メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


北海道新聞 1998年3月      掲載紙から   トップ

ますだくんとまいごのみほちゃん

武田美穂 作・絵
ポプラ社・1200円


 コマ割りに、吹き出しというマンガの技法を使った絵本です。
 危険だからと親からは禁じられているのに、大きな通りを渡って知らない町に足を踏み入れてしまったこわがりのみほちゃん。家出した友だちを心配しての、思い切った行動だったのです。
 案の定、みほちゃんは、雨が降り、暗くなりはじめた町で迷子になってしまいます。不安におしつぶされそうなみほちゃんの気持ちが、痛いほど伝わってきます。
 さて、みほちゃんは無事にこの難局をのりこえることができるのでしょうか。それは読んでのお楽しみ。


アウトドアをたのしむ本


アンジェラ・ウィルクス 作
硲文介 訳 北村悟志 監修
メディアファクトリー・2200円


 タイトル通り、アウトドアを目いっぱい楽しむための知恵やアイディアがぎっしりつまった大型絵本です。
 さまざまなアウトドアグッズの紹介から、アウトドア生活を満喫するための遊びや実験のヒント、自然の恵みを利用して作る工作のノウハウ、アウトドアクッキングのレシピまで満載です。
 すべてが、豊富な写真でわかりやすく解説されているので、ながめているだけで、むずむずと自分でもやってみたくなるでしょう。
 わが家の子どもも、あるページを開いて、さっそく、工作をはじめましたよ。


ひと・どうぶつ行動観察じてん

池田啓 文 柳生弦一郎 絵久保敬新ほか 写真
福音館書店 1300円


 人が、日常なにげなくおこなっている行動を、動物行動学の見地からながめてみようという試みです。とはいっても別に難しい理論が語られるわけではないんです。
 たとえば、電車のなかでの席とりは、動物が自分の場所を主張するための、「しるしつけ(マーキング)」という行動だし、授業中に先生にあてられないようにと目をふせてじっと動かないでいるのは、死んだふりをして危険を回避する「擬死(フリージング)」の応用だ、といったぐあい。
 こんなぐあいに、人の行動もちょっとつきはなした目で見れば、世の中、腹の立つことも減るかな?


ペニーの手紙「みんな、元気?」

ロビン・クライン 作 アン・ジェイムズ 絵
安藤紀子 訳
偕成社 1300円


 なによりも馬が好きで、フリルだのレースだののついた服は死ぬほどきらいという女の子ペニーは、ママの出産の時期をおばさんの家ですごすことになりました。
 この本は、おばさんの家から、ペニーがいろいろな人にだした手紙の文面だけで構成されています。
 ことあるごとに、おばさんの家の環境になじめないとか、赤ん坊がきらいだとか書いているペニーの心境が、すこしずつ変わっていくようすがみごとにえがかれています。
 痛快な女の子ペニーが活躍するもうひとつのお話『ペニーの日記 読んじゃだめ』もぜひ読んでみて下さい。


羊の宇宙

夢枕獏 作 たむらしげる 絵
講談社 1400円


 ある日の午後、アジアの奥の天に近い草原で、羊飼いの少年と、引退して久しい旅の途中の老物理学者が出会います。
 そして、二人は、日が暮れるまで、宇宙について語り合うのです。ただそれだけ。事件らしい事件はなにひとつおこりません。
 それなのに、二人が語る宇宙論に耳を傾けていた私は、静かな興奮を覚えたのです。深遠で豊かな知恵に触れた気がしたのです。
 無機質でありながらぬくもりのあるたむらしげるの絵とあいまって、なんとも不思議な空間が生まれました。


そういうことなんだ。

五味太郎 作
青春出版 1500円


 子どもたちに絶大な人気の絵本作家、五味太郎。絵本作家といえば、純真で素朴な人柄なんてイメージでとらえられがちですが、五味太郎は一筋縄ではいきません。
 人の考えないようなことを考え、人が見ないような視点から物事を見つめ、ひねりをくわえて、あっと驚く世界を築きあげる……。そのスリリングさこそが人気の秘密といえるでしょう。
 本書は、幼年向けの絵本ではありませんが、五味太郎流の毒やひねりが思う存分発揮されています。
 世の中の矛盾や欺瞞に気づきはじめた子どもたちは、胸のすくような思いを抱きながら読むことでしょう。




