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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(2001年7月)


今月は米仏対決!!

アメリカ国旗エロイーズ ★ フランス国旗『カロリーヌ』

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『エロイーズ』

The Absolutely Essential

ELOISE

ケイ・トンプソン/文

ヒラリー・ナイト/絵

井上荒野/訳  メディアファクトリー

2001.4.15

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 「ホテル」と「子ども」って一番ありえない組み合わせのひとつじゃないだろうか。ホテルは大人の遊び場だ。生活のにおいのまったくない洗練された空間で、極上のサービスを受けるため、大人たちはぱりっとお洒落して車寄せに乗りつける。騒がしくておしっこ臭い子どもなぞ、よせつけない場所なのだ。
 ところがなんと、われらがエロイーズはニューヨークの老舗、プラザ・ホテルの最上階に住んでいる。ちょうちん袖のブラウスにプリーツのつりスカート、あたまにピンクのリボン、という一見普通の6歳児。で、やってることは……やっぱり普通の6歳児なのだ。つまり、館内電話のコーナーでいたずら電話をかけたり、エレベーターと競争したり、棒で廊下の壁をこすりながら走りぬけたり。
 だけどみそこなわないでほしい。だてにプラザ・ホテルに住んでるわけじゃない。電話でボーイにスニーカーの洗濯をたのんだり(しかも仕上げはアイロンでだって)、ルームサービスをとったりする。決めの文句は「お部屋につけてね」。なにせママはココ・シャネルの知り合いで、高級デパートでだってつけがきくお金持ち。そんじょそこらの6歳児とは「お里」が違うのだ。
 普通の子どもが家のまわりや公園でやっていることが、プラザでやるとまったく違って見える。ちょっとしたいたずらが大事になり、気取った大人が慌てふためく……と思いきや、意外と動じていないのはさすが老舗ホテル。従業員も客も格が違うらしい。すました大人の中でくるくる動き回るエロイーズの表情と仕草が際立つ。作者、ケイ・トンプソンが生んだエロイーズは、まさにヒラリー・ナイトの絵で命がふきこまれたのだ。そのへんの「エロイーズ誕生の物語」については、この絵本の後のほうでたっぷり説明してあるので、こちらもお楽しみに。
 しかし『エロイーズ』をみていると、「ホテル」と「子ども」って実は最高の組み合わせ?なんて思えてくるから不思議だ。

●復刊について●

 エロイーズがはじめて日本にやってきたのは1989年。リブロポートから坂崎麻子さんの訳で出版された。
 そして2001年、今度はメディアファクトリーから井上荒野さんによる新訳で刊行されたが、巻末にマリー・ブラナーによる「エロイーズ物語」がついて、エロイーズの入門書といった趣になっている。というのも、『エロイーズ』と同時出版となった『エロイーズパリへいく』を皮切りに、"Eloise at Chiristmastime","Eloise in Moscow" などの続編がつぎつぎと邦訳される予定なのだ。続編が日本で紹介されるのははじめて。エロイーズの日本での活躍が楽しみだ。

ケイ・トンプソン(1909-1998)
アメリカ、セントルイス生まれ。若いころから音楽が好きで、特にピアノの才能に恵まれていた。自然に音楽の道に入った彼女は、アメリカの映画会社MGMのミュージカルスタッフとして、優秀なボーカリストを多数世に送り出した。仲間同士の戯れから生まれたキャラクター「エロイーズ」が絵本になって上梓されたのは1955年のこと。出版されるや、このなまいきな女の子はたちまち国民的人気者になった。"Eloise in Paris"、"Eloise at Chiristmastime"、"Eloise in Moscow" など続編が何冊か出ている。

ヒラリー・ナイト(1926-)
アメリカ、ニューヨーク生まれ。芸術家の両親を持ち、幼少のころから画家としての環境は整っていた。アート・ステューデンツ・リーグに進学。やがてスタジオを持ち、画家として活動をはじめたころ、隣人のD.D.リャンを通してケイ・トンプソンと知り合い、「エロイーズ」を手がけることになる。現在もプラザ・ホテルの近くにすみ、絵本のイラストレーターとして活動している。

井上荒野(いのうえ あれの)(1961-)
東京生まれ。成蹊大学文学部卒業。在学中から小説家をめざす。1989年『わたしのヌレエフ』で第1回フェミナ賞受賞。父は小説家の井上光晴。『あなたがうまれたひ』『みずたまのチワワ』など翻訳者としても活躍している。

