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2022年4月号
   =====☆                    ☆=====
  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
   =====☆   ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ☆=====
                                No.212
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org                         
編集部:mgzn@yamaneko.org     2022年4月15日発行 配信数 2480 無料
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●2022年4月号もくじ●
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◎プロに訊く:第40回 愛甲恵子さん(翻訳家)/三島絵美さん(編集者)
◎プロに訊く連動レビュー:『ボクサー』ハサン・ムーサヴィー文・絵/愛甲恵子訳
◎賞情報:2022年カーネギー賞ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト発表
◎賞速報
◎イベント速報
◎お菓子の旅:第77回 紀元前から伝わる冷たいデザート 〜ファールーデ〜
◎3月号「読者プレゼント」当選者発表!
◎読者の広場

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●プロに訊く●第40回 愛甲恵子さん(翻訳家)/三島絵美さん(編集者)
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 今回ご登場いただくのは、イランの絵本『ボクサー』(ハサン・ムーサヴィー文・
絵/トップスタジオHR)を翻訳された愛甲恵子さんと、この作品の翻訳出版を企画し
刊行を実現させた三島絵美さんです。2019年ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)
グランプリ受賞作である本作を日本の読者に届けてくださったおふたりに、お話をた
っぷりうかがいました。お忙しいところ、快くオンラインでのインタビューに応じて
くださった愛甲さんと三島さんに、心から感謝いたします。

【愛甲恵子(あいこう けいこ)さん】
 ペルシャ語翻訳家。東京外国語大学大学院修士課程修了。イラン留学後、2004年か
ら美術家フジタユメカ氏と組んだユニット〈サラーム・サラーム〉で活動、展覧会開
催などを通じてイランの絵本やイラストレーターの紹介に努める。手がけた作品に、
翻訳を担当した『ごきぶりねえさんどこいくの?』(M・アーザード再話/モルテザ
ー・ザーヘディ絵/ブルース・インターアクションズ)、再話を担当した『2ひきの
ジャッカル』(アリレザ・ゴルドゥズィヤン絵/玉川大学出版部)などがある。
 サラーム・サラーム ウェブサイト http://www.salamx2.com/

【三島絵美(みしま えみ)さん】
 編集プロダクションである株式会社トップスタジオに勤務、編集や英日翻訳に携わ
る。イランの絵本を邦訳出版する企画を社内で立ち上げ、子会社である株式会社トッ
プスタジオHRにて2021年11月に『ボクサー』の刊行を実現させた。本書は「世界と出
会う絵本」シリーズの第一弾でもある。
 トップスタジオHR ウェブサイト https://topstudiohr.jp/
 みしまえみさん note https://note.com/emishimaemi

【愛甲恵子さん訳書リスト】
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/ls/kaiko.htm

【愛甲恵子さん・三島絵美さんインタビュー ロングバージョン(拡大版)】
http://www.yamaneko.org/bookdb/int/kaiko-emishima.htm

■絵本『ボクサー』の魅力
――最初に、『ボクサー』という作品の魅力や特徴についてお聞かせください。

【愛甲恵子さん】(以下【愛】)なんといっても絵の力強さです。作者は紙でなく板
にアクリル絵の具で描いているそうで、色に厚みがあり、作品にかける思いが伝わっ
てきます。日本語版は印刷の質が高く、原書よりさらに迫力のある本になりました。

【三島絵美さん】(以下【三】)この作品のいちばんの魅力は、色彩の豊かさだと思
います。最初の見開きに描かれた街並みが特に好きです。内容に深みがあるのもいい
ですね。ボクサーの話ですが、こぶしで打つことばかり繰り返すその行動は、さまざ
まな物事の象徴とも受け取れます。どうしてこんなに頭が小さく、手が大きく描かれ
ているの、など、問いかけたくなる部分もたくさんあって……。

【愛】翻訳の過程で気づいたことがあります。ペルシャ語の原文では、途中まで「こ
ぶし」が主語なんですよ。それがある場面を境に、ボクサーがこぶし「で」打つ、と
いうふうに文の構造が変わっています。明らかに書き分けているんです。イランの絵
本は伝統的に、文と絵を別の人が手がける例が多いのですが、本作は画家が文も書い
ているからこそ、文と絵がぴたっとくる形になっていると思います。

■イランの絵本を日本の読者に
――三島さんがイランに興味を持ったきっかけは何だったのでしょう。

【三】2001年の9・11のときアメリカに留学していたんです。縁遠いと思っていた中
東に目が向き、なかでも印象に残ったのがイランでした。歴史などを知って少し身近
に感じられるようになって。それ以来、直接関わることはなくても気になる国でした。
 2008年に、たまたま東京の渋谷で「だれも知らないイランの絵本」展というのが開
かれていることに気づき、見にいきました。当時は知りませんでしたが、その展覧会
の主催者が、愛甲さんとフジタユメカさんのユニット、サラーム・サラームさんだっ
たんですよ。会場で、イランの言語であるペルシャ語で書かれた絵本を買いました。
言葉はわからないけれど、不思議でおもしろい本だなと思って。文字がデザインの一
部になっているなど、全体的に斬新なんです。未知の世界で、心惹かれました。

