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もくじ◎特別企画:野球はこんなにおもしろい!【1】邦訳作品の紹介: 『イチローへの手紙』 ジーン・D・オキモト文/ダク・キース絵/吉池幹太訳 『サマーランドの冒険』 マイケル・シェイボン作/奥村章子訳 【2】アメリカの子どもたちが好きな野球の本 "Baseball Card Adventure" シリーズ ダン・ガットマン作 "The Babe & I" デイビッド・A・アドラー文/テリー・ワイドナー絵 【3】未訳作品の紹介 "Mudball" マット・タバレス文・絵 "Roberto Clemente: Pride of the Pittburgh Pirates" ジョナ・ウインター文/ラウル・コロン絵 "Bobby Baseball" ロバート・キンメル・スミス作 "The Boy Who Saved Baseball" ジョン・H・リッター作 "A Billy Baggs Novel" シリーズ ウィル・ウィーヴァー作 【4】マット・クリストファー――子ども向けスポーツ読み物のパイオニア 【5】終わりに ◎賞速報 ◎イベント速報 ◎読者の広場: 海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! ●このページでは、書店名をクリックすると、各オンライン書店で詳しい情報を見たり、本を購入したりできます。 |
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球春到来――。熱戦がくりひろげられた春の高校野球につづき、プロ野球が開幕した。海の向こうでもメジャーリーグが開幕し、連日、野球ファンを楽しませてくれている。アメリカの子どもの本には野球を題材にしたものがたくさんあるが、意外にもそのほとんどが未訳だ。今号では、数少ない邦訳、『イチローへの手紙』『サマーランドの冒険』の2冊を含め、野球をテーマにした本の数々を紹介していこう。 |
マリナーズの本拠地シアトル在住の作家とイラストレーターの思いがこもった絵本。
ヘンリーは親友のオリバーと大げんかした。もうオリバーなんか友だちじゃない! 頭にきたけれど、気をとりなおす。なんていったって今日は、大好きなマリナーズの試合をおじいちゃんと観戦する日なのだから。試合がはじまり、球場内は、「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」と大歓声に包まれた。ヒットを打ち、走るイチローは、まるで空を飛んでいるかのよう。大接戦となった試合も、最後はマリナーズの投手がぴしゃりとおさえて終了した。その後、おじいちゃんは、アメリカと日本が戦争をしていたころの話をしてくれた。
文章を書いたジーン・D・オキモトは日系人の夫をもつ。自らの境遇をいかして、この物語を生みだした。球場での野球ファンの熱狂ぶりと、おじいちゃんの戦争話とをうまくからみあわせ、許すということについて丹念に描いている。その文章を彩るダク・キースの絵は、線描をおりまぜ、選手の動きにいきいきとした躍動感を与えている。イチローが走るシーンでは、まるで風が感じられるようだ。
同世代として、高校生のときからイチロー選手をテレビなどで見て応援してきた。あんなに細かったイチローが、メジャーリーグで活躍するなんて、アメリカの絵本に登場するなんて……。この本を読んで胸が熱くなった。作者にインスピレーションを与えた球場で、わたしもいつの日か観戦したい。「イ・チ・ロー! イ・チ・ロー!」と声援を送りながら。
『イチローへの手紙』の情報をオンライン書店でみる "Dear Ichiro"の情報をオンライン書店でみる |
11歳のイーサンは、ハマグリ島のリトルリーグのチーム〈ルースターズ〉に所属している。チームは、イーサンのエラーや三振で連敗記録を更新中。野球をやめたいと思っていたある日、妖精があらわれて、イーサンを妖精の世界サマーランズへ連れていった。イーサンが世界の救世主と予言されているというのだ。半信半疑で現実世界に戻ってきたが、やがてイーサンの父が、世界を滅ぼそうとするコヨーテに連れ去られてしまう。父と世界を救うため、イーサンと仲間たちは旅にでる。
4つの世界が1本の樹を中心につながっているという設定のファンタジーだ。けれど、イーサンの武器は剣でも魔法でもない。古いトネリコの枝から作ったバット。すでにひとつの世界はコヨーテにより封印された。イーサンは3つの世界を行き来しながら、キャッチャーとして、野球の試合で戦いながら旅をする。仲間たちの助けを借りて成長していく姿が感動的だ。「球聖」タイ・カッブや往年の名捕手ウィリアム・ユーイングなど実在の選手の名前がでてきたり、各章のタイトルが「一塁」「二塁」となっていたりと、野球好きの作者のこだわりも楽しい。イーサンたちはとうとうコヨーテのチームと直接対決する。はたして世界を救うことができるだろうか!
