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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(98年10月)


「イングリッシュローズの庭で」表紙

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  『イングリッシュローズの庭で』

  A Little Love Song, New York, Methuen, 1991

  ミシェル・マゴリアン作 小山尚子訳
  1998/6/30発行 徳間書店 本体2,200円

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【あらすじ】

 第2次世界大戦中、ロンドンからイギリス南部の海辺の町に、上流階級の姉妹が疎開してきた。母が女優として戦地慰問の旅に出る3か月間の予定だ。ふたりが住むことになっている千鳥荘には以前、ヒルダという狂人がいたという。到着早々、手伝いの女性が来られないと知り、姉はもう帰る気になってしまう。妹のローズは、存分に小説が書けるこの機会をあきらめることができない。そこで姉を説得し、自分たちで生活を始める。

 ある日偶然ローズは、ヒルダが隠した鍵を見つけて、彼女の日記を手にする。そして、読み進むうちに、しだいにヒルダの人生に引き込まれていく。そこには、自分に正直に生きた女性の波乱に富んだ人生が刻まれていた。ローズは女として人間として、周囲が求める在り方になじめず、息苦しい思いをしてきた。ヒルダの人生をたどることをきっかけに、周囲の人々や自分自身に対する見方を変えていく。そして、自分の本当の姿を見出し、進むべき道を歩み出す。

【感想】

 前作の『おやすみなさいトムさん』(中村妙子訳、1991、評論社)とは、ずいぶん印象が違った。作品世界を俯瞰するような距離の保ち方で、淡々とした雰囲気を出していた前作に比べて、この作品では作者の目も、登場人物にぐっと近づいている。同性として自分の目線に近いところで書いているからだろうか。会話も多く、リリカルな文章で、十代後半の少女が自分の進むべき方向を見出すまでを描いている。

 この作品で核となっているのは、やはりヒルダだろう。狂人ヒルダのおぼろげな像が、しだいに一人の人間としてくっきりとした像をとり始める。ヒルダが因習的な社会や家族に勝利したよろこびを高らかに謳いあげる場面は、解放感にあふれ、高揚した空気に充ちていて、印象的だった。(小宮由紀)

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【作者】

ミッシェル・マゴリアン:1947年、イギリス、ポーツマスに生まれる。大学で演劇、映画を専攻した後、パリでパントマイムの勉強をする。女優活動と並行して4年間かけたデビュー作、"Good Night, Mr. Tom"(1982)でガーディアン賞を受賞。ほかに、アメリカから第二次世界大戦直後のイギリスに帰国し、違和感に苦しむ少女にスポットをあてた"Back Home"(1984)や、詩集なども出している。趣味は、ダンス、歌、読書、水泳。

【訳者】

小山尚子{こやまなおこ}:1955年、広島県生まれ。法学部卒業後、公務員として働く。後に翻訳の勉強を始め、様々な分野の下訳などで経験を積む。書籍の翻訳は今回が初めて。趣味は映画鑑賞、読書。

*表紙の写真は出版社の許可を得て使用しています。

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