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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(99年6月)


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  『レモネードを作ろう』

     Make Lemonade

   ヴァージニア・ユウアー・ウルフ/作 
   カバー画 沢田としき 
   こだまともこ/訳  徳間書店 1999.4 

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 

 

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 貧しさでいっぱいのこの町を、いつかきっと、出ていきたい。大学へいくのが、その切符。でも、お金は自分でつくらなきゃいけない。だから、ベビーシッターのバイトをしようと決めた。雇い主のジョリーは、わたしと三つ違うだけの、17歳。ジェレミーとジリーという、ふたりの子がいる。ジョリーの家は、とても汚い。ごきぶりが、はいまわっている。わたしは、ジョリーみたくなりたくない。だから、きっと、大学へいくんだ。

 ジョリーが仕事をクビになった。ジョリーは、頼るひとがいない。なのに、福祉は、ぜったいに、いやだって。ふたりでリストを作った。ジョリーが、これからしなきゃいけないこと。びっくりした。ジョリーったら、ほとんど字が書けない。しかたないのかもしれない。父親の違う子をふたり、たて続けに妊娠したから、学校へ行くひまなんかなかったんだろう。ジョリーには、お金がない。だから、わたしにバイト代を払えない。でも、わたしは、ジョリーを見捨てることができなかった。だって、ジョリーが背負ってる荷物は、わたしのよりずっと重いから……。

 ヴァージニア・ユウワー・ウルフの作品が、日本ではじめて翻訳紹介された。本作品の主人公は、14歳のラヴォーン。アルバイトとしてベビーシッターをはじめるが、やがて、雇い主ジョリーの一家に深く関わるようになる。ジョリーを助けながらも、ジョリーのようになりたくないと思うラヴォーンの迷いと苛立ち、ジェレミーとジリーへの愛情が、散文詩形式の独白を通して生き生きと描かれている。訳者あとがきによると、作者は「いくら環境に恵まれていなくても、決してその犠牲になってはいけない」という思いをこめて、この作品を書いたという。作者のこの思いを、ラヴォーンとジョリーのふたりの少女が、読む者の胸に、まっすぐに伝えている。『レモネードを作ろう』は、作者の強い願いがこめられたタイトルだ。読後感は、さわやかで、そして、どこか寂しい。それぞれの道を、自分の足でしっかりと歩きはじめた少女たちを見送る寂しさかもしれない。「読んでよかった」と、心から思える作品だ。 (柳田 利枝)

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【作者】Virginia Euwer Wolff (ヴァージニア・ユウアー・ウルフ):アメリカ・オレゴン州ポートランド生まれ。1940年代の少女期をオレゴンで過ごし、1959年スミス・カレッジを卒業後、教師となる。ふたりの子どもが十代になってから創作をはじめ、離婚後、教師を続けながらジャンルを問わずに書き続けている。これまでに出版された主な作品は、本書を含め、"Probably Still Nick Swansen"、"Mozart Season"、"Bat6"の4つ。本書『レモネードを作ろう』は、全米図書協会ヤングアダルト部門ベストブック、ゴールデン・カイト賞などに選ばれている。

【訳者】こだまともこ:東京生まれ。早稲田大学文学部卒業。出版社勤務を経て、児童文学の創作および翻訳をはじめる。訳書に『メニム一家の物語』シリーズ(シルヴィア・ウォー作/講談社)、『草原のサラ』(パトリシア・マクラクラン作/徳間書店)、『妹になるんだワン!』(スーザン・E・ヒントン作・高橋由為子絵/徳間書店)、創作に『三じのおちゃにきてください』(なかのひろたか絵/福音館書店)などがある。 

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