メニュー「月刊児童文学翻訳」バックナンバー>2025年04月号


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2025年4月号
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  =====★   月 刊  児 童 文 学 翻 訳   ★=====
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No.233
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児童文学翻訳学習者による、児童文学翻訳学習者のための、電子メール版情報誌
http://www.yamaneko.org
編集部:mgzn@yamaneko.org
2025年4月15日発行 配信数 2590 無料
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●2025年4月号もくじ●
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◎賞情報:2025年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表
◎特集:2025年カーネギー賞ショートリスト作品レビュー
 【作家賞】"Glasgow Boys" マーガレット・マクドナルド作
 【画家賞】"I Love Books" マリアホ・イルストゥラホ文・絵
◎賞速報

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●賞情報●2025年カーネギー賞作家賞および画家賞ショートリスト発表
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 3月11日、カーネギー賞作家賞および画家賞のショートリスト(最終候補作品)が
発表された。英国図書館・情報専門家協会(CILIP: The Chartered Institute of
Library and Information Professionals)が主催するこの賞は、イギリスで最も権
威ある児童文学賞である。昨年11月4日にノミネート作品(作家賞64作品、画家賞55
作品)が、続いて今年2月12日にロングリスト作品(作家賞19作品、画家賞16作品)
が発表されている。受賞作品の発表は6月19日の予定。なお、子どもたちが図書館や
学校などの読書グループを通じて投票するシャドワーズ・チョイス賞の発表も同日の
予定。
 本号では、ショートリストに選ばれた作品をご紹介する。ロングリストは、やまね
こ翻訳クラブのnote「速報(海外児童文学賞)」に掲載中。
【作家賞】
https://note.com/awards_yamaneko/n/nfebb2f43d294
【画家賞】
https://note.com/awards_yamaneko/n/nf436e61e46ee

▼カーネギー賞作家賞および画家賞公式ウェブサイト
https://carnegies.co.uk/

▼同ウェブサイト内、2025年ショートリスト発表ページ
https://carnegies.co.uk/2025-shortlists-announced/

▼同ウェブサイト内、2025年ショートリスト作品一覧
https://carnegies.co.uk/writing-shortlist-2025/
https://carnegies.co.uk/illustration-shortlist-2025/

(※邦訳がある作家、画家については初出の際に片仮名表記を併記しています)

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【カーネギー賞作家賞ショートリスト】
The 2025 Carnegie Medal for Writing shortlist

"Treacle Town"
 by Brian Conaghan (Andersen Press)
"The Things We Leave Behind"
 by Clare Furniss (Simon & Schuster UK)
"The Final Year"
 by Matt Goodfellow, illustrated by Joe Todd-Stanton (Otter-Barry Books)
"King of Nothing"
 by Nathanael Lessore (Bonnier Books UK)
"Little Bang"
 by Kelly McCaughrain (Walker Books)
"Glasgow Boys"
 by Margaret McDonald (Faber & Faber)
"All That It Ever Meant"
 by Blessing Musariri (Zephyr, Head of Zeus)
"Play"
 by Luke Palmer (Firefly Press)

 "Treacle Town"は、ギャングの抗争が絶えない町で将来に希望を持てずにいた少年
Con O'Neillが、スラムポエトリーと出会い変化していく姿を描いたYA小説だ。ス
コットランド在住・出身の作者Brian Conaghanは、イタリアやアイルランドに渡り、
教師などの職業を経験した後に専業の児童文学作家となった。2016年コスタ賞児童書
部門を受賞した"The Bombs That Brought Us Together"や、Sarah Crossan(サラ・
クロッサン)との共著"We Come Apart"など、多数の作品を発表している。

 重層的な語りが特徴のYA小説"The Things We Leave Behind"において、ロンドン
は全体主義政権の独裁が続くディストピアとなっている。社会に混乱が生じるなか、
主人公の少女Clemは妹Billieとともに避難民となり、スコットランドを目指す。作者
のClare Furnissはサウスイースト・ロンドンで生まれ育ち、広報など文章を書く仕
事に携わった後、児童文学の創作の修士号を取得。2014年に作家デビューした。

 "The Final Year"はイングランド北部が舞台。小学校最終学年をむかえたNateは環
境の変化に苛立ちつつも、担任教師の導きで詩作に喜びを見出していく。教職経験も
ある詩人のMatt Goodfellowが手がけた初の小説で、一人称の自由詩形式が特徴。挿
画を、"The Comet"(『ほうきぼしのまほう』まつかわまゆみ訳/評論社)で2023年
カーネギー賞画家賞シャドワーズ・チョイス賞に選ばれたJoe Todd-Stanton(ジョー
・トッド=スタントン)が担当している。

