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月刊児童文学翻訳

─98年9月号(No.3 別冊)─

児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、
電子メール版情報誌<HP版>
http://www.yamaneko.org/mgzn/
編集部:mgzn@yamaneko.org
1998年9月25日発行 配信数180


あかね書房大特集号(保存版)
〜編集者を囲む会に向けて〜
「どんぐりとやまねこ」

     M E N U

◎あかね書房の概要
あかね書房の歴史と主な作品について

◎やまねこのおすすめ本(あかね書房翻訳書編)
31冊のレビューを一気に公開!

◎編集者のつぶやき
あかね書房三浦彩子さんの編集部宛FAXより

◎あかね書房翻訳書リスト
ほかにもあります――おすすめの本



あかね書房の概要

 

 あかね書房は、1949年(昭和24年)の創立以来、児童書を中心に出版活動を展開している。過去には全集ものを多く刊行し、文豪の名作を少年少女向けに編纂した『少年少女日本文学選集(全30巻)』(昭和30年)や、海外児童文学ファンの記憶に今もなお新しい『国際児童文学賞全集(全24巻)』(昭和39年)などが大きな反響を呼んだ。

 現在は、創作ものの「ぴょんたんシリーズ」(このみひかる)、「わかったさんのおかしシリーズ」(寺村輝夫)、「ゆうたくんちのいばりいぬシリーズ」(きたやまようこ)などが、子どもたちから幅広い人気を得ている。翻訳物でも、『わんぱくピート』(リーラ・バーグ作、甲田敦子訳)が産経児童出版文化賞を受賞した他、『みどりの船』(クェンティン・ブレイク作・千葉茂樹訳)や、『マクブルームさんのへんてこ動物園』(S.フライシュマン作・金原瑞人、長滝谷富貴子訳)など、良質の児童書を刊行し続けている。

(内藤文子)

 

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やまねこのおすすめ本(あかね書房翻訳書編)

―― 31冊のレビューを一気に公開! ――

 

◎絵本

[1] 『かあさんのいす』
ベラ・B・ウィリアムズ文/絵 佐野洋子訳 1984 32P 本体\1359

 食堂で働くかあさんと、おばあちゃんと3人で暮らす私の夢は、大きないすを買うこと。去年、家が火事になってしまったおかげで、ソファーも大きないすもないからです。かあさんやおばあちゃんが疲れていても、ゆっくり休める場所がないのです。私も食堂でお手伝いをしながら、すこしずつ大きなびんにお金をためはじめました。
 大きな椅子に込められた主人公の気持ちが切々と語られていく物語。明るい色調とやわらかいタッチの絵が独自の世界を創っています。苦労の連続であるはずの一家の様子が重々しくなることがないのはそのためです。各ページの縁取りの図柄にも注目。ひとつとして同じものがなく、各場面を美しく飾っています。こんなところにも作者の絵に対する思い入れを感じます。1983年コールデコッド賞オナーブック(次席)。

(瀬尾 友子)

[2] 『どうだ いかすだろ!』
アンソニー・ブラウン作/絵 山下明生訳 1985 30P 本体\1359

 ジェレミーはなんでもかんでもサムにじまんする。ぴかぴかの自転車や、しんぴんのサッカーボール、ふくろいっぱいのキャンディーなんかを持ってきては、「どうだいかすだろ!」と見せびらかすのだ。でもそのたびに、なぜかジェレミーの身に災難がふりかかる……。
 壁からにょっきり生えた耳、魚をひきずって歩くおじさん、森に隠された動物たち……。ストーリーと関係のないところにも、遊びや隠し絵がいっぱい。おかしくて不思議な、アンソニー・ブラウンの世界を堪能できる1冊。

(内藤文子)

[3] 『すきですゴリラ』
アントニー・ブラウン作/絵 山下明生訳 1985 32P 本体\1359

 ハナは、ゴリラが大好き。でもまだいちども、本物のゴリラを見たことがない。おとうさんに動物園につれていってとたのんでも、おとうさんはいそがしくてひまがない。お誕生日の前の晩、ベッドの下においてあったプレゼントは、ちっぽけなおもちゃのゴリラ。ところが夜中にそのゴリラがぐんぐん大きくなって……。
 ちょっとシュールなブラウンの画風とストーリーとが絶妙にとけあい、影のひとつひとつにまで表情を感じさせる。1984年度ケイト・グリーナウエイ賞受賞の傑作。それにしても作者の名前の表記が2冊で違っているのは、少し気になる。

