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特別企画――プロに訊く 第1回 |
―― こだまともこさん(翻訳家) ――
このコーナーでは、文芸翻訳の分野で活躍されているプロの方のお話を、毎回インタビュー形式でお届けします。今回は、翻訳家のこだまともこさんに、デビューのきっかけや、翻訳書の作家の方とお会いになったときのエピソードなどを語っていただきました。インタビューに快く応じてくださったこだまともこさんに、この場をかりて厚く御礼申し上げます。
【こだまともこ】 出版社勤務を経て、児童文学の創作および翻訳を始める。作品に『三じのおちゃにきてください』(なかのひろたか絵/福音館)、訳書に『大草原の小さな家』(ローラ・インガルス・ワイルダー作/渡辺南都子共訳/講談社)、『草原のサラ』(パトリシア・マクラクラン作/徳間書店)、『屋根裏部屋のエンジェルさん』(ダイアナ・ヘンドリー作/徳間書店)などがある。昨年秋には、人形一家が繰り広げる新しいタイプのファンタジーとして大いに話題を呼んだ『メニム一家の物語』シリーズ(シルヴィア・ウォー作/講談社)が5巻の完結を迎えた。東京都在住。 |
★翻訳家デビューのきっかけはなんですか?
もともと「こだま児童文学会」(※1)という同人誌で創作をしていましたが、創作ができるなら翻訳もできるだろうと、絵本の翻訳の仕事がまとめてとびこんできたのが最初です。
★最初に訳された作品について教えてください。
初めに訳したのは『バーバ・ヤガー』(アーネスト・スモール文/ブレア・レント絵/冨山房、童話館)、『きみなんかだいきらいさ』(ジャニス・メイ・ユードリイ文/モーリス・センダック絵/冨山房)、『うさぎさんてつだってほしいの』(シャーロット・S・ゾロトウ文/モーリス・センダック絵/冨山房)他数冊です。センダックの2冊はもともと大好きで、わたしが英語を教えていた近所の子どもたちに自分で訳したものを読み聞かせていたので、もう訳は半分できあがっていたようなものでした。
★2冊目のお仕事はどのようにして決まりましたか?
はじめにセンダックの絵本を訳すという幸運にめぐまれたため、なんとなく仕事が入ってきました。
★このメールマガジンは地方在住の読者も多いのですが、地方で文芸翻訳家デビューを果たすのは難しいと思われますか?
出版社へのアプローチの仕方だと思います。リーディングの仕事から入る場合ですと、チャンスが少なくなるかなという気もしますけれど……。
★今年の8月末にイギリスを訪れた際、『メニム一家の物語』シリーズの作者であるシルヴィア・ウォーさんと久しぶりの再会を果たされたそうですが、そのときのお話をお聞かせください。
CLNE(Children's Literature New England)というアメリカの児童文学団体がケンブリッジ大学で開いたセミナーで会いました。ご夫妻でゲーツヘッド(イングランド北部の町)から出席。ジョン・R・タウンゼンド、アラン・ガーナー、ジル・ペイトン・ウォルシュ、フィリッパ・ピアス、スーザン・クーパー、マーガレット・マーヒー、ラッセル・ホーバンといった大物の前でスピーチをするので、ちょっとナーバスになっていましたが、素朴でしかも堂々たるユーモアあふれたスピーチで大好評でした。
★最近のお仕事について教えてください。
新しい本が2冊でます。YAと絵本です。YAのほうは、ヴァージニア・ユウワー・ウルフ作『レモネードを作ろう』(徳間書店)。アメリカの作家で、日本で紹介されるのは、この本が初めてです。犯罪やドラッグや絶望が路上にごろごろ落ちているような町に住む14歳の少女が主人公で、彼女のモノローグでストーリーが綴られていきます。いつかこの町を出て、いい仕事について、いい暮らしがしたい……そのためには大学にいかなきゃ、と思った主人公がベビーシッターに行った先は、2人の子どもを抱える、17歳のシングル・マザーだった……という話。翻訳はけっこう大変でしたが、ああ、翻訳という仕事をしていてよかった! と心から思える作品でした。
絵本のほうは『はがぬけたら、どうするの?』(ビーラー文/ブライアン・カラス絵/フレーベル館)。「こどものころ、歯がぬけましたよね。そのとき、その歯をどうしましたか?」と世界各国の人にきいて集めた答えを絵本にしたものです。文句なく楽しい絵本ですので、ぜひ読んでください。読み終わったあと、「人間っていいなあ!」ってしみじみ思うような絵本です。
どちらも4月か5月には書店にならびます。ご感想をきかせてくだされば嬉しいのですが。
★最後に、児童文学翻訳家をめざす人たちへひとことお願いします。
翻訳の仕事の半分は本を読むことだと思います。ジャンルを問わず、言語を問わず、どんどん読んで、そして買って下さい。(貧しい翻訳者のために!)
