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************************** 『ウエズレーの国』WESLANDIA ポール・フライシュマン/作 ケビン・ホークス絵 ************************** *表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。
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青空を背景に手をかざし、遠くを見つめる少年。吹き抜ける風を見極めるかのように立つ主人公ウエズレーが、表紙を飾っている。 流行にはまるで興味のない主人公。“みんなと同じ”ではないから仲間はずれにされ、いじめられる。あまり口には出さないが、両親も息子の様子に困惑している。しかし、読んでいる側からみれば、まわりに流されず、想像力を武器にして好きなことに没頭する、結構かっこいいやつに思える。 そんな彼が夏休みの自由研究に選んだテーマは、“自分だけの文明”をつくること。偶然風が運んできた不可思議な作物を育てながら、ウエズレーは庭に“ウエズランディア”という国を作り上げていく。架空の植物と、いるはずのない野生の動物達は登場するが、決して奇想天外でも、壮大なドラマでもない。手をのばせば届きそうな現実味のある物語だ。 少年は実や根を食用にし、茎の繊維からは衣服を作り、さらには新しいゲームまで考え、最後には文字さえも創造する。そんな変わり者のおかしな行動に、まわりのこども達はやがて引き寄せられ、ウエズランディアへと足を踏み入れる。その時、彼らを冷静に受け入れるウエズレーは、発明を駆使していじめから逃げているだけの少年ではなくなっている。周囲と同様、ウエズレーも徐々に変化していた。 作品の中で一貫して流れるのは、主人公の意志。彼は“人と同じ”ことが嫌いなのではなく、自分が認めることのできないものには迎合しないだけだ。作者は、“人と違う”ことが個性だと声高に主張しているのではなく、自分の意志を持つことの尊さ、他人の意志を尊重することのすばらしさを、静かに語りかけてくる。 ウエズレーは一人で文明を創り出し、人類が歩んできた長い道のりを再現する。時代に埋もれた記憶を呼び起こし、自力で原点に戻ろうとした。その上で、ウエズランディアがただの器にすぎず、人がいて、初めて文明は成り立つことを学び、視点を外へと移していく。 フライシュマンのイメージをみごとに描き上げたホークス。夏の日の少年の、その熱い体温を読者に伝え、思い出させてくれる。選んだ色の美しさもさることながら、構図の中に隠されたメッセージに、心を傾けたい。とりわけ、初めと終わりの対照的なシーンに読者が何を思うのか、ウエズレーは目を輝かせ、興味津々で問い掛けてくるに違いない。 (大原慈省) |
【作者】Paul Fleischman(ポール・フライシュマン):1952年、米国生まれ。"Joyful Noise" でニューベリー賞、"Bull Run" でスコット・オデール賞受賞。邦訳に『種をまく人』(あすなろ書房)、『わたしの生まれた部屋』(偕成社)など。こどもの頃、友達と独自のスポーツや遊びを作って楽しんだ経験が、本書の下敷きになっているという。 【絵】Kevin Hawkes (ケビン・ホークス):1959年、米国生まれ。作品に"Marven of the Great North Woods" "My Friend the Piano" など。ウエズレーの世界に、大好きだったロビンソン・クルーソーを思い出したと語っている。 【訳】千葉茂樹(ちば しげき):1959年、北海道生まれ。編集者として出版社に勤務した後、翻訳に従事。訳書に『みどりの船』(あかね書房)『ファーブルの夏ものがたり』(くもん出版)など多数。第1回やまねこ賞(絵本部門)受賞。 |
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