【愛】テントウムシやアリ、クモなど、虫たちの小さなお話が並んだ絵本ですね。そ
のイラストを手がけたモルテザー・ザーへディは、わたしが訳して2006年に出版され
た『ごきぶりねえさんどこいくの?』の絵も描いている人です。

――おふたりは当時から絵本を介して出会っていらしたのですね。

【三】その後、2019年に上野の国際子ども図書館で「詩と伝説の国―イランの子ども
の本」展(※)が開催中と、やはりたまたま知りました。それがきっかけで、渋谷で
買った不思議な絵本の記憶がよみがえり、イランの絵本で何かやれないかと思い立っ
たんです。展示を見て、翻訳家の愛甲さんのお名前を知ることもできました。企画に
1年かけ、『ボクサー』の制作に入ったのは2020年です。
※ https://www.kodomo.go.jp/event/exhibition/tenji2019-01.html

――翻訳出版する本は複数の候補があったとか。『ボクサー』を選んだ決め手は?

【三】イランの絵本を何冊か検討しました。明確な決め手があったとはいえないかも
(笑)。絵本の制作が初めてでいわば素人でしたから。ただ、やはりBIBグランプ
リ受賞作で専門家も評価していることと、自分の目で作者の絵をじかに見る機会があ
り、いいなと感じました。『ボクサー』の原画ではなかったのですが。

【愛】板橋区立美術館で開催された「2020イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」に、
作者の絵が1枚だけ出展されていたんですよね。カタログの表紙の原画です。わたし
も実際に見て、ああ、こういう質感なんだ、と感銘を受けました。

――初めての絵本制作、どんな点でご苦労されましたか。

【三】経験がなかったため、絵本特有の編集、たとえば漢字をひらくとか、分かち書
きにするとか、そういうことも知らなかったんです。編集協力の広松由希子さんに、
本当にたくさん教えていただきました。

――絵本評論家・作家・翻訳家と幅広くご活躍の広松由希子さんですね。

【三】広松さんはBIBの審査員もなさっています。その方が『ボクサー』の原書に
ついてツイートしていらっしゃるのを見て、面識はなかったのですが思い切ってアプ
ローチしたところ、引き受けてくださいました。基本的なことはこちらでやり、広松
さんにご意見をいただくスタイルで進行しました。

【愛】「これでいい」「まだだめ」といった線引きは難しいものですが、そこを決め
てくださるのが広松さんでした。主にオンラインでやりとりしながら、気になること
は全部いってくださって、それだけでもすごい労力だったはずです。

■ペルシャ語、そしてイランとの「縁」
――愛甲さんとペルシャ語やイランとの出会いは?

【愛】ご縁としか、いいようがないですね(笑)。入り口としては、ペルシャ文字の
造形美に惹かれました。大学でペルシャ語を学ぶことになったのがご縁の始まりです。
あるとき国際子ども図書館で、野間国際絵本原画コンクール入賞作品の展示を見る機
会があり、イランから多数入賞しているのを知りました。それで、「詩の国」と呼ば
れるくらい詩が人々の暮らしに根づいているイランのこと、絵本は絵がいいだけでな
く、きっと言葉もおもしろいだろう、と想像したんです。

――その後イランに留学されたのですね。期間はどれくらいでしたか?

【愛】10か月ほどです。行くときに何かを目指していたわけではありません。ただ、
絵本を見てみようとは思っていました。でもなかなか出会えなくて。当時のイランで
は書店に児童書が見当たらず、中東一といわれるテヘランの書店街でもみつからない。
そんな折、偶然タクシーで通りかかった場所で、鳥のマークが目に飛び込んできたん
です。気になって後日行ってみると、鳥がシンボルマークのカーヌーン(児童青少年
知育協会:出版局をもつ政府系の教育文化機関)の直営店で、他社の本も含め、すて
きな絵本がたくさん。ここにあった!と思いました。子どもの本は、おもちゃなどと
ともに専門の店で売られていたんですね。

――まさに、絵本との出会い、ご縁ですね。

【愛】帰国するときは絵本をいっぱい抱えてきました。とはいえ、いつか日本語に訳
したい気持ちはあっても、プランは何もなし。そんなわたしに、友人で美術家のフジ
タユメカさんが、いきなり出版は大変だからまず展覧会を開いてイランのイラストレ
ーターの絵を紹介しては、と具体的に提案してくれたんです。最初の展覧会は2004年
に銀座のギャラリーで開きました。実はそのとき、広松さんが来てくださったんです。
あちこちにDMを配ったので、それをご覧いただいたのかもしれません。

――愛甲さんが最初に訳されたのが、先ほど名前の挙がった『ごきぶりねえさんどこ
いくの?』を含む、「詩の国イランの絵本」シリーズの5作(ブルース・インターア
クションズ/2006年)ですね。

【愛】いろいろな人に助けられながら、必死に文字を移し替えた感じでした。シリー
ズとして一気に出したいという出版社の意向があり、毎月1冊ずつ刊行するハードス
ケジュールで、大変でした。