マイケル・シェイボンは、"The Amazing Adventures of Kavalier and Clay"(『カヴァリエ&クレイの驚くべき冒険』菊地よしみ訳/早川書房)でピュリッツァー賞を受賞。初めての児童書である本書は、ローカス賞候補作となり、Mythopoeic Fantasy Award for Children's Literature を受賞した。
『サマーランドの冒険 上』の情報をオンライン書店でみる 『サマーランドの冒険 下』の情報をオンライン書店でみる "Summerland"の情報をオンライン書店でみる |
ここカリフォルニアは、春夏晴天が続き、野球には最高の気候だ。当地で生まれ育つ我が子、7歳のトシと10歳のケイの少年野球が今年もはじまった。トシは、昨年まで止まったボールを打つティーボールをやっていたが、今年は動くボールを打つリーグに入れる年齢になり、大はりきり。晴天でも、絵本 "Mudball(本誌【3】参照)" 同様の事態が続出し、観客席の笑いが絶えない。ケイは、パパとのピッチング練習が功を奏し、ばしばしストライクを決めている。
野球もいいけど読書も……と、私は学校の司書さんにお薦めの本を聞いた。「ケイくんはじっと図書室にいるより外でボールを追いかけたい子でしょ。やっぱりスポーツものね。それなら、なんといってもマット・クリストファー! 野球も他のスポーツもいろいろそろっているわよ」スポーツ関係の児童書の棚の半分以上が彼の名前のついた本という書店まであるほど、多くの人気作品がある(本誌【4】参照)。
「野球カードの冒険」シリーズなど、ベーブ・ルースやジャッキー・ロビンソンたち名選手についての本も多い。彼らは多くのアメリカ人の心の支えなのだ。絵本 "The Babe & I" に、失業した父親が道端でリンゴ売りをする場面がある。我が家でこの本を読んだ時は、たまたま私自身の職の行く末が心配な時期で、それを知ったトシが私の不安顔を覗き込んだ。「ママ、道でリンゴ売るの? それでもきっと大丈夫だよ」ぽろっと涙がこぼれた。
現在、日本人メジャーリーガーの活躍が日系、アジア系の子どもに自信を与えている。当地はアジア系住民が多いが、音楽や勉強に関するおけいこごとが好まれがちで、少年野球は圧倒的に非アジア系が多い。夏休みの野球教室にサンフランシスコ・ジャイアンツのシャツで行ったケイは、教室のみんなに新庄そっくりと言われたが、翌日ヤンキースのシャツを着たら松井似とされ、その後松井と呼ばれ続けた。教室でたった1人のアジア系だったから起きた珍事だ。『イチローへの手紙』の原書を読み、折り紙で作ったひげをつけてイチローのバッティングを真似るトシとケイを見ていると、多人種の国で野球選手の活躍が意味することの大きさを痛感せずにはいられない。
ストッシュは野球の大好きな少年。あるとき、古い野球カードに触れたとたんタイムトラベルできる不思議な力を手にした。
"Jackie & Me" で、ストッシュは、相手チームの野次に惑わされて少年野球の試合をしくじった日に、大リーグ初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンのカードでタイムトラベルすることになる。そして、野次どころか、激しい人種差別にその身を脅かされても野球に集中し努力し続けたロビンソンと親しくなり、強い精神の力を知っていく。"Babe & Me" では、1932年ワールドシリーズでのベーブ・ルースによる、有名な投球直前の「予告」ホームランの真偽を確かめる旅をしようとするが、父親がルースのサインを手に入れて一儲けしようとついてきて、珍道中となる。新刊 "Abner & Me" では、野球の考案者とされるアブナー・ダブルデー将軍がほんとうに野球を始めたのかどうかを確かめに行くが、自分もタイムトラベルをしてみたいといって、今度は母親がついてくる。そして、ふだん看護師の仕事をしている母親は、南北戦争の負傷者を現代医学で救い続けて英雄になってしまう。