北海道新聞 1998年6月      掲載紙から   トップ

きょうもむしとり

かみやしん 作 
奥本大三郎 監修 
福音館書店・362円

 虫取りのテクニックを伝授してくれる、とても役に立つハウツー本といってもいい絵本です。私はこの本を読んでいて、朝早くから夕方まで、虫取りに走り回っていた子どものころの夏の日々をなつかしく思い出しました。半ズボンの足をぬらす朝露の冷たさや、むんむんとするような草いきれまで……。
 そして、いま、わが家の息子たちも、やはり、ひまを見つけては虫を追いかけています。虫と人とが共存できる環境がいつまでも保たれていることを、そして、子どもたちが、虫たちを友とする健全な魂を持ちつづけることを祈ります。


リリィおばあさんなげキッス!

ナンシー・ホワイト・カールストローム 作 
すずきひさこ 訳 
堀川理万子 絵 
偕成社・1300円

 セーラは、通りのむかいの白い小さな家に住むリリィおばあさんと、猫のヌクヌクと大の仲良し。
 庭仕事をしたり、ジャムを作ったりと、たくさんの楽しい思い出を共有する二人でしたが、やがて、悲しい別れのときが訪れます。重い病気にかかって入院したリリィおばあさんはそのまま帰らぬ人となったのです。
 セーラの心にポッカリ開いた大きな空洞は、どのように癒されていくでしょうか。
 めずらしく、アメリカの作家と日本の絵描きさんが組んだ絵本なのですが、とても自然で丹念な、すばらしい作品に仕上がっています。


あのときすきになったよ

薫くみこ 作 
飯野和好 絵 
教育画劇・1200円

 おたがいに気にはなっているのに、なかなか友だちになるきっかけをつかめない二人の女の子の、心の機微が丁寧に描かれた絵本です。
 おしっこをもらしてばかりいるきくちさんは、「しっこさん」というあだ名をつけられてしまいます。しっこさんは無口で、いつも怒ったような顔をしていて、ごうじょっぱりで……。
 でも、「わたし」は、本当はきくちさんと友だちになりたかったんですね。二人の気持ちは少しずつ近づいていって、やがて、ある事件をきっかけに、しっかり結びつくのでした。


ぼく、とうふやの営業部長です

小川陽子 著 
ポプラ社・1200円

 「とうふやじぷしい」の営業部長は知的障害をもつかっちゃんです。本書はかっちゃんの成長記録であり、かっちゃんを取り巻く人々との交流の記録でもあります。
 このようなノンフィクションは、ときとして、テーマが表面にですぎてしまい、型にはまったものになりがちなのですが、本書は、かっちゃん親子に寄せる共感や、理不尽ないじめへの怒りなど、著者の気持ちがストレートに伝わっ
てきて、心を強く揺さぶられました。
 あなたも、この本を読んで、かっちゃんから生きる喜びと勇気をもらいましょう!


アリスのいじめ対策法

フィリス・R・ネイラー 作 
佐々木光陽 訳 
講談社・670円

 アリスはとても元気な女の子。入学したばかりの中学校でいじめを受けたのを皮切りに、次々と事件が起こり、悩みも絶えないけれど、いつも前向きに立ち向かっていきます。
 毎日の生活が生き生きと描かれていて、同じ年頃の読者には、まるで自分のことが書かれているように感じる人も多いのでは?
 シリーズ三作目ですが、この巻から読んでも大丈夫。もちろん、前二作もぜひ読んでほしいけど。
 わたしは、遠くにいる姪っ子の成長ぶりを、ときにハラハラ、ときにニコニコしながら見守っているような心境で、新刊が出るのを楽しみにしています。




