13歳の少女シャーロット・ドイルが、1832年6月から8月までの2ヶ月間にイギリスからアメリカへ渡る船上で体験したことを告白するという物語。全編シャーロットの1人称で綴られている。
船会社の重役の娘であるシャーロットは、イギリスのお嬢様学校を卒業し、ようやく家族の待つアメリカへ帰ることになった。ところが一緒に船に乗るはずだった知り合いの家族が突然来られなくなり、シャーロットは一人きりで船に乗らなければならなくなる。乗船したのはシャーロットと乗組員だけ。しかも乗組員の一人から「この船には乗らない方がいい」という忠告まで受ける。シャーロットは不安に思いながらも、予定通り船に乗るしかなかった。乗組員で彼女が安心して話せるのは船長だけ。お嬢様の彼女が一般の乗組員と、ましてや黒人と仲良くするなどということは考えられなかった。ところが、彼女が一般の乗組員の様子を船長に伝えたことが原因で、航海の途中に殺人事件が起きてしまう。実は船長は残忍な男で、シャーロットに親切にしていたのも彼女をスパイとして利用するためだった。広い大西洋の上で全く孤独な存在となってしまったシャーロットはこの先どうなるのか。無事にアメリカへたどり着けるのか。
これはもう冒険物語と言ってしまってもいいような気がします。実は殺人事件が3回も起きるのですが、そのうち2回は始めから犯人が分かっていますし、あとの1回もたやすく想像できるので、ミステリーとは言えないでしょう。かよわいお嬢様のシャーロットが、荒くれ男たちと2ヶ月間一緒に過ごすうちにどう変わっていくのか、そこが読みどころです。(物語の冒頭でも「わたしはこの体験を通して生まれ変わった」というようなことを主人公が語っています。)
男の子が主人公の海洋冒険小説というのはよく見かけますが、女の子が主人公のものってどうなんでしょうね。わたしは初めて見たような気がします。本で読む限りはそんなにハラハラドキドキしないのですが、もっとストーリーを膨らませてアニメにしたらおもしろいんじゃないかと思いました。巻末には船の図解も載っているので、専門用語もそれほど苦になりません。船の勉強にもなりますが、これだけ殺人事件が起きているところを見ると、作者はあまり教育的なことや宗教的なことは意識していないような気がします。
アヴィは翌年の1992年もオナー賞に輝いています。こちらは『星条旗よ永遠なれ』という題名で翻訳されています。 (1998.9作成)
※追記 この作品は1999年5月、偕成社より出版されました。『シャーロット・ドイルの告白』 茅野美ど里訳 偕成社 1600円
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