 昨年、デビュー作で本賞のショートリスト入りを果たしたNathanael Lessoreが、
本年も引き続き選出された。"King of Nothing"の主人公で9年生のAntonは、父親が
刑務所にいるため、他の生徒たちから恐れられ、学校の支配者のようにふるまってい
た。ところが、罰として参加させられた地域活動で、格下と思っていた男子生徒に命
を救われ、自分の生き方について考え直すようになる。ユーモアをまじえつつ、十代
の少年の現実に鋭く迫る作品だ。

 "Little Bang"の舞台は、2018年、中絶が合法化される前年の北アイルランドだ。
16歳の科学オタクMelは、初めてのデートで思いがけず妊娠する。困難をともに乗り
越えようとするが、すれ違っていくMelとパートナーのSid。ふたりの切ない心情が、
一人称で交互に語られる。ベルファスト出身のKelly McCaughrainは、2018年のデビ
ュー作でアイルランドの児童文学の賞を多数受賞した。2作目となる本作は、2025年
KPMGアイルランド児童図書賞ショートリストにも選ばれている。

 "Glasgow Boys"は、スコットランドのグラスゴー出身Margaret McDonaldのデビュ
ー作である。詳しくは本誌今月号のレビューをご覧いただきたい。

 "All That It Ever Meant"は、Blessing Musaririによる家族の喪失と再生の物語
だ。母親を事故で亡くしたMatiたち一家は、ロンドンからジンバブエに引っ越すこと
になった。その道中、Matiにだけ姿が見える超自然的存在Meticaisが現れ、助言や知
恵を授ける。作者Musaririは、ジンバブエのハラレ出身・在住。幼い頃から物語が好
きで、大学卒業後に本格的に執筆を開始した。南アフリカやカナダの出版社から作品
を発表し、一度は作家の道を諦めかけながらも本作のヒットで夢をつかんだ。

 Luke Palmerによる"Play"は、小さな町に暮らす4人の少年をめぐる物語だ。雑木
林に隠れ家を作って遊んでいた無邪気な少年たちは、成長するにつれ、それぞれ異な
る困難に直面する。そのうちの1人は、知らず知らずのうちに、危険なドラッグの世
界に足を踏みいれていた。詩人で作家、現役の教師でもあるPalmerは、2021年に初の
YA小説を発表。2作目となる本作では、少年が大人になる際に直面する「男らしさ」
をめぐるプレッシャーや葛藤をみごとに描き出している。

《参考》
▼Brian Conaghan公式X
https://x.com/conaghanauthor

▼Clare Furniss公式ウェブサイト
https://clarefurniss.com/

▼Matt Goodfellow公式ウェブサイト
https://www.mattgoodfellowpoet.com/

▼Nathanael Lessore公式X
https://x.com/natelessore

▼Kelly McCaughrain公式ウェブサイト
https://www.kellymccaughrain.com/

▼Margaret McDonald公式インスタグラム
https://www.instagram.com/margaretmcdonaldauthor/

▼Margaret McDonald紹介ページ(Faber & Faberウェブサイト内)
https://www.faber.co.uk/author/margaret-mcdonald/

▼Blessing Musariri紹介ページ(Bloomsburyウェブサイト内)
https://www.bloomsbury.com/uk/author/blessing-musariri/

▼Luke Palmer公式ウェブサイト
https://lukepalmerwriting.com/

▽カーネギー賞作家賞(旧カーネギー賞)受賞作品リスト
 (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/carnegie/index.htm

(川本さくら/進藤浩子/綿谷志穂)

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【カーネギー賞画家賞ショートリスト】
The 2025 Carnegie Medal for Illustration shortlist

"The Invisible Story"
 by Wen Hsu Chen, written by Jaime Gamboa, translated by Daniel Hahn
 (Lantana)
"Grey"
 by Lauren Child, written by Laura Dockrill (Walker Books)
"I Love Books"
 by Mariajo Ilustrajo (Quarto)
"Clever Crow"
 by Olivia Lomenech Gill, written by Chris Butterworth (Walker Books)
"Letters in Charcoal"
 by Juan Palomino, written by Irene Vasco, translated by Lawrence Schimel
 (Lantana)
"Homebody"
 by Theo Parish (Macmillan Children's Books)
"Wolf and Bear"
 by Kate Rolfe (Macmillan Children's Books)
"Flying High"
 by Yu Rong, written by Cao Wenxuan,
 translated by Simone-Davina Monnelly and Jake Hope (UCLan Publishing)

