【あらすじ&感想 by ベス】舞台は1981年頃のアフリカ、モザンビーク。母親に先立たれ、父親に家出されてしまった黒人の少女 Nhamo は、叔母夫婦の家で肩身の狭い思いをして暮らしていました。そんなある日、村にコレラが流行し、村人たちが次々と病に倒れてしまいます。 Nhamo の家でも、家族に病人や死人が出て大騒ぎになりました。何かの呪いではないかと心配した家族が町のまじない師(実はインチキ)に相談に行くと、昔Nhamoの父親によって殺されてしまった男のたたりが原因で、その殺された男の兄弟のもとへ Nhamo が嫁に行くしか解決の道はないと言われてしまいます。相手は妻が既に3人もいる残忍な男。まだ12歳にも満たない Nhamo はもちろん行きたくはありませんでしたが、自分一人の力ではどうすることもできません。 しかし、家族の中で唯一人 Nhamo をかわいがってくれた祖母は、こっそり家出をして、隣の国ジンバブエにいるはずの父親を訪ねるようにとNhamoを説得します。心細く思いながらも、祖母に言われた通りにこっそり家の中の食料を集め、一人ボートで川を登っていく Nhamo。彼女は無事ジンバブエにたどり着けるのでしょうか。そして、父親に会うことができるのでしょうか。
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【あらすじ&感想 by 鎌田千代子】 両親のいないヌアモは、祖母アンブヤの住むモザンビークの小さな村で暮している。母親は死に、父親はある事件を起し、家を出ていってしまったのだ。同い年の従姉妹は初潮をむかえ、きれいな女性になっていくのに、成長が遅く、自分の見栄えに自信のないヌアモは劣等感を抱えている。そんな時、村に病気がはやり死者が多く出る。生き残った村の人達は、何かの災いに違いないと考え、霊媒士のもとを訪れる。霊媒士は、ヌアモの父が昔殺した人間の悪霊によるものだと告げる。そして悪霊の怒りを静めるためには、ヌアモをこの死んだ男性の弟に嫁がせなくてはならないとも告げる。年老いて既に3人の妻がいるこの男に嫁げば、奴隷として扱われることが目にみえていた。アンブヤは、村に流行った病気はコレラが原因であり、霊媒士の言うことは作り事、また悪霊を静めるためにヌアモを嫁がせるなど時代遅れもはなはだしいと、霊媒士の言う事に反対する。 祖母アンブヤは、この古い因習に縛られた村から逃げ出すように、ヌアモを諭す。父の住むジンバブエへ行けば助かる道があるだろうと。ヌアモは小船にのり、川をつたい、たった一人で不安に駆られながらジンバブエへと向う。途中、初潮を迎えたヌアモにはいつしか強い自信がみなぎり、そして亡き母の霊、小船の持ち主だった漁師の霊、水の精霊に守られて、前ヘ、前へと進むのであった。 物語の3分の1は、ヌアモのサバイバル生活が描かれている。生活の様子が細かく書かれているので、冒険物が好きな読者にとっては、とても興味深く読めるだろう。少女のサバイバル物語はScott O'dellの"Island of the Blue Dolphins"が1961年にニューベリー賞を受賞しているが、私にとってはこの"A Girl Named Disaster"の方がとてもインパクトが強い。サバイバル生活の描写が細かく、苦労している様子がよく伝わり、読者は生活に入り込め、かつ感情移入しやすいのではと思う。また旅を止めて島にとどまりたいとか、死んでしまいたいと時々気弱な部分を見せるヌアモに同情もしてしまう。ヌアモに語り、励まし、時に襲う様々の霊達の存在はとても興味深いし、ストーリーを盛り上げてくれる。また物語の中で、ヌアモの語る民話も面白い。祖先の霊を敬い、八百万の神の存在が文化の根底にある日本人の読者にとっては、気味悪さや違和感は感じない話だと思う。ただし物語の最後で、ある霊が出てくるのだが、ちょっと解釈じみていて、行き過ぎかなとも思えるのが残念である。 この物語が1981年頃を舞台に描かれているという後書きを読んで、ちょっとびっくりした。物語中のモザンビークでの生活は、現代の私たちにとっては、かなり原始的生活に感じるからだ。と同時にモザンビークのすぐ隣、ジンバブエには現代という文明が横たわっている事実を突きつけられる。ヌアモは二つの文化、つまり古い因習の残る文化と、私たちの身近な20世紀現代の文化の狭間に立つ。私には、この作品では二つの文化の優劣をつけてはいないように思える。人それぞれの生き方があるし、そしてだれしもが両方の文化に関わって生きていかなくてはならないことを感じた。そして関わることにより、お互いの文化が変容することを認めなくてはいけないのだと教えられる。 アフリカを舞台にした作品ということで、アメリカ・イギリスの作品に慣れ親しんでいる読者にはとても新鮮に感じるだろう。本文前には登場人物一覧、地図、後書きには用語解説、ジンバブエやモザンビークの文化や歴史の簡単な解説があり、読者には親切である。今後、この作品のように様々な文化に触れる事の出来る児童書がもっと増えてくれればと思う。(鎌田 千代子)
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