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月刊児童文学翻訳 増刊号 No.2

Merry Christmas! ☆彡

  クリスマス特集号  

2001年11月30日発行

もくじ

人気者のクリスマス
 『マドレーヌのクリスマス』、『エロイーズのクリスマス』
 『リサとガスパールのクリスマス』
人気者絵本クイズ
イラストレーターの描くクリスマス
 ピーター・コリントン――現実と非現実がミックスした世界
 レイモンド・ブリッグズの描く、とっても身近なサンタクロース
世界のクリスマス
 『メリークリスマス――世界の子どものクリスマス』、『クリスマスまであと九日』
 "O Christmas Tree"、"Angel in a Gum Tree"


人気者のクリスマス

 楽しいクリスマスシーズン。元気な絵本の人気者といっしょなら、もっと心弾む季節になりそう。今回は、「マドレーヌ」、「エロイーズ」、そして「リサとガスパール」シリーズのクリスマスをのぞいてみました。
 この11月、『ロンドンのマドレーヌ』が出版され、邦訳が6作となった「マドレーヌ」シリーズ。『マドレーヌのクリスマス』は以前、俵訳ででていましたが、去年の秋にBL出版から江國訳で復刊され、話題になりました。
 今年4月、約10年ぶりに日本に再上陸した『エロイーズ』。前回の坂崎訳とは、また違った味の井上訳で、今回はシリーズの他作品も引っさげての登場です。『エロイーズのクリスマス』はこの秋刊行されたばかり。シリーズは全4冊となっています。
 最後は、去年の秋にやってきた新しい人気者「リサとガスパール」です。このふたりの紹介はレビューでじっくりとどうぞ。



『マドレーヌのクリスマス』
 ルドウィッヒ・ベーメルマンス作/江國香織訳
 BL出版 2000.11.1


 パリのつたのからまるおやしきにすんでいる、12人のおんなのこ。なかでもいちばんちいさいのがマドレーヌ――。おなじみの書き出しで始まる、このシリーズ。今夜はとっても楽しいクリスマス・イブなのに、おやしきじゅうのみんなが風邪をひき、寝込んでしまっています。でも、よく見ると――。ベッドが1つだけ空いています。そう、我らがヒロイン、マドレーヌだけは、やはり元気なのです。
 先生のミス・クラベルでさえベッドにいるのに、マドレーヌ1人だけが、みんなのために一生懸命働いていました。掃除をしたり、スープを作ってみんなのところへ運んだり、湯たんぽを換えてあげたり。そのとき、誰かがやってきます。サンタクロースかしら?
 いいえ、じゅうたん売りの商人でした。12枚のじゅうたんを売りにやって来たのです。寒い朝、足元に敷くのにちょうどいいと、マドレーヌは喜んで全部買い、早速みんなに配ります。でも一方、売ってしまった商人は後悔します。じゅうたんを体に巻きつけ、寒さをしのいでいたからです。じゅうたんを返してほしいと思った商人は、おやしきに戻るまでに体が凍りついていました。そしてマドレーヌの手厚い看護を受けます。商人は言いました。「マドレーヌよ、のぞみをのべよ」と。
 大好きな冬なのにスケートはないし、シリーズ名物でもある、美しいパリの風景画も、おなじみの散歩シーンも少ない。しかも1人で雑事をしなければならず、これは決して楽しいとは言えないはずです。が、元気でがんばっている、マドレーヌの表情はいつもと同じで生き生きしていて、むしろ楽しんでいるよう。そんなマドレーヌに、物語の商人だけではなく、読者の私たちも元気付けられます。そして、素敵なプレゼント。さあ、一体何でしょう?
 私たちへのクリスマスプレゼントも用意されていますよ。それは、表紙のクリスマスツリーになぞらえたエッフェル塔と、クライマックスのファンタスティックなパリの夜景。パリのクリスマスはこんな風なのかな、と想像力を刺激されます。

(井原美穂)



『エロイーズのクリスマス』
ケイ・トンプソン文/ヒラリー・ナイト絵/井上荒野訳
メディアファクトリー 2001.11.15


 年に一度の楽しい季節、エロイーズも大はしゃぎ! いたずら全開、うっきうき!「ファララララ……」と飾りつけ、ジングル、ジングルお菓子を食べて、ドアからドアへ歌って回ります。彼女の住まいは豪華ホテル。各部屋のきらびやかなパーティめぐりをして、ドアマンからベルボーイまでみんなにプレゼントをして(もちろん、もらって)、忙しいったらありません。
 多忙で超お金持ちのママは、クリスマスも会いに来られないようです。1時間の長距離電話とトロピカルなつば広帽子のプレゼントが、その存在を示唆するだけ。読者としては、いつも声だけのママをちょっと疑いたくなります。ひょっとして本当は、ばりばりのビジネスウーマンで、どこかのオフィスで夜昼なく働きながら「ねえ、地中海でバカンスしてるのよ」なんて、嘘をついているのかも。
 それは考えすぎ!とエロイーズは言うかもしれません。ペットの犬とカメ、それにばあやのナニーがいれば万事OK。振り回されて乱れた髪をなでつけ、クリスマスの支度でぐったりしていても、大声で賛美歌を歌うナニー。早口エロイーズとおっとり英国風のナニーは絶妙のコンビです。ナニーがエロイーズをひざに乗せて窓越しにイブの夜空をながめている姿は、まさに祖母と孫のよう。母不在のクリスマスに心を痛めていた読者は救われる気持ちがします。
 本全体は、ピンクと黒の二色刷り。ページの一番下に小さい字で BGM が流れているのがおしゃれです。イラストに描かれるホテルの従業員や着飾ったニューヨーカーは、実に表情豊かで生き生きしています。
 地図を見ると、エロイーズの住むマンハッタン5番街のプラザホテルは、倒壊したワールドトレードセンターから6〜7キロの距離にあります(この本のイラストにも出てきます。探してみてください)。彼女もびっくりしたに違いありません。根の優しい彼女のこと、このクリスマスは悲しみに暮れる人たちに山のようなプレゼントを持って行くことでしょう。

