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※11月は休刊いたします。次回は12月号です。どうぞお楽しみに!

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2019年10月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.195
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2019年10月15日発行 配信数 2490 無料
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●2019年10月号もくじ●
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◎やまねこカフェ:第13回 国内レポート ムーミン邦訳[新版]刊行中!
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第72回 地中海沿岸でおなじみの薄いパン 〜ピタ〜
◎9月号「読者プレゼント」当選者発表!
◎読者の広場

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●やまねこカフェ●第13回 国内レポート ムーミン邦訳[新版]刊行中!
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  〜ムーミンに新たな生命を――[新版]にかける思い
             スウェーデン語翻訳者・畑中麻紀さんに聞く〜

 ムーミンの名を知らない人はいないだろう。キャラクターグッズやアニメが大人気
だが、それらの原典である読み物や絵本を手に取ったことはあるだろうか。スウェー
デン語系フィンランド人(※1)作家トーベ・ヤンソン(1914〜2001)が世に送り出
したムーミンの作品群は、これまでに50以上の言語に翻訳され、本国フィンランドは
もとより世界中で愛されている。
 2019年は、ムーミン邦訳が初めて出版されてから55周年に当たる年。記念すべきこ
の年に、訳文や装丁をリニューアルしたムーミン「新版」の刊行が講談社より開始さ
れ、注目を集めている。「新版」の訳文は、いわゆる新訳ではなく、既存の訳文を生
かしつつ改訂を加えたもの(※2)。今回、その改訂作業に携わっているスウェーデ
ン語翻訳者・畑中麻紀さんに、貴重なお話をうかがうことができた。お忙しいところ、
また8月の猛暑の中、快くインタビューに応じてくださった畑中さんに、心から感謝
いたします。

※1:フィンランドではフィンランド語とスウェーデン語の2つが公用語。両言語は
系統が異なり、互いにまったく似ていない。
※2:過去に「新装版」も刊行されているが、これは旧訳のまま装丁が変わったもの。
訳文が改訂された今回の「新版」とは違うので注意。

【畑中麻紀(はたなか まき)さん】
+――――――――――――――――――――――――――――――――――――+
|神奈川大学外国語学部英語英文学科卒。ムーミンとの出会いがきっかけとなりス|
|ウェーデン語を習得。訳書に、評伝『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』|
|(ボエル・ウェスティン著/森下圭子共訳/講談社)がある。神奈川県在住。 |
|ツイッターアカウント https://twitter.com/makimumin           |
+――――――――――――――――――――――――――――――――――――+

〈ムーミン[新版]のあらまし〉

――ムーミンの本といっても、さまざまな作品がありますね。今回、訳文に改訂が施
された新版が出るのは、どの作品でしょうか。

【畑中さん】(以下、【畑】):講談社から出ている読み物9作と、絵本3作です。
(※注:本記事の最後に、新版が刊行される作品の一覧を掲載しています)読み物は、
これまで出ていたハードカバーの「ムーミン童話全集」が、ソフトカバーの「ムーミ
ン全集新版」に順次置き換わっていき、電子書籍も出ます。また、既存の青い鳥文庫
版と講談社文庫版の訳文も、ゆくゆくは改訂後のものに差し替えられると聞いていま
す。

――新版12作はいずれも、トーベ・ヤンソン自身が文と絵の両方を手がけた作品です
ね。

【畑】:はい。読み物にもすばらしい挿絵がついています。トーベは自らのことを、
何よりもまず画家であると考えている人でした。ムーミンの作品群にはほかにも写真
絵本やコミックスがあり、トーベの弟たちが関わっているものもあるなど、バラエテ
ィ豊かです。

――畑中さんが改訂作業に取り組んでいるのは、12作のうちどの作品ですか?

