メニュー読書室レビュー集今月のおすすめレビュー集 オンライン書店


やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(98年11月)


「北極星を目ざして――ジップの物語!」表紙

**************************

  『北極星を目ざして――ジップの物語!』

  JIP―HIS STORY by Katherine Paterson, 1996

  キャサリン・パターソン作 岡本浜江訳
  偕成社 1998年9月 本体1,600円

**************************

【紹介】

 アメリカ、ヴァーモント州。ジップは3歳のとき馬車から落ち、誰も探しにこないまま町の救貧農場にひきとられた。8年後の1855年、人や動物の扱いがうまいジップは、老人の多い農場で一番の働き手として暮らしていた。豊かな暮らしではなかったが、他の生活を知らないジップに不満はなかった。ある時監督官が、町からやっかい払いするため「あばれモン」を農場へ連れてきた。檻に入れられた「あばれモン」は、発作が起きた時にだけひどく暴れまわるが、正気の時にはやさしいパットという男だった。ジップはこの物知りのパットを親切に世話し、やがて父親のように慕いはじめる。また、ジップは農場で共に暮らすようになったルーシーと一緒に学校に通いはじめ、暖かく、毅然とした態度の先生に深く感化される。そんなジップの心配事は、町で偶然出会った見知らぬ男からしつこくつきまとわれることだった。どうもこの男は自分の出生の秘密を知っているらしい……。

 最初の2、3ページをめくっただけで、読者をすぐに物語の世界にひきこんでしまうキャサリン・パターソンの力を思い知らされる作品である。アメリカの暗く重い歴史が描かれているが、無理なく物語の世界に入りこむことができる。家族の愛も学ぶことの楽しさも知らなかったジップが、それらに目覚め、自由を求めて生きぬいて行く姿に心が揺さぶられる。読者は主人公になりきって、自由に生きることの尊さを実感することができるだろう。

 『ワーキングガール』(Liddie 1991)の主人公リディが、ジップの先生として登場している。(植村わらび)

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【作者】

キャサリン・パターソン:1932年、中国に生まれる。24歳から4年間布教活動のため日本で過ごす。『テラビシアにかける橋』『海は知っていた』で、2度ニューベリー賞受賞。"The Crane Wife""The Tongue-Cut Sparrow"の絵本の翻訳も含め、これまでに30冊以上の本を書いている。日本では偕成社より8冊が翻訳出版されている。1998年には、これまでの業績に対して国際アンデルセン賞を受賞した。

【訳者】

岡本浜江{おかもと はまえ}:1955年、東京生まれ。大学卒業後、記者生活を経て、英米文学翻訳家となる。パターソンの邦訳全作品(偕成社)、カニグズバーグの『800番への旅』『エリコの丘から』(佑学社)、アン・ファインの『ぎょろ目のジェラルド』『妖怪バンシーの本』(講談社)など訳書多数。

*表紙の写真は出版社の許可を得て使用しています。

おすすめ(1998年)の目次おすすめの目次

メニュー読書室レビュー集

copyright © 1998, 1999, 2002 yamaneko honyaku club