 "The Invisible Story"(『まぼろしのおはなし』星野由美訳/ワールドライブラ
リー)は、共にコスタリカ在住の作家Jaime Gamboa(ハイメ・ガンボア)と画家Wen
Hsu Chen(ウェン・シュウ・チェン)が手がけた。2013年にグアテマラで出版された
スペイン語の絵本が英訳された。図書館で読まれたことのないおはなしが、ある女の
子と出会い──。バリアフリーがテーマの絵本。シュウ・チェンは、カラフルな水彩
と切り絵の技巧で国際的な賞を多数受賞している。

 "Grey"は、どんなあなたでも大切に思うと読者に寄り添うような仕掛け絵本。英国
の作家でパフォーマンス詩人のLaura Dockrillが、うつに陥った経験を基に読者に分
かりやすい詩を綴った。英国の児童文学作家で画家のLauren Child(ローレン・チャ
イルド)が絵を担当した。チャイルドは"I Will Not Ever Never Eat a Tomato"
(『ぜったいたべないからね』木坂涼訳/フレーベル館)で2000年の本賞(旧ケイト
・グリーナウェイ賞)を受賞して以来25年ぶりのショートリスト入りが話題となった。

 "I Love Books"でMariajo Ilustrajo(マリアホ・イルストゥラホ)は、昨年に続
いてショートリストに名を連ねた。内容は本号レビューをご覧いただきたい。

 "Clever Crow"は、カラスの生態についてChris Butterworth(クリス・バターワー
ス)が文を書いた自然科学絵本だ。絵をフランス在住のOlivia Lomenech Gill(オリ
ヴィア・ロメネク・ギル)がコラージュ技法で描いた。素材の面白さを感じられるス
クラップブック風の仕上がりだ。ギルは、クレア&マイケル・モーパーゴに依頼され
た"Where My Wellies Take Me"の絵で、2014年の本賞ショートリストに選ばれた。

 "Letters in Charcoal"は、2015年にスペインで出版された絵本の英訳版。メキシ
コ出身の画家Juan Palominoが、植物や大地を連想させるアースカラーで絵を描いた。
本作は、デジタル時代以前の識字の物語だ。口承文化の村で、文字を習いたい女の子
は──。文を書いたのはコロンビアの作家で読書活動推進家のIrene Vascoで、コロ
ンビア女性たちの話をひとつにまとめた。

 "Homebody"は、イングランド東部のノリッジ在住のTheo Parishが手がけたデビュ
ー作。トランスジェンダーでノンバイナリーである作者の思春期を描いた自伝的YA
グラフィック・ノヴェルだ。主人公Theoが自分探しの旅に出て、大切にすべきことや
自分の居場所に気づいていく。ポップな絵柄と詩的な文が特徴だ。本作は米国図書館
協会のヤングアダルト部門が選ぶYAノンフィクション賞の2025年の最終候補作にも
なった。

 "Wolf and Bear"ではオオカミが、抑うつ状態にある親友のクマを思いやりで包み
こむ。作者のKate Rolfeは、自身の発達の特性を多様性の一つとして受けとめており、
抑うつ状態について分かりやすい言葉と絵で読者に伝える。本作は本賞以外の賞でも
ファイナリスト選出や受賞を果たしている。Rolfeは、2024年に英国の国際イラスト
レーション賞(WIA)の児童書部門賞を受賞している。

 "Flying High"で主人公は、体格差から仲間はずれにされるが、鳥との旅によって
自己肯定感を高めていく。中国の代表的な児童文学作家のCao Wenxuan(曹文軒)が、
情感漂う中国語で書いた絵本の英語版。絵を担当した英国在住の切り絵作家で画家の
Yu Rong(ユー・ロン)は、中国絵本の発展に長年貢献し、2022年と2023年にも本賞
ショートリストに選ばれた。ロンは、切り絵・水彩・鉛筆などのコラージュ技法で、
中国の文化を遊び心たっぷりかつ躍動的に表現している。

《参考》
▼Wen Hsu Chen公式インスタグラム
https://www.instagram.com/zen.ilustra/

▼Wen Hsu Chen紹介ページ(Shambhala Publicationsウェブサイト内)
https://www.shambhala.com/authors/g-n/wen-hsu.html

