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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

今月のおすすめ(2002年7月)


私は私。自分らしく生きよう!
花の好きな牛表紙

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はなのすきなうし

The Story of Ferdinand

マンロー・リーフ (Munro Leaf)/文

ロバート・ローソン (Robert Lawson)/絵

光吉夏弥/訳

岩波書店

1998.11.25

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

 ここはスペイン、闘牛の国。牧場の牛たちは、みなマドリードの闘牛場で華々し く戦うことを夢みています……フェルジナンドを除いては。この牛は、元気に跳ね 回る仲間から離れ、いつもひとりでコルクの木陰にすわっています。優しい牛で、花を愛でていれば幸せなのでした。そんな息子を、おかあさんはちょっぴり心配し ながらも、好きなようにさせておいてあげました。ある日のことです。闘牛にだす 牛の品定めに、牧場に男たちがやってきました。牛たちはわれこそはと、暴れん坊 ぶりを見せつけます。もちろんフェルジナンドはそんなさわぎにも知らん顔。とこ ろが、思わぬアクシデントが起きて、フェルジナンドが闘牛にでることになってし まったのです。フェルジナンドの運命やいかに?
 扉絵の「花をもつフェルジナンドの図」にまず笑ってしまいます。前足でもった一輪の花の香をかぐマッチョな牡牛といえばわかってもらえるでしょうか。たくましい姿から大半の人が連想する「気の荒さ」と、フェルジナントが実際に内面にもつ「気の優しさ」とのギャップがこの話のミソです。牛はみんな闘牛にでたがるも のと決めつけられて、さぞ迷惑かとおもいきや、当のフェルジナンドは気にする様子もありません。大衆に流されることなく、かといって無理に逆らうわけでもなく ……わが道をいくという意味で、フェルジナンドは強い牛です。パワーによる単純でわかりやすい強さもあるけれど、きちんとした考えをもっているという、目には見えない強さだってあるのです。これってかっこいいことだと思います。こういう強さをたくさんの人が認めてくれればいいのですが……。
 さて、この物語は、今から66年前のアメリカで書かれました。でも、古い絵本と いう感じがしません。それは物語の力もありますが、なんといってもローソンの絵 のおかげでしょう。しっかりとしたデッサン力と綿密な調査の上での緻密な描きこ みは、どの時代でも通用するものです。一方、ページごとにアップになったり引いてみたりと、カメラワークのように自由で大胆な構図。登場人物の動きのある表情。 そして、コルク栓がたわわに実るコルクの木など、そこここに散りばめられたセンスのいいユーモア。こういった、どこかマンガチックなところは驚くほど現代的なのです。
 さて、闘牛場でフェルジナンドくんはどんな活躍をみせてくれるのでしょう? さっそく「花をもつフェルジナンドの図」の扉ページをめくってみてください。

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 【作者】Munro Leaf(マンロー・リーフ)アメリカ、ボルチモア生まれ。メリーラ ンド大学から、ハーバード大学院へと進んだ後編集者となる。本作品は編集長時代 に、親友のローソンのために書いたもの。他に、絵も自分で手がけた作品、『おっ とあぶない』(渡辺茂男訳/学習研究社)や『みんなの世界』(光吉夏弥訳/岩波 書店)などがある。
 【画家】Robert Lawson(ロバート・ローソン)アメリカ、ニューヨーク生まれ。 小さいころは絵を描いて遊ぶことはなかったという。高校で才能に目覚め、ニュー ヨークの「ファイン・アンド・アブライド・アート」校で絵を学ぶ。卒業後、雑誌 のイラストレーションやコマーシャルの仕事をするが、大不況で仕事がなくなると、 一時期田舎に移りすみ、やりたかったエッチングの勉強をする。このころから子ど もの本の仕事がくるようになった。本作品が出てからは子どもの本を専門に手がけ るようになる。"They Were Strong and Good" でコールデコット賞、『ウサギが丘』 (松永冨美子訳/学習研究社)でニューベリー賞を受けている。両賞をひとりの人 が獲得した例は他にない。
 【訳者】光吉夏弥(みつよし なつや) 1904年佐賀県に生まれる。舞踏評論家・児童文学翻訳家。「ひとまねこざる」シリーズ、『山のクリスマス』(ルドウィヒ・ ベーメルマンス作/岩波書店)など、いまでは優れた古典となった、たくさんの子どもの本を日本に紹介してくれた。
     