(内藤文子)

[4] 『ジュリアスはどこ?』
ジョン・バーニンガム作/絵 たにかわしゅんたろう訳 1987 32P 本体\1359

 ジュリアスのお父さんとお母さんは、朝、昼、夜と交互に食事を作ります。しかし、息子のジュリアスと3人そろって、食卓につくことはあまりありません。ジュリアスはいつも忙しいのです。椅子やほうきで家をつくったり、世界の反対側に行くために穴をほったり……。お父さんとお母さんは、ジュリアスがどこで何をしていても、おいしいごはんを作って、持っていってあげるのです。
 ジュリアスの突拍子もない行動が、なんとも愉快。自由奔放に自分の世界で楽しんでいるジュリアスを見守る両親のあたたかさが伝わってくる作品です。

(よしいちよこ)

[5] 『いつもちこくのおとこのこ ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー』
ジョン・バーニンガム作 たにかわしゅんたろう訳 1988 32P 本体\1456

 「ジョン・パトリック・ノーマン・マクヘネシー、おべんきょうしに てくてくでかける。そのとちゅう いっぴきの わにが マンホールから あらわれて……」ジョンは毎日とんでもない災難にでくわして、学校に遅刻してしまう。おまけに先生はジョンの話を信じてくれず、もう嘘をつかないようにと、おしおきばかりする。そしてようやく遅刻せずにすんだある日のこと……。ラストが痛快なお話。絵は、ひょうひょうとしていながらどこか凄みがあり、イメージをふくらませてくれる。主人公の長々しい名前も、子どもにとっては楽しみのひとつだ。

(内藤文子)

[6] 『あたらしいおふとん』
アン・ジョナス作/絵 角野栄子訳 1992 34P 本体 \1262

 パパとママが、新しいおふとんを作ってくれました。赤ちゃんのときのカーテンやシーツ、パジャマ、小さくなった服などの古いきれを使って、大きくなった私のために、大きいおふとんを作ってくれたのです。ひとつ、ひとつの柄を見ているうちに眠たくなって、夢の世界に入っていきました。
 邦題は『おふとん』ということばを使っていますが、原題はThe Quilt(キルト)です。キルトの1枚1枚の絵柄が美しく、日本の子どもにとっては新鮮な印象を与えることでしょう。眠りにつく前に想像をめぐらせているうち、そのまま夢へとつながっていく、子どものかわいい幸せな一瞬をうまく描いています。

(よしいちよこ)

[7] 『かみなりケーキ』
パトリシア・ポラッコ作 小島希里訳 1993 32P 本体 \1262

 ミシガン州のある農場。遠くの方に灰色の雲がたれこめ、雷がとどろき、嵐が近づいてきた。おびえている孫娘の気持ちをやわらげようと、おばあちゃんはケーキを焼くことを提案する。ピカっと光ってからゴロゴロと鳴るまでの時間を数えて嵐の居場所を確かめながら、二人はケーキの材料を集めはじめた……。
 おばあちゃんの孫への愛情が伝わってくる作品。ロシア出身のおばあちゃんの洋服や家の中の調度品が異国風で、独特の雰囲気を持つ絵本に仕上がっている。飼っているめんどりの卵を集めたり、め牛の乳を搾ったりすることから始まるケーキ作りの様子も興味深い。

(植村わらび)

[8] 『ネズミなんていないでしょ?』
バーナード・ウェーバー作 ながたきやふきこ訳 1996 32P 本体\1262

 ホテル・エッヘンの客室にネズミが出現! 悪い噂がながれては大変と、ドア係も、フロント係も、ホテルの従業員たちはみんな口々に否定します。「ネズミなんていませんよ。どこにいるっていうんです?」ホテルの社長は、念のためにネズミ捕りサービスを呼びました。ホテル中くまなく探しましたが、やっぱりネズミは見つかりません。本当にネズミはいなかったのでしょうか。
 小さいネズミ1匹にふりまわされる大人たちがコミカルに描かれています。どの絵もよくよく見ると、どこかにネズミの姿が……。子どもがたっぷり楽しめる絵本です。

