天才作家を父親にもつミラクルは、霊媒師の祖母ジジに、特別な子と言われて育ってきた。交通事故で息をひきとった母親の胎内から奇跡的にとりだされて、この世に生を受けたからだ。そんなある日、母親の霊を呼び出す交霊会の最中に、父親が失踪する。ジジは、父親が「溶けた」と言い、ミラクルもその言葉を信じる。が、世間はジジとミラクルを怪しみ、気味悪がる。ミラクルはジジに連れられて、ジジの別れた夫である祖父オパールのもとへ引っ越す。オパールは、ジジが決して許してくれなかったダンスのレッスンをひそかにうけさせてくれる。ところがそのオパールも、突然の心臓発作を起こして倒れてしまう。父親が消え、いままた祖父が病気になったことで、ミラクルは自分を責める。死体から生まれた自分は、本当は生まれるべきではなかったのではないか。奇跡など本当は存在せず、奇跡的に生まれた自分は、実は存在しないのではという思いにかられる。そしてミラクルは懸命に自分の存在を証明しようとする……。 主人公の心の内がほとばしりでるこの作品は、予測のつかないストーリー展開で、読者をぐいぐいと引っぱっていく。ミラクルが体を打ちつけ、あざを作り、とり憑かれたように踊る姿は、自分の存在を確かめるようであり、存在と非存在、正気と非正気との境界にたっているかのようだ。現在のアメリカで、虐待を受けたり親の都合で見捨てられたりした子供達が、心にトラウマを抱えて、自分を傷つける行為に走ることが多いが、この作品もそういった姿を映しだしている。ミラクルが自分を見失ってからアイデンティティを取り戻すまでの過程は、読む者にはとても辛いが、自らの存在を考えさせられると同時に、真実から逃げ出す大人、エゴに満ちた勝手な大人の姿を見せつけられ、はっとさせられる。 スピリット、オーラ、ガーデイアンエンジェルなどニューエイジ的要素を含んで展開される、異色のYA文学といえる。(鎌田千代子) |
Han Nolan(ハン・ノラン):米国アラバマ州バーミングハムで生まれ、ニューヨーク州で育つ。ノースカロライナ大学グリーンズボロ校でダンス教育の学士号、オハイオ州立大学で修士号をとる。現在は、夫と娘二人と共にアラバマ州に在住。本作品は1997年度全米図書賞(YA部門)を受賞。また前作の"Send Me Down a Miracle"も、1996年度同賞の最終選考に選ばれている。 |
1999年6月作成
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