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●賞情報●2024年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表
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3月13日、カーネギー賞作家賞および画家賞のショートリスト(最終候補作品)が
発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of
Library and Information Professionals)が主催し、Yoto がメインスポンサーを務
めるこの賞は、イギリスで最も権威ある児童文学賞である。昨年11月6日にノミネー
ト作品(作家賞69作品、画家賞60作品)が、続いて今年2月13日にロングリスト作品
(作家賞19作品、画家賞18作品)が発表されている。受賞作品の発表は6月20日の予
定。なお、子どもたちが図書館や学校などの読書グループを通じて投票するシャドワ
ーズ・チョイス賞の発表も同日の予定。
本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、やまね
こ翻訳クラブウェブサイトの「速報(海外児童文学賞)」コーナーに掲載中。
http://www.yamaneko.org/cgi-bin/sc-board/c-board.cgi?cmd=tre;id=award#atop
▼カーネギー賞作家賞および画家賞公式ウェブサイト
https://yotocarnegies.co.uk/
▼同ウェブサイト内、2024年ショートリスト発表ページ
https://yotocarnegies.co.uk/2024-shortlists-announced/
▼同ウェブサイト内、2024年ショートリスト作品一覧
https://yotocarnegies.co.uk/writing-shortlist-2024/
https://yotocarnegies.co.uk/illustration-shortlist-2024/
▽カーネギー賞作家賞(旧カーネギー賞)受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm
▽カーネギー賞画家賞(旧ケイト・グリーナウェイ賞)受賞作品リスト
(やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm
(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)
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【カーネギー賞作家賞ショートリスト】
The 2024 Yoto Carnegie Medal for Writing shortlist
"The Door of No Return"
by Kwame Alexander (Andersen Press)
"The Song Walker"
by Zillah Bethell (Usborne)
"Away with Words"
by Sophie Cameron (Little Tiger)
"The Boy Lost in the Maze"
by Joseph Coelho, illustrated by Kate Milner (Otter-Barry Books)
"Choose Love"
by Nicola Davies, illustrated by Petr Horacek (Graffeg)
"Crossing the Line"
by Tia Fisher (Bonnier Books UK)
"Safiyyah's War"
by Hiba Noor Khan (Andersen Press)
"Steady for This"
by Nathanael Lessore (Bonnier Books UK)
【特殊文字】
「Petr Horacek」:「Horacek」の「a」の上に(´)が、「c」の上に(v)がつく
"The Door of No Return" は、アメリカの詩人 Kwame Alexander(クワミ・アレグ
ザンダー)が、力強くリズミカルな詩で物語る歴史フィクションだ。壮大な三部作の
第1巻となる本作の舞台は、白人が植民地化を進めつつある1860年のアシャンティ王
国(現在のガーナ南西部)。11歳の少年 Kofi は、思いがけない悲劇によって捕らわ