――以前ほかのインタビュー(※)で、「絵本を読んでみて、もっとイランのことが
分からなく」なってほしい、とおっしゃっていたのが印象に残っています。

【愛】いまも変わらない気持ちです。言葉にとらわれず、できるだけ言葉の外側に出
ていくイメージでやっていきたい。絵本はそれをもたらしてくれるものだと思います。
イランの絵本を扱ってはいますが、わたしが読んでいるのは、1冊1冊の作品です。
イランの絵本ってどんなのですかと訊かれても、一言ではいえない。その、一言では
いえない中身を、丁寧に伝えていくしかないと思っています。
※「絵本で見るイランの一側面」(2006年4月22日ライブドア・ニュース)
https://news.livedoor.com/article/detail/1875505/

■世界の絵本を、未来へ向けて
――『ボクサー』は表紙や背表紙にペルシャ語タイトルがあしらわれ、イランの文化
を紹介するリーフレットも挟み込まれて、制作陣の意気込みを感じます。

【三】リーフレット『パンジーだより』、今回はイラン編ですが今後も続けていきた
いです。「パンジー」の由来はペルシャ語なんですよ。ペルシャ語で数字の5はパン
ジと発音し、ハートをさかさまにしたような形をしていてかわいいんです。それを花
びらが5枚あるパンジーの花にかけて、4枚はわたしたち絵本制作室のスタッフ4人、
1枚は読者や作者、作品そのもの、そんな意味を込めました。

――「世界と出会う絵本」シリーズの今後の予定をお聞かせください。

【三】まだ具体的には決まっていませんが、年に1冊は出していきたいと思っている
ところです。地域は限定せず、世界中の絵本を紹介したいですね。

――愛甲さんは今後どんな作品を訳したいとお考えですか?

【愛】絵本はもちろん、YAにもいい作品があるので紹介したいです。イラン・イラ
ク戦争を題材にしたものとか、別れて暮らす少女と父親の交流を描いたものとか。

――最後に読者へのメッセージをお願いします。愛甲さんには、特に文芸翻訳を志す
人に向けて一言お願いできれば。

【三】日本にもよい絵本はたくさんありますが、海外の作品を読むと、自分の知らな
かった情報や感覚に出会えると思っています。わたしたちの出す翻訳絵本が、読者に
とって知らない世界に触れるきっかけになればいいなと願っています。

【愛】今回の翻訳を通して、作品の世界に没入すれば道は開けると感じました。絵本
だと文字の量は少なくても難しさは多いですが、とにかく絵をいっぱい見て、文を読
み込んで、そのなかで少しずつたぐり寄せることのできるものがある。三島さんや広
松さんをはじめいろいろな方のご意見を聞きながら、作品にだんだん近づいていく体
験をしました。ただ読むだけでは味わえない、絵本とのまじわり方ですね。そこに翻
訳の喜びがあると思います。

*** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** *** ***

 人や言葉や作品との、たくさんの出会い――不思議な縁で結ばれたおふたりの思い
が、パソコンの画面越しにもひしひしと感じられる、充実のインタビューでした。
 2022年の米国図書館協会(ALA)各賞のうち、バチェルダー賞オナーの1冊にイ
ランの絵本が選ばれています(※)。国際的にも注目されるイランの絵本、これから
どんな作品が日本に届けられるか、期待して待ちたいと思います。豊かなバリエーシ
ョンで、だれも知らない魅惑の世界へ連れていってくれるに違いありません。

※2022年バチェルダー賞発表 オナー作品(やまねこ翻訳クラブ)
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=one;no=1129;id=
award#1129

                          (取材・文/古市真由美)
                        (取材チーム/赤塚きょう子)

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●プロに訊く連動レビュー●父さんのグローブが教えてくれたこと
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『ボクサー』 ハサン・ムーサヴィー文・絵/愛甲恵子訳
トップスタジオHR 定価1,800円(本体) 2021.11 36ページ
ISBN 978-4991227608
"Moshtzan" by Hasan Mousavi
Fatemi Publishing Co. (TUTI Books), 2017
Amazonで検索する:ISBN  Amazonで検索する:書名と作者名

 ボクサーは、子どものころからいつもなにかを打っていた。こぶしには、父さんの
形見の赤いグローブ。母さんが父さんのためにほどこした、ハートの刺繍がついてい
る。ボクサーは、そのグローブで草原を打ち、雲を打ち、木を打った。その勇ましい
姿に、町のひとびとは歓声をあげた。ボクサーにとって、打つことは、ただひたすら
楽しかった。昼も夜も、何年も、ボクサーは打ちつづけた。やがてそのこぶしは、建
物をこなごなにし、船を、飛行機を、あらゆるものを打ちこわすようになった。人気
者だったはずのボクサーは、いつしかひとりぼっちになっていた。そしてある時、ボ
クサーは立ち止まって、ふと考えた。「どうして父さんは、ボクシングを教えてくれ
たんだろう」擦り切れたハートの刺繍を見るうちに、ボクサーはあることに気がつい
て――。
 雪の降りしきるなか、たったひとりでパンチを繰り出すボクサーを描いた表紙に目
を奪われた。その迫力とはうらはらに、白と灰色の世界はどこか寂しげだ。ページを
めくると、表紙とはうってかわって、色鮮やかな街並みが目に飛び込んでくる。どの
ページも、画面いっぱいに色がのせられ余白がない。物語の前半は、草原や空などの
背景に対して、それらを打つ赤いグローブが目にとまる。ところが後半になると、こ
んどはボクサーの大きな背中が目を引くようになる。たくましく、温かみのある大き
な背中が、ボクサーの心の変化を巧みに表現しているのだ。作者は、この作品をとお
して、自分のもてる能力をどのように使うべきかを考えてほしいと願ったのではない
だろうか。幼い読者には、そこまで理解することはむずかしいかもしれない。お城の
ような街並みを楽しんだり、強いボクサーにあこがれたり、年齢に応じた楽しみかた
があるだろう。けれど、いつか大きくなって読み返したとき、そこに大切なことが描
かれていたことにきっと気づいてくれる。幼いころ親しんだ絵本のメッセージに気づ
いたとき、強く心を揺さぶられるに違いない。幼少期から大人になるまで、長く手元
に置いてほしい一冊だ。