【畑】:読み物のうち、8作です。読み物の1作と絵本3作は、それぞれを翻訳され
た冨原眞弓さん、渡部翠さんが、ご自身で手を入れていらっしゃるそうです。わたし
の担当分は、表紙などの訳者名はもとの訳者さんのお名前で、わたしの名前は奥付に
「翻訳編集」として載せていただいています。ムーミンの邦訳は複数の翻訳者が手が
けていますが、今回の新版は、もとの訳者さんがご存命でない作品の改訂を、わたし
が担当した形です。担当8作のうち、今年の3月から8月までに4作が刊行されまし
た。残りは来年出る予定です。

〈ムーミン、そしてトーベ・ヤンソンとの出会い〉

――ムーミンとの出会いについて、くわしく聞かせてください。

【畑】:最初は70年代の和製テレビアニメでした。5歳のころです。本は、コミック
スの邦訳を見た覚えがあるのですが、読み物の存在は知りませんでした。原作の本と
出会ったのは小学6年生のとき、横浜市立戸塚図書館でのことです。当時、仲良し4
人組でバスに乗り、図書館へ通うのを楽しみにしていたんです。

――本が好きな子だったんですね。

【畑】:本好きになったきっかけは、小学3年生のころ、友だちの家に本がいっぱい
あって、貸してもらっていたことでした。とはいえ、ものすごくたくさん読んでいた
わけではなく、わたしより読書量の多い子はいたと思います。ただ6年生のとき、学
校で読書記録カードを渡されて、よし、100冊読んでやろう、と決めたんですね。そ
れまで得意なことが何もなかったけれど、これだけはやろうと。
 そんなわけで次に読む本を探していて、戸塚図書館の棚でたまたま目についたのが、
ムーミンの読み物のシリーズでした。当時講談社から「トーベ=ヤンソン全集」とし
て出ていたものです。昔テレビで見たアニメだと思って手に取ったら、アニメとはま
ったく違う繊細な線の挿絵で、ひきつけられました。最初に借りたのは『ムーミン谷
の彗星』でしたが、「彗」の字がかっこいいと思って選んだんです(笑)。

――地球に衝突するかもしれない危険な彗星のことを調べようと、ムーミントロール
が仲間とともに遠くの天文台へ旅する話ですね。

【畑】:読んでみたらおもしろくて夢中になり、シリーズの作品を次々と借りてすぐ
に全作読破してしまいました。実はそのころ、「メアリー・ポピンズ」シリーズは好
きだったのですが、ほかの翻訳ものは読みにくいと感じ、あまり読んでいませんでし
た。でもムーミンは、読みやすいと思ったんです。さらに同じ作者の『少女ソフィア
の夏』(講談社)を見つけて読み、すっかり魅了されました。

――トーベ・ヤンソンが姪のソフィアをモデルに、少女と祖母が島で過ごす夏の日々
を描いた、一般向けの短編集ですね。

【畑】:はい、いまは渡部翠さん訳で出ていますが、当時の本は『ムーミンパパ海へ
いく』などの翻訳も手がけた小野寺百合子さんの訳でした。言葉の力がすごいと思っ
たんですね。自分も登場人物と一緒に島にいるように感じられて。そっけないくらい
淡々として、哲学的で、なんてかっこいい本だろうと感動しました。そして、訳者あ
とがきで原書はスウェーデン語と知り、心に残った文章が原文ではどんなふうに書い
てあるのかなと興味を持ったんです。わたしの父はスペイン語学科卒で、そのせいか
外国語に抵抗を持たずに育ったので、自然とそんな興味がわいたのかもしれません。

〈スウェーデン語を学びたくて〉

――スウェーデン語はどのようにして習得されたのでしょうか。

【畑】:進路について考えていた高校生のとき、父の勧めもあり、東京のスウェーデ
ン大使館にどこで言葉が学べるか問い合わせをしました。いただいた回答で、都内の
スウェーデン社会研究所の講座と、スウェーデンのウプサラ大学で行われるサマーセ
ッションを紹介されたので、スウェーデン語は大学に入ってからそういう場所で学べ
ると思い、進学先は英語の学科を選びました。1986年、大学1年の9月から、スウェ
ーデン社会研究所の週1回の講座に通い始めました。受講生は、仕事で赴任する人な
ど実用で語学が必要な大人ばかりで、そこへ学生が入ったので、かわいがっていただ
きましたね。先生のひとりが、当時NHKのラジオジャパンの仕事で日本に住んでい
たトーマスというスウェーデン人男性で、彼にはいまでも翻訳に関して助けてもらっ
ています。この講座には断続的に90年代の半ばごろまで通いました。

――スウェーデンを初めて訪れたのは?