れの身となり、故郷と愛する家族から引き離される。Kofi の長い苦難の旅を通して、
読者は奴隷制とアフリカ系アメリカ人の歴史を知ることになる。作者は、2015年に
"The Crossover"(『クロスオーバー』原田勝訳/岩波書店)でニューベリー賞を受
賞。読書の推進活動や識字教育、映像制作にも積極的に取り組んでいる。
"The Song Walker" は、作家 Zillah Bethell(ジラ・ベセル)による友情と旅を
テーマにした物語。砂漠の真ん中で目を覚ました一人の少女。ここがどこで、何をし
ているのか、自分が誰なのかもわからない。そこで偶然出会った少女 Tarni と旅を
することに。謎めいた二人の少女、広大なオーストラリアの大地、そこで暮らす先住
民の文化、そして二人の旅を導く古人の歌。すべてが絡み合い、少しずつ謎が明らか
になっていく──。作者はパプアニューギニア出身で英国ウェールズ在住。邦訳に
『パラゴンとレインボーマシン』(三辺律子訳/小学館)がある。
"Away with Words" は、2019年にデビュー作 "Out of the Blue" が本賞にノミネ
ートされたスコットランド出身の作家 Sophie Cameron による作品。現在はスペイン
在住の作者が本書で舞台にするのは、発した言葉が物理的な形をもってあらわれる独
特な世界だ。11歳の少女 Gala はスペインを離れ、スコットランドで、父とそのボー
イフレンドと暮らすことになった。英語がうまく話せず、孤独を感じるが、特定の状
況で話せなくなる場面緘黙の少女 Natalie と出会い、交流を深めていく。言葉とコ
ミュニケーションを題材に、思春期の少女の戸惑いと成長が描かれている。
"The Boy Lost in the Maze" は現代のロンドンとギリシア神話の世界が交錯する
詩形式の物語だ。短い詩の連なりと白黒の挿画が物語の力強さと美しさを描き出す。
父親がいない17歳の少年 Theo は、ギリシア神話の英雄テセウスの冒険に影響を受け
て自分も父親を探そうとする。物語はテセウス、ミノタウロス、Theo の視点で交互
に語られ、Theo は大人になることについて考えていく。作者の Joseph Coelho(ジ
ョセフ・コエロー)は2022年より「子どものためのローリエット」を務める。2021年
に続いてのショートリスト選出であり、その際もギリシア神話を題材にし、挿画も本
作と同じ Kate Milner(ケイト・ミルナー)が担当した。
"Choose Love" は、文章を担当した絵本が日本でも数多く翻訳出版されている作家
Nicola Davies(ニコラ・デイビス)による詩集。難民支援団体との共同プロジェク
トから生まれた本作には、難民や支援者の体験をもとに綴られた詩が収められ、48ペ
ージと短いながらも強い印象を残す。心揺さぶる挿画を添えたのは、チェコ生まれの
画家 Petr Horacek(ペトル・ホラチェック)。デイビスとホラチェックはこれまで
に何度もタッグを組んでおり、"A First Book of Animals" は2018年に本賞画家賞の
ショートリストに選ばれている。デイビスが作家賞のショートリストに選ばれるのは
今回が初めてである。
"Crossing the Line" は、さまざまな職業を経験した後に大学院で児童文学の創作
を学び、現在は図書館員でもある Tia Fisher のデビュー作。14歳の少年 Erik は、
父親を亡くしたばかり。生活が苦しくなるなか、違法薬物や暴力の世界に足を踏みい
れてしまい──。一線を越えながらも、もとの暮らしを取り戻そうとあがく主人公の
心情が、レイアウトを工夫した散文詩の形でみずみずしく語られる。ギャングが子ど
もを甘言でだましてドラッグを運搬させる「カウンティ・ラインズ」は、イギリスで
深刻な社会問題となっており、本作はその恐ろしさを克明に描いている。2024年ブラ
ンフォード・ボウズ賞ロングリストにも入選した話題作だ。
"Safiyyah's War" は、パキスタン系英国人の児童書作家 Hiba Noor Khan による、
史実に基づく歴史冒険物語だ。舞台は第2次世界大戦下でナチス・ドイツに占領され
たパリ。イスラム教の礼拝堂でユダヤ人救出作戦が行われた──。主人公はアルジェ
リア系フランス人で11歳の少女 Safiyyah。敬虔なムスリムの父を手伝う形で対ナチ
スの抵抗運動に参加し、ある任務を担う。少女の勇気が、信仰や人種が理由で分断が
生じている現在の社会に響く。本作は作者初の長編フィクションで、2024年ブランフ
ォード・ボウズ賞ロングリストにも選ばれている。