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【文・絵】ハサン・ムーサヴィー(Hasan Mousavi):1983年イラン生まれの画家、
絵本作家。幼いころ、父親が経営する鍛造工場で、鉄くずをヒーローに見立てて絵を
描いていた。2003年からアーティストとしてのキャリアをスタートさせ、2013年には
イタリア・ボローニャ国際絵本原画展に入選。これまでに40冊以上の絵本の挿絵を手
掛ける。本作で2019年ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)グランプリを受賞。

【訳】愛甲恵子(あいこう けいこ):本誌今月号「プロに訊く」参照。

【参考】
▼ハサン・ムーサヴィー公式ウェブサイト
https://hasanmousavi.com

▼ブラチスラバ世界絵本原画展(BIB)公式ウェブサイト
https://www.bibiana.sk/en/biennial-illustrations-bratislava

                                (安田冬子)

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●賞情報●2022年カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト発表
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 3月16日、カーネギー賞およびケイト・グリーナウェイ賞のショートリスト(最終
候補作品)が発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered
Institute of Library and Information Professionals)が主催するこの賞は、イギ
リスで最も権威ある児童文学賞である。新たに Yoto と提携を結んだことに伴い、賞
の名称が Yoto Carnegie Greenaway Awards に改められた。昨年11月8日にノミネー
ト作品(カーネギー賞76作品、ケイト・グリーナウェイ賞72作品)が、続いて今年2
月16日にロングリスト作品(カーネギー賞18作品、ケイト・グリーナウェイ賞15作品)
が発表されている。受賞作品の発表は6月16日の予定。なお、子どもたちが図書館や
学校などの読書グループを通じて投票するシャドワーズ・チョイス賞の発表も同日の
予定。
 本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、やまね
こ翻訳クラブウェブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=tre;id=award#atop

▼カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞公式ウェブサイト
https://www.carnegiegreenaway.org.uk/

▼同ウェブサイト内、2022年ショートリスト発表ページ
https://carnegiegreenaway.org.uk/shortlists-for-yoto-carnegie-greenaway-
awards-2022-celebrate-the-power-of-friendship-and-pictures-to-create-
empathy-connection-and-hope/

▼同ウェブサイト内、2022年ショートリスト作品一覧
https://carnegiegreenaway.org.uk/yoto-carnegie-medal-shortlist-2022/
https://carnegiegreenaway.org.uk/yoto-greenaway-medal-shortlist-2022/

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞について
               (本誌1999年7月号情報編「世界の児童文学賞」)
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/1999/07a.htm#a1bungaku

▽カーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞受賞作品リスト
                        (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)

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【カーネギー賞ショートリスト】(作家対象)
2022 Yoto Carnegie Medal Shortlist

"October, October"
 by Katya Balen (Bloomsbury)
"Guard Your Heart"
 by Sue Divin (Macmillan Children's Books)
"When the Sky Falls"
 by Phil Earle (Andersen Press)
"Everyone Dies Famous in a Small Town"
 by Bonnie-Sue Hitchcock (Faber)
"The Crossing"
 by Manjeet Mann (Penguin Children's Books)
"Tsunami Girl"
 by Julian Sedgwick (Guppy Books)
"Cane Warriors"
 by Alex Wheatle (Andersen Press)
"Punching the Air"
 by Ibi Zoboi and Yusef Salaam (HarperCollins Children's Books)

 "October, October" は、Katya Balen による、自然と野生を愛する少女の物語。
10歳の October は、父親とふたり、森の中の家に住んでいる。迷子のフクロウのヒ
ナを育てながら、自給自足の自由な暮らしを満喫し、幸せに過ごしていた――父親が
入院し、大都会ロンドンで生活することになるまでは。文字の配置や文中の押韻に詩
的な効果を持たせた、美しい作品だ。作者は2019年にデビューし、本作が第2作。自
閉症やADHDの子どもを支援するNPOの共同代表を務めている。

 Sue Divin のデビュー作 "Guard Your Heart" は、現代版『ロミオとジュリエット』
ともいえるYA小説だ。2016年夏、北アイルランドの街で18歳の少年と少女が出会う。
アイルランド系カトリック教徒の Aidan と、英国人でプロテスタントの Iona。惹か
れ合うふたりを、両派の対立が引き裂く。作者は北アイルランドに生まれ、平和と紛
争の研究で修士号を取得。自治体の平和構築事業に従事する傍ら創作を始めた。今年
3月刊行の第2作も、本作同様、多様性と分断そして和解をテーマにしている。