大塚典子

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待っててね

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『アリーテ姫の冒険』

ダイアナ・コールス (Diana Coles)/作

ロス・アスクィス (Ros Asquith)/絵

グループ・ウィメンズ・プレイス/訳

学陽書房

1989.12.12

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*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。

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 お姫様といえば、美人で従順を最大の武器にして、王子様に幸せにしてもらうのが常だった。でも、この本に出てくるアリーテ姫は違う。自分の足で歩き、人生を切り開いていくお姫様なのだ。アリーテ姫は本が大好きで、豊富な知識を持っていた。だから、王子様の話に、だた相槌をうつなんてことは到底出来ない。「この美しい花は△△から来たのですよ。」と物知り顔で言われると「この花の名前は○○で、実は××という国が原産地です。」などと、ついつい本当の事を教えたくなってしまう。姫が賢いという噂は日に日に広まり始め「女が賢いのは悪しき事、姫の賢さが方々に知れ渡る前に結婚相手を」と王様は焦るばかり。そんな時、一人の魔法使いボルックスが、宝のいっぱい詰まった小箱と共に「賢い姫を自分の嫁に」と王様の前に現れる。何より宝石に目のない王様は、姫を差し出してしまった。賢さを確かめるための3つの難問を姫が解けなければ、殺してもよいという条件までをものんで。実はこのボルックス、将来姫に殺されると占い師に予言されていたために、そうなる前に姫を……と命を狙っていたのだ。
 ボルックスとその手下が、どうにかして姫を落としいれようと、四苦八苦しながら繰り出した3つの難問を、姫が事も無げに解決していってしまう様は痛快だ。例えば、森の奥深くにある「永遠に減らない水」を手に入れてくるという第一の難問。数千匹のヘビに囲まれている井戸には、勇者さえ容易に近づけない。アリーテ姫も当然失敗するだろうと、高をくくりほくそえむボルックス達だったが、アリーテ姫は、彼女らしい方法でいとも簡単に水を汲んできてしまう。
 それぞれの難問の解決の仕方も楽しいけれど、彼女のもっとも素敵なところは魔法の使い方。その魔法というのは、彼女の身を心配した友人の魔女から与えられた、たった3回だけ願いを叶えられるというもの。その魔法をアリーテ姫は、難問を解決するためや逃げ出すためには使わなかった。ボルックスの手によって閉じ込められてしまった、何もない退屈な地下室での時間を有効に使うため、そして今ある生活を充実させるために魔法を使ったのだ。
 この作品はジェンダー・フリー*の入門書のように扱われることが多いため、評価も賛否両論である。実際、ジェンダーを意識しすぎている部分があることも否めない。けれども、アリーテ姫の現実から逃げることのない姿勢、どんな状況においても、より良く楽しく生きようとする姿勢に、この本の別の価値があることにも気づいて欲しい。
 なお、当作品は1992年に同出版社から絵本版も出版されている。またアニメ映画化もされ、2002年夏より上映される予定。
*ジェンダー・フリー  性別にこだわらず、とらわれずに行動すること、男らしさ、女らしさにしばられず、自分らしく生きること。

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 【作者】 Diana Coles (ダイアナ・コールス)イギリス、ロンドン北部在住。教師をする傍らこの作品を手がけた。一人息子を育てるシングルマザー。
 【画家】 Ros Asquith( ロス・アスクィス)イギリス・ロンドン在住。作家、イラストレーター、漫画家と多才に活躍する。The Teenage Worrier's シリーズは、ベストセラーにもなっている。

西薗房枝


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