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●速報●2010年 ニューベリー賞/コールデコット賞/プリンツ賞発表!!
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現地時間の1月18日、アメリカで最も権威ある児童文学賞、ニューベリー賞/コー
ルデコット賞の発表が行われた。これらの賞は、米国図書館協会(ALA: American
Library Association)が、昨年アメリカで出版された子どもの本の中で、最も優れ
た作品に対して贈るものである。
同時に、ヤングアダルト(YA)作品を対象とするマイケル・L・プリンツ賞の発
表も行われた。この賞の主催は米国図書館協会(ALA)のヤングアダルト部門
(YALSA: Young Adult Library Services Association)である。
▼ALA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/
▼YALSA 公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/yalsa/yalsa.htm
各賞の受賞作、およびオナー(次点)は以下の通り。
【ニューベリー賞】(作家対象)
★Winner
"When You Reach Me" by Rebecca Stead (Wendy Lamb Books)
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☆Honor Books(4作)
"Claudette Colvin: Twice Toward Justice" by Phillip Hoose
(Melanie Kroupa Books/Farrar Straus Giroux)
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"The Evolution of Calpurnia Tate" by Jacqueline Kelly
(Henry Holt and Company)
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"Where the Mountain Meets the Moon" by Grace Lin
(Little, Brown and Company Books for Young Readers)
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"The Mostly True Adventures of Homer P. Figg" by Rodman Philbrick
(The Blue Sky Press)
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2010年のニューベリー賞は、Rebecca Stead の "When You Reach Me" が受賞した。
作品の舞台となるのは、作者自身が育ったニューヨークのマンハッタンだ。主人公は、
12歳の Miranda。家族や友達との関係や、環境の変化にも敏感になりつつある多感な
年頃だ。そんな Miranda のもとに送り主不明の謎めいたメモが届くようになった。
しかもメモの主は、Miranda のことばかりか未来の出来事まで知る人物らしい。自ら
や周囲の変化に戸惑いながら、それらを経験して成長していく少女の姿が魅力的な物
語だ。ミステリーやタイムファンタジーの要素も加わって、幅広い読者をひきつける
作品に仕上がっている。
オナーには4作品が選ばれた。Phillip Hoose による "Claudette Colvin: Twice
Toward Justice"(『席を立たなかったクローデット 15歳、人種差別と戦って』渋
谷弘子訳/汐文社)は、2009年全米図書賞児童書部門受賞作品。2010年ロバート・F
・サイバート知識の本賞オナーブックにも選ばれている。1950年代当時、人種差別が
激しかったアラバマ州モントゴメリで、白人女性にバスの席を譲るのを拒んだ15歳の
黒人少女 Claudette Colvin は、後に公民権運動に深くかかわることとなった。児童
向けノンフィクションに定評のある作者が Colvin 本人を中心としたインタビューに
基づいて書いた本書は、勇気ある行動を取った Colvin の姿を浮き彫りにするととも
に、今まであまり語られなかった事実を分かりやすく伝える。
"The Evolution of Calpurnia Tate" は、Jacqueline Kelly の長編デビュー作。
7人きょうだい唯一の女の子として育った Calpurnia は、自然科学に傾倒する祖父
の影響を受け、周囲の自然にいっそう興味を示すようになる。家事を手伝うより、虫
を追うほうが楽しい。祖父を慕う一方、保守的な考えを持つ母には強く反発するが、
やがて、娘の幸せを願う母の気持ちも次第に理解するようになる。自分がやりたいこ
とに情熱を注ぎながら、周りのことにも目を向けられるすてきな女性へと成長してい
く Calpurnia の「進化」から目が離せない。現在、テキサスで暮らす作者のウェブ
サイトでは、作者がイメージするこの作品の世界を写真付きで見ることができて興味
深い。
"Where the Mountain Meets the Moon" は、絵本作家としても活躍する Grace Lin
によるファンタジー。山間の粗末な小屋で、両親とともに貧しい暮らしをしていた少
女 Minli の人生は、父親からある民話を聞いたことをきっかけに大きく変わること
になる。自分にも民話と同じような幸運が訪れることを信じ、美しい金魚を買った
Minli。やがて出会った飛べないドラゴンを伴い、民話になぞらえて、夢をかなえて
くれるという月の老人を探す旅に出た。古典的なファンタジーを思い起こさせる友情
と冒険の物語に中国の民話を交えた、作者ならではの独創的な世界が印象的だ。
"The Mostly True Adventures of Homer P. Figg" は、ベストセラー作家 Rodman
Philbrick による作品。著作 "Freak the Mighty"(『フリーク・ザ・マイティ 勇
士フリーク』斉藤健一訳/講談社)は、1998年、"The Mighty"(『マイ・フレンド・