(よしいちよこ)

[9] 『ピエロくん』
クェンティン・ブレイク作 1996 32P 本体\1553

 ある日、ぬいぐるみのピエロくんは、他の人形たちといっしょにごみ箱に捨てられてしまった。ピエロくんは、自分や仲間を引き取ってくれる人を探すため、通りへと走り出す。いろいろな人に出会うが、なかなかうまくいかない。犬に追いかけられたり、ボールのように投げ飛ばされたり。果たして、引取り手は見つかるのだろうか……。文章のない絵本だが、登場人物の表情が細かく描かれているので、物語をどんどん膨らませることができる。ピエロくんに関心を示す子どもと、汚れた人形にしかみえない大人が対照的。しかし、ピエロくんは疲れた大人のこころを癒すことも忘れてはいない。321×228mmの大型絵本。

(河原雅子)

[10] 『アーミテージさんのすてきなじてんしゃ』
クェンティン・ブレイク作 ひがしはるみ訳 1997 32P 本体\1300

 アーミテージさんは、愛犬をつれて自転車で散歩に出かけます。つぎつぎに起こるハプニングに、「うーん、こんなときは……」といろいろなアイデアを思いつき、自転車を改良していきます。雨がふっても、愛犬が走り疲れても、これで大丈夫のはず……。ところが、アーミテージさんの改良癖はまだまだとまりません。
 ページをめくるたびに、アーミテージさんの自転車がどんどん変わっていきます。そのエスカレートしていくようすがとてもおもしろく、大げさな自転車の絵に思わず笑ってしまいます。単純なストーリーに、ほのぼのとした絵がよくあう、小ぶりのかわいい絵本です。

(よしいちよこ)

[11] 『ほんとに ほんとに ほしいもの』
ベラ・ B・ウィリアムズ作/絵 佐野洋子訳 1998 32P 本体\1300

 『かあさんのいす』の続編。びんに貯まったお金で、今度はローザの誕生日にローザが「ほんとにほんとにほしいもの」を買うことになりました。さてローザが本当に欲しいものは何? ローザはなかなか決められません。
 ローザの一人称で語られます。ローザとお母さんとおばあちゃんの3人家族に加え、おじさんおばさん、お母さんの勤め先のジョセフィンさんなどの、あたたかい愛情が伝わってくる1冊です。原作がでてから15年後の出版です。

(植村わらび)

[12] 『みどりの船』
クェンティン・ブレイク作 千葉茂樹訳 1998 32P 本体\1600

 夏休みを、2週間もいなかのおばさんの家で過ごすうちに、ぼくとアリスはすっかり退屈してしまい、壁を乗り越えて、お屋敷の庭にもぐりこむことにした。森みたいな庭を奥へ進むと、おどろいたことに、植木を刈り込んで造った船があった。船の持ち主トリディーガさんとともにぼくたちは世界中を航海する……。
 夢中になって遊んだ子どもの頃の記憶を呼びさましてくれる話。メインの色彩は緑色だが、まるでたくさんの色を使ったかのように鮮やかな絵である。大人にも勧めたい絵本。

(高松貴代)

 

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◎読み物

[13] 『運河と風車とスケートと』
M・デヨング作 白木茂訳 1965 241P(絶版)

 同級生は皆スケートができるのに、前に運河が凍結した時病気をしていたムーンタはまだ滑れない。今年こそ何とかスケートを覚えたいと思っていると、寒波がやってきて何年かぶりに運河が凍った。ムーンタははやる心で両親の止めるのも聞かず練習に飛び出した。焦るあまりいろいろとトラブルを起こしたが、木の椅子を支えに練習を重ねて滑れるようになってきた。すると「新しい教会のパイプ」まで一緒に滑ろうと父親が約束してくれた……。滑れるようになりたい一心で行動し、ひたすらスケートに熱中する少年。読みながら一緒にオランダの運河を疾走した気分になってしまうほど、少年の一途な思いが伝わってくる。

(田辺規子)

