メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 1997年3月      掲載紙から   トップ

いぬが ほしいよ!

ダイヤル・カー・カルサ 作
ごとう かずこ 訳
徳間書店 1400円


 児童文学にとって、ペットを欲しがる子どもというのは永遠のテーマの一つです。この絵本の主人公メイもいぬを飼いたくてしょうがありません。でも、両親はゆるしてくれません。
 いぬが好きで好きでたまらないメイの気持ちは、どのページにも隅々にまであふれています。次々と繰り出すいぬ獲得作戦も楽しくてけなげで、思わず応援したくなります。
 で、結局はゆるしてもらえるんでしょ、ですって!? いえいえそれが違うのです。読者の予想をおおらかにくつがえす抱腹絶倒のラストシーン、ぜひご自分の目で確かめてみて下さい。


せなかをとんとん

最上一平 作 長谷川知子 絵
ポプラ社 1236円


 しんぺいはいつも元気いっぱいな鉄棒の得意な男の子。しんぺいのおとうさんは耳が聞こえませんが、普段はそんなこと全然気になんかなりません。
 ときには無理解な大人のせいで、不愉快な思いをすることもありますが、しんぺいは大好きなおとうさんのために断固たたかいます。
 おとうさんにとって、そんなしんぺいはとても頼もしい存在でしょう。
 私も、いつも頭ごなしに怒ってばっかりの自分を少しは反省して、しんぺい親子のようにお互いが確かな信頼関係で結ばれている親子を目指さなきゃ。


地球はえらい

香原知志 文 松岡達英 絵
福音館書店 1236円


 およそ五十億年前の誕生から現在にまでいたる地球の歴史をダイナミックに描いた絵本です。気の遠くなるような長い年月をかけて多様性に富んだ生命を育んできた地球は本当に「えらい」。
 しかし、この本を読んでいると、ちっぽけな成り上がりものである人間が、いかに大きな顔をして地球の上にのさばるようになったのかを痛感させられます。
 そして、そのちっぽけな存在が、連綿と引き継がれてきた生命の網を修復できないほどまで破壊しつくしてしまうかもしれないという予感に身の毛のよだつ思いを覚えます。
 未来の地球を担う子どもたちにこそ、ぜひとも読んでもらいたい本です。


アリスの見習い物語

カレン・クシュマン 作
柳井薫 訳 中村悦子 絵
あすなろ書房 1339円


 十四世紀のイギリスの小さな村を舞台にした、一人の少女のそれはそれは壮絶な自立の物語。なにしろ、この少女には両親や家はもとより、名前さえないのだから。
 夜は堆肥にもぐりこんで寒さをしのぎ、村人からはゴミのようにあしらわれる少女が、やがてお産婆さんの見習いとしてしっかりと人生に立ち向かうまでを描いています。
 しかし、この作品、悲惨で暗いわけではありません。やわらかなユーモアが常にただよい、生命の輝きへの明るい希望に満ちているのです。




北海道新聞 1997年6月      掲載紙から   トップ

せみとりめいじん

かみや しん 作 奥本大三郎 監修
福音館書店 362円


 北海道に移住してきて迎えた最初の夏だったでしょうか。虫が大好きな長男が捕まえてきたエゾハルゼミを見て、この町で生まれ育った子どもたちが、「声は聞いたことあるけど、見るのははじめてだあ」と恐る恐るさわっているのを見てショックを受けました。
 今の子どもたちにとって、虫は友だちではなくなってしまっているのでしょうか? もしそうだとしたら、虫たちの暮らす環境の破壊にも鈍感な人間になってしまうのでは、と考えるのは私一人の杞憂なのでしょうか。この欄をご覧のお父さん、お母さん、今年はぜひ、本書を参考にお子さんといっしょに、セミ採りに挑戦してみませんか。


ジークの魔法のハーモニカ

ウィリアム・スタイグ 作
木坂涼 訳
セーラー出版 1500円


 スタイグの絵本の登場人物は実に表情が豊かで、一人一人の顔をじっくりながめているだけで楽しくなってしまいます(本書の場合は、ブタやイヌやロバですけどね)。
 少年ブタのジークは、ある日、道ばたでハーモニカを拾いました。毎日の練習の成果が実り、とても上手に吹くことができるようになるのですが、このハーモニカには魔法の力があったのです。
 家出をしたジークに襲いかかるイヌの強盗団や、ころし屋のコヨーテから身を守ってくれたハーモニカの魔法とは? とぼけたユーモアがたまりません。


レンゲ畑のまんなかで

富安陽子 作  降矢奈々 絵  
あかね書房 1200円


 ある春の日に、三年生になったばかりの悦子は、レンゲ畑のまんなかで見知らぬ女の子と出会います。その女の子が、秘密めかして「魔女につかまって、はたらかされているんだ」と告げたその瞬間から、どうやら悦子も魔法のとりことなってしまったようです。はてさて、魔女との出会いはどのような結末を迎えるのでしょう。そして、二人の少女の友情はどのように紡がれていくのでしょう。
 魔法に満ちた子ども時代を生きる現役の子どもにも、かつては魔法に彩られた時間を生きていた元子どもにもお勧めの心暖まる作品です。


