海辺に埋まった宝物を掘り当てた少女の物語 |
今月は、イギリスの有名な「化石」の採集者、メアリー・アニングスの少女時代の話を元に書かれた、2作品を紹介します。なにしろ約200年も前の、当時は名もない少女のお話です。きっと詳しい資料も残っていなかったのでしょう。わずかな事実から、ふたりの作家がイマジネーションを膨らませて書いた絵本と、読み物。核は同じでも、それぞれに別な味わいを持った作品をよみくらべてください。 |
『化石をみつけた少女 メアリー・アニング物語』 Mary Anning's Dinosaur Discovery "The Fossil Girl" キャサリン・ブライトン/作 せな あいこ/訳 評論社 2001.01.20 ************* |
*表紙の画像は、出版社の許可を得て使用しています。
「遠い歴史のロマン」「地球の歴史」への憧れは誰もが持っているだろう。「化石発掘」は、まさにその歴史を知る第一歩だ。この本は、無学であったにも拘らず 、「化石の専門家」として多くの学者達から、いちもく置かれるようになったメアリー・アニングの子供の頃の物語である。 父親を早くに亡くしたアニングは学校へ行けなかった。細々と店を営んでいた母親 を助けるため、売り物になるような「掘り出し物」を弟と探し歩くのが日常だった。「掘り出し物」は主に化石。アニングの住むライム・リージスの海辺は化石の宝庫だった。ところが生活の糧である店が、大波に襲われめちゃくちゃにされてしまった。 途方にくれる母を元気づけるため2人はまた「掘り出し物」探しへ。見つけたものは、なんと生きていた頃のまま、完全な姿をしたイクチオサウルスの化石だった。 「全てのものは神によって創られた」ということから始まり、「聖書」の教えが何もかも正しいとされていた時代の話である。古代生物がいたという証明にもなるアニングの発見は、その教えに異論を唱え始めた科学者たちを後押しする形となったものであり、歴史的に大変重要な出来事であったそうだ。たった11歳の少女でも興味と意欲さえあれば、世界を揺るがすようなすごい発見が出来るのだ。さあシャベルと刷毛をもって出かけよう! 素敵なものが見つかるかもしれない。 【作者】Catherine Brighton (キャサリン・ブライトン):ロンドン在住。娘の手紙が語る、ガリレオ・ガリレイの私生活の物語 "Galileo's daughter" をベースにした絵本 "Galileo's Treasure Box" を始め、"Mozart" など、伝記絵本を主に手がける。
【訳者】せな あいこ: 東京出身。青山学院大学卒。訳書にはグリーナウェイ賞受賞作「かぼちゃスープ」(ヘレン・クーパ作/アスラン書房)、「アザラシのくる海」(マイケル・フォアマン作/評論社)などがある。 西薗房枝 |
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「すき」という気持ちは、なににも負けないパワーを生みだす。これは今から200年前を生きた少女の話だけれど、今を生きるわたしたちにも、自分の不遇を嘆いてばかりいてはだめ、と前を向いて生きる元気を与えてくれる。 メアリー・アニングは海辺に住む大工の娘。彼女のお父さんには「石の動物」を集めるという趣味がある。石の動物とは化石のこと。でもそんな言葉は一部の学者しか知らないような時代だった。もちろん、お父さんは化石がどうやっ てできたかなど考えたことすらない。だけど、石の動物がたくさん見つかる場所、海岸で安全に拾う方法、拾った後の扱い方などだれにも負けない現場の知識を持っていた。メアリーはこういった知識を教わるのが嬉しくてたまらない。 当時、女性は外に出ずに家の仕事をするものだと考えられていたのだが、メアリーは家に閉じこもって針仕事をするなんてまっぴら。外で石の動物を拾う時間に幸せを感じていた。普通の女の子と違う彼女を近所の子たちは「石むすめ」 といってからかったけれど、メアリーは相手にしなかった。 ところが、メアリーと兄のジョセフにありったけのことを教えてくれた後、お父さんは病気で亡くなってしまう。一家の大黒柱を失った家族には悲しみと共に生活苦も重くのしかかる。そこでメアリーは、お父さんが副業としてやって いたように、石の動物を売ってお金を稼ぐことを思いつく。「女がすることではない」といい顔をしなかったお母さんも最後には折れ、メアリーは堂々と化石を掘ることができるようになった。暮らしは楽になり、家族に笑顔が戻る。 そればかりか、その後メアリーは世界的に有名な化石の採集者となったのだった。 メアリーのすごいところは、常識にとらわれない考え方。今でこそ人間は平等だという考えが一般的だけれど、女であること、子どもであること、 そして貧しいことは200年前には大きなハンデだった。不利な立場のメアリーは、そのまま家庭に入って、そこで一生を終わっていたかもしれない。ところが、理解のあるお父さんが残してくれた石の動物の知識を基に、 「すき」という気持ちに突き動かされながら、彼女は常識の壁を破っていった。どんな状況にあっても、本人に進もうとする気持ちがあればなんだってできるんだということを示してくれた。さらに、「すき」という気持ちはメアリーの科学の目をも開かせた。お父さんには「石の動物」がどうしてできたのかは「それこそほんとうのなぞ」だとおそわった。でも自分が掘るのは、地殻の変動によってできた「化石」なのだと意識して発掘を始めた時、メアリーは師であったお父さんを超えた。まさに自分の価値観で道を切り開いていったその勇気と行動力はなんてまぶしいのだろう。「すき」という気持ちを大切にしていいんだとメアリーに教えられ、ちょっぴり勇気がわいてきた気がする。 【作者】Helen Bush (ヘレン・ブッシュ):カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州生まれ。キングストンのクィーンズ大学とトロント大学で地質学・鉱物学・古生物学を学んだのち、オンタリオ博物館で教育部門のスタッフを25年以上も勤める。退職後、フリーランサーとなり、化石の研究を続けるかたわらで、化石や古生物に関する執筆を行う。 【訳者】沢登君恵(さわのぼり きみえ):山形県出身。早稲田大学大学院修士課程修了後、高校教師を経て法政大学経済学部教授となる。主要論文に「患者の系譜―キャサリン・アン・ポーター研究」、訳書に『金色の影』(レオン・ガーフィールド作/ぬぷん児童図書出版)、『青い海の歌』(メイベル・アラン作/ぬぷん児童図書出版)などがある。本名、楠本君恵。 |
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