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************************** 『天使と話す子』Talking to Angels エスター・ワトスン/作 ************************** *表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。
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昨年、デパートのワゴンセールでこの本の原書に出会った。子どもが描いたような、不思議で力強い絵にひかれて何気なくページをめくるうち、ふいに涙が出てきて困ってしまった。 著者、エスター・ワトスンのデビュー作である本書は、愛する妹への贈り物として描かれた作品だ。妹のクリスタは、姉がいうことをまねするのがだいすき。自分のいうことを姉にまねしてもらうのもだいすき。なんでもちゃんときこえているけれど、心の中で答えるだけで声に出さない……。 読んでいるうちに、クリスタが自閉症であることはわかってくるが、わたしが胸を打たれたのはそのせいではない。ときに大胆な、ときにほんのりとやさしい色使いで描かれた絵の一枚一枚から、作者の妹への愛情がひしひしと伝わってくるから、そしてそれが愛情というものの本質を表しているように思えるからなのだ。 頭の中にあることを言葉に出してくれないクリスタ。でも彼女が子猫にほっぺたをすりつけるさまは、なんていとおしいのだろう。思えばすべて人と人との間には、大なり小なり何らかの溝が横たわっているのではないだろうか。そしてわたしたちは、もっと相手を理解できればとため息をつきながらも、相手の笑顔や寝顔になごまされ、また一緒に歩いていこうと心に誓うのだ。 ついついテーマ主義的にとらえられがちな本だけれど、できれば先入観をとりはらい、まっさらな気持ちで手に取ってみてほしい。この姉妹にごく自然な共感を抱くとき、天使と話ができるクリスタのことを、もっと知りたいという気持ちがわいてくる。(内藤文子) |
【作者】Esther Watson (エスター・ワトスン):カリフォルニア州パサデナのアート・センター・カレッジ・オブ・デザインを卒業。『ローリング・ストーン』『ニューヨーカー』等の有名雑誌に作品を発表している。99年秋には、絵本の第2作を出版の予定。 【訳者】山中康裕(やまなかやすひろ):1941年名古屋市生まれ。名古屋市立大学医学部卒業、同大学大学院修了。精神科医で臨床心理士。自閉症や登校拒否の子どもたち、思春期の青少年、成人、そして老人たちの心のケアにかかわる仕事で活躍中。 |
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