▼Lauren Child公式ウェブサイト
https://milkmonitor.me/

▼Mariajo Ilustrajo公式ウェブサイト
https://www.mariajoilustrajo.com/

▼Olivia Lomenech Gill公式ウェブサイト
https://www.oliviagill.com/home/

▼Juan Palomino公式インスタグラム
https://www.instagram.com/juanpalomino.ilustrador/

▼Juan Palomino紹介ページ(Wm. B. Eerdmans Publishing Companyウェブサイト内)
https://www.eerdmans.com/author/juan-palomino/

▼Theo Parish公式ウェブサイト
https://www.theoblueillustration.com/

▼Kate Rolfe公式ウェブサイト
https://katerolfe.com/

▼Yu Rong紹介ページ(Otter-Barry Booksウェブサイト内)
https://www.otterbarrybooks.com/authors-illustrators/yu-rong

▽カーネギー賞画家賞(旧ケイト・グリーナウェイ賞)受賞作品リスト
 (やまねこ翻訳クラブ資料室)
http://www.yamaneko.org/bookdb/award/uk/greenawy/index.htm

(井上歌織)

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●特集●2025年カーネギー賞ショートリスト作品レビュー
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"Glasgow Boys" 『グラスゴー・ボーイズ』(仮題)
by Margaret McDonald マーガレット・マクドナルド作
Faber & Faber Ltd, 2024, ISBN 978-0571382975 (Kindle)
Faber & Faber Ltd, 2024, 352pp. ISBN 978-0571382972 (PB)
★2025年カーネギー賞作家賞ショートリスト作品
★2025年ブランフォード・ボウズ賞ロングリスト作品
(このレビューは電子書籍版を参照して書かれています)
Amazonで検索する:ISBN  Amazonで検索する:書名と作者名

 グラスゴーを舞台にした本作は、生い立ちやアイデンティティーの悩みを抱えた若
者が大人の階段をのぼる過程を描いた物語だ。主人公は、里親のもとから高校へ通う
バンジョーと、看護師になるため大学に進学したフィンレイのふたり。同じ児童養護
施設の出身で、かつてはかたい絆で結ばれていたが、いまでは連絡さえ取り合ってい
ない。決別の理由はどうやら3年前の出来事にあるようだ。
 ふたりの共通点は、肉親からうけた虐待の後遺症や、将来に対する大きな不安を抱
えて生きていること。バンジョーは、心身の苦痛を鎮痛剤の乱用によって紛らせ禁断
症状に苦しんだことがあり、いまも暴力行為を繰り返し退学寸前だ。いっぽう、育て
の親に見捨てられたフィンレイは他者との交流が苦手である。経済的不安から、看護
実習の前に早朝のアルバイトまでこなし、肝心の学業にほとんど集中できない。
 本作ではふたりの物語が別々に進行し、合間に施設での出来事が断片的に綴られて
いる。三人称の語りで全編ほぼ現在形で書かれていることや、バンジョーの台詞に強
いスコットランド訛りがあることも印象的だ。
 複雑なテーマを扱っているにもかかわらず温かみを感じるのは、ラブストーリーが
描かれているためだと思われる。バンジョーは、難病を患いながらも明るく優しいア
リーナに恋をし、荒れた心が次第に癒されていく。フィンレイは、小学校の同級生ア
カーシュに再会し惹かれるものの、ゲイであることを否定された過去がフラッシュバ
ックし、なかなか一歩を踏み出せない。主人公のふたりは葛藤するが、この恋愛体験
こそがそれぞれの心境に大きな変化をもたらすのだ。若者らしい心のまよいや恥じら
いが丁寧に綴られているところも、作品の魅力のひとつである。
 本作で鮮烈なデビューを果たした作者のマーガレット・マクドナルドは、グラスゴ
ー大学で文芸創作を学んだ。新型コロナ禍の隔離生活で、人のぬくもりに飢えた経験
をヒントにしたこの作品には、実体験の多くが反映されているという。
 "Glasgow Boys"は、読者に様々な気付きを与えてくれる作品だ。ひとりでも多くの
若者に読まれ、人びとが抱える悩みへの共感力が育まれることを願ってやまない。

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【作】Margaret McDonald(マーガレット・マクドナルド):スコットランドのグラ
スゴー出身。クローン病を発症し長期の入院生活を余儀なくされた経験をもつ。英国
国民保健サービス(NHS)の職員として働きながらグラスゴー大学で学び、英文学
の修士号を取得。障害を抱えて生きる人のウェブマガジン"Breath and Shadow"をは
じめ、数々のウェブマガジンに寄稿している。

