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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(2000年12月)


『ピッツァぼうや』表紙 *************************

  『ピッツァぼうや』

Pete's Pizza

   ウィリアム・スタイグ作
    木坂涼/訳  セーラー出版 
2000.3

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 

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 表紙の折り返しに、こんな文句が書いてある。
「しつもん もし だれかが ご機嫌ななめだったら どうする?
 こたえ そんなの かんたん! いま すぐ ピッツァにしちゃうのさ!」

 ほんとにそうだよねぇ、と、この本をひらくといつでも思う。
 お話は単純だ。外で遊ぼうと思っていたのに雨がふってきてしまって、ご機嫌ななめのピートくん。それを見ていたお父さんが、いいことを思いつく。
「そうだ ピートでピッツァをつくったら たのしくなるかもしれんぞ」
 あとはピートくんをテーブルにのせて、こねこねしたり、「きじの空中とばし」をしたりと、親子の楽しいひとときがひたすら続いていく。
 なんといってもすばらしいのは、絵本のなかのピートくんの表情だ。テーブルでこねこねされているときの、すまし顔。ちょん、とつっつかれたときの、くすぐったそうな笑顔。こんなピートくんを見れば、だれだっていっしょに遊びたくなってしまう。

 ことし、わが家の4歳の息子は、この本を何度本棚から引っぱり出してきたことだろう。しかも「読んで」ではなく、「ピジャごっこしよう!」と言って、持ってくる。
 じつのところ「ピジャごっこ」は、親にとってはけっこうな重労働だ。でも、ピートくんそっくりの満足顔をながめていると、ああ、遊んでよかった!と思えてくる。子どもって、ぺたぺたさわられたり、よいしょ、と持ち上げてもらったりするのが大好きなんだなぁ。口であれこあれお説教するより、一度「ピジャごっこ」をするほうが、親子のきずなは何倍も深まるんじゃないかしらん。
 ところで、保育園の先生にも「おもしろい本があるんですよ」と、この絵本をお貸しした。さすがに全員とピッツァごっこをすると、収拾がつかなくなってしまうので、かわりにいろんな紙をちょきちょきして、みんなで思い思いのピッツァをつくったそうだ。それはそれで、また楽しい。新しい遊びがひとつできたのだから。

 ピッツァ、ピッツァ、おいしいピッツァは、見るものじゃなくて、食べるもの。そして『ピッツァぼうや』は、見る本じゃなくて、遊ぶ本。
 ピッツァにいろんな種類があるように、『ピッツァぼうや』にも読む人の数だけ遊びかたがある。さあ、あなたは、だれどどんな風に遊びますか?

(内藤文子)

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【作者】William Steig (ウィリアム・スタイグ): 1907年、ニューヨーク生まれ。1930年、漫画が初めて雑誌『ニューヨーカー』に掲載され、以後イラストレーターとして活躍する。1968年、60歳を機に子どもの本に力を注ぎ、『ロバのシルベスターとまほうのこいし』(評論社)で、1970年のコールデコット賞を受賞。のちも数多くの賞に輝く。90歳を越えたいまも、絵本作家として活動を続けている。

【訳】木坂涼(きさか りょう):1958年、埼玉県生まれ。詩人・エッセイスト・翻訳家・絵本作家として活躍。詩集『ツッツッと』で現代詩花椿賞、『金色の朝』で芸術選奨文部大臣新人賞を受賞。絵本に『みんなおっぱいのんでたよ』(福音館書店)、『カレンダーのはなし』(セーラー出版)。翻訳絵本に『おとなってじぶんばっかりハンドルをにぎってる』(セーラー出版)などがある。

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〔やまねこ会員の声〕
★腰が痛くなるから家に置かないなどといいつつ、いろんな人にプレゼントしてしまいました。やっぱり、親ってこうあってほしいなと思います。自戒の意味も込めて。(NON)
★親子で存分に楽しませてもらいました。お話会でも大うけでした。(ちゃぴ)
★表紙の笑顔、沈んでいるときでも元気になっちゃう。子育て中は、こういう本で息抜きしなくっちゃ。(河まこ)

〔この本が気に入ったあなたにおすすめする次の一冊〕
★スタイグの他の本もどうぞ。『ゆうかんなアイリーン』ほか。

〔ここも御覧ください〕
「スタイグの本」(セーラー出版ホームページ)

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