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************************** 『ヤンネ、ぼくの友だち』Janne, min van, 1985 ペーテル・ポール/作 ただのただお/訳 ************************** |
物語の舞台は、1950年代半ばのスウェーデン首都ストックホルム。ある日、主人公クリッレは、ヤンネの自転車を持った警官に尋問される。答えていくうちに、クリッレの目から見たヤンネの姿がしだいに浮かびあがってくる。
入学式の日、クリッレが自転車をとばしていると、見事なハンドルさばきで抜いたやつがいた。それがヤンネだった。小柄でみごとな赤毛、そばかすだらけのヤンネは、よく女の子と間違われた。しかし、自転車にかけては誰にも引けを取らず、クリッレの遊び仲間からも一目置かれる存在になっていく。クリッレは、ヤンネが住んでいる所も、どんな家族がいるのかも、名字さえ知らない。ただ、目の前にいるヤンネから知りうることだけを材料にヤンネを知り、だれにも代え難い存在として受け入れていく。
ヤンネが悪ガキのボスを相手に渡り合い、自転車で階段を走りおりる場面など、十代前半の少年たちの日々が、スリリングで魅力的な描写によって語られる。
謎を秘めたヤンネの存在。読み進みながらヤンネの実像を追っていくと、読み終わったときに、映画のフラッシュバックのように絵が浮かんで来ます。読みながら巻いてきたゼンマイをラストのところでぱっと放す感じです。この感触が、強く後まで残りました。
クリッレは、ヤンネと人間として出会い、本質的なところでつながっています。ここに人と人とのつながりの非常に純粋な形を見る気がします。こうした出会いは、クリッレ自身をも変えずにはいません。「クリッレ統計年鑑」とあだ名されるほど数字に関心があったクリッレが、ヤンネと出会い、数字で表せないものを知り、社会の暗部にも目を向けるようになるのです。
物語は、すべてクリッレの視点で通されています。人間の意識の世界は、すべてを見通すことは不可能な、限定的なものですが、そういう点もリアルに描けている作品ではないでしょうか。
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