かなえちゃんへ
原田宗典/ぶん 西巻茅子/え 福音館書店 1000円
マクブルームさんのへんてこ動物園
シド・フライシュマン/作 金原瑞人・長滝谷富貴子/訳 あかね書房 1100円
人気エッセイスト原田宗典が、娘の『かなえちゃんへ』宛てて書いた手紙が絵本になりました。未来に向かって歩きはじめる幼いわが子に、人生の先輩として心をこめて書いたアドバイス。わが子の無限に広がる可能性を信じる暖かな父の眼差しが感じられて、かなえちゃん、うらやましいな。シンプルだけど広がりのある絵も、未来の大きさを象徴しているようで、とてもいい。そうだ、うちの子たちにも一度、じっくり手紙を書いてみようかな。
『へんてこ動物園』は自称正直者のマクブルームさんが語る、三つのけったいなお話。次から次へとテンポよく繰り出されるホラ話が、全編大阪弁で訳されているのだからたまらない。見事に成功をおさめた翻訳の大冒険といってもいいでしょう。うまく読み聞かせができるよう練習しなくちゃ。それにしても、大阪弁って、ほんとにホラ話にむいてると思いません?
森の標本箱2
矢野正/作 小学館 1600円
アリスの悩み
フィリス・ネイラー/作 佐々木光陽/訳 講談社 590円
『森の標本箱2』をパラパラとめくって、次々登場するオブジェをながめているだけで、ムクムクと自分でもやってみたいという気持ちが起こってくるはず。ただの石ころや木の枝が、ちょっとした工夫で新しい生命を宿すんだから。自分の中にわき起こった絵心、物作り心のおもむくままに、子供といっしょに挑戦してみませんか? 夏休みの宿題に……なんていう不純な動機はさしはさまないでさ。
『アリスの悩み』を読んでいる間中、わたしはクスクス(ときにはゲラゲラ)笑ってました。でも、正直に告白すると、後半は笑いながらも涙ぐんでましたよ。自分に正直すぎて、ときに恥ずかしいドジも踏むけど、けなげなアリスの姿は胸を打ちます。そんなアリスを見守る周りの人々の暖かさもうれしい。母のいない六年生のアリスの、どこにでもあるけど素敵な日常を描いた成長の物語。
恐竜とともだちになる本
松岡達英/絵 富田京一/文 ブロンズ新社 1957円
森へ
星野道夫/文・写真 福音館書店 1339円
鏡のなかのねこ
メアリ・シュトルツ/作 中村妙子/訳 偕成社 700円
恐竜に全然関心を示さない子供っているんでしょうか? 人の想像力をはるかに上回るあの巨大で異形の生物、恐竜に。『恐竜とともだちになる本』は、これからのめりこむかもしれない子供にも、すでにかなりマニアな子供にもごきげんな知識を与えてくれるでしょう。一見開きで一テーマという構成に一貫しているのは、徹底的に子供の視点に立とうとする姿勢です。いやー、おもしろかった。
写真絵本『森へ』を手にとった人は、もしかしたら、なんだか暗い本、という印象を持つかもしれません。確かにこの本にはアラスカの深い森の暗さがそのまま封じ込められています。しかし、一枚一枚の写真の隅々にまで目を凝らすと、森に息づく豊かな生命の営みが見えてきて、あなたの心の琴線のきっとどこかに触れるでしょう。生きとし生けるすべてのものに感応し、その息吹きを写真として定着させる希有な才能を持った星野さんが、すでに世にないとは本当に残念です。
『鏡のなかのねこ』を一口でいってしまえば、現代のアメリカと三千年前のエジプトをまたにかけたタイムトラベルもの……、なのですが、テーマは両親に対して抱く少女の心の葛藤です。原作が発表されたのは二十年以上も前ですが、スリリングな物語の展開といい、テーマの現代性といい、全く古さを感じさせません。三千年という時間を扱っているのだからあたりまえ? いえいえ、すぐれた作家にしてはじめて成し遂げ得ることなのです。