【畑】:大学3年の夏休みに、ウプサラ大学での語学サマーセッションに参加しまし
た。旅行の計画を立てる中で隣国のフィンランドへも行くことにしたので、ひょっと
してトーベに会えないかと考えたんです。トーマス先生に相談したら、フィンランド
の文学協会の連絡先を調べてくれ、先生に見てもらいながらトーベ宛の手紙をなんと
かスウェーデン語で書いて、文学協会気付で出しました。すると翌月、なんと本人か
ら直筆の返事が届いたんです! わたしがフィンランドへ行くころはバカンスでスペ
インにいるので会えないという内容でしたが、わたしが好きだと書いた『ムーミンパ
パ海へいく』『少女ソフィアの夏』には本当に言いたいことを詰め込んであります、
ともあって、感激しました。もちろん手紙はいまでも大切に取ってあります。

〈翻訳への道のり〉

――スウェーデン語の翻訳を考え始めたのはいつごろですか?

【畑】:ウプサラ大学での講座に行ったとき原書を買い込んできたものの、おばあち
ゃんになったころ読めたら、くらいの気持ちで、まだ翻訳までは考えていませんでし
た。大学卒業後は一般企業に就職し、仕事で多少はスウェーデンと関わりがあったの
ですが、体を壊してしまって。元気になってきたとき、もう一度スウェーデン語をき
ちんとやろうと決め、その後はネット上のスウェーデン語記事を読むなどしていまし
た。2004年に、翻訳者ネットワーク「アメリア」に入会。アメリアでは新聞記事の翻
訳を受注したほか、一度、絵本翻訳のトライアルがあって応募したのですが、2次選
考で落ちてしまい、不採用でした。そのとき、力不足を痛感しつつも、ものすごくく
やしかったんです。それで、自分は本当に翻訳がやりたいんだとあらためて認識しま
した。

――転機が訪れたのは?

【畑】:トーマス先生の力が大きかったです。彼は現在スウェーデンの放送局で仕事
をしていて、2013年に、スウェーデンを訪れた日本人の取材を担当しました。福島の
原発事故関連でしたが、その取材記事をわたしに見せてくれたんです。そこで記事に
試訳をつけ、さらに、取材を受けたかたのブログを見つけて連絡を取ったところ、ネ
ット上でわたしの訳文が公開される機会に結びつきました。あのとき、調べ物も含め
て翻訳っておもしろいと実感しました。

――そこからどのようにしてトーベ・ヤンソンとムーミンにつながったのでしょう。

【畑】:2014年の年明けのことですが、この年はトーベの生誕100周年で、関連記事
がスウェーデンの新聞に載っていると、やはりトーマス先生が教えてくれたんです。
それを訳してみたんですね。ちょうどそのころ、ライターの萩原まみさんとフェイス
ブックでつながりました。萩原さんは現在「ムーミン公式サイト(※)」でブログを
連載中のかたです。さらに萩原さんを通じて、わたしの訳文が講談社のムーミン担当
(当時)編集者・横川浩子さんの目に触れる機会がありました。すると横川さんが、
スウェーデン語で書かれたトーベの評伝の邦訳を準備中なのだが、辞書のような原書
のボリュームに加えて内容も濃く難航しているので手伝ってもらえないか、と声をか
けてくださったんです。
             (※)ムーミン公式サイト https://www.moomin.co.jp/

