夏のはじめ、3人の少女たちがコブル通りにやってきた。リリー、ロージー、テス。みな9歳の仲良し従姉妹同士。それぞれの両親が外国にいっている1年間、若くておしゃれな叔母、ルーシーと暮らすことになったのだ。 リリーは、詩を書くことが大好き。ちょっとおませで、しっかり者だ。テスはブロードウェイのスターをめざす積極派。部屋にいるときはレコードを聴いている。ロージーの夢は、花いっぱいのコテージに住むこと。一番慎重派だが、ここぞという時には迷わず決断し、リリーやテスを驚かす。 夏休み、少女たちは、ルーシーおばさんのキッチンを借りて、クッキーの宅配サービスをはじめることにした。広告を貼り出して数日後、つぎつぎと電話のベルが鳴る。クッキーを焼き、新品のドレスに着替えたら、配達のはじまり、はじまり。 物語の主人公というと、どこか特別なところがあるものだが、このお話には特別な人は出てこない。リリーもテスもロージーも個性豊かではあるが、普通の小学生の女の子だ。クッキーの宅配で知り合ったマイケルが、以前からルーシーおばさんに思いを寄せているのに、話をするきっかけも作れないと気付くやいなや、3人は恋のキューピッドになるべく画策する。「お母さんは、いけないっていうわよ」「いいの! そうしないとマイケルは来ないじゃない」などなど、会話もこの年頃の少女らしい。 どの町にもいそうな人たちと9歳の少女たちの出会いは一見平凡かもしれない。しかし、どんな平凡な出来事にも、一人ひとりがきらりと輝く一瞬がある。その一瞬を見逃さずに、心暖まる物語を作り上げるセンスは、ニューベリー賞作家ライラントならではだろう。さらに、このお話のさりげなさを演出しているのは、ハルパリンの表紙画と挿絵である。鉛筆と水彩の穏やかな絵だが、細部までしっかりと描き込まれている。屋根裏部屋を仕切って作った少女たちの部屋の描写は、何度見ても飽きない。植物が好きなのだろうか、表紙や目次ページの縁飾りなど、随所に草花が使われている。表紙画のみカラー、本文中はモノクロの挿画だ。 このお話は、「コブル通りのいとこたち」シリーズの1巻目。従姉妹たちが越してきた夏の出来事を紹介している。続く秋、冬、春のお話も刊行されている。 (河原まこ)
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【文】Cynthia Rylant(シンシア・ライラント):絵本、詩、短編、長編小説と幅広く活躍。"Missing May"(邦訳『メイおばちゃんの庭』/斉藤倫子訳/あかね書房)は1993年度ニューベリー賞を受賞。"Dog Heaven"( 『いぬはてんごくで…』中村妙子訳/偕成社)では絵も描く。オレゴン州在住。 |
【絵】Wendy Anderson Halperin(ウェンディ・A・ハルパリン):"Homeplace"(1995/Anne Shelby文)は学校図書館ジャーナル年間優秀図書に選ばれる。ニューベリー賞作家Kathryn Laskyの文に絵をつけた"Sophie and Rose"(1998)は、オランダ、デンマーク、ドイツでも出版された。ミシガン州在住。 |
1999年11月作成
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