メニュー読書室レビュー集千葉茂樹レビュー集


小五教育技術 1997年1月       掲載紙から    トップ

シーズン・オブ・イーハトーブ――ガラスのマント

宮沢賢治/原文 瀬川強/写真 
二玄社 1800円


 賢治の言葉をヴィジュアルに表現しようという試みはこれまでにもなかったわけではない。でも、きれいなだけの薄っぺらいものが多いんだな。このシリーズほど写真家の気持ちが伝わってくるものはそうはない。これぞという被写体に出会ったとき、「虔十公園林」の虔十のように、口を大きくあいて、はあはあ笑いながらファインダーを覗く姿が目に浮かぶようだ。
 賢治の心に感応する写真家の写真の素晴らしさもさることながら、その写真と賢治の言葉をこれ以上はないという的確さで組み合わせていく編集手腕も並み大抵の知識やセンスで成し遂げられるものではない。
 みんな本当に賢治が好きなんだろうな。
 本編は秋編だが他の季節版もぜひ手にとってみて欲しい。


小さな動物学者のための観察ブック

熊谷さとし/文・絵 
ブロンズ新社 2000円


 数年前に子どもたちと一緒に、野生動物の観察小屋にでかけたことがある。あいにくタヌキしか見ることができなかったが、深夜に何時間も身じろぎもせず一点を見つめる幼いわが子たちの真剣さには驚かされた。
 本書は身近な野生動物との出会いをとことん楽しんじゃおうという作者の意図が隅々にまで行き届いたごきげんな本だ。盛りだくさんの図版は遊び心いっぱいで、しかもわかりやすいし、実際にフィールドワークの場数をたくさん踏んでいなければ書けない知識や描写が随所にちりばめられている。
 巻末には「リスの毛がわりパズル」や「パタパタコウモリ」など九種類のペーパークラフトがついているし、本のすみっこにはパラパラマンガもついているという、サービスぶり!


はばたけ!オロロン鳥

寺沢孝毅/文・写真 岩本久則/絵 
偕成社 1200円


 北海道の天売島には、かつて、オロロン鳥とよばれるウミガラスが五万羽も訪れていたが、一九九五年にはわずか二十羽にまで減ってしまったという。本書は小学校の教師としてこの島に赴任し、オロロン鳥の研究と保護に傾倒し、ついには職を辞してまで取り組んでいる著者による克明な報告だ。
 オロロン鳥の生態や大きな自然のなかでの研究の様子、そこから浮かび上がってくる人間と自然との共生についての考察などは、子どもにとってもわかりやすく興味深い内容だ。
 しかし、寺沢さんのようにひとつのことに情熱を傾ける生き方があることを知るだけでも、これから自分の人生を歩き出す、もしかしたら閉塞感に苦しんでいるかもしれない現代の子どもたちにとっては大きな励みとなるだろう。




小五教育技術 1997年3月       掲載紙から    トップ

おこめ

ジョニー・ハイマス/写真 
小学館 2200円


 田舎に生まれ育ち、現在再び田舎暮しをはじめた筆者にとって、たんぼは原風景といってもいいごく自然な存在だ。
 なのに、米作りについてはほとんど何も知らなかった! 何年もたんぼの側で暮らしていながら稲の花を見たことすらなかったのだから。そんなわけでこの本にはずいぶん教えられるところが多かった。
 まだ雪に覆われたたんぼの風景にはじまって、一つ一つの作業、稲の成長の一部始終を追い、おちゃわんの中のふっくらとしたご飯になるまでを丁寧に記録した写真集だ。かといって、写真は決して説明調なものではなく、一枚一枚が美しい芸術作品なのだ。
 いくら言葉をつくして米のありがたさを説いたところで、この一冊にはかなわないだろう。


かぼちゃ畑の女王さま

キャサリン・パターソン/作 
岡本浜江/訳 
偕成社 1442円


 正直なところ、この本を紹介するべきかどうかでは、しばし迷った。厳しい環境の変化の中で必死で闘う登場人物たちの姿に、読んでいる間中重い緊張感を強いられ続けたからだ。この緊張感を敢えて子どもたちに勧めていいものなのだろうか……そんな迷いを覚えたのだ。
 しかし、登場人物たちに感情移入し、魂を揺さぶられることによって救われる子どもたちもきっとたくさんいるだろう。
 父の死、気の乗らない転校、弟への罪悪感、母の愛情への飢えなどに精一杯立ち向かうヴィニー、父の死以来口をきかなくなってしまった弟メイソン、殺人容疑者の娘と疑われる謎めいた少女リュープなどの闘いは、多かれ少なかれ、抑圧された今を生きる子どもたちに通ずる闘いでもあるのだから。


ブラザー イーグル シスター スカイ

スーザン・ジェファーズ/絵 
徳岡久生、中西敏夫/訳 
JULA出版局 1800円


 ネイティブ・アメリカンと白人開拓者たちとの血で血を洗う戦いの終焉の時代。政府が土地を買い上げるという契約書にサインを迫る席上で、部族の長シアトルが語ったとされる言葉を絵本化した作品。
 目先の利益しか眼中にない狭量な白人の前で、なんと豊かで慎み深い哲学が展開されたことだろう。シアトルのこの言葉に耳を傾けて、自分の思想の中に取り入れる人間が今からでも増えるならば、地球環境の危機的な状況を回避することもできるのだろうか。
 もう、手遅れでなければいいのだが……。
 隅々まで自然への愛情が行き届いた繊細かつ大胆な絵も心を打つ。
 ぜひ、子どもたちに向かって朗々と読み聞かせてみて欲しい。


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