(※1) 【こだま児童文学会】 埼玉県東松山市在住の福島亨を中心に地元の学友、幼稚園の保母などが結成。1955〜1972年まで全93冊出された同会の同人誌「こだま」には、乙骨淑子、宇野克彦、奥田継夫、掛川恭子、北畑静子、柴田道子、山下明生、八木田宜子などが名を連ねている。 (※2)【イブリン・ウォー】 Waugh, Evelyn(1903〜66) イギリスの小説家。代表的カトリック作家。辛辣に徹底的な戯画化を行う。作品に『一握の塵』『ブライズヘッド再訪』『名誉の剣』などがある。 |
参考文献: |
日本児童文学大辞典 第2巻(大阪国際児童文学館編) 日本語大辞典(講談社) |
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特集 |
カーネギー賞はイギリスで最も権威ある児童文学賞で、アメリカでいえばニューベリー賞に匹敵する。このメールマガジンの発行元である「やまねこ翻訳クラブ」でも、昨年までの受賞作(次点も含め62冊。うち未訳は21冊)を全て読もうという「カーネ ギー賞読破マラソン」が現在進行中だ。ここでは、今年7月に発表になった1998年の受賞作"River Boy"を詳しく紹介しよう。
【あらすじ】
15歳になるジェスのおじいさんは、優秀な画家だがかなりの偏屈者だ。しかしジェスとはとても強いきずなで結ばれており、ジェスは家族から「おじいさんのミューズ(詩神)」、すなわちインスピレーションのもとと呼ばれていた。ジェスはまた、水 の精と呼んでもいいほど水泳が得意だった。 ある日、プールで泳ぐジェスを眺めていたおじいさんが、いきなり心筋梗塞で倒れた。病状は深刻だったが、気の強いおじいさんはわずか三日で無理やり退院し、しかも退院したその日に徹夜で新しい作品を描き始める。タイトルは「リバー・ボーイ」。それまでの作品はすべて無題だったのに今回に限ってタイトルが入っていること、しかも絵のどこにも少年の姿はないことを、ジェスは不思議に思う。 ジェスにとって、強くたくましかったおじいさんが、どんどん弱っていく姿を見るのはひどく辛いことだった。だがおじいさんは、この絵を描き上げるまで再入院はできないと言い張り、無理を重ねる。そんなおじいさんの希望を尊重し、家族はそろってその生まれ故郷にやってきた。そこには紛れもなく、おじいさんが完成させたいと願う絵の中の川があった。ジェスは誘われるようにひと泳ぎをするが、不思議と「誰か」に見られているような気がしてならない。ジェスを見つめているのはいったいだれなのか、おじいさんの絵ははたして完成するのだろうか……。 (池上小湖)
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【解説】
自らのホームページに掲載された受賞スピーチの中で、ティム・バウラーは、「物語」「言葉」「想像力」の重要性を強くうったえている。「想像」は「言葉」によってかきたてられるが、逆に「想像力」なくしては「言葉」は生きてこない。作者は言葉を提供し、読者は想像を提供し、両者の協力によってはじめてその物語は生きてくるというのである。
そして十代の読者の素晴しさについても述べている。偽物臭を1キロ先からでも嗅ぎつける鋭さを持ち、相反する側面を一度に共有し、体や心の中で常に変化が起こっている彼らほど作者にとって手応えのある読者層はいないと語っている。
ところで、題名にもなっているリバーは水のもつ再生能力、そして水や特に「川」が有する生命力、エネルギー、清める力を表しているようだ。14歳で祖父を亡くしたバウラーは、愛する人の死を初めて体験するのがこの時期に多いことを考え、それによってどのように人間が成長し、変わりうるかを書いてみたかったと述べている。また、「旅」というのも彼の作品では常に一つの大きなテーマになっており、その旅の前と後で大きく変化する主人公たちを描いている。
ちなみに、デビュー作の"Midget"は、身長わずか90cmの青年が兄のひどいいじめに耐えるという話、2作目の"Dragon Rock"は、都会の少年が意地の悪い田舎の従兄にいじめられながらも6年前自分が犯した間違いを必死に正してその地の平和を取り戻そうとする話である。いずれもかなり暗いシュールなタッチで描かれており、決して明るいとはいえない題材ばかりだが、作者自身にとって大事な問題を作品に取り上げているためか、非常に真実みが感じられる。
