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『クレイジー』Crazy ベンヤミン・レーベルト/作 ************************** *表紙の画像は、米国版のものです。画像は、Amazon.com
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ぼく。ベンヤミン・レーベルト。16歳。高校で落第。両親はぼくをどうしても大学に入れたくて必死だ。転校を繰り返して、ここが5つ目。とうとう全寮制の学校につれてこられた。ノイゼーレン学園。ここで数学を鍛えてもらおうってわけ。でもカナリ望み薄。ぼくの数学サイテーだから。しかも家族とは週末にしか会えない。不安。不安。不安。ぼくは生まれつき半身不随って障害があるからなおさらそう感じるのかも。両親はぼくをとても愛してくれる。もうお互いを愛してはいないけど。そんなふたりを見ているのはつらい。だけど、ふたりと離れて暮らすのはもっとつらい。 ルームメイトはヤーノシュ。頼れるいいやつ。最初の晩から二人で煙草を吸いながら好きな子の話をした。会っていきなりだ。寮生活ってそういうもんだって。ヤーノシュの仲間たちにもあっという間に溶け込んだ。「デブ、チビ、ダンマリ、アホ」みんなキズモノ高校生。そしてぼくも……。みんなバカばっかりやってるけど、最高にクレイジーなやつらだ。ぼくらの話題はもっぱら女、そして人生。考えれば考えるほどわからなくなる。女って、人生って何? 寮生活はやりきれない。みんないつだってホームシック。毎日繰り返される決まりきった日課。うざいよ。自由時間に村に行ってビール飲んでも、夜中に女子の部屋にこっそり遊びにいっても、満たされない。逃げ出したい。 ある日仲間のダンマリくん、トロイがぼくに秘密を打ち明けた。告白したとたんやつはダンマリじゃなくなった。そのうえ寮から脱走しようだって! いくらなんでもそれってまずくない? 結局、僕らは荷物を持ってバス停までの道を歩いていた。ミュンヘンを目指して。 ベンヤミンと仲間たちのダベリにはいつだって人生に対する疑問がつきまとう。自分たちはどこに行くんだろう、今こうしている自分は何なんだ。これでもか、これでもかと誰かが尋ね、誰かが答える。その答えは青臭かったり、的を射てなかったり、キメのセリフとは程遠い。会話は何度も同じところをぐるぐる巡っている気がする。 だけど、そのどれをとってもウソくさくないのは、それが本当の高校生の生の声だからだろう。レーベルトがこの作品を書いたのは16歳の時。「16歳によって書かれた、16歳の生活」というわけだ。しかも主人公の名前からわかる通り、自伝的作品。あまりにも等身大の彼が描かれていて、こんなこと書いてしまってもいいの? 後で後悔しないの? と読んでいるこちらが心配してしまうほど。でもそれを敢えてしてしまうところがまた、16歳なのだろうか。 ドイツでは同世代が、まさに自分たちの小説だととびついてベストセラーになった。タイトルは『クレイジー』だけど、過激な内容ではない。「クレイジー」は「カッコいい」という誉め言葉。作品はむしろ正統派の青春小説だ。酒、タバコ、Hはでてくるけどクスリや銃はなし。寮を抜け出してバス停まで歩く場面は『スタンド・バイ・ミー』を思い起こさせるし、ベンヤミンが朗読する『老人と海』にみんなで本気で聞き入るクサイ場面もある。(個人的にはここが一番好きだ) ドイツでは社会現象とまで騒がれた本だが、じっくり読んでみてほしい。古くから描かれてきた「男の子の世界」がビターにクレイジーに描かれているのがわかるだろう。 |
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【作者】Benjamin Lebert(ベンヤミン・レーベルト):1982年ドイツ・フライブルク生まれ。若者向け雑誌『イエッツト』に時々エッセイを寄稿。16歳の時に書いた初めての小説『クレイジー』がドイツで30万部を超えるベストセラーに。18歳の今年、プロモーションのため来日。雑誌などのインタビューでは、頻発する少年犯罪に関する質問なども受けていた。 【訳】平野卿子(ひらの きょうこ):1945年横浜生まれ。御茶ノ水女子大学卒業後、旧西ドイツ、テュービンゲン大学を経て、東京都立大学大学院でドイツ文学を専攻。大学講師をするかたわらでドイツの児童文学を日本に紹介している。主な訳書に『見えない道のむこうへ』(講談社)、『テオの家出』(文研出版)、「フランツシリーズ」(偕成社)など多数。 |
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