フランスとマダガスカルにルーツをもつ Nathanael Lessore は、デビュー作
"Steady for This" でショートリストに選ばれた。2024年ブランフォード・ボウズ賞
ロングリストにも選出されている。物語の舞台は、作者自身が子ども時代を過ごした
ロンドンのサウスイースト地区。MC Growls を名乗る13歳の少年 Shaun は、ラッパ
ーとしてスターになることを夢見ていた。親友の Shanks とともにラップの大会に出
場するつもりだったが、ライブ配信で大失態をおかし、思わぬ形で注目を浴びてしま
う──。貧困などの社会問題も取り上げつつ、スラングや笑いたっぷりにリアルなテ
ィーンの姿を描いた青春小説。
《参考》
▼Kwame Alexander 公式ウェブサイト
https://kwamealexander.com/
▼Zillah Bethell 公式 X(旧 Twitter)
https://twitter.com/ZillahBethell
▼Sophie Cameron 公式ウェブサイト
https://www.sophie-cameron.com/
▼Joseph Coelho 公式ウェブサイト
https://www.thepoetryofjosephcoelho.com/
▼Nicola Davies 公式ウェブサイト
https://nicola-davies.com/
▼Tia Fisher 公式ウェブサイト
https://www.tiafisher.com/
▼Hiba Noor Khan 公式 X(旧 Twitter)
https://twitter.com/HibaNoorKhan1
▼Nathanael Lessore 公式ウェブサイト
https://www.nathanaellessore.com/
(沖智子/小原美穂/中野睦/平野麻紗/綿谷志穂)
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【カーネギー賞画家賞ショートリスト】
The 2024 Yoto Carnegie Medal for Illustration shortlist
"The Tree and the River"
by Aaron Becker (Walker Books)
"April's Garden"
by Catalina Echeverri, written by Isla McGuckin (Graffeg)
"Lost"
by Mariajo Ilustrajo (Quarto)
"The Wilderness"
by Steve McCarthy (Walker Books)
"To the Other Side"
by Erika Meza (Hachette Children's Group)
"The Midnight Panther"
by Poonam Mistry (Bonnier Books UK)
"The Bowerbird"
by Catherine Rayner, written by Julia Donaldson
(Macmillan Children's Books)
"The Search for the Giant Arctic Jellyfish"
by Chloe Savage (Walker Books)
"The Tree and the River" は、2014年にデビュー作 "Journey"(『ジャーニー
女の子とまほうのマーカー』講談社)でコールデコット賞オナーに輝いた Aaron
Becker(アーロン・ベッカー)が描く、詩情あふれる文字のない絵本だ。読者は悠久
の物語を上空から眺める。作者が幼少期から培ってきた描写力に、豊富な映画デザイ
ンの経験が合わさり、情景に確かな奥行きをうんでいる。巧みな画面構成や色彩が観
るものに没入感をもたらす。人間の営みは儚いが、木や川の自然の営みは──。
"April's Garden" はコロンビア出身でロンドン在住の画家 Catalina Echeverri
とアイルランド在住の作家 Isla McGuckin による絵本。家を失った少女 April は、
母親と仮住まいに暮らしながら自分たちの家を手にいれることを夢見ている。我慢を
しいられる生活のなか、ありあわせのカップに花の種をまいてみるが……。
Echeverri の絵は巧みな色使いで主人公の生活風景と心象風景を重ねあわせ、心に希
望が芽生えるさまを描きだしていく。絵と文を連動させて場面をつなぐレイアウトも
印象的だ。Echeverri は2023年のボローニャ国際絵本原画展に入選。本作は本年のK
PMGアイルランド児童図書賞のショートリストにも選出されている。