今年は大変人気の高い作品が同時に候補として上がっていたため、"River Boy"の受賞に異論を唱える評論家もあった。図書協会のホームページに出ているシャドウィング(学校の生徒達に候補作を評価してもらうもの)結果からみると、48校中34校で"Harry Potter and the Philosopher's Stone"(ローリング作/月刊児童文学翻訳9月号参照)、9校で"Pig-Heart Boy"(ブラックマン作)が1位となった。"River Boy"が1位に選ばれたのはわずか1校にとどまった。
"River Boy"は万人向けとはいえず、扱っているテーマから考えてもかなり重い作品ではあるが、必ずやこの本に深く共鳴し、変えられる読者がいるに違いない。
【読者の感想】
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【Tim Bowler】
1953年エセックス州生まれ。林業や教師など様々な職業を遍歴し、その間は早朝や仕事の合間などに執筆をおこなっていた。90年から専業の翻訳家(スウェーデン語)・作家となる。"Midget"(94年)、"Dragon Rock"(95年)、"River Boy"(97年)に続き、来年1月には4作目の"Shadows"が発表される予定。さらに5、6作目も執筆中。いずれの作品も、日本ではまだ紹介されていない。 |
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世界の児童文学賞 第2回 |
―― ボストングローブ=ホーンブック賞 ――
Boston Globe-Horn Book Award
名 称 : | ボストングローブ=ホーンブック賞 |
部 門 : | フィクション+詩、ノンフィクション、絵本 |
対 象 : | 米国で出版された本(著者の国籍や居住地は問わない) |
創 設 : | 1967年 |
発 表 : | 夏(秋にニューイングランド州図書協会の会議で受賞者の表彰が行われる) |
関連サイト: | http://www.hbook.com/bghb.shtml |
ボストングローブ(新聞社)とホーンブック(児童文学評論誌出版社)がスポンサーの児童文学賞。6月から翌年5月までの1年間に米国で出版された本を対象にしている。受賞作には、ニューベリー、コールデコット受賞作家の作品が多いが、カーネギー、グリーナウェイ受賞作品や非英語圏からの翻訳作品もある。当初はテキストと絵本の2部門だったが、1976年から現行の3部門。受賞作と次点(Honors)が発表される。特に顕著な作品がある場合には、特別賞(Special Citation)が設けられる。
タ イ ト ル | 作 家 |
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"The Circuit: Stories from the Life of a Migrant Child" | Francisco Jimenez |
"Leon's Story" | Leon Walter Tillage |
"And If the Moon Could Talk" | Kate Banks & Georg Hallensleben |
"The Circuit"は移民の子どもたちの話を集めた短編集。作者はメキシコ系アメリカ人である。"Leon's Story"は、貧しい黒人小作人の家に生まれ、公民権運動家として様々な差別と闘った作者の自伝。"And If the Moon Could Talk"は、両親の愛情に包まれて眠りにつく少女の姿を、美しい文章と鮮やかな色使いの絵で描いている。
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(河原雅子/森久里子)
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Chicocoの洋書奮闘記 第1回 | よしいちよこ |
―― 「本が好き。でも……」 ――
本が好き。でも洋書は苦手。これ、ないしょ。
翻訳の仕事がしたい。勉強はしている。でも洋書は苦手。これも、ないしょ。