[14] 『魔神と木の兵隊』
P・クラーク作 神宮輝夫訳 1968 298P(絶版)

 古い農家に引っ越してきたマックスは、屋根裏部屋で12人の木の兵隊を見つけた。兵隊が動き回るのを見て話しかけたマックスは、彼等の守護をする魔神(ジェニ)の役をすることになる。その頃新聞にブロンテきょうだいゆかりの木の兵隊を見つけたら賞金を出すという記事が載り、マックスの木の兵隊の話が次第に近所に広まり大騒ぎになってきた。そんなある日兵隊たちは突然姿を消してしまった……。ブロンテきょうだいが子供の頃木の兵隊で遊び、それを「若者たちの伝記」という本に書いたという事実を元にしている。実在人物が関係することで物語の現実性が増し、味わい深い話になっている。

(田辺規子)

[15] 『いたずらスニップ いねむりダンカン』
N・ベンチリー作 掛川恭子訳 渡辺三郎絵 1984 101P 本体\880

 ダンカンは年取ったビーグル犬。もう家で眠ってばかりで、外に出て走り回りたいという気もなくなっていた。ところがある日、プードルの小犬スニップが家にやってきて、あふれるほどの好奇心で、平穏な生活をかきまわす。最初はうるさいと思ったダンカンも、自分の好奇心を再び呼びさまされる。ついに2匹は冒険にでかけ、町に来たサーカスの行列についていくが、ダンカンは途中の道ばたで力が尽き、動けなくなってしまう。老いた体には無理だったのだ。スニップはなんとかダンカンを助けようとするが……。コミカルなシーンの背後に、「老いと死」という重いテーマがあり、考えさせられる。淡々と描かれながらも哀感が漂う、ラストシーンが印象的。

(菊池由美)

[16] 『ヘンショーさんへの手紙』
B・クリアリー作 谷口由美子訳 むかいながまさ画 1984 151P 本体\1165

 リー・ボッツは、作家ボイド・ヘンショーの本が好きで、2年生の頃から何度か手紙を書いてきた。6年生になったある日、リーは学校のレポートに必要な質問を送り、ヘンショー氏から返事をもらう。しかし、その返事の中には、リーへの質問も入っていた。リーはいやいやながら返事を書くうちに、書くことのおもしろさを発見する。やがて日記をつけるようになったリーは、離婚した両親のこと、転校したばかりで友だちがいないこと、将来作家になりたいという夢のことなどを素直に綴っていく。日記と手紙だけのユニークな構成だが、弁当盗難件など、小説としてストーリーを読ませる工夫がなされている。2年生から6年生までのリーの成長を描いた秀作。1984年ニューベリー賞受賞。

(よしいちよこ)

[17] 『リー・ボッツの日記 走れストライダー』
B・クリアリー作 谷口由美子訳 むかいながまさ絵 1993 173P 本体\1165

 『ヘンショーさんへの手紙』の続編。2年後、高校生になったリーは昔の日記を読みかえし、また日記をつけることにした。ある日、友だちのバリーと浜辺を歩いているとき、飼い主に置き去りにされた犬に出会う。「ストライダー」と名づけ、共同で飼うことにしたが……。日記だけの小説。離婚した両親のことや転校したばかりの学校生活のことで悩んでいた2年前の自分を冷静に振り返ったり、陸上競技を通して将来の自分の進む道を考えたりする姿が自然に描かれている。内面を深く見つめる日記から、リーがさらに成長しているのが読みとれる。本書だけでも楽しめるが、2作続けて読むと、より楽しめるような工夫がなされている。

(よしいちよこ)

[18] 『わたしの犬を殺さないで』
セオドア・テイラー作 上村修訳 むかいながまさ絵 1987 185P \980

 ヘレンの愛犬タックの様子がおかしい。どうやら目が見えなくなりかけているようだ。獣医さんの話では手のほどこしようがなく、最善の方法は安楽死させることだという。しかし子犬のときからかわいがって育て、ヘレンが見知らぬ男に襲われそうになったり、プールで溺れかけたりしたときに、助けてくれたこともあるタックを、見捨てることはとてもできない。ヘレンは、犬のタックに盲導犬をつけるというアイディアを思いつき、その実現のために奮闘する……。
 実話を元に書かれた物語。愛犬のために東奔西走するうちに、何事にも自信のなかったヘレン自身が成長していく過程も、よく描かれている。