ふだん野球ばかりで読書をしない子まで夢中になると評判の人気シリーズ。過去の偉大なヒーローに出会い、野球史上有名な場面を訪れる冒険は、ドキドキわくわくの連続だ。各選手のかかえる葛藤と、それを乗り越えようとする強さ、努力には、野球好きでない読者でも心打たれることだろう。綿密な調査に基づき、野球のみならず、当時の社会状況や歴史上のできごとがわかりやすく描かれているので、楽しみながら多くのことを学ぶことができる。ストッシュは、みずからが少年野球チームで経験する子ども同士の問題を、タイムトラベルで知ったり感じたりしたことをもとにして乗り越えていく。作者は、歴史を、単なる知識でなく、日常の問題を考えるときの味方として子どもに提供し続けている。
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大恐慌さなかの1932年、ニューヨーク。通りには職を失った人たちがリンゴを売る姿が多く見られた。ぼくはその中に、会社に行っているはずの父さんの姿を見つけてしまう。ぼくも新聞売りの仕事をして少しでも家族を助けよう! 友だちのジェイコブと一緒にヤンキースタジアムの近くに陣取って、野球記事の見出しを叫ぶ。「ベーブが25号ホームランを打ったよ!」「ベーブがさよならヒットを打ったよ!」その声に引き寄せられるようにして、新聞は飛ぶように売れていった。
主人公の少年の生活は当時のヤンキースの救世主であるベーブ・ルースと共にあったといっても過言ではない。ベーブの毎日の活躍を体ごと受け止め、その活躍を叫ぶことで稼ぎを手にすることができた。厳しい時代だからこそ、少年だけでなく、大人もみんな、野球によって一喜一憂し、野球によって希望の灯をともし続けることができたのだろう。そんな一般の人々の生活を描きながら、当時の国民的ヒーローであったベーブ・ルースの姿も垣間見せてくれる作品。さいごには、胸おどるエピソードも入っていて、野球ファンならずとも楽しむことができる。
100作以上の著作があるアドラーには、ベーブと同時代に活躍したルー・ゲーリックを題材にした絵本もある。さすがヤンキースの大ファンだ。ワイドナーは当時のニューヨークの町並みやヤンキースタジアムを、落ち着いた色合いで丁寧に描きだしている。少しデフォルメされた人物は、表情が生き生きして印象的。特に少年と父親を描いた場面では、その表情から信頼関係が伝わってきて胸があたたかくなる。
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時は1903年。舞台はアメリカ、マイナーリーグ。ミネアポリス・ミラーズのアンディ・オイラーは、9回裏ツーアウト満塁の大チャンスで打席に立とうとしていた。チームは3対0で負けている。アンディが最後の頼みの綱だ。けれどもチームで一番、いやリーグで一番小柄で力の弱いアンディは、さっぱり打てる気がしない。どうする、アンディ。
口から口へと語りつがれてきた伝説をもとに作られた絵本だ。アンディ・オイラーは、1903年から7年間にわたってマイナーリーグでプレーした実在の人物。堅実なバッティングをする遊撃手だったようだが、7年間でホームランは1本しか打っていない。それがこの日の「史上最短飛距離のホームラン」だった……。
ふりつづく雨で手元がくるったか、ピッチャーの投じた球は、アンディの頭めがけて飛んできた。「あぶない!」。思わずよけた瞬間、ボールはバットにコツンとあたり、雨にまぎれて姿を消した。おろおろとボールを探す相手チームの選手たち。泥水をはねかしながらホームにすべりこむミラーズの選手たち。ついには打ったアンディまでもがホームイン。そのとき、ホームベースからわずか数メートルのところで泥まみれのボールが見つかった。やったぁ! 飛距離数メートルの逆転サヨナラ満塁ホームランだ!
