************************** 『でんしゃがくるよ!』Here Comes the Train by Charlotte Voake, 1998 シャーロット・ヴォーク作 竹下文子訳 ************************** |
「どようびは いつも じてんしゃにのって、おとうさんと ぼくと おねえちゃんと、ゴルフじょうの よこをとおり、もりの なかの みちを ぬけて、あの はしまで いくんだ」
”あの はし” というのは鉄橋のこと。そう、「ぼく」たちは電車を見物にいくのです。単純なお話ですが、電車に対する子どものあこがれが、すごくよく描かれています。
電車や汽車の絵本というのは、実にたくさんあります。「機関車トーマス」や、「いたずらきかんしゃちゅうちゅう」のように、汽車を擬人的に描いたもの、あるいはリアルに乗り物としての電車や汽車を扱ったもの……。でもシンプルに「電車を眺める」ことを描いた絵本って、案外少ないんじゃないでしょうか。「くるよ、くるよ、でんしゃが くるよ!」と高まる期待。疾走感あふれる電車の絵。通過する瞬間の興奮。どれもすごく説得力があります。おそらく、作者も似たような体験をしているのでしょう。
実はこれ、わが家の2歳児にとっても、日常の体験です。鉄橋こそありませんが、保育園の行き帰りに近くの東武線の踏切で必ず立ち止まり、行き交う電車を眺めるのです。いや、眺めるなんて穏やかなものじゃありません。
「またくかなー、またくかなー(また来るかな)……あっ、カンカン!!…… ぅおぉーーーーっ!!(絶叫)」毎日見ているのに、なぜこんなに新鮮に感動できるんだ、と思うほど全身で熱狂するのです。
子供につき合って、線路ぎわでずっと電車をながめていると、けっこう疲れます(帰るタイミングがつかみにくいですし)。でも毎日通ううちになんとなく、電車にはせる思いがわかるようになってきました。この絵本の中には、そんな子供のあこがれと楽しみがぎゅっと凝縮されています。(内藤文子)
シャーロット・ヴォーク:『ねこのジンジャー』(小島希里訳 偕成社)で1998年度ケイト・グリーナウエイ賞のオナー賞を受賞。ちなみに同作品は、日本で1998年度産経児童出版文化賞も受賞している。他に『月なんかひとっとび――ふしぎのくにのマザーグース』(パルコ出版)、『あおむしけむし』(岩波書店)など。
*表紙の写真は出版社の許可を得て使用しています。
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