(内藤文子)

[19] 『にじ色のガラスびん』
M・ピクマル作 南本史訳 むかいながまさ絵 1992 150P 本体\1068

 ブリスは母さんと二人暮らし。父さんは随分前に家を出ていったきりだ。このところブリスは、近くに住む「へんくつ」と呼ばれるじいさんが気になってしょうがない。じいさんは自分の敷地のまん中に、あきびんでまるい塔みたいなものをせっせと建てているのだ。ブリスは仲間たちと、その怪しげな塔を攻撃することにした。そして襲撃の日、ブリスたちが塔に近づいてみると……。
 「へんくつ」じいさんとブリスたちの心の交流を描いた、じんと胸にしみる1冊。

(蒲池由佳)

[20] 『ぼくのキング・エメット』
M・ストールズ作 谷口由美子訳 津尾美智子絵 1992 111P 本体\971

 エメットはぶたが大好き。部屋の中も、ぶたに関するものばかり。中でも一番のお気に入りは、自分がかっこいいぶたと並んで写っているポスターだ。このぶたの名前はキング・エメットといって、去年の誕生日のプレゼントにもらった本物のぶただった。農場に預けてあるので、エメットはぶたに会いに毎月農場に行くのを楽しみにしている。でも、このところ両親は、エメットを農場に連れていってくれなくなった。理由を聞いても、話題を変えられてしまう……。エメットの心の成長を描いた物語。悲しみを乗り越えていくエメットの姿が胸をうつ。

(蒲池由佳)

[21] 『18番目の大ピンチ』
B・バイアーズ作 金原瑞人訳 古川タク絵 1993 174P 本体\1223

 ベンジーはこともあろうにいじめっこハマーマンの怒りを買い追いかけられる羽目になる。もとはといえばネアンデルタール人の絵にハマーマンと書きこんだベンジーが悪いのだが、殴られるのはやっぱりいやだ。常日頃、親友のエジーとピンチの時にはどうやって対処するか考えてはいる。たとえば、ワニに襲われたとき、それから野牛のとき、大タコなら……。でもハマーマンにはいったどうしたらいいのだ? ベンジーの大ピンチだ。
 解説で訳者も述べているように、ドラえもんのいないのび太はジャイアンに勇気を持って立ち向かえるのかがテーマの物語。もうひとつのテーマ「名誉とは?」の解答も含めて、いかにもアメリカ的な少年の成長物語になっている。

(沢崎杏子)

[22] 『メイおばちゃんの庭』
シンシア・ライラント作  斎藤倫子訳  中村悦子絵 1993 163P 本体\1200

 あたしは6歳の時から、オブおじちゃんとメイおばちゃんと一緒に、古いトレーラーハウスで暮らしてきた。年老いた二人は、あたしのことを神様からの授かり者だといって、とてもかわいがってくれていた。それなのにある日突然、おばちゃんが天国へ逝ってしまう。それからというもの、おじちゃんはすっかりふさぎ込んでしまった……。12歳のサマーとオブおじちゃんが、大好きだったメイおばちゃんと「お別れ」するまでの過程を描いた作品。情景描写や心理描写がとても美しい物語。

(こべに)

[23] 『ゆうかんなハリネズミ マックス』
ディック・キング=スミス作 金原瑞人訳 津尾美智子絵 1994 111P 本体\1068

 ハリネズミのマックスは、広い道路沿いにある家の庭に住んでいる。道路の向こうの公園は、近所のハリネズミたちに大人気の場所。なにしろ、そこにはごちそうがたくさんあるのだ。でも公園に行くには、車の行き交う道路を渡らなくてはならない。ハリネズミの何匹かはここを渡ろうとして命を落としてしまった。人間はケガもせずに渡っているのだから、何か方法があるにちがいない。それを調べに出かけたマックスは、自転車に跳ね飛ばされてしまい……。
 作者が得意とする動物物語。人間社会の中でたくましく生きるハリネズミたちをユーモラスに描く。

(蒲池由佳)