使い切りカメラの実験

相場博明 著  藤田ひおこ 絵  
さ・え・ら書房 1262円


 使い切りカメラ(レンズ付きフィルム)も工夫次第でこんなにさまざまな使い方ができるなんて全く知りませんでした。普通のカメラではレンズが大きすぎて撮れない顕微鏡写真や、天体望遠鏡写真も、簡単な工作を施すだけで難なく撮れてしまうというのですから驚きです。他にも3D写真(立体写真)やわなを使っての動物写真の撮影のアイディアなども載っています。どれもとても簡単そう。
 そしてさらに、撮影終了後には、本体を分解して部品を取り出し、簡易顕微鏡や双眼鏡を作る方法まで教えてくれるんですよ。これはためしにやってみるしかないな。


ぼくらのいきなり漂流記

菊池俊 作 吉田純 絵  
講談社 1359円


 近頃の日本の児童文学作品には珍しい、骨太な海洋冒険物語です。
 八丈島で生まれ育った小学五年生の武と陽子、そして夏休みを利用して島を訪れていた武のいとこ進は、一攫千金を夢見て、黒マグロを釣ろうと、ある朝早く大人にないしょで外海へとカヌーを漕ぎ出します。ところが折り悪く、台風がコースを変えたため、三人の乗ったカヌーは暴風雨圏のただなかに巻き込まれてしまいます。木の葉のように大波に翻弄されるカヌーの三人は、果してどのように危機を乗り越えるのでしょう!
 八丈島出身の作家ならではの細部のリアリティーと迫力ある描写に圧倒されます。




北海道新聞 1997年9月      掲載紙から   トップ

おっきょちゃんとかっぱ

長谷川摂子 文 降矢奈々 絵
福音館書店 800円


 ある日、うらの川でひとりで遊んでいたおっきょちゃんは、かっぱに誘われて、川底のお祭り見学にでかけることにしました。あまりの楽しさに、親のことも、水の外のことも全部忘れて、かっぱたちとくらしはじめてしまったおっきょちゃん。
 さて、おっきょちゃんは、このまま水の外にはもどれないのでしょうか……
 開放的な楽しさ、ラストに訪れる安堵感と同時に、心の深いところに訴えるような、ぞくっとするこわさをも与えてくれる絵本です。
 ぜひ、お子さんをひざの上にのっけて、しっかりと肌のぬくもりを伝えながら読み聞かせてあげてください。


「ハニービスケット」の作り方


メレディス・フーパー 文 アリスン・バートレット 絵
やないかおる 訳
あすなろ書房 1500円


 おばあちゃんと孫の、ビスケット作りのようすを読み進めていくだけで、おいしいハニービスケットの作り方がわかってしまうという実践的な絵本なのですが、これがなんとも豪快です。
 必要な材料は、雌牛が一頭に、サトウキビ、ミツバチが千匹とメンドリ、それに金色に輝く小麦畑だというのですから。
 太陽と大地のめぐみを、心でいっぱいに感じながら作るビスケットは、どんなにかおいしいことでしょう!
 よし、今度の日曜には、私も子どもたちといっしょに挑戦してみよう。


空を見ていた

杉田比呂美 作 
河出書房新社 950円


 子どもも若者も、大人もお年寄りも、さまざまな人が、さまざまな状況で、ただ空を見ている姿を描いただけの、ことばすらない絵本です。
 それなのに、ページをめくっていくだけで、どうしてこんなに、心がおだやかに、すがすがしくなるのでしょう。
 きっと、この小さな絵本は、無限の空へと開かれた窓のようなものなのです。ほら、さわやかな風まで吹き込んでくるでしょう。
 そう、子どもだろうが、大人だろうが、人にはただぼんやりと空を見ている時間が、ぜったいに必要です!


漫才の星になるんや

しんやひろゆき 作 たけやすごろく 画
童心社 1000円


 小学生が、将来のスターめざして、一生懸命がんばる姿を描いた児童文学って、みなさん、読んでみたいと思いますか? なんか、うそくさくていやだあ、「ガラスの仮面」じゃあるまいし、って思いません?
 ところがところが、大阪の子が漫才の星をめざすとなると、これが「めちゃめちゃ」リアルになるんですね。
 あこぎなライバルとの対決あり、ほのかな恋あり、もちろんギャグも連発というサービス満点の物語が、全編こてこての大阪弁でつづられています。
 作者にとって本作がデビュー作ということですが、今後、ちと目がはなせません。