――その本が、2014年11月に出版された『トーベ・ヤンソン 仕事、愛、ムーミン』
(ボエル・ウェスティン著/森下圭子共訳)ですね。

【畑】:はい。出版翻訳はまったくの未経験でしたし、原書は500ページほどの分厚
い本です。どうしようと思いましたが、失うものは何もないし、横川さんの、「率直
にいって、ある意味『賭け』になるご依頼ですが、新聞記事の訳文を拝読して『大丈
夫!』と確信しましたから」という一言で気が楽になり、試訳を提出してOKをもら
った上でお引き受けしました。共訳者の森下圭子さんが前半、わたしが後半を訳すと
いう分担で、森下さんはフィンランド在住なのでメールでやりとりしました。このと
きの調べ物でトーベとムーミンに関する資料をたくさん読み、バックグラウンドが頭
に入ったことが、ムーミン新版の仕事で役立っています。

〈新版の改訂作業に取り組んで〉

――新版の話があったのはいつごろだったのでしょうか。

【畑】:2017年の秋に講談社から打診されました。日本とフィンランドの外交関係樹
立100周年に当たる2019年には改訂新版を出したい、という意向があったようです。
 最初に「新訳ではなく改訂で、申し訳ないけれど表紙に名前は載らない」という話
がありました。でも、わたし自身が旧版を読んで育ったので、そこから完全に離れる
新訳となると、逆にむずかしい面もあります。生きている間に、新しくなったムーミ
ンが出るとは思わなかったのでうれしかったし、ほかの人に渡したくない、これをや
らないなら何のために生きているの、という気持ちになり、引き受けることにしまし
た。一から新しく訳していたら10年経ってもできないかもしれないし、10年後にこの
話が来たとしても、そのときの自分の体力や環境ではもう対応できないかもしれない。
10年前の自分にはまだできなかった。そう考えたら、絶妙なタイミングでお話をいた
だいたと思ったんです。実際に作業していて、子どもの本の翻訳に携わる人間として
は夢のような、ぜいたくな経験をさせてもらっていると感じています。

――改訂の作業はどのように進めていますか?

【畑】:準備として、ケストナー作品や『星の王子さま』など、複数の翻訳がある作
品を読み比べました。作業は、まず旧版の訳文を参考にしながら、どの作品も自分な
りに全文を訳します。そして、この時点で調べ物や検討を、できる限りやりつくすよ
うにします。この「改訂案訳」の訳文はそのまま使われるわけではないけれど、後悔
したくないので全力を出しきろうと思い、こういう方法を採っています。今回の新版
は、すべてスウェーデン語原書の最終版を底本としているのが特徴ですが、この作業
をしていると、旧版のここは英訳をベースにしたようだと気づいたり、もとの訳者さ
んの偉大さをあらためて感じたりします。現在「改訂案訳」は、来年春に新版刊行予
定の7冊め、『ムーミンパパ海へいく』の分を作成中です。わたしの担当分だけでも
1年半ほどの間に8冊刊行なので、スケジュールはかなりタイトですね。
 この「改訂案訳」を終えたあと、講談社からいただいた旧版の訳文のワードデータ
に、コメント欄を使って改訂を加えていきます。改訂の根拠や関連資料の説明がコメ
ント欄では収まりきらないものは、別途、エクセルで「解説ファイル」を作成します。
また、校正作業も、わたしはゲラに直接書き込まず、エクセルで修正箇所の一覧表を
作成して送ります。校正の時点でも要調査項目が出てくるので、「解説ファイル」に
項目を追加していき、編集者のかたと共有します。刊行スケジュールがぎちぎちに詰
まっているので、効率をなんとか上げようと始めた方法ですが、いろいろと手探りで、
作業しながらやりかたや方針が定まってきた感じですね。

――改訂ではどんなことに気をつけていますか?