北海道新聞 1998年9月      掲載紙から   トップ

エマおばあちゃん

ウェンディ・ケッセルマン 文 
バーバラ・クーニー 絵
もきかずこ 訳
徳間書店・1300円

 七十二歳の誕生日に、エマおばあちゃんは、ふるさとの村の景色を描いた一枚の絵をもらいます。でも、その絵は、自分がおぼえている村とはぜんぜんちがいます。
 毎日その絵を見ているうちに、ついに、エマおばちゃんは、自分で絵筆をとって、村の絵を描いてみることにしました。
 やがて、絵を描くことは、おばあちゃんの生活にとって、なくてはならない大切なものになっていきます。
 この絵本のモデルは実在のナイーヴ・アートの絵描きさんなんだそうです。
 子どもにはもちろん、絵の好きなおばあちゃんへのプレゼントとしても、最適です。


星空の話

関口シュン 文・絵
福音館書店・1500円

 空気が澄んで星が美しい季節です。この本をきっかけに、子どもといっしょに、天体観測に出かけるというのはどうでしょう。
 天体観測といっても、望遠鏡などのおおげさな道具なんてなにも必要ありません。この本に登場するおじいちゃんと孫たちのように、敷物をひろげて、ただねっころがればいいんです。
 星の動きや星座の物語の基本が、コマ割りのマンガ形式でわかりやすく説明されています。
 カバーを広げると大きな星座ポスターになっていて、なぜだか得した気分。このポスター、暗いところでは星が光るんですよ。


だあれもいない日

山中利子 詩 
やまわきゆりこ 絵
リーブル・952円

「わたしのおじいちゃんおばあちゃん」という副題が示すとおり、幼い子どもから見た、おじいちゃん、おばちゃんの思い出が丹念につづられた詩集です。
 ときにユーモアたっぷりな、ときに哀しいエピソードがちりばめられていて、おじいちゃんとおばあちゃんの人物像がくっきりと浮き上がります。
 孫を思うふたりの気持ちも鮮やかに伝わり、胸をうちます。きっと、あたたかな、やさしい気持ちがわいくるでしょう。
 ぜひ声にだして子どもに読んであげてください。


ぼくの大イワナ

最上一平 作
渡辺洋二 絵
文研出版・1200円

 釣りの大好きな男の子、直道と、公園に住みついたホームレスのおじさんとの交流を描いた物語です。
 人を表面だけで判断して、目障りなものは目の前から撤去してしまうことで、問題を解決しようとする大人たちと、人間同士の一対一のつきあいをとおして、相手の本質に触れる直道との対照が印象的です。
 でも、けっきょくは、正しいはずの直道は、大人の論理の前に負けてしまい、くやしさと無力感を味わうことになるのです。
 若いころの、直道と似たような経験を思い出してしまいました。いまは、大人の側にいる自分。子どもと接するときのいましめとしなければと思いました。


カラフル

森絵都 作
理論社・1500円

 死んだはずの魂が抽選にあたり、自殺を試みた中学生の男の子の体にしばらく「ホームステイ」して、修行を積むことを条件に、もういちどやりなおすチャンスが与えられる。スーツを着た、天使のガイドつきで……。
 なんとも、荒唐無稽な話のように聞こえますよね。でも、この本を読む中学生は、きっと、自分自身の物語として、息をつめるように読むだろうと思います。
 荒唐無稽どころか、現代に生きる子どもにとって、超がつくほどリアルな作品なのです。
 同じ作者の『つきのふね』(講談社)もぜひ。


種をまく人

ポール・フライシュマン 作
片岡しのぶ 訳
あすなろ書房・1200円

 物語は、ヴェトナムからの移民の子キムが、貧民街の空き地に、一粒の種をまいたことからはじまります。
 いろいろな立場にある、年齢層も人種もちがうたくさんの登場人物が、この空き地を舞台に、それぞれ一章ずつ一人称で語っていって、ひとつの物語が構成されていきます。
 物語は淡々と進み、冷たい殺伐とした空き地に、あたたかい日差しがゆっくりとさしてくるように、読む者の心にもじわじわと深い感動がひろがっていきます。
 ある意味では現実には起こり得ないかもしれない、著者の理想、祈りが描かれたファンタジーといってもいいかもしれません。




