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Penguin Books, 1997 ISBN 0-14-038019-1
(Hardcover : Andersen Press Limited, 1996 278pp.)
〜メルヴィン・バージェス作『ジャンク』(仮題)〜
Review by 生方頼子
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14歳のタールは、暴力をふるう父親とアルコール依存症で無気力な母親に耐えきれず、家を飛び出した。ガールフレンドのジェンマも、何かと干渉する両親を疎ましく思い、タールのあとを追って家出する。自由を求めるジェンマと、彼女に引きずられ気味のタール。やがてジェンマは、パーティーで知り合った自由奔放な少女リリィに強く引かれ、リリィとその恋人ロブのところへ転がり込む。そこにタールも加わり、4人の共同生活が始まった。
タールとジェンマは、リリィたちに麻薬を教わり、次第に深みにはまっていく。リリィの妊娠をきっかけに一度は麻薬をやめようとするが、どうしてもやめることができなかった。ふたりともすでにjunkie(麻薬常習者)になってしまっていたのだ。やがて、自分が妊娠していることに気がついたジェンマは……。
1980年代のイギリス、ブリストルを舞台に、ひたむきで純粋だが未熟で不安定で無鉄砲、というローティーンの少年少女特有の姿を描いた作品である。登場人物が交互に語り手となり、タールとジェンマが家を出てからの数年間をそれぞれの視点で語っていく。未熟であるがゆえに、自分の未熟さには気づかない子どもたち。そんな彼らが必死にもがき、苦しむ姿は、いいようのないほど痛ましい。さらにタールの父親とタールが語るラスト2章では、大人になるために知らねばならない現実の厳しさをつきつけられる思いがする。
若者の麻薬中毒患者が急増している昨今のイギリスにとって、実にリアルで衝撃的な題材を扱ったこの作品は、1997年度のカーネギー賞・ガーディアン賞の両方を受賞した。アメリカでは、"Smack"というタイトルで出版されている。(生方頼子)
Melvin Burgess(メルヴィン・バージェス):1954年イギリス、ロンドン生まれ。レンガ積み工、染色業などの職を経て、1990年に"The Cry Of The Wolf"(邦題『オオカミは歌う』/偕成社)で作家としてデビュー。以後、個性豊かな作品を発表し続け、高い評価を受けている。その他の邦訳作品に『メイの天使』『エイプリルに恋して』(ともに東京創元社)がある。現在は妻子とともにランカシャーに在住。
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