作者マット・タバレスの画風は、リアルでちょっぴり重たいけれど、選手たちのうろたえぶりや、してやったりの表情を、大げさに楽しく描いている。どしゃぶり、どろんこ、そして満塁ホームラン。しかも主人公はリーグで一番小さな選手。子どもの心をとらえて離さない史上最大の珍プレーの物語だ。
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日本でロベルト・クレメンテと聞いてすぐにぴんと来る人は、かなりのメジャー通かもしれない。知っている人も多くは、「ロベルト・クレメンテ賞」(積極的な社会貢献活動をおこなったメジャーリーガーに贈られる賞)の名の由来となった人物として記憶している程度ではないだろうか。でもこの絵本のページをめくってゆくと、すぐれた選手としてのロベルト・クレメンテに出会うことができる。
クレメンテは「野球をする人たちが、ジャングルの花のようにひしめく」プエルトリコの出身。少年時代からその能力は図抜けていて、やがてメジャーリーグにスカウトされる。所属先は弱小球団ピッツバーグ・パイレーツ。彼は鮮烈なプレーでたちまちファンの心をわしづかみにした。俊足、強肩、強打の右翼手。入団時に最下位だったチームも、クレメンテの活躍で5年後の1960年にはワールドシリーズ優勝に輝いた。
詩人でもある作者のジョナ・ウィンターは、静かに、しかし情熱を込めてクレメンテの生涯をつづってゆく。故郷の子どもたちとの交流、白人主体のマスコミからの低評価、それをばねにさらなる高みを目ざしたこと。クレメンテのプレーを生で見たという画家のラウル・コロンも、そのしなやかで強靭な動きを生き生きと描いている。
1971年、2度目のワールドシリーズで最高の活躍を見せたクレメンテは、ついに白人の記者たちの手でシリーズMVPに選ばれる。翌年には3000本安打を記録。しかしその年の暮れ、悲劇は起きた。ニカラグア大地震の救援に向かう途上で、彼の乗った飛行機が墜落したのだ。38歳、選手として頂点を極めた刹那に閉じられた生涯だった。
現在「ロベルト・クレメンテ賞」は、MVPよりも名誉ある賞として、メジャーリーガーたちのあこがれの的になっている。また日本でも、この賞に範をとった「ゴールデンスピリット賞」が6年前に創設された。クレメンテの魂は今なお生きつづけている。しかしそれも、人々に愛されるすばらしいプレーと人柄があったればこそなのだと、この絵本はしみじみ感じさせてくれる。
"Roberto Clemente Pride of the Pittsburgh Pirates"の情報をオンライン書店でみる |
ボビーは野球が大好き。将来はメジャーリーグに入って、大投手になって、殿堂入りするんだと心に決めている。10歳になった今年、ボビーは、父さんが監督を務めるリトルリーグのチーム〈ホークス〉に加わった。父さんは渋い顔をしたけれど、「グラウンドの中では父さんと呼ばない」「監督の言葉に従う」という約束のもとに入れてもらったのだ。ポジションは、もちろんピッチャー。最初の3試合に勝って、ボビーは有頂天だ。でも、若いころマイナーリーグの選手をしていた父さんには、肩の弱いボビーが投手に向かないことがわかっている。果たしてつぎの試合、ボビーは強いチームと戦ってめった打ちにされ、おまけに投手交代を告げに来た父さんに食ってかかってしまう。約束を守らなかったボビーに、父さんは激怒する……。
ボビーと父さんの真正面からのぶつかり合いが、すがすがしい作品だ。夢をめいっぱいふくらませ、破れて痛い思いをするボビー。みずからも挫折の痛みを知るからこそ、ボビーに甘い顔を見せない父さん。その葛藤をつうじてボビーは、父さんだけでなく母さんやおじいちゃんが注いでくれる愛情に、そして自分の野球に対する本当の思いに気づいていく。
作者のロバート・K・スミスは、『チョコレート病になっちゃった!?』(宮坂宏美訳/ポプラ社)が日本でも紹介されているユーモア作家。温かく軽妙な語り口ながら、この作品では「初めての挫折」のほろ苦さを描いていて新鮮だ。緑の芝生に赤土のグラウンドの美しさ、フロリダで始まる春キャンプへの憧憬といった、作者の野球への愛情を感じさせる描写が、そこここに盛り込まれているのもいい。
さて夢破れたボビーだが、そこは子ども。自分の可能性をどこまでも信じ、何度でも新たな夢をふくらませる力をそなえている。そんな強さも無理なく描かれた作品だ。