これまでいつも洋書を避けてきた。必要だとわかっているのに、1冊読み通したことがない。気まぐれにペーパーバックを買ってみたり、プレゼントされたりして、挑戦したことはある。だけど、大人もののペーパーバックって分厚くて、字が小さいんだよね。3分の1ぐらいで栞をはさんだまま何か月も過ぎ、結局ストーリーも登場人物も忘れてしまう、そんなことばかりだった。
恥をしのんでもう一度いうけれど、わたしは翻訳の勉強をしている。だから、課題に出される短編小説や、長編の一部はいくつも読んできている。でも、そんなことでいいわけがない。洋書を1冊読めないで、翻訳家になれるわけがないのだから。
児童書が好きなわたしは、ニフティに児童書専門サークル「やまねこ翻訳クラブ」ができたこと知り、さっそく入会した。話題にあがる本も、できるだけ読むようにつとめた。ところが、いつ頃だったか、未訳の洋書の話題ばかりが続いて、ついていけなくなってしまった。他の会員の方々は、あっというまに洋書を読み、次々と感想をあげていく。わたしは落ち込み、とうとうクラブ内で白状してしまった。「わたし、洋書が苦手なんです」これ、ないしょだったのに……。
やまねこの方たちは優しかった。「大人向けじゃなくて、子供向けの洋書から読んでみたら?」「1冊でも読み通せれば、気分がよくなって、また次に続いていくよ」「最初に読むなら、こんな本がおすすめ」などなど、励ましの言葉をたくさんいただいた。さらにビギナー向けの手頃な洋書を数冊、「これで洋書漬けになってください」とのメッセージ付きで送ってくださる方まで現れた。よーし、こうなりゃ、りっぱな洋書読みをめざしてがんばるぞ!
というわけで、ばりばりの洋書読みの人には笑っていただき、わたしのような洋書アレルギーの人たちには共感してもらおうと、こうして「洋書奮闘記」をはじめさせていただくことになった。次回はさっそく1冊目の紹介。無事に読み終えることができるのか? 乞うご期待!
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コンテスト・トライアル/展示会・講演会情報 |
―― コンテスト・トライアル情報 ――
◎FMC「新人翻訳家コンテスト イギリス絵本」――絵本翻訳 | |
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課題: | "The Midnight Feast" by Lindsay Camp / Tony Ross |
締切: | 1998年11月17日(必着) |
応募: |
FMC機関誌Amelia10月号の申込用紙を10月19日までに送付 (事務局 03-3475-5820) |
◎いたばし「国際絵本翻訳大賞」――絵本翻訳 | |
課題: |
"The First Red Maple Leaf" by Ludmila Zeman(英語) "IL PAESE DEI SILENZI" by Sandra Bersanetti(イタリア語) |
締切: | 1998年11月30日(必着) |
応募: | 事務局へ問い合わせのこと(03-3265-7691) |
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―― 展示会・講演会情報 ――
◎ちひろ美術館「中国の絵本作家たち」 | ||||||||
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所在地: | 東京都練馬区下石神井4-7-2 | |||||||
電 話: | 03-3995-0820 | |||||||
会 期: | 平成10年10月8日から平成11年1月15日 | |||||||
休館日: | 月曜日 | |||||||
入場料: | 大人500円 中・高校生200円 小学生100円 | |||||||
内 容: | 国内の絵本原画コンクールで高い評価を受けた作品を紹介 | |||||||
◎阪急「『クマのプーさん』絵本原画展」 | ||||||||
<神戸阪急ミュージアム> | <有楽町阪急8階ギャラリー> | |||||||
電 話: | 078-360-1231(代) | 電 話: | 03-3575-2233(代) | |||||
会 期: | 平成10年10月21日〜10月26日 | 会 期: | 平成10年10月28日〜11月17日 | |||||
