やまねこ翻訳クラブ 注目の未訳書13 Sharon Creech

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Sharon Creech, Bloomability

Harpercollins, 1998 ISBN 0060269936

〜シャロン・クリーチ作『ブルーマビリティ』(仮題)〜
Review by 植村わらび

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【あらすじ】

 待ちに待ったシャロン・クリーチの新刊(1998年9月出版)は、スイスの明るく透明な空気が全体に広がる、魅力的な作品だ。

 主人公のディニーは生まれてからずっと、可能性を求めてアメリカ各地を転々とする父親に従い、家族とともに暮らしてきた。ところが13歳のとき、兄が警察に捕まり、姉が16歳で子どもを産むという状況のなか、ディニーは愛する家族から引き離されて、母方の叔母夫婦と共にスイスに行くことになる。自分を点のような小さな存在に感じ、自分のまわりに膜をはり、シャボン玉の中に閉じ込もってしまうディニー。そんな彼女をスイスで待っていたのは、叔父が校長に就任したアメリカンスクールと、世界各国から集まってきた個性的な友達だった。アメリカの家族への思いと、自分はなぜスイスに来なければならなかったのかという疑問を抱えながら、自分を見つめ直し大きく成長していくディニーの、スイスでの1年間が描かれている。

【感想】

 前作の『めぐりめぐる月』や『赤い鳥を追って』の主人公たちと同じく、不器用ながら一生懸命な少女の成長と「家族のつながり」が描かれており、クリーチらしい作品といえるだろう。だが、家族が直接描かれているのは最初の部分だけで、スイスに来てからはディニーを通してつづられるのみ。父母からの便りも少ない。主人公が家族の愛情を身近に受けてきた今までの作品とは異なる。だが、こうして新しい環境に飛び込んだからこそ、自分のことも家族のことも、今までとは違った角度から見ることができるのだろう。

 外国という新しい環境におかれた時、その機会をどう受け止め、そこでどう自分を表現していくかというテーマは、日本の子どもたちも興味をもって受け入れるのではないか。ちなみに題名の"Bloomability"というのは親友の一人である日本人のケイスケの造語で、「花開く可能性」といった意味のようだ。だれでもみんな"Bloomability"に満ちているんだよというメッセージが伝わってくる。

 ディニーのもとには、アメリカの伯母から折にふれて絵葉書が届くが、それは前作でも舞台となったバイバンクスから送られてくるもの。この作品も、バイバンクスとつながっており、クリーチファンにはたまらなく嬉しい。(植村わらび)

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Sharon Creech(シャロン・クリーチ):1945年アメリカ・オハイオ州生まれ。英国のアメリカン・スクールに英語教師として勤め始めてから本格的な執筆活動に入る。1995年に"Walk Two Moons"(1994)(『めぐりめぐる月』もきかずこ訳 講談社)でニューベリー賞を受賞。その他の作品には、"Chasing Redbird"(1997)(『赤い鳥を追って』もきかずこ訳 講談社)、"Absolutely Normal Chaos"(1990)、"Ghost of Uncle Arvie"(1996)(米題は"Pleasing the Ghost")などがある。ヨーロッパで18年間過ごした後、現在はアメリカに帰国。

1999年3月作成

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