 "When the Sky Falls" は、Phil Earle による、ロンドン大空襲時の実話から着想
した作品。動物園経営者の女性の元に預けられた12歳の Joseph が、空襲時の動物園
で動物にやむなく銃を向ける役目を負うのだが、果たして……。児童養護施設で勤務
した作者ならではの目線で、困難な時期に育まれる友情と愛の物語を描いている。本
作は、英タイムズ紙で児童書の年間ベスト作品のひとつに選ばれるなど、評価が高い。

 "Everyone Dies Famous in a Small Town" は、Bonnie-Sue Hitchcock による連作
短編集。舞台は1990年代中頃の米国、アラスカ州から西部にかけてのいくつかの小さ
な町。一見ばらばらの9篇は、実はゆるやかに関連している。山火事や女児失踪事件
を背景に一枚の大きな絵を描きつつ、一篇一篇が独立したテーマを持ち、思春期のひ
りひりとした痛みを読者に突きつける秀作だ。作者はアラスカ州出身・在住の元ジャ
ーナリスト。2016年刊行のデビュー作に続き、2度目のショートリスト入りとなった。

 "The Crossing" は、昨年に初著作 "Run, Rebel" で本賞のシャドワーズ・チョイ
ス賞に選ばれた Manjeet Mann による詩形式の物語だ。英国で家族の喪失に心を痛め
て暮らす少女 Natalie と、アフリカの小国エリトリアで独裁下の強制的な徴兵から
逃れ英国を目指す少年 Sammy。SNS でつながったふたりの苦悩や未来へのかすかな希
望が、交互の視点の語りによって流れるように連なる詩でつづられる。2021年コスタ
賞児童書部門受賞作品。本誌2022年3月号掲載のレビューもぜひご覧いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2022年3月号)「注目の本(未訳読み物)」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2022/03.htm#myomi

 "Tsunami Girl" は、散文に漫画を組み合わせたユニークな形式で、2011年の東日
本大震災を描いている。英国生まれの15歳の少女 Yuki Hara Jones は、福島の祖父
の家に滞在中、被災する。愛する人や場所を失う悲しみに丁寧に寄り添いつつ、民話
や幽霊の要素を盛り込み、日本文化の魅力をも伝える作品だ。作者 Julian Sedgwick
は英国の作家で、2020年にも本賞ショートリストに名を連ねた。大学で東アジア文化
を学び、かねてから日本に関心が強かった Sedgwick は、震災後何度も福島を訪れて
取材を重ね、日本出身でロンドン在住の漫画家 Chie Kutsuwada の協力を得て本作に
結実させた。              (「Yuki」の「u」の上に(-)がつく)

 "Cane Warriors" は、ジャマイカ系作家 Alex Wheatle による、1760年にジャマイ
カで黒人奴隷が起こした「タッキーの反乱」を描いた歴史物語。現地のパトワ語混じ
りの独特の文体が印象的だ。作者は児童養護施設で育ち、人種差別抗議デモに参加し
て逮捕されたのち、服役中に文学に目覚めた。小説のみならず歌詞や脚本などの多彩
な文芸作品が評価され、2008年に大英帝国勲章を授与された。過去に複数の児童文学
賞を受賞し、その半生が英国でドラマ化された大注目の作家だ。

 ハイチ出身のYA作家 Ibi Zoboi による "Punching the Air" は、1989年の米国
で起きたアフリカ系やヒスパニック系の少年達の冤罪事件に着想を得た詩形式の物語。
16歳のアフリカ系の少年 Amal は、身に覚えのない事件である日突然連行される。収
監中の絶望的な日々を、詩や絵画の創作を心の支えに力強く乗り越える姿を描く。共
著者の Yusef Salaam は、前述の事件で実際に冤罪により収監された人物でもある。
2021年のボストングローブ・ホーンブック賞フィクションと詩部門オナー作品。

《参考》
▼Katya Balen 紹介ページ(Bloomsbury ウェブサイト内)
https://www.bloomsbury.com/uk/author/katya-balen/

▼Sue Divin 公式ウェブサイト
https://www.suedivin.com/

▼Phil Earle 公式ウェブサイト
http://www.philearle.com/

▼Bonnie-Sue Hitchcock 公式ウェブサイト
https://hitchcockbs.com/

▼Manjeet Mann 公式ウェブサイト
https://www.manjeetmann.com/

▼Julian Sedgwick 公式ウェブサイト
https://www.juliansedgwick.co.uk/

▼Alex Wheatle 公式ウェブサイト
https://www.alexwheatle.com/

▼Ibi Zoboi 公式ウェブサイト
https://www.ibizoboi.net/

▼Yusef Salaam 公式ウェブサイト
https://www.yusefspeaks.com/

                      (小原美穂/松倉真理/綿谷志穂)

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【ケイト・グリーナウェイ賞ショートリスト】(画家対象)
2022 Yoto Kate Greenaway Medal Shortlist