休館日: | 無休 | 休館日: | 11月10日(火)店休日 | |||||
入場料: | 一般700円 中学生以下と65歳以上無料 | 入場料: | 無料 | |||||
内 容: | 『クマのプーさん』の挿し絵画家シェパードの原画約100点を展示 | |||||||
◎軽井沢絵本の森美術館「秋冬展 〜欧米絵本の歩み〜」 | ||||||||
所在地: | 長野県北佐久郡軽井沢町塩沢182-1 | |||||||
電 話: | 0267-48-3340 | |||||||
会 期: | 平成10年12月25日まで | |||||||
休館日: | 火曜 | |||||||
入場料: | 大人700円 中・高生500円 小学生400円 | |||||||
内 容: | 欧米ロングセラー絵本の原画と絵本を展示 | |||||||
◎小さな絵本美術館「フェリックス・ホフマン展―父から子への贈り物―」 | ||||||||
所在地: | 長野県諏訪郡原村原山17217-3325 | |||||||
電 話: | 0266-75-3450 | |||||||
会 期: | 平成10年12月6日まで | |||||||
休館日: | 火曜 | |||||||
入場料: | 大人700円 中・高生400円 小学生300円 | |||||||
内 容: | 世界中で親しまれるスイスの絵本画家フェリックス・ホフマンの展示会 | |||||||
◎国際児童文学館「ムーミンとヤンソン」展 | ||||||||
所在地: | 大阪府吹田市千里万博公園内 | |||||||
電 話: | 06-876-8800 | |||||||
会 期: | 平成10年10月1日から平成10年12月27日 | |||||||
休館日: | 水曜日、月末日 | |||||||
入場料: | 無料 | |||||||
内 容: | ムーミンの絵本や作家ヤンソンの写真など60点を展示 | |||||||
☆「大人のための子どもの本」講座 | ||||||||
場 所: | 京都アスニー(丸太町七本松西北) | |||||||
電 話: | 075-812-7222 | |||||||
日 時: | 平成10年10月19日(月)午前10時から12時まで | |||||||
受講料: | 600円(必ず事前に電話予約のこと) | |||||||
内 容: | 作家 ひこ・田中氏の児童文学についての講演会 | |||||||
☆トリイ・ヘイデン来日記念講演会 | ||||||||
会 場: | 杉並公会堂(東京・荻窪) | |||||||
入場料: | 無料(ただし聴講券が必要) | |||||||
申込先: |
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日 時: | 11月17日(火)第1部 14:30〜17:30 第2部 17:30〜19:30 |
(担当:瀬尾友子/よしいちよこ)
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おすすめの本(邦訳編) |
―― 十代後半の少女の揺れ動く心と成長を描く ――
『イングリッシュローズの庭で』 |
第2次世界大戦中、ロンドンからイギリス南部の海辺の町に、上流階級の姉妹が疎開してきた。母が女優として戦地慰問の旅に出る3か月間の予定だ。ふたりが住むことになっている千鳥荘には以前、ヒルダという狂人がいたという。到着早々、手伝いの女性が来られないと知り、姉はもう帰る気になってしまう。妹のローズは、存分に小説が書けるこの機会をあきらめることができない。そこで姉を説得し、自分たちで生活を始める。
ある日偶然ローズは、ヒルダが隠した鍵を見つけて、彼女の日記を手にする。そして、読み進むうちに、しだいにヒルダの人生に引き込まれていく。そこには、自分に正直に生きた女性の波乱に富んだ人生が刻まれていた。ローズは女として人間として、周囲が求める在り方になじめず、息苦しい思いをしてきた。ヒルダの人生をたどることをきっかけに、周囲の人々や自分自身に対する見方を変えていく。そして、自分の本当の姿を見出し、進むべき道を歩み出す。