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サンディエゴ近郊のディロンタウン。百年前に建てられ、メジャーリーグの試合も行われたことのある球場で、町の未来がかかった少年野球の試合が開催されることになった。トムたち地元チームが負けたら、町長や少数の町民が推しすすめる開発に賛同しなければならない。試合まであと6日。弱小チームにずっしりとプレッシャーがのしかかる。そこへ、チームに入れてほしいと、ひとりの少年が現れた。クルスという名のその少年は、町の事情を知っても立ち向かう姿勢をくずさなかった。クルスに触発され、チームのメンバーや町の人々の闘いが始まる。地元出身の元メジャーリーガーで偏屈な変わり者デル・ガトに監督を頼みこみ、毎日基礎の反復練習をみっちり行う。日々の特訓のかいあって、何をやってもぬきん出ていたクルスはもとより、みんなは徐々に力をつけ、試合の前日には自信をもてるまでになった。だが、試合当日、クルスが忽然と姿を消してしまった……。
練習法が細かく描写されているところは、野球小説家といわれる作者ならでは。野球ファンにはうれしいが、ファンならずとも興味をもって読める要素もつまっている。内気で弱腰だったトムは、クルスと出会ってから少しずつ勇気をもちはじめる。そして、開発か現状維持かで町長と町の人々が対立するなかで、いろいろな人々と触れあい、成長していくのだ。また、サンディエゴ近辺の自然や風土の記述もそこここに出てきて、町の人々が開発したくないと思う気持ちが伝わってくる。
物語のキーポイントとなるのは、「死と運命の予言」といわれるディロンタウンの町の伝説だ。「見知らぬ人が現れ、偉大な男の死をまねく。偉大な男の秘密が明かされなければ町はのっとられる」という。予言はあたるのか、クルスとその予言の関係は? 最後には驚きと感動が待っている。
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1965年、夏。ビリーの兄はトラクターの事故で亡くなった。それも、8歳だったビリーの過ちのせいで――。あれから5年。ビリーは13歳になり、家の農場の仕事を手伝う毎日を過ごしていた。好きな野球をすることもできない。だが、ひょんなことから、コーチに投手としての才能を見いだされ、町のチームに加わることに。チームのエースであるキングと対立したり、家の手伝いのため練習にあまり参加できなかったりしながらも、ビリーは実力を発揮していく。("Striking Out")
1971年春、父の留守を預かり、ビリーは家の農場の仕事を一手に引き受けることになった。野球の練習に参加できないビリーは、母のすすめで、農場のチームをつくる。集まったのは、近所の数人に加え、メキシコから来た兄弟、頭はきれるが野球はできない少年。このユニークなメンバーで、町のチームに戦いを挑む。("Farm Team") 同年、夏。ビリーとキングは、野球だけでなく恋のうえでもライバルになっていた。ある日、ビリーは学校主催のメジャーリーグ観戦旅行に参加。初めて観るスーパープレーに度肝をぬかれる一方で、恋の相手スージーとの距離を縮めた。旅行後、ふたりの仲を知ったキングと、ビリーは取っ組み合いのけんかをしてしまう。見かねたコーチの提案で、ビリーとキングは1週間いっしょに生活するはめになる。("Hard Ball")
冒頭から衝撃を受け、最初は読むのが少しつらかった。それが、あれよあれよという間に物語の世界に入りこんだ。短文でまとめられたユーモラスな文章で、すいすい読めるのだ。登場人物のキャラクターづくりがしっかりとできていて、ああ、こういう人いるな、とリアルに感じられたせいもある。保守的で頑固な父、時代についていこうと仕事をはじめる母、成績優秀でスポーツ万能のキング、観察眼があり、子どもたちをあたたかく見守るコーチ……。そのほか、個性ある人物を登場させ、町に住む人々と田舎に住む人々の対立や貧富の差をまじえながら、ときにはシリアスにときにはユーモラスに話が展開する。野球を中心に、友人関係、恋愛、将来の夢など普遍のテーマを扱っているが、主となるテーマは家族、親子関係だ。まるで映像を見ているかのように場面場面が浮かびあがってくるのが魅力の作品。
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マット・クリストファーという作家をご存じだろうか。「子どもの本と野球」の記事でも触れられているように、アメリカで子ども向けのスポーツ小説といえば、まず思い浮かべるのがこの人の作品。1954年に初めての子ども向け読み物を発表してから1997年に80歳で亡くなるまでのあいだに120以上もの物語を世に送り出し、今もなお子どもたちに読みつがれている老舗のような存在だ。(ちなみに Matt Christopher の名は現在では商標として登録されており、没後もこの名を冠したスポーツノンフィクションなどが多数出版されている。まさに老舗たるゆえんだ。)