北海道新聞 1998年12月       掲載紙から   トップ


もりのこどもたち

長倉洋海 写真・構成
坂文子 文
ひさかたチャイルド・1000円

 ブラジルとベネズエラの国境地域の熱帯雨林に暮らす、ヤノマミ族のこどもたちの生活を切り取った写真絵本です。
 深い森のなかを縦横無尽にかけまわり、全身全霊をかたむけて遊んでいるときの笑顔、狩りをしているときの真剣なまなざし、そして、絶対的な信頼感で強く結びついている仲間同士のようすなどが圧倒的な力でせまってきます。
 子どもが本来もっている生命の輝きを、なんだか久しぶりに見せつけられたような気がして、ページをめくるたびに、ワクワクしました。
 お宅のお子さん、ちかごろ輝いてますか?


ばばばあちゃんのおもちつき

さとうわきこ 作
福音館書店・838円

 北海道で暮らすようになってから、もちつきがとても身近になりました。幼稚園や学校でのもちつき大会はもちろん、ご近所からも招かれてお手伝いにいったり。そんなわけで、我が家でもすっかり気に入ってしまい、今年はついに道内産のハンノキ製の小さなうすときねのセットを買いました!
 本書は、うすがなくてもできるもちつきの方法をはじめ、おいしそうなおもちの楽しみ方のアイディアが満載の絵本。
 くるみだれはぜひとも作ってみよう。昆布茶をねりこんだおもちもおいしそう……。今からもちつきの日が楽しみです。


にんきもののひけつ

森絵都 文 
武田美穂 絵
童心社・900円

 けいたくんは、クラスの人気者のこまつくんがうらやましくてしょうがありません。こまつくんはかおがよくて頭もいい。スポーツもとくい。だけど、それだけであんなに人気者になれるなんて、けいたくんにはどうも納得できません。
 きっと人気者になるなにか特別なひけつがあるにちがいないと考えたけいたくんは、こまつくんを尾行することにしました。そして、ついにつきとめた人気者のひけつとは!?
 今、のりにのっている児童書界の人気者ふたりの合作です。こまつくんの悩みを描いた『にんきもののねがい』も同時発売されています。


ペニーさんと動物家族

マリー・ホール・エッツ 作・絵 
松岡享子 訳
徳間書店・1400円

 実は、本欄を書くためには、毎回、取り上げた本の十倍ではきかないほどの冊数の新刊を読んでいます。新刊ですから、ほとんどは最近生み出された作品なのですが、本書はちがいます。最初に出版されたのは三十年以上も前なのです。古い古い本がなみいる新作をけちらした、ということですね。
 絵は白黒だし、主人公はおじいさんと農場で暮らす動物たち、舞台は田舎の農業祭、とくれば、本当にそんなに魅力的な本なの? と不思議がる方も多いでしょう。でも、ためしにお子さんに読み聞かせてあげてみてください。きっと夢中になって聞き入るでしょう。


光草--ストラリスコ--

ロベルト・ピウミーニ 作
長野徹 訳
小峰書店・1400円

 光を浴びることができない病気のために、白い壁に取り囲まれた三つの部屋だけが世界のすべてという少年がいました。物語は、少年の父親が、誕生日のプレゼントとして壁を絵で飾らせるために高名な画家を招くところからはじまります。
 壁に世界を描くために作業をはじめた画家と少年は、時間がたつにつれて強いきずなで結ばれるようになります。二人の前には徐々に世界が広がり、やがては絵の中で物語が動きはじめるのですが……。
 いわば密室劇といってもいい作品なのですが、無限の広がりと色彩をもっています。


ぼくの小さな村ぼくの大すきな人たち

ジャミル・シェイクリー 作
野坂悦子 訳
くもん出版・一一〇〇円

 イラク北部のクルディスタンという地域にクルド人として生まれながら、戦争のために今はベルギーに住んでいる作家による作品です。
 五歳の少年ヒワの目を通して、おだやかな村の暮らしが生き生きと描かれています。ときには悲しいできごともありますが、平和でゆったりとした時間が流れ、あたたかい気持ちが広がります。
 きっと、もどることのできない、なつかしい故郷を思う作者の気持ちが、読むものにも伝わるんですね。
 子ども時代をすごした町を久しぶりに訪れてみたい、そんな気になってしまいました。


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