メモリー』)というタイトルで映画化もされている。本受賞作は、南北戦争の時代を
舞台に、唯一の家族である兄を探すため、戦地へ向かう旅に出た少年の冒険物語。フ
ィクションとして楽しく読めるが、ところどころにちりばめられた真実は、読者に南
北戦争当時の歴史を伝え、物語に深みを加えている。
《参考》
▼ニューベリー賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/alsc/awardsgrants/bookmedia/newberymedal/
newberymedal.cfm
▼Rebecca Stead 公式ウェブサイト
http://www.rebeccasteadbooks.com/
▼Phillip Hoose 公式ウェブサイト
http://www.philliphoose.com/
▼Jacqueline Kelly 公式ウェブサイト
http://www.jacquelinekelly.com/
▼Grace Lin 公式ウェブサイト
http://www.gracelin.com/
▼Rodman Philbrick 公式ウェブサイト
http://www.rodmanphilbrick.com/
▽ニューベリー賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/newbery/index.htm
(平野麻紗)
【コールデコット賞】(画家対象)
★Winner
"The Lion and the Mouse" by Jerry Pinkney
(Little, Brown and Company Books for Young Readers)
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☆Honor Books(2作)
"All the World" illustrated by Marla Frazee, written by Liz Garton Scanlon
(Beach Lane Books)
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"Red Sings from Treetops: A Year in Colors"
illustrated by Pamela Zagarenski, written by Joyce Sidman
(Houghton Mifflin Books for Children, Houghton Mifflin Harcourt)
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2010年コールデコット賞を受賞した Jerry Pinkney。これまでに多くの作品を世に
送り出し、数々の賞にも輝いた米国を代表する画家が、実力を見せつける結果となっ
た。受賞作品の "The Lion and the Mouse" は2009年度ニューヨークタイムズ・ベス
トイラスト賞も受賞し、高い評価を得た作品である。彼が描いたのは、イソップ寓話。
大胆な構図と繊細な描写による絵が、生き生きと雄弁に語りかけてくる、文字のない
絵本である。アフリカを舞台に、百獣の王ライオンと小さな母ねずみが表情豊かに描
き出され、情感にあふれている。読み手は心の中で、ストーリーを膨らませながら、
隅々まで絵の力を堪能してほしい。迫力のある絵に圧倒されるだろう。
今年のオナー作品は2冊が選ばれた。"All the World" は、白く流れる雲と果てし
なく高い空、そして、それらを映す青い海が広がり、さわやかに始まる。風の流れる
方向も感じられそうな絵で、私達の住む世界の美しさを描き出す。画家の Marla
Frazee は、ゆったりと流れる時間の中に、ありのままの人々の姿を生き生きと描く
ことで、今というときのすばらしさを際立たせている。柔らかな色合いが日々の暮ら
しの中の幸せを引き出し、Liz Garton Scanlon の詩とともに読者を温かい気持ちに
してくれる。大切なものはすべてこの世界にある。かけがえのないものや、たくさん
の幸せを感じさせてくれる作品だ。
"Red Sings from Treetops: A Year in Colors" は、「わたし」が四季折々の色に
出会い心躍らせるお話。作者の詩人 Joyce Sidman は、生活の中で見つける色によっ
て自身も大きく影響を受けると語っている。日々の生活の中から季節を感じ取れる色
を探せば、自然は多くの色を映し出していることに気づかされる。読み手は、しばし
絵本の中に入り込み、主人公とともに自然を存分に楽しむことだろう。画家の
Pamela Zagarenski のやさしい絵は、赤い鳥に導かれるように「わたし」が見つける
季節の色を、リズミカルな言葉にのせて歌うように、奏でるように描いている。目の
前に広がる美しい四季、自然の息づかいを感じさせてくれる絵本だ。
今年選ばれた作品は、すべて、自然のすばらしさを、また美しさを存分に感じられ
るものとなった。
《参考》
▼コールデコット賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/alsc/caldecott.html
▼Jerry Pinkney 公式ウェブサイト
http://www.jerrypinkneystudio.com/frameset.html
▼Jerry Pinkney 紹介ページ(Artcyclopedia 内)
http://www.artcyclopedia.com/artists/pinkney_jerry.html
▼Marla Frazee 公式ウェブサイト
http://www.marlafrazee.com/
▼Liz Garton Scanlon 公式ウェブサイト
http://www.lizgartonscanlon.com/
▼Pamela Zagarenski 紹介ページ (At the gallery 内)
http://www.atthegallery.com/artists/zagarenski.html
▼Joyce Sidman 公式ウェブサイト
http://www.joycesidman.com/
▽コールデコット賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/caldecot/index.htm