"Drawn Across Borders"
 by George Butler (Walker Books)
"The Midnight Fair"
 by Mariachiara Di Giorgio, written by Gideon Sterer (Walker Books)
"Too Much Stuff"
 by Emily Gravett (Two Hoots)
"Long Way Down"
 by Danica Novgorodoff, written by Jason Reynolds (Faber)
"Milo Imagines the World"
 by Christian Robinson, written by Matt de la Pena (Two Hoots)
                    (「Pena」の「n」の上に(~)がつく)
"Shu Lin's Grandpa"
 by Yu Rong, written by Matt Goodfellow (Otter-Barry Books)
"I Talk Like a River"
 by Sydney Smith, written by Jordan Scott (Walker Books)
"The Wanderer"
 by Peter Van den Ende (Pushkin Children's Books)

 "Drawn Across Borders" は、紛争地域や難民キャンプでの出来事を絵として記録
し、新聞や雑誌で発表してきた英国のルポルタージュ画家 George Butler の初めて
の絵本だ。10年にわたってシリアやケニアを訪れ描いてきたインクと水彩のイラスト
に文章を添え、理不尽な移住を強いられる人々の思い、とくに諦めない強さを伝えて
いる。描くことは対話であり、写真とは異なる切り口の報道が可能だと語る Butler
は、今年3月にウクライナ入りし現地からの発信を始めた。

 "The Midnight Fair" は、米国の作家 Gideon Sterer によるプロットを、イタリ
アの画家 Mariachiara Di Giorgio(マリアキアラ・ディ・ジョルジョ)が絵のみで
表現した作品。夜になり人がいなくなった遊園地に、森から動物たちがやって来る。
夜の闇に浮かびあがる美しい遊園地で、楽しそうに遊ぶ動物たちは、ユーモアたっぷ
り。作者はイタリア・ボローニャ国際絵本原画展で2度も入選。本作は、欧米諸国や
中国など、多くの国で出版されている。

 過去に本賞を2度受賞した英国の絵本作家 Emily Gravett(エミリー・グラヴェッ
ト)。今年は "Too Much Stuff" がショートリストに残った。カササギの夫婦は生ま
れてくるヒナのため、巣作りに大忙し。せっせと枝や草を集め、さらには時計や靴下
まで……ちょっと、そんなに詰め込んで大丈夫?! 物を減らそうと呼びかける作品だ
が、遊び心はたっぷり。細かな描き込みやカバー裏の仕掛けのほか、舞台の森が既刊
"Tidy"(『きれいずき』福本友美子訳/フレーベル館)と同じなのも楽しい。

 "Long Way Down" は、米国ブルックリンを拠点に幅広い分野のアートで活躍する
Danica Novgorodoff によるグラフィック・ノベル。原作は Jason Reynolds(ジェイ
ソン・レナルズ)の同名作品(『エレベーター』青木千鶴訳/早川書房)。黒人社会
の暴力の連鎖と対峙する少年の物語を、美しい水彩とダイナミックなコマ割りで、視
覚的にも感情を揺さぶる作品に仕立て直した。複数の賞の候補になるなど高く評価さ
れた原作の詳細は、本誌2018年2月号外の記事をご覧いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2018年2月号外)「2018年ニューベリー賞」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2018/02g.htm#newbery

 アニメーターとしても活躍する米国の画家 Christian Robinson(クリスチャン・
ロビンソン)が、"Milo Imagines the World"(『マイロのスケッチブック』マット
・デ・ラ・ペーニャ文/石津ちひろ訳/鈴木出版)でショートリスト入りした。姉と
乗った電車の中で、マイロはほかの乗客について想像をふくらませて絵を描く。しか
しその想像は正しいのか? 後半の意外な展開で読者にも問いを投げかける作品だ。
この画家と作家のコンビは、"Last Stop on Market Street"(『おばあちゃんとバス
にのって』石津ちひろ訳/鈴木出版)でニューベリ―賞など数々の賞を受賞している。

 "Shu Lin's Grandpa" は、中国出身の画家 Yu Rong(ユー・ロン)と、英国の作家
Matt Goodfellow による絵本。転校生の女の子 Shu Lin は英語が話せず、いつもひ
とりぼっち。でも学校におじいちゃんが現れ、中国の絵画を披露すると……。黄色や
緑が鮮やかな紙面から一転、折り畳まれたページから現れる横長の水墨画は圧巻の迫
力だ。ロンはクェンティン・ブレイクに師事し、複数の国際的な絵本コンクールで入
賞。邦訳に、『がーこちゃんあそぼ』(たがきょうこ訳/徳間書店)などがある。

 本賞常連ともいえる Sydney Smith(シドニー・スミス)の "I Talk Like a River"
(『ぼくは川のように話す』ジョーダン・スコット文/原田勝訳/偕成社)は、吃音
に悩む少年の心情を描いた絵本だ。邦訳は2021年の第24回やまねこ賞・絵本部門大賞
受賞作。詳しくは本誌バックナンバーをご参照いただきたい。
▽本誌バックナンバー(2021年12月号)「第24回やまねこ賞絵本部門」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2021/12.htm#ehon

 "The Wanderer"(『旅する小舟』求龍堂)はオランダ発の文章のない絵本で、ベル
ギー在住の Peter Van den Ende(ペーター・ヴァン・デン・エンデ)のデビュー作。
ネイチャーガイドとしての経験を基にして描かれた本作では、紙で折られた弱々しい
小舟が大海原を旅して、大いなる自然や巨大で不気味な生き物、恐ろしい人工物に出
会う。驚くほど細部まで精緻に描きこまれた絵、そして謎の多いストーリーは、推薦
文を寄せたショーン・タンをはじめ、多くの人々を魅了している。