【参考】
▼Margaret McDonald公式インスタグラム
https://www.instagram.com/margaretmcdonaldauthor/

(進藤浩子)

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"I Love Books" ※
by Mariajo Ilustrajo マリアホ・イルストゥラホ文・絵
Frances Lincoln Children's Books, 2024, 40pp. ISBN 978-1836000174 (PB)
★2025年カーネギー賞画家賞ショートリスト作品
※このレビューは原書を参照して書かれています。2025年4月下旬に邦訳『本がきら
い 本がすき』(小川紗良訳/アノニマ・スタジオ(KTC中央出版))が発売予定
です。
Amazonで検索する:ISBN  Amazonで検索する:書名と作者名

 "I Love Books"は、読書に苦手意識を持つ子どもが、本の魅力に目覚めていく過程
を丁寧に描いた絵本です。絵本の冒頭で本が嫌いな女の子が明日から夏休みだと喜ん
でいたところ、休みの間に本を必ず1冊は読むことという宿題を出されてしまい、困
惑したところからお話は始まります。
 読書啓発というテーマを扱いながら、教訓臭くならず、ユーモアと遊び心を忘れな
い筆致で、読者を自然と物語の世界へ引き込んでいきます。
 本作の最大の魅力は、視覚的な物語展開の巧みさです。主人公の内面の変化を色彩
や構図の変化によって表現し、文章を補完するだけでなく、絵そのものがストーリー
テリングの主役です。主人公の困惑した心情を表すようなモノクロっぽい色調の絵で
お話は始まりますが、本を読みだして想像の世界へと没入していく場面では、見開き
全体にはっとするほど鮮やかなビジュアルを使い、読書体験の「魔法」を視覚化して
おり、読者に強い印象を与えます。
 また、読書が苦手な子どもへの共感から物語が始まる点は、多様な読者層への配慮
を感じさせます。「読書好きであること」を前提にせず、入り口のハードルを下げる
ことによって、子どもにとって親しみやすい作品構造となっています。
 原作の文体はシンプルでわかりやすく音読にも適しているので、イラストとの相乗
効果もあり、まもなく刊行される邦訳も読み聞かせで人気が出そうですね。

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【文・絵】Mariajo Ilustrajo(マリアホ・イルストゥラホ):スペイン出身。本作
は3作目の絵本。2022年発表のデビュー作"Flooded"(『あふれたまち』鈴木沙織訳
/化学同人)は20か国語に訳されている。イギリスを中心に活動中。

【参考】
▼マリアホ・イルストゥラホ公式ウェブサイト
https://www.mariajoilustrajo.com/

(長友恵子)

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●賞速報━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

★2025年ニュージーランド・ブックラヴァーズ賞発表
★2025年オーストラリア児童図書賞ショートリスト発表
 (受賞作品の発表は8月の予定)
★2025年コレッタ・スコット・キング賞発表
★2026年国際アンデルセン賞候補者発表
 (最終候補者の発表は2026年1月、受賞者の発表は同年3月の予定)
★2025年アストリッド・リンドグレーン記念文学賞受賞者発表
★第30回(2025年)日本絵本賞最終候補絵本発表
 (受賞作品の発表は5月中旬の予定)

 2025年より「速報(海外児童文学賞)」をnoteに移行しました。海外児童文学賞の
書誌情報を随時掲載していますので、ぜひご覧ください。
https://note.com/awards_yamaneko

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●お知らせ●

・本誌に対するご感想をはじめ、海外児童書にまつわるお話、ご質問、ご意見等をお
待ちしています。mgzn@yamaneko.org までお気軽にお寄せください。ご質問等は本誌
に掲載させていただく場合があります。

・本誌のhtml版(ウェブ版)は、発行日から5日後に公開予定です。以下のURLより
お入りください。
http://www.yamaneko.org/mgzn/bncorner.htm#html

・5月は休刊致します。次号(2025年6月号)の配信は6月15日の予定です。お楽し
みに!

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●編集後記●今月号では先月発表されたカーネギー賞ショートリスト作品の紹介を、
2本のレビューとともにお届けしました。テーマも舞台もさまざまで、画家賞のほう
では翻訳作品も複数候補にあがっていますが、どの作品が受賞するのか、6月の発表
が楽しみです。(ひ)
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発 行 やまねこ翻訳クラブ
編集人 平野麻紗/三好美香/森井理沙(やまねこ翻訳クラブ スタッフ)
企画・執筆・協力 やまねこ翻訳クラブ会員有志
    html版担当 shoko
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