1950年代のアメリカ、ルイジアナ州――12歳のタイガー・アン・パーカーは、両親と祖母と4人で暮らしていた。両親には知的障害があったが、タイガーは聡明で運動神経もよく、活発な明るい女の子に成長した。両親は子どものように純粋な心でひとり娘のタイガーを愛し、しっかり者の祖母も孫の良き相談相手となっていた。
タイガーの悩みは、村の女の子たちから仲間外れにされることだった。地主の息子、ジェシーという親友もいたし、男の子たちから野球に誘われることも多かったが、年頃のタイガーにはどうしても女の子の友だちが必要だった。ある日、タイガーは母親の幼稚な振る舞いを女の子たちに笑われ、大きなショックを受ける。彼女は生まれて初めて母親に向かって怒鳴り、両親を恥ずかしく思った。
そんなタイガーに追いうちをかけるように、唯一の心の支えだった祖母が急死した。タイガーは悲しみにうちひしがれるが、その気持ちを理解してくれる人は誰もいない。そこへ大都会バトンルージュに住む叔母がやって来て、タイガーに一緒に住まないかと提案した。タイガーは、都会で新しい生活ができると大喜びするのだが……。
詩的な美しい文章でしみじみと感動できるこの作品は、98年ボストングローブ=ホーンブック賞のオナーに選ばれた。主人公タイガーの葛藤をメインに描かれているが、叔母や祖母の複雑な心境にも触れられており、知的障害者の家族を持つというのはどういうことなのか、家族・家・ふるさととは何なのかについても考えさせられる。物語の後半では、タイガーの母親に関する意外な事実も明らかになるなど、最後まで読者をひきつける作品であることは間違いない。
ただし、母親が美化されている点、結末があっさりしすぎている点が多少気になった。実際にはもっと複雑で難しい問題なのではないかと思わせるところもいくつかあり、知的障害を題材として扱うことの難しさを感じた。
作品のテーマは、おそらく祖母のセリフ"People are afraid of what's different"(人は違うことをおそれるものだ)に凝縮されていると思われる。他の人たちとは違う環境に置かれた主人公が、いかに自分の居場所を見出していくかが、この作品の読みどころといえる。(宮坂宏美)
Kimberly Willis Holt:テキサス州アマリロ在住。海軍士官の父を持ち、幼年期を世界各地で過ごす。本作品の舞台となっているルイジアナ州は、ホルト家が7代住んでいた土地で、著者自身にとってもふるさとと呼べる場所だとのこと。以前から雑誌に短編などを書いていたが、単行本を出版したのはこれが初めて。同じく98年に出版した"Mister and Me"も、ジュニア図書ガイドセレクションに選ばれている。
1999年5月作成
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