前作の『おやすみなさいトムさん』(中村妙子訳、1991、評論社)とは、ずいぶん印象が違った。作品世界を俯瞰するような距離の保ち方で、淡々とした雰囲気を出していた前作に比べて、この作品では作者の目も、登場人物にぐっと近づいている。同性として自分の目線に近いところで書いているからだろうか。会話も多く、リリカルな文章で、十代後半の少女が自分の進むべき方向を見出すまでを描いている。
この作品で核となっているのは、やはりヒルダだろう。狂人ヒルダのおぼろげな像が、しだいに一人の人間としてくっきりとした像をとり始める。ヒルダが因習的な社会や家族に勝利したよろこびを高らかに謳いあげる場面は、解放感にあふれ、高揚した空気に充ちていて、印象的だった。
【作者】ミッシェル・マゴリアン 1947年、イギリス、ポーツマスに生まれる。大学で演劇、映画を専攻した後、パリでパントマイムの勉強をする。女優活動と並行して4年間かけたデビュー作、"Good Night, Mr. Tom"(1982)でガーディアン賞を受賞。ほかに、アメリカから第二次世界大戦直後のイギリスに帰国し、違和感に苦しむ少女にスポットをあてた"Back Home"(1984)や、詩集なども出している。趣味は、ダンス、歌、読書、水泳。 【訳者】小山尚子(こやまなおこ) 1955年、広島県生まれ。法学部卒業後、公務員として働く。後に翻訳の勉強を始め、様々な分野の下訳などで経験を積む。書籍の翻訳は今回が初めて。趣味は映画鑑賞、読書。 |
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おすすめの本(未訳編) |
〜『小麦袋の赤ちゃん』(仮題)〜
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男子校で巻き起こる、ハチャメチャでちょっと切ない物語。キャシディー先生は数週間後に催される学校の科学祭で、クラスの生徒たちに何をさせようか頭を悩ませていた。先生が受け持つ8組の生徒たちは落ちこぼればかりで、やれることといったら限られてしまうのだ。結局、消去法で残ったのが「育児」、すなわち小麦袋を赤ちゃんに見立てて、3週間世話をするというものだった。
まず「育児」をする上で、いくつかルールが決められた。赤ちゃんをいつも清潔に保つこと、目を放さないこと、世話ができないときはベビーシッターをつけること、育児日記をつけることなどだ。そして生徒一人一人に小麦袋が渡された。
日がたつにつれ、生徒たちは育児に嫌気がさしてきて癇癪を起こすが、サイモン・マーティンだけは例外だった。サイモンはせっせと小麦袋の世話をしながら、自分が赤ん坊だった時に蒸発した父親のことを考え始めていた。父親はなぜ、どのようにして家を出て行ったのだろうか。これまでそのことでは、いつも母親にはぐらかされていたが、育児をきっかけに何が何でも知りたくなった彼は、ある日母親に詰め寄り……。
生徒たちが小麦袋の育児をバカにしながらも、これに振りまわされ、大変さを肌で感じていく様子がユーモラスに描かれている。また、明るいながらも、心の片隅にわだかまりを抱えたサイモンが、赤ちゃんの世話を通して次第に心が解き放たれていく様子が、読んでいてすがすがしい。
ここで紹介したのは、アメリカ版の方だが、オリジナルのイギリス版(ペーパーバックISBN 0-14-036147-2)とは、登場人物の名前やクラス名などが一部違っている。作品がアメリカナイズされるのがいいか悪いかは別として、文化の違いを知るという点で、両者を読み比べてみるのもおもしろいかもしれない。
Anne Fine(アン・ファイン) 1947年イギリス、レスターシャー生まれ。子供時代より本を読むことと書くことに親しみ、大学で歴史と政治学を学ぶ。出産後、物語を書き始める。『ぎょろ目のジェラルド』(講談社)で1990年度カーネギー賞とガーディアン賞を同時受賞。"Flour Babies"で2度目のカーネギー賞を受賞。その他の邦訳作品に『初恋は夏のゆうべ』、『妖怪バンシーの本』、映画にもなった『ミセス・ダウト』(いずれも講談社)がある。今イギリスで最も活躍している児童文学作家の一人。現在はイングランドのダラムに在住。 |
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【読者だより】 ご意見・ご感想は編集部(mgzn@yamaneko.org)まで!