こんな学校があるよ

名取弘文 著 
ポプラ社 1200円


 この本を、学校へいくことにしんどさ、きゅうくつさを感じている子が読むと、うらやましいと思うんだろうな。
 そういう意味では、先生がたにこそ読んでもらいたい本といえるかもしれません。そして、読後の感想をじっくりきいてみたい。やっぱり、しょせんごく一部の「かわった」先生の取り組みということになってしまうのでしょうか。
 学校とはそもそも、将来社会へはばたく子どもたちに、道しるべとなる知識や経験を身につけさせる場所ですよね。だとすれば、思いついたら誰にでも臨時講師を頼むという形で、社会との接点を少しでも多く作ろうとする名取先生のやり方は、きわめて自然なものに思えるのですが……


子どものための哲学対話

永井均 著 内田かずひろ 絵
講談社 1000円


 正直なところ、この本を読んで、ああそうだったのかとひざを打って、日頃の哲学的悩みを解消できる子どもはいないだろうと思います(大人だっていないでしょうけど)。
 でも、そうか、いろいろなことを、いろいろな風に、ああでもない、こうでもないと考える学問があるのか、ぼくも考えてもいいのか、とほっとする子はいるでしょう。
 明解な結論など出るはずもない「悩みを悩む」ことを、あたたかく受け止めてくれる受け皿があるとないとでは、生きていくうえでの心の快適さは大ちがいですよね。




北海道新聞 1997年12月      掲載紙から   トップ

こうしはそりにのって

A・リンドグレーン 作 M・テーンクヴィスト 絵
今井冬美 訳
金の星社 1200円


 「長くつしたのピッピ」などで知られるスウェーデンの作家がほぼ半世紀も前に書いた文章に、若い絵描きさんが絵をつけた、しっとりとした味わいの絵本です。
 クリスマスを前に、たった一頭の大事な牛を失ってしまったエング農場の少年ヨハンは、ある夜、家の前で袋から頭だけ出して弱々しく鳴く子牛を見つけました。神様からの贈物にちがいないと、大喜びのヨハンですが、実はその子牛は……。
 物語も絵も素朴ながら透明感があふれていて、心暖まる世界を描き出しています。
 雪に覆われたこの季節の北海道にぴったりの絵本。


バックルさんとめいけんグロリア

ペギー・ラスマン 作・絵
ひがしはるみ 訳
徳間書店 1550円


 おまわりさんのバックルさんは、子どもたちの安全を願ってときどき小学校に安全教室を開きにいきます。でも、飽きてしまった子どもたちはろくに話を聞いてくれません。
 ところが、グロリアという警察犬とコンビを組んだとたん、なぜだか(実は知らないのはバックルさんだけ)安全教室は大人気に。保育園や中学校や高校からまで依頼がくるようになりました。そして、ついには、テレビの取材入りで大学にまで呼ばれることになったのですが……。
 すみからすみまで楽しめる躍動感あふれる楽しい絵本です。


写真であそぼう スナップ・クラブ

小野寺俊晴 文・写真
岩崎書店 1500円


 使いきりカメラの出現によって、写真はずいぶん身近なものになりました。でも、いざカメラをかまえても、何をどう撮っていいのやら……。そんな人も多いのではないでしょうか。
 この本ではプロの写真家が、使いきりカメラだけを使って、さまざまなテクニックや上手に撮る秘訣、楽しみ方のヒントなどを、わかりやすく実践的に教えてくれます。
 もちろん、この本を読んだからといって、突然写真がうまくなる、なんてことはないかもしれません。でも、すぐにでも写真を撮りに表に飛び出したくなるのは請け合います。


おねえちゃんは天使

ウルフ・スタルク 作 アンナ・ヘグルンド 絵
菱木晃子 訳
ほるぷ出版 1500円


 うれしいことに日本でも続々と紹介されつつあるウルフ・スタルクの作品は、いずれも子どもにだけ読ませておくにはもったいない児童書の典型といっていいでしょう。
 本書でもやってくれました。長い金髪のかつらをかぶり、赤いワンピースを着た少年ウルフの奇抜な行動には、思わずクスクスと笑わずにいられないのですが、亡くした姉と自分とを重ね合わせようというその真情を思うとき、なんともせつなくなるのです。
 スタルクの作品に接するとき、現役の子どもはもちろん、私たち大人もまた、過ぎた子ども時代のなつかしくもほろ苦い思い出をくすぐられて、引き込まれるのです。


生活図鑑

おちとよこ 文 平野恵理子 絵
福音館書店 1600円


 「冒険図鑑」「遊び図鑑」「園芸図鑑」「情報図鑑」などを次々と刊行してきたおもしろくて役に立つ「図鑑」シリーズに、ついに決定版ともいうべき「生活図鑑」が登場!
 子どもにとっては勉強も遊びも大事だけど、なんといってもまず生活力を身につけなくちゃあ。この本には、衣食住の細部にまでわたる知恵が、ごく基本的なことからかなり高度なことまでぎっしりつめこまれています。一人暮らしをはじめる人、単身赴任のお父さんにもよきパートナーとなることでしょう。
 私もこの本を参考に、主夫の生活を、もう一度きっちり見直してみようかな。


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