【畑】:わたし自身は声高にならずに、もとの訳者さんのカラーを尊重しつつ、全体
の統一感に気を配りながら、子どものころわかりにくいと感じた箇所を中心に手を入
れています。どの程度手を入れるかは講談社が舵取りしてくれますが、お互いに納得
するまで協議します。1冊めの『ムーミン谷の彗星』では、当初、方向性がなかなか
定まらず、第1章の原稿を7回提出しました。候補となる言葉を複数出して選んでも
らうのが基本です。講談社では、ムーミンを読んでいない若い社員に意見を聞くこと
もあるそうです。
 そのほか、もとの訳者さんのご遺族の意向、古くからの愛読者の思いなど、気をつ
かう点は多いですね。登場人物名はほとんど変えていません。たとえば「スナフキン」
は英訳の言い方を借りたもので、スウェーデン語では「スヌスムムリク」なのですが、
すでに定着しているのでそのままにしています。

――新版では全体として現代的な表現に変わっている印象です。

【畑】:旧版の「しょうがビスケット」を新版で「ジンジャークッキー」に変えるな
どしました。ただ、すべてカタカナにしたわけではありません。旧版で「スーツケー
ス」と訳されていたのを「旅行かばん」に変えた例もあります。この変更は、挿絵と
の兼ね合いが理由のひとつです。シリーズを通して挿絵に描かれているかばんの形が、
日本語でスーツケースと言ったとき思い浮かべるものとは違うと判断し、言葉を変え
ました。また、文章の歯応えは必要だと思うので、少しむずかしい言葉をあえて残し
ている場合も多いです。

――訳語を選ぶために工夫していることはありますか?

【畑】:原書をトーベ自身が朗読しているオーディオブックがあるので、家事をしな
がらそのとき作業中の箇所を聞いています。あいさつの言葉ひとつ取っても、声が半
泣きだとか、きっぱり言い切っているとか、ニュアンスがわかって参考になります。

――新版にかける思いを聞かせてください。

【畑】:講談社とともに、50年経っても売ることのできる本をつくろう、という気持
ちで取り組んでいます。今回の新版を読んだ子どもたちのだれかが、大人になってバ
トンを引き継いでくれ、将来さらなる改訂版や新訳を出してくれたらうれしいですね。

――読者へのメッセージをお願いします。

【畑】:ムーミンの魅力は、架空の生き物を登場させながら究極的には人間の本質を
描いていて、普遍性があるところだと思います。未読のかたは一度本を手に取ってみ
てください。ムーミンの作品群は長い歳月をかけて少しずつ書かれたため、作品ごと
に文の雰囲気も挿絵の感じも違います。物語も連続していないので、どの本から読ん
でもかまいません。直感でピンときた作品をどうぞ。トーベは「余白の人」です。彼
女の作品に余計な説明はありません。たとえば、『ムーミン谷の冬』に登場する恐ろ
しくも美しい「氷姫」の姿は、挿絵に一切描かれておらず、読者の想像に任されてい
ます。自分で考えながら何度も読み、味わうことができる、それをぜひ楽しんでほし
いと思います。

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 トーベ・ヤンソンの評伝の邦訳を準備しているとき、何かが思いがけずうまくいく
と、「トーベの采配だね」と関係者同士で喜び合った、と語ってくれた畑中さん。そ
んな畑中さんが新版を任されたのも、まさしく「トーベの采配」に違いない――そう
確信した、熱気あふれるインタビューでした。

●新版が刊行されるトーベ・ヤンソン作/ムーミンの本(読み物・絵本)一覧●
・いずれも、文・絵ともにトーベ・ヤンソン。
・出版社はすべて講談社。
・★は畑中麻紀さんが改訂作業に携わっている作品。
・*は2019年10月までに新版が刊行済みの作品。

読み物「ムーミン全集新版」(全9巻)
1『ムーミン谷の彗星』下村隆一訳(新版 2019.3)★*
2『たのしいムーミン一家』山室静訳(新版 2019.6)★*
3『ムーミンパパの思い出』小野寺百合子訳(新版 2019.6)★*
4『ムーミン谷の夏まつり』下村隆一訳(新版 2019.8)★*
5『ムーミン谷の冬』山室静訳(新版 2020.2予定)★
6『ムーミン谷の仲間たち』山室静訳(新版 2020春予定)★
7『ムーミンパパ海へいく』小野寺百合子訳(新版 2020春予定)★
8『ムーミン谷の十一月』鈴木徹郎訳(新版 2020夏予定)★
9『小さなトロールと大きな洪水』冨原眞弓訳(新版 2020夏予定)