"Lost" を描いたのは、英国に住むスペイン人絵本作家の Mariajo Ilustrajo(マ
リアホ・イルストゥラホ)だ。デビュー作 "Flooded"(『あふれたまち』鈴木沙織訳
/化学同人)で多数の賞を受賞したほか、2023年には活躍が期待されるイラストレー
ターに贈られるクラウス・フリューゲ賞の大賞に輝いた。本作では、スマホ社会の冷
たさ、視線のゆくえ、きもちに寄りそうことなどを、まんがのコマ割りをまじえて効
果的に描く。都会で迷子になったシロクマが、女の子と出会い──。だれかを助けた
くなる、心あたたまる物語。
"The Wilderness" で初のショートリスト入りを果たした Steve McCarthy はアイ
ルランド人イラストレーター。アニメーション映画の背景デザイナーという経歴の持
ち主だ。デジタルと手書きを融合させ、秋色に染まった美しい自然の景色と、山を元
気に駆け回る大家族の姿をユーモアたっぷりに描いている。家族全員、大自然の中で
冒険するのが大好きなのに、Oktober だけは本の中を冒険する方が好きだった。臆病
な少年が「知る」ことで恐怖を克服する物語。2023年KPMGアイルランド児童図書
賞栄誉賞(イラストレーション部門)受賞作品。
"To the Other Side" は、安全を求めて国境を目指すきょうだいの旅を描いた絵本。
姉は弟にこれはゲームだと言い聞かせ、ふたりは数々の困難や恐怖を乗り越えていく。
暗い色合いの現実と鮮やかな色彩で描かれる虚構が混じり合い、画面に美しさと緊迫
感を与えている。子どもたちがかぶる動物の仮面は、作者 Erika Meza の母国メキシ
コのもの。守護の役割とともに、仮面の下はみな同じ人間だとのメッセージが託され
る。Meza はメキシコとパリで美術を学んだ後、ロンドンに移住。絵本のほか、読み
物の挿絵も数多く手掛けている。
"The Midnight Panther" は、4回目のショートリスト入りとなる Poonam Mistry
による絵本。主人公の黒ヒョウは、目立たない自分に自信がもてず、トラやライオン
のようになりたいと花粉や羽根を身にまとってみるが──。インド染織を思わせる深
く濃い色彩のなか、大胆かつ緻密なデザインが自然界のモチーフを印象付ける魅惑的
な作品だ。黒ヒョウの自分探しの旅は、読者の自己肯定感を高めてくれるだろう。作
者 Mistry は、英国在住のイラストレーター。自らのルーツであるインドの美術様式
を意識したスタイリッシュな作風で知られる。
"The Bowerbird" は、ニワシドリ(庭師鳥)の求愛をテーマにした物語絵本。2009
年の本賞受賞者 Catherine Rayner(キャサリン・レイナー)が、ベテラン人気作家
Julia Donaldson(ジュリア・ドナルドソン)とタッグを組んだ。小さなオス鳥 Bert
は、枝や葉でつくった小屋を一輪の花で飾るが、意中の相手は満足しない。求めに応
じて Bert が次々と集めてくる飾り物は、カタツムリの殻から携帯電話まで! 優し
く柔らかなタッチのイラストが美しく、繊細な表情を見せる主人公の愛らしさが心に
残る。
Chloe Savage(クロエ・サべージ)は、デビュー作 "The Search for the Giant
Arctic Jellyfish"(『まぼろしの巨大クラゲをさがして』よしいかずみ訳/BL出
版)でショートリストに選ばれた。内容については、本誌今月号の「訳者が語る!
注目の本」をご覧いただきたい。
《参考》
▼Aaron Becker 公式ウェブサイト
https://www.storybreathing.com/
▼Catalina Echeverri 公式ウェブサイト
https://www.cataverri.com/
▼Mariajo Ilustrajo 公式ウェブサイト
https://www.mariajoilustrajo.com/
▼Steve McCarthy 公式インスタグラム
https://www.instagram.com/mrstevemccarthy/
▼Erika Meza 公式ウェブサイト
https://www.erikameza.com/
▼Poonam Mistry 公式ウェブサイト
https://www.poonam-mistry.com/
▼Catherine Rayner 公式ウェブサイト
https://www.catherinerayner.co.uk/
▼Chloe Savage 公式ウェブサイト
https://chloesavage.co.uk/
(有賀萌/池田幸子/井上歌織/小島明子/三好美香) |