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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

くまのオルソン


3.Mar.2000 NO.73 Sincerely やまねこの絵本箱 by こべに

くまのオルソン

ラスカル文 マリオ・ラモ絵
堀内紅子訳 徳間書店

 あまい香りの暖かな風が春を運ぶ3月。心の緊張がふっと解けて、思いがけなくすなおな気持ちになれそうな気がしませんか? 今回ご紹介する『くまのオルソン』(ラスカル文/マリオ・ラモ絵/堀内紅子訳/徳間書店)は、穏やかな陽射しの下でそっと大切に開きたいような、いとおしくて切ない一冊です。

 森中でいちばん力の強いくまのオルソンは、いつもひとりぼっち。ほんとうはなかよくしたいのに、大きすぎる体でへまばかりしてしまって、どうしても、みんなと上手に遊べません。さびしくてたまらないオルソンがやっと見つけた、たったひとりの友だち。それは、かしの木の根本にちょこんとすわっていた、小さなくまの子のぬいぐるみでした……。

「くまのオルソン」表紙

 幸せってなんだろう? 優しさって……孤独って……希望ってなんだろう? 大きな体のオルソンが、絵本の中から全身で読者に問いかけます。淡い色合いでさらっと描かれた印象の静かな絵の中で、しょんぼりしたり笑ったり驚いたり、豊かに変化するオルソンの表情は、覆い隠されたわたしたちの内面をそっと映しだす鏡なのかもしれません。生きることは楽しいこと。でも、そこには深い悲しみや孤独があるのです。思わず強がりを言ってしまうことだって……。ちょっぴり乱暴なオルソンの口調からは、かぎりない優しさや孤独や祈り、そして、傷つくことを恐れる繊細な気持ちが痛いほど伝わってきます。飾らないまっすぐな文章は美しく、恐いぐらいに純粋です。中途半端なあまさがない分、そこには真実が、とても誠実に描かれています。

 やっと見つけた大切な友だち。けれど、オルソンは、冬ごもりに入る日、そのぬいぐるみを元いた場所にもどすことに決めるのです。ぬいぐるみはオルソンを傷つけなかったけれど、けっして愛することもなかった……泣いてしまいそうになるのをぐっと我慢して、オルソンはくまの子に背を向けます。とても悲しいけれど、わたしはそこに、現実と向き合おうとする本物の強さと、生きた友だちを得たいと願う未来へのたしかな希望を感じました。それに続く最後の一ページを、みなさんはどう受けとめるでしょうか……。

 この絵本からなにを感じ、なにを受け取るか、それは、読者ひとりひとり、みな違うでしょう。優しくて不器用で愛されたいと切望するオルソンは、年齢を超えて、わたしたちみんなの中に住んでいるからです。暖かな春の一日、ちょっぴり心にゆとりのあるときにこの絵本をそっと開いて、ぜひあなただけのオルソンをぎゅっと抱きしめてください。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


やまねこの絵本箱

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