▽ジェリー・ピンクニー主要作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/p/jpinkn_j.htm
(三好美香)
【プリンツ賞】(YA作品対象)
★Winner
"Going Bovine" by Libba Bray (Delacorte Press)
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☆Honor Books(4作)
"Tales of the Madman Underground: An Historical Romance, 1973"
by John Barnes (Viking Children's Books)
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"Punkzilla" by Adam Rapp (Candlewick Press)
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"Charles and Emma: The Darwins' Leap of Faith" by Deborah Heiligman
(Henry Holt Books for Young Readers)
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"The Monstrumologist" by Rick Yancey
(Simon & Schuster Books for Young Readers)
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前年アメリカ合衆国で出版された、優れたYA作品に贈られるプリンツ賞。受賞し
たのは Libba Bray の "Going Bovine" だ。主人公の Cameron は16歳。家でも学校
でもパッとせず、惰性で生きていた。ところがある日、クロイツフェルト・ヤコブ病
にかかっていることが判明して余命わずかと宣告され、彼の世界は一変する。突然現
れたパンクファッションの天使に導かれ、心気症でゲームおたくの小人とともに旅に
出ることになる。その目的は、世界を滅亡させる能力の持ち主で、Cameron の病気も
治せるという謎の物理学者を見つけることだ。この奇妙な冒険の行きつく先はどこな
のか? そもそもこの冒険は、現実なのか、それとも幻覚のなせるわざなのか? ヴ
ィクトリア朝時代のダークファンタジー3部作 "The Gemma Doyle Trilogy" で人気
の作家 Bray が、その作風をガラリと変え、生と死、生きる意味など人間が抱く根源
的な問題を、奇想天外な設定のもと、ユーモアに包んで描いた作品だ。
本年度のオナーには4作品が選ばれた。"Tales of the Madman Underground: An
Historical Romance, 1973" は、主人公 Karl が高校4年生になった最初の6日間を
描いている。Karl が年度初めに立てた目標は「普通」になること。だがアルバイト
は5つも抱えているし、母親はアルコール中毒だし、前途多難だ。毎年受講させられ
ている、問題のある生徒用のグループセラピー Madman Underground もやめたいが、
親友を含む Madman メンバーとの友情は捨てがたく……。多数のSF小説を世に送り
出している作者 Barnes 初のYA作品は、500ページを超える力作で、ティーンエイ
ジャーの普遍的な悩みをしっかりと取り上げている。
"Punkzilla" は、14歳の少年が死に瀕している兄に会いに行く道中を描いた作品だ。
Punkzilla と呼ばれている主人公の Jamie は、ミリタリースクールを脱走し、路上
でその日暮らしをしていた。そんな Punkzilla が旅の途中で出会った人々の姿を兄
に手紙で報告する形で物語は進み、少年の成長と、厳しさと希望が同居する現実が、
余すことなく描かれている。作者 Rapp の作品では "Little Chicago" が邦訳されて
いる(『きみといつか行く楽園』代田亜香子訳/徳間書店)。
2009年全米図書賞児童書部門ファイナリストにも選ばれた "Charles and Emma:
The Darwins' Leap of Faith" は、『種の起源』を著したチャールズ・ダーウィンと
その妻エマの伝記である。Heiligman は、神が世界を造ったと信じる信仰の篤いエマ
と、進化論を提唱したダーウィンの相容れない部分も含め、手紙や日記など豊富な資
料に基づき、エマがダーウィンに与えた影響や夫婦間の愛を描いている。ヴィクトリ
ア朝時代の日常生活の記述も興味深い。
4冊目の "The Monstrumologist" は血も凍るゴシックホラー小説だ。18世紀初頭、
12歳の孤児 Will は、モンスターを研究する "Monstrumologist" の Dr. Pellinore
のもとで、弟子として暮らしていた。シリーズ第1巻となる本書では、ある夜、墓泥
棒が世にも恐ろしいモンスターを見つけたことから始まる、Will の悪夢のような冒
険が語られる。よく練られたプロットとしっかり作りこまれたキャラクターで読者を
引き込み、ホラーファンを裏切らない恐怖を味わわせてくれる作品だ。作者 Yancey
の邦訳作品には、2005年カーネギー賞ロングリストにも選ばれた "The
Extraordinary Adventures of Alfred Kropp"(『アルフレッド・クロップの奇妙な
冒険』堺三保訳/ソフトバンククリエイティブ)がある。
《参考》
▼プリンツ賞公式ウェブサイト
http://www.ala.org/ala/mgrps/divs/yalsa/booklistsawards/printzaward/Printz.cfm
▼Libba Bray 公式ウェブサイト
http://www.libbabray.com/
▼Deborah Heiligman 公式ウェブサイト
http://www.deborahheiligman.com/
▼Rick Yancey 公式ウェブサイト
http://www.rickyancey.com/
▽マイケル・L・プリンツ賞受賞作リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/us/printz/index.htm
(佐藤淑子) |