《参考》
▼George Butler 公式ウェブサイト
https://www.georgebutler.org/

▼George Butler 紹介記事(The Guardian ウェブサイト内)
https://www.theguardian.com/artanddesign/2022/mar/26/ukraine-war-artist-
george-butler-drawings-kyiv-odesa

▼Mariachiara Di Giorgio 公式ウェブサイト
https://cargocollective.com/mariachiaradigiorgio

▼Emily Gravett 紹介ページ(Pan Macmillan ウェブサイト内)
https://www.panmacmillan.com/authors/emily-gravett/4866

▼Danica Novgorodoff 公式ウェブサイト
https://www.danicanovgorodoff.com/

▼Christian Robinson 公式ウェブサイト
https://www.theartoffun.com/

▼Yu Rong 紹介ページ(Otter-Barry Books ウェブサイト内)
https://www.otterbarrybooks.com/authors-illustrators/yu-rong

▼Sydney Smith 公式ウェブサイト
https://www.sydneydraws.ca/

▼Peter Van den Ende 紹介ページ(Levine Querido ウェブサイト内)
https://www.levinequerido.com/peter-van-den-ende

▽エミリー・グラヴェット作品リスト(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/author/g/egravett.htm

                           (池田幸子/綿谷志穂)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2022年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞児童書部門発表
★2022年国際アンデルセン賞受賞者発表
★2022年ドイツ児童文学賞ノミネート作品発表
                     (受賞作品の発表は10月21日の予定)
★2022年度アストリッド・リンドグレーン記念文学賞発表
★2022年オーストラリア児童図書賞ショートリスト発表
                     (受賞作品の発表は8月19日の予定)

 海外児童文学賞の書誌情報を随時掲載しています。「速報(海外児童文学賞)」を
ご覧ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=award

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●イベント速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★展示会情報
 イルフ童画館「つくる・つながる・ポール・コックス展」
 岡山シティミュージアム
  「きかんしゃトーマス展〜ソドー島のなかまたちが教えてくれたこと〜」 など

★講座・講演会情報
 調布市文化会館たづくり・調布市グリーンホール
  「西巻茅子展『ラララン ロロロン〜ちいさなひとたちありがとう』&講演会」
 大阪国際児童文学振興財団オンライン国際講演会「ことばを超えて−絵で物語る」
                                    など

★イベント情報
 上野恩賜公園「上野の森親子ブックフェスタ」
 東リ いたみホール 舞台公演「がまくんとかえるくんとキミのおはなし」 など

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、イベントは中止や延期になる場合がありま
す。最新の開催情報は「児童書関連イベント情報掲示板」掲載の各参考ウェブサイト
でご確認ください。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?id=event

 ツイッターアカウントでも最新情報を提供していますので、どうぞご注目ください。
▽やまねこ翻訳クラブ*イベント情報 Twitter
https://twitter.com/YamanekoEvent

                          (冬木恵子/山本真奈美)

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●お菓子の旅●第77回 紀元前から伝わる冷たいデザート 〜ファールーデ〜
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Faludeh is rosewater sorbet with thin starchy noodles. It sounds weird, but
it is actually delicious, especially when you drizzle it with sour cherry
syrup and lime juice.

              "Darius the Great Is Not Okay" by Adib Khorram
                              Dial Books (2018)
              『ダリウスは今日も生きづらい』
              アディーブ・コラーム作/三辺律子訳/集英社/2020
Amazonで検索する:書名と作者名

*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*

 アメリカ人の父とイラン人の母を持つダリウスは高校2年生。アメリカのポートラ
ンドに住んでいて、家でも学校でも居心地の悪さを感じています。イラン暦の正月に
あたるノウルーズに、母方の祖父母に会いに家族でイランのヤズドに行くことになり
ました。祖父母とはパソコンの画面越しでしか話したことはなく、イランに行くのも
初めてです。小学生の妹ラレーと違って、ペルシャ語はほとんどわかりません。
 不安いっぱいでヤズドにやってきましたが、近所に住む同年代の少年ソフラーブと
出会い、友だちになれそうな気がします。一緒にソフラーブのおじの経営する食料品
店に行くと、ファールーデを食べるかと聞かれます。ソフラーブによれば、おじの作
るファールーデはヤズドで一番なのだとか。
 ファールーデはイランのシーラーズ発祥の冷たいデザートで、紀元前400年にはす
でに存在していたようです。香りづけしたシロップをうっかり雪の上にこぼしてしま
い、食べてみたらおいしかったのが始まりだと伝えられています。でんぷんで作った
細い麺をシャーベット状のシロップにのせ、ライムジュースとチェリーシロップをか
けるのが定番で、刻んだピスタチオをトッピングすることもあります。
 細い麺を作るには専用の器具が欠かせません。日本では手に入りにくいので、麺を
作るのはあきらめて、くずきりなどで代用するのも一案です。

