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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

春の日や庭に雀の砂あひて


1.Sep.1999 NO.48 Sincerely やまねこの絵本箱 by 生方 頼子

春の日や庭に雀の砂あひて
リチャード・ルイス編 エズラ・ジャック・キーツ絵 いぬいゆみこ訳 偕成社

 さて、今回ご紹介する絵本は、『春の日や庭に雀の砂あひて』(リチャード・ルイス編/エズラ・ジャック・キーツ絵/いぬいゆみこ訳/偕成社)です。タイトルがちょっと季節はずれでごめんなさい。でも中身は、四季おりおりの自然をうたった23の俳句に絵本作家のキーツが絵をつけた、情緒たっぷりの俳句絵本なのです。

 小林一茶や与謝蕪村などの俳句とその英語訳、さらにそれを日本語に翻訳したものがセットになっているので、楽しみかたはいろいろです。オリジナルの句をじっくり味わうのもよし、おしゃれに英語を口ずさんでみるのもよし。翻訳で句の内容をストレートに楽しむこともできます。

 たとえば、最初の句は、一茶の「朝やけがよろこばしいか蝸牛(かたつむり)」。英語は"A red morning sky, For you,snail; Are you glad aboutit?"です。翻訳は、「このあかく染まった朝の空/きみのだよ かたつむりくん/うれしいかい?」となっています。見開きページいっぱいに広がる、朱色の朝焼けが素敵です。

「春の日や庭に雀の砂あひて」表紙

 俳句のイメージをさらに広げてくれる絵は、どれもみな日本風。キーツ氏は日本に住んでいたことがあるのかしらと思ってしまうほどです。全体的に渋めの色使いや、にじみ、かすれ具合などが、まるで和紙を使っているかのようで、疲れた体と心にやさしい絵です。

「大螢ゆらりゆらりと通りけり」(一茶)。最後のページには、夏の宵闇の中でぼうっと光っている1匹のホタルが描かれています。過ぎゆく夏をふり返りながら、冷たい麦茶のグラスを片手に(あ、ビールでもいいです)この絵をながめるというのも、なかなか乙なものですね。

 秋風が吹いたら、実家の母にも同じ絵本を贈ろうと思います。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


やまねこの絵本箱

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