらためて開いてみると、星野さんの死がとても象徴的な意味を帯びてくるように思えます。
 氷の世界の王者シロクマは「生まれかわっていく、いのちたち」という言葉をくりかえし唱えているのです。
 透明な美しさをたたえた北極の風景、そして、そこで暮らすシロクマたちからは、神々しいまでの輝きが感じられます。
 星野さんのご冥福を心よりお祈りします。


ヤンとスティッピー

ペッツィー・バックス 作 のざか えつこ 訳
ブックローン出版 1350円


 踊りが大好きな駅員のヤン。そうじをしながら、荷物を運びながら、ついついかろやかなステップを踏んでしまいます。誰に迷惑をかけているわけでもないのに、ほかの駅員たちはどうにも気に食わない。幸せそうなヤンに嫉妬してるんだろうな。
 しまいに袋だたきにされて駅をおいだされてしまうのですが、ヤンは全然へっちゃら。踊ってさえいれば幸せなのです。やがて、主人に捨てられた犬のスティッピーといっしょに、いつまでも楽しく踊っていられる暮らしを手に入れます。
 読んでいる方までうきうきと踊りだしたくなるようなハッピーな絵本です。

アリのお花畑

河野 昭一 作
フレーベル館 1500円


 カタクリの花が、アリに種まきを手伝ってもらっているなんて知ってました? 植物は、子孫を後の世に残す可能性を高めるために、様々な戦略を持っていることは知っていましたが、種に工夫を凝らして、アリの力を借りる植物があることは知らなかった。
 植物の成長のしかたと、アリの習性を丹念に調べあげ、さらに双方を結びつけて研究を進めていく過程を豊富な写真や図版でわかりやすく説明してくれる科学絵本です。
 それにしても、研究と称して年がら年中アリの後を追いかけまわしている学者さんがいるなんて、楽しいですよね。

サバイバルクッキング

坂本廣子 著
まつもと きなこ 絵
偕成社 1200円


 坂本さんは著書『台所育児』やNHKの「ひとりでできるもん」の料理指導などで知られる神戸在住の料理研究家。あの大震災を経験し「食べることは、生きること!」であることを痛感した坂本さんが、限られた食材、水、エネルギー、道具などを駆使して、とにかく生き抜くことを前提とした料理を指南してくれます。
 緊急時にはもちろん、主夫業の手抜きにも、子供たちに作らせるにももってこいのレシピというわけ。しめしめ。
 でも、サバイバル最優先の簡単料理といっても、さすがにうまそうなんだな、これが。

自由研究<赤ちゃん>

サラ・エリス 作
坂崎 麻子 訳 堀川 理万子 絵
徳間書店 1300円


 正直なところ、海外の児童文学作家と日本の作家との間には、その作品レベルにおいてまだまだ大きな溝があると思っています。
 この作品を読んで改めて思い知らされました。残念ながら、日本の児童文学を何十冊読んだところで、これほどの作品に出会うことはなかなか難しいでしょう。
 楽しく読み進められる構成、作品に込められた力強いメッセージ、それぞれが個性的な登場人物たち……。そして、なによりも、物語をしっかりと支える圧倒的なリアリティー。そのリアリティーがあるからこそ、読者は登場人物に心を寄せて素直に泣いたり笑ったりできるのです。
 あらすじは……、なんていう野暮はやめておきます。とにかく手にとってみて下さい。



北海道新聞 1996年12月     掲載紙から   トップ

大きな木のおくりもの

アルビン・トレッセルト 作 アンリ・ソレンセン 絵
中井 貴惠 訳
あすなろ書房 1339円


 この本は分類上は科学絵本ということになるのでしょう。一本の木の生涯と、その木をめぐる生態系について、写実的な絵を背景に語っている絵本だからです。
 しかし、ここにはなまじの物語絵本には、なかなかまねのできない叙情性と芸術性が輝いています。
 ぜひとも、おやすみのまえにふとんの中で、子どもたちに読み聞かせてあげてください。ゆったりとした時間が流れる、おおらかな世界にしばしひたった子どもたちは、きっと、やすらかな夢を見ることができるでしょうから。

みずうみにきえた村

ジェーン・ヨーレン 文 バーバラ・クーニー 絵
掛川 恭子 訳
ほるぷ出版 1450円


 百キロも離れた大都会の都合で、ダム湖の底に沈むことになった小さな村の思い出を綴った絵本です。
 前半では、美しく豊かな自然と一体になって暮らしてきた村の四季が、いとおしさをこめて語られます。そして、声高に異を唱えることなく、淡々と運命を受け入れ、一人一人の胸に故郷の思い出を秘めて、この地を去っていく村人たちの様子が。
 静かな、けれどもいつまでも続く村人たちの強い悲しみは、読むものの胸に迫ります。
 実は私が住む町を流れる川の上流でも同じようなことが起ころうとしています。しかも、その「水源地」の上にゴルフ場を作ろうなどという計画があるんだから! ふぅー。

“音”を見たことありますか?

E&Cプロジェクト 編
小学館 1300円


 写真絵本とコミック、データファイルの三部構成で、聴覚障害についての理解を深めようという意欲的な企画です。
 星川ひろ子さんによる写真絵本「ゆいちゃんのいる教室」は、普通学級に通う聴覚障害のあるゆいちゃんの学校生活を追っています。ゆいちゃんと、クラスの友だちの笑顔がまぶしい。
 コミック「地面に書いた約束」では、音のない世界を体験できる工夫が凝らされていて、聴覚障害をもつ父子の日常への理解が、ほんの少しですが深まることでしょう。
 いずれも、共に生きていくために必要な私たちの想像力を砥ぎすますきっかけにしたいものです。

<子どもハンドブック> 「あっ、たいへん!」

斎藤 次郎、王 瑞雲 監修
平野 恵理子 絵
晶文社出版 1236円


 子どもが一人の自立した社会の構成員として、しっかり生きていくために必要な情報を満載したハンドブック。
 急なけがや病気への対処の仕方、地震や火事などの災害にあったときの行動の指針、常識ある社会人として様々な場面でとるべき態度……など多岐にわたる内容が、かみくだかれて紹介されています。
 特徴的なのは学校生活の中で発生するいじめや、先生の体罰へのアプローチの仕方も、病気や災害と同列に扱われていること。確かに、生命にまでかかわりかねないこうした「災厄」に対抗する知恵は、一人一人が身につけていなければならない時代なのです。悲しいことに。


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