*-* ファールーデの作り方 *-*
                  画像はこちら(やまねこ翻訳クラブ喫茶室)
材料(4人分)
 水           450cc    砂糖            125g
 ローズウォーター    大さじ2  ライススターチ       65g
 氷水、氷        各適量
 ライムジュース、チェリーシロップ 各適量

1.シャーベットを作る。鍋に水250ccを入れて火にかける。砂糖を少しずつ加え、
  完全に溶けるまで泡立て器でかきまぜる。沸騰して、少し煮詰まったら、火を止
  める。ローズウォーターを加えて再び火をつけ、沸騰したら火からおろす。
2.粗熱が取れたら、冷凍用保存袋に入れ、冷凍室に入れる。2時間経ったら、取り
  出して、袋の上から手でもみほぐす。これを2〜3回繰り返す。
3.麺を作る。鍋に残りの水200ccを入れ、ライススターチを少しずつ加えてよく混
  ぜ、完全に溶けてから火にかける。だまにならないようヘラでよくかき混ぜ、半
  透明のジェル状になったら火からおろす。
4.大きいボウルに氷水を入れる。製麺用の器具に3を入れ、氷水のなかに押し出す。
  温度が上がらないよう、氷を足しながら、5分程度そのままにしておく。
5.器に2を入れ、上に4をのせ、ライムジュースとチェリーシロップをかける。

★参考図書・ウェブサイト
「世界の心 イラン」2019年3月発行 第2号(イラン文化センター)
『TOKYO 世界の絶品スイーツめぐり』(メレンダ千春著/日経ナショナル ジ
オグラフィック社)
『冷たいデザートレシピ』(脇雅世監修・料理/成美堂出版)
What is faloodeh en how to make it?(Bastani Tehran 内)
 https://www.bastanitehran.com/making-faloodeh-recipe
Persian Faloodeh | Lime And Rosewater Granita With Noodles
(PersianGood 内)
 https://persiangood.com/recipes/persian-faloodeh/
インド亜大陸の麺状デザート、ファルーダを自作したい(デイリーポータルZ内)
 https://dailyportalz.jp/kiji/making-falooda

本誌バックナンバー「お菓子の旅」コーナー
 http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/cake.htm
つくってみた。(「お菓子の旅」のお菓子を作ってみたレポート)
 http://tsukuttemita.jugem.jp

                              (赤塚きょう子)

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●3月号「読者プレゼント」当選者発表!●
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 本誌3月号の「読者プレゼント」に、たくさんのご応募をいただきありがとうござ
いました。厳正なる抽選の結果、下記の方が当選されました。

◎『おじさんのぼうしはどこいった?』(翻訳者のやすだふゆこさんのサイン入り)
             ★☆★ きじさん ★☆★

◎『いわじいさんはうんとながいき』(翻訳者のやまもとまなみさんのサイン入り)
             ★☆★ tororoさん ★☆★

◎『すきなものみっつ なあに』(翻訳者の山本みきさんのサイン入り)
             ★☆★ みちこさん ★☆★

 きじさん、tororoさん、みちこさん、おめでとうございます!
 当選されたみなさまには、絵本をそれぞれお送りしました。

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●読者の広場●海外児童文学や翻訳にまつわるお話をどうぞ!
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 このコーナーでは、本誌に対するご感想・ご質問をはじめ、海外児童書にまつわる
お話、ご質問、ご意見等を募集しています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せ
ください。

※メールはなるべく400字以内で、ペンネームをつけてお送りください。
※タイトルには必ず「読者の広場」とお入れください。
※掲載時には、趣旨を変えない範囲で文章を改変させていただく場合があります。
※質問に対するお返事は、こちらに掲載させていただくことがあります。原則的に編
集部からメールでの回答はいたしませんので、ご了承ください。

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●お知らせ●

 本誌でご紹介した本を、オンライン書店で簡単に参照していただけます。こちらの
「やまねこ翻訳クラブ オンライン書店」よりお入りください。
http://www.yamaneko.org/info/order.htm

 本誌の html 版は、発行日から5日後に公開予定です。以下の URL よりお入りく
ださい。
http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html

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           ・☆・〜 次 号 予 告 〜・☆・

 詳細は10日ごろ「やまねこ翻訳クラブ・喫茶室掲示板」に掲載します。お楽しみに!
    http://www.yamaneko.or.tv/open/c-board/c-board.cgi?id=kissa

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     ★☆メールマガジン『海外ミステリ通信』 隔月15日発行☆★
          http://honyakuwhod.blog.shinobi.jp/
未訳書から邦訳新刊まで、あらゆる海外ミステリの情報を厳選して紹介。翻訳家や
編集者の方々へのインタビューもあります!    〈フーダニット翻訳倶楽部〉
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●編集後記●今月号ではカーネギー賞、ケイト・グリーナウェイ賞ショートリストを
お届けしました。受賞作品の発表は6月16日の予定です。魅力あふれる候補作の中か
らどの作品が選ばれるのか、楽しみに待ちたいと思います。(み)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 三好美香/森井理沙/平野麻紗(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企 画 赤塚きょう子 池田幸子 大作道子 尾被ほっぽ 沖智子 かまだゆうこ
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    安田冬子 山本真奈美 山本みき 綿谷志穂
協 力 出版翻訳ネットワーク 管理人 小野仙内
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html担当 shoko
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