[24] 『ジンゴ・ジャンゴの冒険旅行』
S・フライシュマン作 渡邊了介訳 佐竹美保絵 1995 239P 本体\1262

 1854年アメリカ・ボストン。孤児院で育ったジンゴは、強欲な院長から煙突掃除屋に徒弟奉公に出され、金貨の埋まった場所の地図が彫ってあるクジラの歯を偶然見つける。そこへちょうど謎の紳士がジンゴを迎えに来て、二人はメキシコめざして宝探しの旅へと出発した。さて、何が二人を待ちうけているのか? 謎の紳士の正体は?
 ジプシーの仲間になったり、船で海にこぎだしたり、わくわくドキドキの冒険旅行。登場人物もみな個性的で、子どもたちが楽しめること間違いなし。ジンゴの一人称による語り口も、いかにも男の子らしく生き生きしていて、読者をひきつける。挿し絵の雰囲気も物語にぴったり。

(植村わらび)

[25] 『スクーターでジャンプ!』
ベラ・B・ウィリアムズ作/絵  斎藤倫子訳 1996 224P 本体\1325

 メロンヒル・ハウスに母親と二人で越してきたイレーナの宝物はスクーター。口のきけないビーティをはじめ、新しい土地でだんだんと素敵な仲間もできてきた。地区の運動会には、遊びにきていた大の仲良し、イレーナのいとこのナネットも一緒に皆で出場、イレーナはスクーター競技に、ビーティは得意のでんぐりがえしに参加することに……。
 イレーナの一人称の語り口に、落書きのような挿絵が生きている。毎回、章のはじめに書かれるイレーナの作った言葉遊びもおもしろい。1994年度ボストン・グローブ・ホーンブック賞受賞作。

(沢崎杏子)

[26] 『マクブルームさんのへんてこ動物園』
S・フライシュマン作 金原瑞人・長滝谷富貴子共訳 Q・ブレイク絵 1996 126P 本体\1121

 農家のおっちゃん、11人の子持ちのマクブルーム氏は自称「正直者」。ご自慢の1エーカーの畑では、種をまいたその日に2回も収穫できるという。その農場に大寒波のあとに現れる、死んだニワトリやいないはずのオオカミなどの、不思議な声を出す幽霊の正体は? また、牛も粉ミルクをだすほどの日照りの中でおっちゃんが雨を降らす方法とは? そしておっちゃんのへんてこ動物園で見られる珍しい動物の数々とは? 奇想天外なユーモアを、ロアルド・ダール等の作品の挿絵でもおなじみのクェンティン・ブレイクの絵と巧みな関西弁に包んで送る、大人にも子供にも楽しい3編を収録。

(沢崎杏子)

[27] 『トラねこマーチンねずみをかう』
ディック・キング=スミス作 金原瑞人訳 津尾美智子絵 1996 175P 本体\1165

 トラねこのマーチンは、ネズミが大好き。でもそれは、おいしいからではなくて、かわいいから。他のネコから「弱ネコ」と呼ばれてばかにされても、ネズミを食べる気にはならない。ある日マーチンは、間違えてつかまえたネズミをこっそり飼い始めた。他のネコに見つかって食べられないように気を遣ったり、エサをさがしてやったりと、大変な毎日。その上次々にとんでもないことが起こって……。
 「ふつうじゃない」せいで巻き込まれるピンチを乗り越えて、自分らしさをさがすマーチンの姿は、ユーモラスでありながら、読者に勇気を与えてくれる。

(森久里子)

[28] 『わんぱくピート』
リーラ・バーグ作 幸田敦子訳 浜田洋子絵 1997 167P 本体\1200

 ピートは4歳。すぐにむくれるし、大きな声でわめくし、自分の失敗を人のせいにしてしまう。でもどこか憎めなくて、道で出会うおじさんもおばさんも、みんな最後にはピートと仲良しになるのだった。古き良きイギリスを舞台に、元気いっぱいのピートの毎日がつまっている。
 40年以上も前の作品であるが、小さな子どもの行動や心の動きが実に生き生きと描かれていて古さを感じさせない。あたたかい雰囲気の挿絵も、作品に合っている。第45回産経児童出版文化賞JR賞受賞。