9月号で、ドロシー・バトラーさんの『クシュラの奇跡』を紹介しましたところ、ニュージーランド在住の読者の方から、バトラーさんの経歴および近況を伝えるお便りをいただきました。バトラーさんは現在もニュージーランドにお住まいですが、児童書専門店は経営されていないそうです。情報をお寄せくださった「うちだいずみ」さん、ありがとうございました。(み)
★ドロシー・バトラーさんの経歴および近況(うちだいずみさんのお便りより抜粋)
1925年生まれ。作家、児童文学作家、児童文学評論家、元書店経営者。児童書に関わるようになったのは、自分の子供たちが通う児童館の本棚を充実したものにしたい、という願いから。そのためにバトラーさんは出版社から1割引で子供のための本を仕入れ、定価で親たちに売って、差益で本を買い揃える活動を思い付く。こうした本の販売が予想以上に好評だったため、8人目の末子が学校に上がるのを機会に小さな本屋をはじめ、これがのちに本格的な児童書専門店へと発展する。Powerhouseと異名をとるほどエネルギッシュな活動で知られていたバトラーさんは、書店経営にとどまらず、読書会なども積極的に開催、さらに"Babies need books" "From five to eight"など優れた児童書を紹介する著作や童話等を発表して、国内外に名を知られるようになる。1993年には栄誉ある大英帝国勲位を授与される。著作に専念するため今から8年前にその児童書専門店を人に譲り、現在はオークランド郊外のカレカレ・ビーチに面した自宅で静かに暮らしながら、自伝を著わしているとのこと。尚、バトラーさんの経営していた書店は、今も彼女の功績に敬意を表して、"ドロシー・バトラーの店"と、名を冠している。
<店の所在地> | Dorothy Butler Bookshop Ltd. |
Corner Jervois St. and St. Mary's Rd., | |
Ponsonby, | |
Auckland | |
tel +64 9 376 7283 |
やまねこ翻訳クラブ(会員数89名)
やまねこ翻訳クラブは、海外の子どもの本に関する情報交換、翻訳・シノプシス自主勉強会などを行っている児童書専門サークルです。翻訳と子どもの本に興味のある方でしたらどなたでも入会できますので、ぜひお気軽にご参加ください。
―― 10〜11月の活動 ――
◆バベル・プレス絵本コンテスト勉強会("Gabriella's Song") ◆海外児童文学賞受賞作読破マラソン ◆未訳作品の全訳勉強会(Sharon Creech "Pleasing the Ghost") ◆遊学館絵本コンクール勉強会("Pushkin")<予定> |
●編集後記●
先日、久しぶりに東京子ども図書館に行きました。石井桃子さんが名誉理事、松岡享子さんが理事長を務めておられる、児童書ファンにはたまらない私立図書館です。ありがたいことに、この『月刊児童文学翻訳』のコピーも資料室に置いてくださっていました。みなさんも、ぜひ一度、足をはこんでみてください。(み)
発 行: | NIFTY SERVE 文芸翻訳フォーラム・やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 小野仙内(文芸翻訳フォーラムマネージャー) |
編集人: | 宮坂宏美(やまねこ翻訳クラブスタッフ) |
企 画: | あこ、河まこ、キャトル、くるり、Chicoco、BUN、ベス、YUU、りり、ワラビ |
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