絵本「新版 トーベ・ヤンソンのムーミン絵本」(3作)
『ムーミン谷へのふしぎな旅』渡部翠訳(新版 2019.3)*
『さびしがりやのクニット』渡部翠訳(新版 2019.4)*
『それからどうなるの?』渡部翠訳(新版 2019.6)*

                          (取材・文/古市真由美)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2019年全米図書賞児童書部門ファイナリスト発表
                     (受賞作品の発表は11月20日の予定)

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 安曇野ちひろ美術館
  「ちひろ美術館コレクション
          国交樹立100周年記念 ポーランド、フィンランドの絵本原画」
 刈谷市美術館「『ねないこだれだ』誕生50周年記念 せなけいこ展」 など

★講座・講演会情報
 丸善・丸の内本店
 「『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』刊行記念
        金原瑞人さん×三辺律子さん×オザワミカさん トーク&サイン会」
 アネックス パル法円坂「イヒョン 作家講演会」 など

★イベント情報
 朱鷺メッセ「絵本ワールドinにいがた2019」 など

 詳細やその他のイベント情報は、「児童書関連イベント情報掲示板」をご覧くださ
い。なお、空席状況については各自ご確認願います。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

                          (山本真奈美/冬木恵子)

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●お菓子の旅●第72回 地中海沿岸でおなじみの薄いパン 〜ピタ〜
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A midi, les autres ont sorti de leurs sacs des pitas et des fruits.
Moi, je n'avais rien pris a manger, et je n'avais pas d'argent sur moi.
           "Une bouteille dans la mer de Gaza" by Valerie Zenatti
                         l'ecole des loisirs (2005)
            『瓶に入れた手紙』
             ヴァレリー・ゼナッティ作/伏見操訳/文研出版/2019
※「A midi」の「A」、「a manger」の「a」の上にそれぞれ(`)がつく
 「Valerie」と「l'ecole」のそれぞれ1つめの「e」の上に(´)がつく
*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 タルはエルサレムに住むユダヤ人の少女です。家のすぐ近くで自爆テロが起きたこ
とにショックを受け、悩んだすえ、パレスチナのだれかに手紙を送ることを思いつき
ました。手紙を瓶につめ、ガザ地区で兵役についている兄に渡し、海に投げてくれる
よう頼みます。その後、手紙を見つけたパレスチナ人の青年からメールが届き、ふた
りのあいだでメールのやりとりが始まります。
 青年は以前、テルアビブまで働きにいっていたことがありました。テルアビブとガ
ザの距離は70キロほどですが、ガザから行くには検問所を通らなければなりません。
初めて働きにいった日、朝3時に起きて、検問所で2時間列に並びました。お昼にな
ると、ほかの人たちは持ってきたピタパンのサンドイッチや果物を取り出しましたが、
青年は何も食べるものを持ってきていません。お金もありませんでした。引用したの
はその場面です。
 ピタパンは主に中近東で食べられている平たい円形のパンのこと。「ピタ」とはヘ
ブライ語でアラブのパンという意味で、イタリアのピッツァの語源になったとも言わ
れています。紀元前6000年ごろ、小麦を粉にして水を混ぜ、薄く焼いて食べていたの
が原形とされているようです。二つに切って、空洞になっている中に、肉や野菜、フ
ムス(ひよこ豆のペースト)などを入れて、サンドイッチにして食べます。
 さて、お昼に食べるものを持ってこなかった青年はどうなったのでしょうか? そ
して、タルと青年はこのあとどうなるのでしょう?