大塚典子      

 

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カロリーヌ ************

『カロリーヌとやどなしさん』

CAROLINE ET LES VAGABONDS

ピエール・プロブスト/作

山下明生/訳 BL出版

2000.8.1

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 金髪を耳の後ろでふたつに結び、白いシャツに真っ赤なオーバーオールを着たカロリーヌ。一緒にいる“ゆかいな8ひき”は、しろくろボビー、らいおんキッド、くろねこノワロー、しろねこプフ、こげちゃのユピー、くまのブム、ひょうのピトー、まっくろピポだ。「カロリーヌとゆかいな8ひき」シリーズは、カロリーヌと仲間の動物たちが大活躍するお話。本国フランスだけでなく、多くの国で紹介され、子どもたちの心をとらえている。

 おばあちゃんが病気になったので、カロリーヌはお見舞いにいくことにした。でも、ゆかいな8匹を全員連れていくと、騒がしくておばあちゃんが疲れるかも。くじ引きで4匹だけ連れていこう。カロリーヌは、3日間留守番するプフとユピーとボビーとブムに「退屈しないためには、人に喜ばれることをするといいのよ」とアドバイスして出発した。

 人に喜ばれることって……。失敗しながら、留守番の4匹はやっといいことを思いつく。それは、冬の寒いなか道端にうずくまっていたライオンとサルを夕食に招待すること。ところが、この2匹の“やどなしさん”は、とんでもないわがままで、なんだかんだと難癖をつけて3日も居座ってしまった。おばあちゃんちから帰ってきたカロリーヌは、どうするのかな。

 だれかの役に立つことを見つけるのは難しい。親切のつもりが迷惑になってしまったり……。我が家の小学生を見ていてつくづく思うことだが、かれらの「親切」はしょっちゅう「大きなお世話」になってしまう。悪気はなく、真剣に考えているのに空回りしてしまうのだ。留守番組の4匹もまったく同じ。こういった登場人物(動物)の行動が身近に感じられるのも子どもたちに人気のゆえんかもしれない。


 シリーズを通して、カロリーヌは、ゆかいな8匹のお姉さん、または、お母さん役を果たしている。『カロリーヌとやどなしさん』では、とりわけその印象が強い。留守番組の失敗を責めたりしないし、やどなしさんの問題をいとも簡単に解決してしまう。もちろん、やどなしさんの将来のこともちゃんと考えに入れている。お話だけきくと、かなり出来すぎって思うかもしれないが、絵を見ていただければ、おちゃめでドジもしちゃうカロリーヌの魅力はそのままだってわかるだろう。

●復刊について●

 カロリーヌが日本で初めて紹介されたのは、1960年代後半の「世界の童話シリーズ」(小学館)。子ども時代にカロリーヌに出会い、その魅力を忘れられない大人のファンも多く、その思いがフェリシモ復刊企画に発展し、1998年の「カロリーヌとゆかいな8ひき」シリーズ(BL出版)刊行に至った。シリーズは、2000年8月までに31巻が刊行されている。

 なお、今回復刊になったシリーズは、リニューアルされた版に基づいている。『カロリーヌ カナダへいく』や『カロリーヌ ほっきょくへいく』など、「世界の童話シリーズ」に収められたお話もあるが、新たに描き下ろした
絵が含まれている。翻訳も新しくなっていて、たとえば「かんじき」は「ラケットみたいなはきもの」、「かえでの木のみつ」は「メープルシロップ」と、30年の時の流れを感じさせられる。「世界の童話シリーズ」を所蔵している図書館もあるので、興味のある方は読みくらべてみることもできる。

ピエール・プロブスト(1913-)
フランスのミュールに生まれる。絵画に専心する一方で、絹織物の下絵や広告の仕事をしていたが、娘シモンヌが5歳になった頃、子どものために絵本の仕事をしようと決心する。1950年代にシモンヌをモデルにした「カロリーヌ」が誕生した。今後も新作が予定されている。

山下明生(やました はるお)(1937-)
東京生まれ。幼年期を瀬戸内海の能美島で過ごす。京都大学仏文科卒業後、出版社勤務を経て、1970年童話作家として独立。『きつねのぼんおどり』(解放出版)など、多数の創作絵本がある。絵本の翻訳も多い。

河原まこ     

 

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