(植村わらび)

[29] 『ジミーとジャネット、ふたりはふたご』
B・クリアリー作 いといしげさと訳 やまわきゆりこ絵 1997 86P 本体\1029

 男女の双子のなにげない日常に起きるふたつの物語を収録。ひとつは、大人用のスコップをつかって大きな穴を掘るという行動そのものに興味があるジミーと、その穴を鳥の巣や魚の池に見たてて空想の世界に遊びたいジャネットのお話。もうひとつは、ガラクタでできた宝物を大切にするジャネットと、それが気になってしょうがないジミーのお話。どちらも、双子に限らず年齢の近いきょうだいに起こりがちなできごとを描いたほほえましい作品。双子の両親の態度にも学ぶところは大きい。いといしげさとの訳、やまわきゆりこの絵のおかげで、さらっとした自然な仕上がりになっている。

(沢崎杏子)

[30] 『ピラミッドの秘密』(少年少女世界の大探検2)
ハワード・カーター作 白木茂編 1975 182P 本体 \1165

 1992年、エジプトの少年王ツタンカーメンの墓が発見された。カーナボン卿と考古学者カーターが王家の谷で発掘をはじめてから6年目のことであった。
 本書は、ツタンカーメン王の墓の発掘の経緯を軸に、ロゼッタ・ストーンの発見、エジプト文字の解読、ピラミッドの建設、古代エジプトの生活をわかりやすく記すなど、さまざまな面から古代エジプト文明に光をあてている。また古代王墓の発掘作業や、墓泥棒と考古学者の駆け引きの描写も興味深い。子どもたちが古代エジプト文明や考古学に興味をもつきっかけとなりうる好著である。

(渡辺香織)

[31] 『さばくに消えた古代王国』(少年少女世界の大探検4)
スウェン・ヘディン作 白柳美彦訳 1975 206P 本体\1165

 中央アジア、タクラ・マカン砂漠。シルク・ロードが位置していたこの砂漠にはかつてオアシスの町が栄えていた。1895年、ヘディンは砂に埋もれた大都市を求めて数人の従者とラクダと共にこの砂漠に入っていった。
 本書には、スウェーデンの探検家であり地理学者でもあるスウェン・ヘディンの旅行記『アジア横断』からタクラ・マカン砂漠横断の部分がおさめられている。砂漠の暑さ、水の窮乏、従者の裏切りにもかかわらずタクラ・マカン砂漠を踏破し、さまよえる湖ロプ・ノールを発見するヘディンの姿は、子どもたちの心に残ることであろう。

(渡辺香織)

 

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編集者のつぶやき

―― あかね書房 三浦彩子さん ――

 

 あかね書房では、なんとあの『ライオンと魔女』(C.S.ルイス作 瀬田貞二訳 岩波書店)を、昭和41年に『魔女とライオンと子どもたち』(前田三恵子訳)というタイトルで出していました。『まぼろしの白馬』『闘牛の影』など全24巻の「国際児童文学賞全集」は今でも復刊の要望がきます。今の翻訳シリーズの前の「あかね世界の児童文学」(全34巻)の中にも『のどか森の動物会議』とか『アリスティードの夏休み』とか、すごーくいい本があるけれど、ほとんどみな絶版です。(その後、童話館から出版されているものもあります。)もったいない……。

<98年9月7日 月刊児童文学翻訳宛てのFAXにて>

 

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あかね書房翻訳書リスト

―― ほかにもあります ☆ おすすめの本 ――

 

