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毎日新聞 1997年1月       掲載紙から   トップ

いぬうえくんがやってきた
きたやまようこ/作 あかね書房 1102円

うそつきの天才
ウルフ・スタルク/作 菱木晃子/訳 はたこうしろう/絵 小峰書店 1200円


 気の優しいクマのくまざわくんのもとに、なんだかちょっとえらそうなイヌの『いぬうえくんがやってきた』。それぞれがちがった習慣を持っていて、かたや、自分のやり方をきっちり主張し、かたや、はっきり主張できずに受け入れるばかりの二人の共同生活のゆくえは……。衝突もあったけれど、いちばん大切なのはお互いがお互いを大好きであることなんだよね。ほんわか楽しい物語。

 『うそつきの天才』は、『シロクマたちのダンス』『おじいちゃんの口笛』などの作品で日本にもファンの多いスウェーデンの作家の自伝的作品。少年時代の夢や悩みが、愉快な物語の中に綴られています。先生や級友はもとより、自分自身をも感涙させてしまうほど見事なウルフ少年のうそを、あなたも体験してみませんか? 怒られるといいわけばっかり言っているわが子たちにも、作家になる才能あるのかもな。




毎日新聞 1997年4月       掲載紙から   トップ

おまじないさん
舟崎克彦/文 スズキコージ/絵 ベネッセ 1165円

雪の上のなぞのあしあと
あべ弘士/作 福音館書店 838円

福の神になった少年
丘修三/作 村上豊/絵 佼正出版社 1748円


 暗闇がこわくておしっこにいけない。街角に立つ犬がこわくて道が歩けない。そんなときに現われて効果てきめんのおまじないを教えてくれるのが『おまじないさん』。そのおまじないさえとなえれば何もこわいものはないのさ。それにしてもスズキコージの絵の持つパワーはすごい。絵の隅々にまで宿る魔的な魅力によって、絵本は数倍もの輝きを放っています。これぞ、コージ魔多し!

 自慢に聞こえると恐縮ですが、二年前の夏、この絵本『雪の上のなぞのあしあと』の舞台である旭川の動物園で、夜の公開日を楽しんだことがあります。そう、作者のあべ弘士さんの案内で! とどろき渡るカバの不気味な鳴き声や、夜行性の捕食動物の殺気、恐竜の末裔としか思えない暗闇の中でうごめくキリンやゾウの姿に度肝を抜かれたものです。季節こそ違いますが、この絵本はあの夜のことをまざまざと思い出させてくれます。深夜、一人で宿直にあたる飼育係が見たなぞのあしあとの正体は!?

 正直なところ、『福の神になった少年』は、装丁もタイトルもいまどきの子どもを引きつけるタイプのものではないかもしれません。でも、このぬくもりをぜひとも知って欲しくてご紹介します。明治のはじめ頃、仙台の町に実在した知的障害を持った少年の物語です。読後、暖かい気持ちとともに、もし彼が現代に生まれたとしたら、これほどのびのびと生きることができたのだろうかという重い疑問も残りました。



毎日新聞 1997年7月       掲載紙から   トップ

ぼくのおにいちゃん
星川ひろ子/写真、文 星川治雄/写真 小学館 1400円

野鳥記
平野伸明/作 福音館書店 3400円

極北の犬トヨン
ニコライ・カラーシニコフ/作 高杉一郎/訳 徳間書店 1600円


 『ぼくのおにいちゃん』は、わが家の末っ子をひざの上にのっけて読み聞かせてみました。知的障害、視力障害、てんかんの発作などをもつ「おにいちゃん」の姿を、生き生きととらえた写真と文章に接した息子は、そのたび、うふふ、とあたたかく笑いました。幸せな気持ちを顔中、体中で表現するおにいちゃんに共感しているんですね。読んでいる私の気持ちも、ホッカリとあたたかくなる、そんな写真絵本です。

 子どもたちといっしょに『野鳥記』のページをめくっている間、私たちはずっと「きれいー」「すごーい」「そうだったのかー」と大きな声をあげっぱなしでした。千二百枚ものこんなに密度の濃い写真全部が、たったひとりの作品だなんて、ただそれだけで感嘆。野鳥とはいっても、人間との密接な関わりのなかでとらえられているので、その分、身近さ、いとおしさもひとしおです。

 いい歳して恥ずかしいのですが、『極北の犬トヨン』は、ドキドキしながら読みました。久しぶりに物語の醍醐味を味わったのです。それが五十年近くも前に、遠いシベリアの地を舞台に書かれたものなのですから、物語の力とは本当にすごいものだと改めて思います。読者をグイグイ引っ張る力強さといい、さまざまな角度から楽しめる深みといい、正真正銘の名作です。



毎日新聞 1997年10月       掲載紙から   トップ

ミクロファンタスティック
西永奨/写真 考古堂書店 1400円

こんにちは! 野生のおともだち
ロラン・セトル/写真 永島章雄/文 偕成社 1600円

子どもたちの戦争
マリア・オーセイミ/著 落合恵子/訳 講談社 2200円


『ミクロファンタスティック』は、走査電子顕微鏡による写真集です。虫や植物などをはじめとした、身近な被写体をミクロの目でとらえた一枚一枚の写真の透明感のある美しさ、度肝を抜く造形など、いくら言葉で解説しても虚しいばかりです。これはもう、実際に手に取って、ため息をつき、驚き、生命の神秘に酔っていただくほかありません。

 動物の研究者の母親、写真家の父親といっしょにアフリカやアマゾンに出かけていき、野生動物たちと友だちになる幼いアリアンヌの姿を追った『こんにちは! 野生のおともだち』は、くすぐったくなるような楽しい写真絵本です。泥だらけになってサイの子とあそんでいる場面など、泥の感触やあたたかさまで感じてしまいました。

 レバノン、エルサルバドル、モザンビーク……世界の紛争地域の子どもたちの姿を写真とインタビューによる生の声でつづった『子どもたちの戦争』は、読む者一人ひとりに重たい課題を残します。そのあまりにも過酷かつ残虐な実態に目をそむけたくなるかもしれません。しかし、それは幼い子どもたちが自分の目で見、体で受けとめた真実にほかならないのです。私たちにできることは、まず、目を大きく開いて、耳を傾けることなのです。


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