マット・クリストファーは、1917年ペンシルベニア州生まれ。みずからもスポーツをよくし、若いころプロ野球選手としてヤンキース傘下のマイナーチームに所属したこともある。作家を志した当初は大人向けの短編などを書いていたが、地元の図書館で「子ども向けのいいスポーツの本がない」という司書の嘆きを耳にしたのがきっかけで、自分の得意分野を生かした新たなジャンルを切りひらくことになった。野球にかぎらず、サッカー、アメフトからモトクロスやスノーボードにいたるまでさまざまなスポーツを扱っているが、ここでは野球を題材にしたいくつかの作品を紹介しよう。
(出版社はいずれも Little, Brown And Company)マーティンはこの町にひっこしてきたばかり。グラブもバットもなく、好きな野球ができずにがっかりしていると、近所に住む親切な少年がお古のグラブとバットをくれた。ツキを呼ぶというこのバットで、マーティンはヒットを量産し始める。ところが、ある試合で、バットはぽっきりまっぷたつに。著者最初の子ども向け読み物。
"The Kid Who Only Hit Homers"『ホームラン・キッド』(仮題)1972年ぶきっちょなシルベスターは、野球が大好きなのにいつもへまばかり。そこへ丸顔でだんご鼻のベルースさんという謎の人物が現れて、あれこれとアドバイスを授けてくれた。シルベスターはみるみる上達し、打席に立つたびにホームランをかっ飛ばすように。ベルースさんって、いったい……? 著者が愛した作品。
Peach Street Mudders シリーズ(「ピーチストリート・マダーズ」シリーズ)リトルリーグのチーム「ピーチストリート・マダーズ」の子どもたちひとりひとりを主人公にした9冊のシリーズ。試合でのミスジャッジをきっかけにフェアプレーの問題に気づかされる子や、ジンクスを気にしすぎて平常心を失ってしまう子など、子どもが共感を寄せやすいテーマをうまく野球の話にからめて描いている。
彼の作品が日本で未紹介なのは、日本の強力な野球漫画の数々が子どもたちの需要を満たしてきたせいもあるかもしれない。しかし根性やチームワークが強調されがちなそれらの漫画に比べて、マット・クリストファーの作品は、あくまでもひとりの子どもと野球とのつき合いを日常レベルで描いていて、そのさらりとした感触が逆に新鮮だ。いつか野球好きの子どもたちに読ませてあげられたらと思う。
"The Lucky Baseball Bat"の情報をオンライン書店でみる "The Kid Who Only Hit Homers"の情報をオンライン書店でみる "The Hit-Away Kid"の情報をオンライン書店でみる "Shadow Over Second"の情報をオンライン書店でみる |
今回、野球への愛がつまった作品の数々を紹介してきた。「野球っておもしろい」と少しでも思っていただけたら、幸いだ。このほかにも、野球を題材にした作品はたくさんある。機会があれば、今後も紹介していきたい。
この特集を組んでみて、アメリカで、子どもの生活にどれだけ野球が深く関わっているか、子どもにどれだけ野球が愛されているかをあらためて実感した。日本にも、野球好きの子はあまたいる。そんな子どもたちの手に、今回とりあげたような野球をテーマにした本がたくさんいきわたっていってほしいものだ。
●賞速報●★2005年日本絵本賞発表(受賞作の発表は6月11日)★2005年ボローニャ・ラガッツィ賞 ★2004年度ゴールデン・カイト賞 ★2005年度フェニックス賞 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」をご覧ください。 |
●イベント速報● |
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★展示会情報 |
松屋銀座 「ミッフィー展」他 |
★イベント情報 |
倉敷チボリ公園 「H・C・アンデルセン生誕200年祭」他 |
詳細やその他の展示会・セミナー・講演会情報は、「速報(イベント情報)」をご覧ください。なお、空席状況については各自ご確認願います。
(井原美穂/笹山裕子/清水陽子) |
●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ! |
このコーナーでは、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。
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発 行: | やまねこ翻訳クラブ |
発行人: | 井原美穂(やまねこ翻訳クラブ 会長) |
編集人: | 赤塚きょう子/竹内みどり(やまねこ翻訳クラブ スタッフ) |
企 画: |
井原美穂 植村わらび 蒲池由佳 笹山裕子 清水陽子 ないとうふみこ 早川有加 村上利佳 リー玲子 |
協 力: |
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