3.Feb.2000 NO.69 Sincerely やまねこの絵本箱 by 大原 慈省
青空を背景に、はるか遠くを見据える彼の名はウエズレー。"人と同じ"ことが平和のシンボルのような町で、流行にまるで無関心なウエズレーは、かなり浮いた存在でした。みんなから仲間はずれにされ、いじめっ子に追いかけられる毎日をおくっていました。 そんな彼が夏休みの自由研究に選んだテーマは、「自分だけの文明」をつくること。ある夜、偶然風が運んできた不可思議な植物を育てながら、家の庭に"ウエズランディア"という国を築きあげていきます。 誰の助けもかりず、自分ひとりで、食べ物や衣服、小屋をつくり、ゲームを考えだし、新しい文字まで完成させます。今までそっぽを向いていたまわりのこどもたちもしだいに引き寄せられ、ウエズランディアに足を踏み入れはじめます。その時、彼らを冷静に受け入れるウエズレーは、もはやいじめから逃げ回っていた少年ではなくなっていました。周囲と同様、彼も徐々に変化していたのです。 ウエズレーは"人と同じ"ことを拒否しているわけではありません。自分が認めることのできないものに流されないだけなのです。作者は"人と違う"ことが個性だと主張しているのではなく、自分の意志をもつことの尊さ、人の意思を尊重することのすばらしさを、主人公の成長を通して静かに語りかけます。 ウエズレーは庭に文明を築くことで、人類が歩んできた長い道のりを再現しました。その上で、ウエズランディアがただの器にすぎず、仲間がいて、初めて国が動きはじめることを学び、視点を外へと移していくのです。 |
※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。
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