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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

やまねこのおすすめ(2002年8月)

きらきらした夏休みをすごしてますか?
魔法の呪文「ナツヤスミ」って唱えたら、だれにだってすてきなことがおこるはず。夏はだれにだって特別な季節なんですから。 

ちいさいオーちゃん表紙絵

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『ちいさいオーちゃん』

"KLAFINGER-DAGEN"
(KLAFINGERのAの上にo)

エディス・ウンネルシュタード/文

マイ・ファーゲルベリィ/絵

溝口真実/訳

徳間書店

2000.03.31

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。


 夏休みです! 欧米では大人も子どもも長い長いお休み。一家でのんびりと避暑に行くなんて、いつもうらやましいと思ってしまいます。特に、北欧の人たちは、長く暗い冬の後の短い夏をいとおしむようにすごすようです。あっという間に終ってしまうけれど、ひとつぶのダイヤモンドのように、貴重な季節なのですね。
 オーちゃんの家にも夏休みがやってきました。オーちゃんは、パパ、ママ、それにたくさんのおにいさんやおねえさんといっしょに町からはなれた別荘で過ごします。夏休みとはいえ、みんなは大忙し。大家族には別荘が小さくなったので、となりにもう1件、自分たちで家を建てているんです。パパとおにいさんたちはみんな家作りにいってしまいました。ママはうちの仕事がたくさんあります。おまけに、オーちゃんの犬はおねえさんたちに連れられて、予防接種を受けに病院にいってしまいました。小さいオーちゃんだけすることがありません。ひとりぼっちじゃつまんない。退屈したオーちゃんは、「やってはいけないこと」をひととおりやりました。白い食器棚に絵を描いたり、おにいさんのカメラをいじってこわしたり、くつをどろだらけにしたり……。ママは困ってしまい、おにいさんに野いちごをもっていってあげたら?といいました。オーちゃんは、はりきって野いちごを摘んで、おにいさんに届けようとしました。なのに、新しい家に近づくと「あぶない。あっちにいってろ」としかられてしまったのです。オーちゃんはもう頭にきました。「あたしだけなかまはずれなんだ。こんなかわいそうな子は世界中にあたしだけだ」。そして、かんがえました。「どっかにかくれちゃおう!」
 このお話は、ウンネルシュタードの『すえっ子O(オー)ちゃん』(下村隆一・石井桃子共訳、学習研究社)の中で「なかまはずれの日」として紹介されていたものの新訳です。1955年に書かれた作品ですが、ファーゲルベリィの絵によって、まるで最近のお話らしく生まれ変わりました。スウェーデンの夏の空気が伝わってくるような軽やかなタッチの絵の中で、短いチェックのワンピースを着て、ふっくらとした手足をむきだしにしたオーちゃんのかわいいこと。白い食器棚への落書きも、くつをどろだらけにすることも、うんうん、そんなことやってみたいよねと頭をなでてあげたくなってしまいます。そして、かくれていたオーちゃんが、じぶんはここよって、みんなに教える方法もとてもかわいいんです。ほんとはたっぷりの愛情につつまれたすえっこオーちゃんの、ちょっと反抗的な一日でした。

【作者】Edith Unnerstad(エディス・ウンネルシュタード):フィンランド、ヘルシンキ生まれ。後にスウェーデンへと移り住む。幅広い年齢層から支持を受ける、スウェーデンの人気作家だった。ニルス・ホルゲッソン賞他、多くの賞を受賞。邦訳に『ノロちゃんのおとぎばなし』(学習研究社)、『ペッレ君のゆかいな冒険』(講談社)がある。

【画家】Maj Fagerberg (マイ・ファーゲルベリィ):スウェーデン、クリュールブー生まれ。北欧の各国で活躍している。

【訳者】溝口真実: 東海大学北欧文学科卒。のべ3年間デンマークに留学していた。訳書に『おいらフーゴだ』(ベネッセ)、『マリアからの手紙』(徳間書店)などがある。

大塚典子

 

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