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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

ウエズレーの国


3.Feb.2000 NO.69 Sincerely やまねこの絵本箱 by 大原 慈省

ウエズレーの国

ポール・フライシュマン作 ケビン・ホークス絵
 千葉茂樹訳 あすなろ書房

 少年というのはミステリアスな存在です。突然何かがはじけ飛んだかのように感情を表現するかとおもえば、急に心の奥深くへ入り込んでしまう。幼さが抜けきれない頬と鷹のような瞳を併せ持ち、ときにはボーイソプラノでおとなが驚くようなことを言ってのける。彼らはいったい何を考えているのでしょうね……。

 今月の絵本『ウエズレーの国』(ポール・フライシュマン作/ケビン・ホークス絵/千葉茂樹訳/あすなろ書房)の主人公も、一度会ってみたくなるような心ひかれる少年です。

「ウエズレーの国」表紙

 青空を背景に、はるか遠くを見据える彼の名はウエズレー。"人と同じ"ことが平和のシンボルのような町で、流行にまるで無関心なウエズレーは、かなり浮いた存在でした。みんなから仲間はずれにされ、いじめっ子に追いかけられる毎日をおくっていました。

 そんな彼が夏休みの自由研究に選んだテーマは、「自分だけの文明」をつくること。ある夜、偶然風が運んできた不可思議な植物を育てながら、家の庭に"ウエズランディア"という国を築きあげていきます。 

 誰の助けもかりず、自分ひとりで、食べ物や衣服、小屋をつくり、ゲームを考えだし、新しい文字まで完成させます。今までそっぽを向いていたまわりのこどもたちもしだいに引き寄せられ、ウエズランディアに足を踏み入れはじめます。その時、彼らを冷静に受け入れるウエズレーは、もはやいじめから逃げ回っていた少年ではなくなっていました。周囲と同様、彼も徐々に変化していたのです。

 ウエズレーは"人と同じ"ことを拒否しているわけではありません。自分が認めることのできないものに流されないだけなのです。作者は"人と違う"ことが個性だと主張しているのではなく、自分の意志をもつことの尊さ、人の意思を尊重することのすばらしさを、主人公の成長を通して静かに語りかけます。

 ウエズレーは庭に文明を築くことで、人類が歩んできた長い道のりを再現しました。その上で、ウエズランディアがただの器にすぎず、仲間がいて、初めて国が動きはじめることを学び、視点を外へと移していくのです。
 夏の日の熱い空と咲き誇る花の色が、一生のうちで一番すばらしい時代を鮮やかに演出し、吹き抜ける風とともに、やがて訪れる青年時代を予感させます。繊細さと大胆さを併せ持つ少年の透き通った心の内に、そっとふれたような一冊です。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


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