やまねこのおすすめ（９８年１０月）

＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊ 　　『ひとしずくの水』 　　A Drop of Water by Walter Wick, 1997 　　ウォルター・ウィック作　林田康一訳 　　あすなろ書房　1998.6.30 2000円 　　ボストン・グローブ＝ホーンブック賞受賞作 ＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊

【紹介】

「水」をテーマにした子供向けの科学絵本である。

　写真家である著者が、水という身近にある物のさまざまな姿をとらえ、水も自然界の法則に従うひとつの物質であることに気づかせてくれる。言葉は平明で、叙情性を排し、ひたすら科学の世界に徹している。「分子」や「表面張力」など、一見こどもたちには難しそうな言葉も使われているが、筋だった説明のなかでは、意味を統べる言葉としてすんなりと入ってくる。

　水のむこうには、自然界がもつ不思議が見えてくる。そして、不思議の背後にある理由が科学によって解き明かされていく際の、わくわくする楽しさが伝わってくる。小手先の技を使わず、純粋に科学というものがもつ楽しさで勝負して、成功している。

　説明の文章を支えるのは、美しく鋭利な感触の写真だ。水が瞬間的に見せる姿を、見事なコンビネーションで表現している。たとえば、水が糸をひきながら落ち始め、球のかたちになり、自分の重さで落ちていく場面は、そのわずかな時間が、見開きに六枚の写真で描かれている。

　写真は、人間の目には一瞬のうちに過ぎ去っていく時をとらえ、瞬間を写しとる。水のしずくが落ちた瞬間、水面に生じる変化や、水という物質が示すさまざまな姿を、科学の目で追っている。とらえた瞬間は、見るものに驚異の念を与え、感動的ですらある。自然界の法則が織りなす世界が、詩的な美しさを見せる一瞬、一瞬があることをこの本は教えてくれる。（小宮由紀）

【作者・新刊情報】

ウォルター・ウィック：アメリカのフリーカメラマン。「ニューズウィーク」など数多くの雑誌で活躍している。写真絵本の'I SPY!'シリーズは日本にも紹介されていて人気がある（「ミッケ！」シリーズ：小学館）。この「ひとしずくの水」で1997年ボストン・グローブ＝ホーンブック賞を受賞。

アメリカでは今年98年の９月に新刊が出版されている。

Walter Wick's Optical Tricks （48pp. Scholastic 9/98 ISBN 0-590-22227-9）

こちらは目の錯覚を写真にした本。イラストや絵画によるだまし絵の本はたくさんあるが、それをどう写真で表現しているのだろうか。ぜひ手にとって見てみたいものだ。（内藤文子）

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