*-* ピタの作り方 *-*
                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)
材料(6個分)
 強力粉          110g+55g   パン用全粒粉         55g
 ドライイースト       小さじ1   砂糖          大さじ1/2
 食塩            小さじ1   オリーブオイル      大さじ1
 ぬるま湯(40度くらい)    160cc   打ち粉用強力粉        適量

1.ぬるま湯にドライイーストと砂糖を入れ、泡立て器で混ぜて溶かしてから、強力
  粉55gを加え、だまがなくなるまで泡立て器でかき混ぜる。残りの強力粉と全粒
  粉、塩、オリーブオイルを加え、菜箸で生地をぐるぐると混ぜ合わせ、ひとかた
  まりになったら、10分くらい手でよくこねる。
2.耐熱樹脂ボウルに生地を移し、生地の上にクッキングペーパーを軽く乗せ、電子
  レンジ弱(150〜200W)で30秒加熱する(一次発酵終了)。
3.打ち粉をしたまな板に生地を取り出し、手で軽く押さえてガスを抜き、放射状に
  6等分に切る。切り口を内側に巻き込むように丸く形を整える。クッキングペー
  パーをかぶせ、その上に固く絞ったぬれ布巾をかけ、そのまま10分ほどおく。
4.上から軽く押さえてガスを抜き、再び丸める。まな板のあいている場所にたっぷ
  り打ち粉をして、ひとつずつめん棒で直径15cmの円形にのばし、クッキングペー
  パーを敷いた天板に並べる。乾いた布巾を上にかけて25分おく。ふちが軽く膨ら
  んだら二次発酵終了。
5.230度に予熱したオーブンで7分、全体が膨らむまで焼く。膨らんだらすぐに取
  り出し、網の上で冷ます。粗熱が取れたら半分に切る。

★参考図書・ウェブサイト
『エキゾチックなパン』(中道順子著/グラフ社)
『おうちで作る世界のパン』(パンシェルジュ検定運営委員会編集/実業之日本社)
『村上祥子の電子レンジ30秒発酵! おうちでらくらく40分で焼きたてパン』(村上
祥子著/ブックマン社)
イスラエル料理 レシピ「手軽に作れるピタパン」 B.F.P.Japan
https://www.bfpj.org/know/recipe/?id=32
ピタパン特集vol.1〜中近東発祥のパン〜 株式会社カメリヤ
https://camelia.co.jp/magazine/book/5
つくってみた。(「お菓子の旅」のお菓子を作ってみたレポート)
http://tsukuttemita.jugem.jp

お菓子の話題は喫茶室掲示板へどうぞ。
★「やまねこ翻訳クラブ喫茶室掲示板」
http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=kissa

                              (赤塚きょう子)

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●9月号「読者プレゼント」当選者発表!●
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 本誌9月号の「読者プレゼント」に、たくさんのご応募をいただきありがとうござ
いました。厳正なる抽選の結果、下記の方が当選されました。

◎本『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』
                    (翻訳者の服部理佳さんのサイン入り)

             ★☆★ Incisorさん ★☆★

◎DVD『ヘイト・ユー・ギブ』(吹替翻訳者の瀬尾友子さんのサイン入りカード付き)

             ★☆★ りりさん ★☆★

 Incisorさん、りりさん、おめでとうございます!
 当選されたおふたりには、本と DVD をそれぞれお送りしました。

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、各種のインターネット書店で簡単に参照していただけます。
こちらの「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm
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           ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・

 詳細は10日ごろ、出版翻訳ネットワーク内「やまねこ翻訳クラブ情報」のページに
掲載します。どうぞお楽しみに!
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 やまねこ翻訳クラブ( yagisan@yamaneko.org )までお気軽にご相談ください。

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●編集後記●次号12月号では、今年で22回目となる「やまねこ賞」をお届けいたしま
す。来月に投票が行われ、受賞作品が選ばれます。結果について詳しくお伝えいたし
ます。編集部は11月はお休みをいただき、次号に向けて準備を進めたいと思います。
どうぞお楽しみに!(み)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 三好美香/森井理沙/平野麻紗(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 赤塚きょう子 尾被ほっぽ かまだゆうこ 蒲池由佳 小島明子 名倉ゆり
    冬木恵子 古市真由美 安田冬子 山本真奈美
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
    ayo ながさわくにお ラッテ りり
    html版担当 shoko
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