*******************************
Review by BUN
*******************************
「ふたりの星」(講談社、1992年)、「ザ・ギバー」(講談社、1995年)の2度のニューベリー賞で知られるロイスローリーの作品です。ローリー自身が最も好きな作品のひとつにあげています。
物語は、大人になった主人公が6才の頃を回想するという設定で始まり、ほとんどは6才の少女エリザベスの視点から語られています。舞台も作中の登場人物もかなり実在に近い、自伝的作品だそうです。
時は第二次大戦中。6才のエリザベスは、陸軍の士官である父が出征したために、母の実家であるペンシルヴァニアで暮らすことになります。
母の実家は立派なお屋敷で、銀行家の祖父と厳格な祖母を中心に、何もかもがきちんと整った規則正しい生活が営まれています。エリザベスの母は物静かな人物で、しかも出産をひかえているので、エリザベスにはあまりかまってくれません。また3つ違いの姉はきれい好きで、なんでもそつなくこなす優等生タイプ。一方エリザベスは外に飛び出すのが大好きで、女の子らしい手先の仕事は苦手、いつも顔や手足にどろんこや食べこぼしがついているという子どもなので、幼心にも疎外感を感じています。
そんな彼女が誰よりも愛し、一緒にいて安らぎを感じるのが、使用人のテイティーとその孫のチャールズでした。チャールズとエリザベスはすぐに仲良くなり、楽しい夏を過ごします。しかし、秋になると二人は別々の学校で(チャールズは別のところに住んでいますし、黒人だからということもあります)一年生となり、やがて冬に入ってある事件が起こります……。
この物語は、第二次大戦が時代背景になっています。戦時中と言っても、毎日の暮らしに直接の影響はないわけなのですが、「お父さんが戦争で死んだらどうしよう……」という思いは、エリザベスに常につきまとっています。
6才といえば、物心がついて世の中の心配事、不安、などが心の中になだれ込んでくる年頃です。いつもけろっとして遊ぶことしか考えていないような子どもが突然「お母さん、人間は死んだらどうなるの?」などという質問をして親を驚かせるのも4,5才から6才ぐらいにかけてではないでしょうか。はためには「無邪気」「純真」「遊んでいるだけで気楽」と映る子どもの心の中には、実はいろんな心配やら不安やら罪の意識やらが渦巻いているのです。そんな子供心をこの物語は、小さなエピソード(そして最後には大きな事件)を積み重ねることでとてもよく表現しています。
もうひとつ、この物語を貫いているのは、「閉じられた安全な世界から飛び出して外へ心を開く」というテーマです。これはおそらくこの後書かれた「ザ・ギバー」につながっていったテーマだと思われます。
屋敷の中は整然としていて清潔です。みな規則正しく日課を守って生活しています。でもエリザベスにはどうにも物足りないのです。彼女は使用人のテイティーとその家族に強くひかれ、また学校で新しく友達になったルイーズの気取らない家族たちにも大きな魅力を感じます。
最後の「事件」は、もし屋敷の中だけで生活していれば起こらなかったことです。それはある意味では「外の世界」の危険性を象徴しているとも言えます。でも、その事件を通じて、エリザベスは、厳格で冷たいと感じていた祖母の意外な一面を知ることにもなります。(ここで泣かされました。)
他の作品を読んでも感じることですが、ローリーは決してどちらか一方をいいと決めつけたり、誰かを悪者にしたりしません。現実や人間の複雑さをきちんと書いています。すごく誠実な作家だと思います。
ただそれだけに、この物語は、幼い子どもには難しいかもしれません。また最後の「事件」が衝撃的すぎるような気もします。……でもそう決めつけるのもよくないのかもしれませんね。子どもの理解力は時として大人の想像を遙かに超えていることがありますから。作者自身は、IPL(インターネット・パブリック・ライブラリー:リンク集を参照のこと)の作家紹介の中で、この物語は子どもの本と大人の本との中間に位置していて、どちらに分類するか難しい。それでも修正せずに出版させてくれた編集者に感謝したいと書いていました。
Copyright (c) 1998, 1999 yamaneko honyaku club. All rights reserved.