<絵本>
『ジョン・バーニンガムの a b c』 ジョン・バーニンガム作  
『3びきのちびくま』 N.スミィ作 末吉暁子訳
『アン・ゲデスの1 2 3 (ワン トゥー スリー)』 アン・ゲデス写真/作  
『魔女のたまご』 M.エドモンドソン作
K.S.シューロー絵
掛川恭子訳
『ハービーのかくれが』 R.ホーバン作
L.ホーバン絵
谷口由美子訳
『パナマってすてきだな』 ヤーノシュ作 矢川澄子訳
『メアリー・アリス いまなんじ?』 J.アレン作
J.マーシャル絵
小沢正訳
『ついてないね ロナルドくん』 P.R.ギフ作
S.ナティ絵
舟崎克彦訳
『カーリーおばさんのふしぎなにわ』 R.クラフト作
I.ハース絵
岸田衿子訳
『べンのトランペット』 R.イザドラ作・絵 谷川俊太郎訳
『しらないひと』 K.リンギィ作・絵 山下明生訳
『おじいちゃんだいすき』 W.ハラント作
C.O.ディモウ絵
若林ひとみ訳
『ママがもんだい』 B.コール作 みなみもとちか訳
『おばあちゃんとわたし』 C.ゾロトウ作
J.スチブンソン絵
掛川恭子訳
『ねむたくなった』 J.R.ハワード作
L.チェリー絵
角野栄子訳
『赤ちゃん--赤ちゃんはどうしてうまれるの?』 マリアンヌとリーズ作/絵 石川慶子訳
『つよくてしましま わたしはだあれ?』 モイラ・バターフィールド作
ウェイン・フォード絵
今泉忠明監修
清水奈緒子訳

 

<読物>
『やい、手をあげろ!』 R.クロムハウト作 末吉暁子訳
『木の上のお城』 G.クロス作 岡本浜江訳
『子犬のラッキー、かんがえる』 B.ダフィー作 長滝谷富貴子訳
『ポピー』 アヴィ作 金原瑞人訳
『マゼランの世界一周』 ツバイク作 白木茂訳
『なぞのアンコール・ワット』 ケーシー作 矢代堅二訳
『ポリーの秘密の世界』 クレスウェル作 岡本浜江訳
『エルクの日記』 A.ローズ作 清水真砂子訳
『子ねずみラルフ家出する』 クリアリー作 谷口由美子訳
『ステーシーの頭のポケット』 S.モーゲンスターン作 南本史訳
『サーカスは夜の森で』 V.アルコック作 久米穣訳
『かさどろぼうを追いかけて』 エステス作 谷口由美子訳
『屋根の上の海賊』 J.ベスツム作 若林ひとみ訳
『きのうのぼくにさようなら』 P.フォックス作 掛川恭子訳
『ブラックスター 極北をかけるリーダー犬』 S.オデール作 上村修訳
『ゆうれいは魔術師』 S.フライシュマン作 渡邊了介訳
『マクブルームさんのすてきな畑』 S.フライシュマン作 金原瑞人訳
『ホレイショー 人生っておかしなもんだね』 B.G.ポリコフ作 岡本浜江訳
『おじいちゃんが冬へ旅立つとき』 C.K.ストリート作 小野章訳
『ホームズの名推理 短編傑作集』 ドイル作 白木茂訳
『ありがとうチモシー』 テイラー作 白木茂訳
『のどか森の動物会議』 ロルンゼン作 山口四郎訳
『アリスティードの夏休み』 ティバー作 八木田宜子訳

(リスト作成 森久里子/植村わらび)

 

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翻訳児童書編集者を囲む会のお知らせ

―― テーマ「翻訳児童書出版の現状と未来」 ――

 

翻訳児童書編集者を囲む会「翻訳児童書出版の現状と未来」
ゲスト: あかね書房編集部 三浦彩子さん
日 時: 98年9月28日(月)午後1時30分から(2時間程度)
会 場: 東京 高田馬場の「早稲田奉仕園セミナーハウス」5205室
東京都新宿区早稲田2-3-1 03-3205-5411
地図
参加費: 1,000円(実費のみ・当日徴収)
人 数: 25名限定(先着順)
主 催: やまねこ翻訳クラブ
問合せ: 月刊児童文学翻訳編集部

 

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●編集後記●

 60・70年代に出版されたあかね書房のシリーズものを手に取り、脈々と受け継がれてきた歴史を感じました。是非未来へと引き継いでいきたいものです。(ワラビ)

 ひとつの出版社を追うという本の読み方もあるのだなと思いました。出版社の特色がなんとなく見えた気がしておもしろかったです。(キャトル)


発行人: 小野仙内(東京翻訳研修会代表)
編集人: 宮坂宏美
企 画: あこ、河まこ、キャトル、くるり、BUN、ベス、YUU、ワラビ
協 力: やまねこ翻訳クラブ


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