(ぱんち)

『エロイーズ』のレビューは、こちらをご覧ください。



『リサとガスパールのクリスマス』
アン・グットマン文/ゲオルグ・ハレンスレーベン絵/石津ちひろ訳
ブロンズ新社 2000.9.25


 もうすぐ楽しいクリスマス。先生にあげるプレゼントは何にしよう? リサとガスパールはあれこれ考えます。ピストル? ローラースケート? 自転車? どれもこれも、どうもピンときません。そのときリサがいいことを思いつきました。レインコートがいいわ! だって、いつも自転車に乗っている先生は、雨の日はびしょぬれだから。そこで早速、行動開始。リサはガスパールのうちのシャワーカーテンを調べました。うん、これならぴったり。リサはカーテンをはずすと、ガスパールをマネキンにして、レインコート作りにかかりました。あっちにもこっちにものりをつけて、はい、できあがり! あれっ、でもぬげなくなっちゃった。そこでリサが考えたのは――。
 フランスで大人気の「リサとガスパール」のシリーズ絵本が、昨年9月に日本上陸。たちまち子どもや若い女性たちのハートをつかみました。本作は、邦訳第1弾として出版されたものです。このシリーズ、すでに本国では(ことば絵本を含めて)十数作刊行され、現在、そのうち10作が邦訳されています。
 主人公はおしゃまなリサと、おっとり者のガスパール。それぞれのトレードマークは、赤のマフラーと青のマフラー。本作では、このふたりが巻き起こすクリスマス前のひと騒動がコミカルに描かれ、読者をクスクス笑わせます。リサはいつだって元気いっぱい。「ひゃーやっちゃった」「わたしってあったまいい!」などの言葉がポンポン飛び出し、まさにパワー全開といったところ。絵はオシャレな雰囲気の漂うこっくりとした油彩で、とてもあったかい。裏表紙にはコマ割りの絵によるストーリー紹介のおまけまでついています。ところで、このリサとガスパールは、ウサギなのか、イヌなのか? こんなふうに煙に巻かれるのも、なんだか楽しい。
 さて、リサたちが作ったクリスマス・プレゼントは、考えていたのとはどんどん違ったものになってしまいます。最後はどうなるかですって? ふふふ、それは読んでからのお楽しみ。

(蒲池由佳)

@nifty文芸翻訳フォーラム・メープルストリートでは、ブロンズ新社の新刊書籍を紹介しています 。


人気者あらすじクイズ


 
次のあらすじは、絵本にでてくる、ある人気者のクリスマスの話です。なんの絵本か当ててください。(★★★★には人気者の名前が入ります)
ゆかいな★★★★★さんは、赤いずきんの女の子やバラバラになった卵さんにクリスマスの楽しい手紙を届けます。封筒に入った手紙が本当についている仕掛け絵本。
★★★★★の一家がクリスマスツリー用に切ろうとした木には、動物たちがすんでいました。ツリーはあきらめる? 大丈夫、だってこの一家の体は形が自由に……。
小さなツリーしか買えなかった女の子とゆかいな8ひきに、ほしのだんしゃくから「ツリーをもっていってください」と手紙がきます。さて、だんしゃくの正体とは?
ゾウの国にはサンタクロースがいないので、ゾウの王さま★★★★が、子どもたちのために、さがしにでかけます。はたしてサンタは見つかるのでしょうか?
クリスマスの日でも、ゆうびんやの★★さんは、みんなに手紙や荷物を届けます。さて、一日の仕事が終わり、うちにかえった★★さんをまっていたものは?


・・答えは↓この記事の下を見てください・・


イラストレーターの描くクリスマス

ピーター・コリントン――現実と非現実がミックスした世界


 今年はじめ、私はコリントンの『おりこうねこ』(いずむらまり訳/徳間書店)という作品に出会った。賢い猫が登場する、ユーモアと皮肉のさじ加減が絶妙なお話だ。私は一遍に魅了され、彼の他の作品を読んでみた。すると、どうだろう! 笑いが溢れる『おりこうねこ』からは、にわかには信じられない、静かな静かな世界が広がっていた。
 昨年の冬に出版された『聖なる夜に』(BL出版)は、クリスマスイヴに貧しいおばあさんに起こった出来事を、文字を使わず、絵だけで表わした絵本だ。一見、か弱そうなおばあさんは、教会に盗みに入った若者から募金箱を取り戻すような、とても勇敢で芯の強い人だった。悲しい出来事が続いた後、おばあさんの身に小さな奇蹟が起こる。まさに聖なる夜にぴったりのお話だ。
 10年ほど前には、『天使のクリスマス』(ほるぷ出版)が出版されている。こちらは、煙突のない家に住む子どもたちに捧げられた絵本だ。コリントンの絵には、水彩絵の具と色鉛筆が使われている。最近の作品では絵の具の方を多く使っているが、『天使の〜』は色鉛筆の線が残るふんわりとした印象の絵だ。文字はやはりない。クリスマスイヴ、少女はサンタにお願いするプレゼントの数々を書き出し、そのメモをくつ下の上にのせて眠りにつく。すると、少女の守護天使がやってきて……。そこからは、煙突のない家にどうやってサンタを呼び寄せるかが、丹念に、しかも子どもが読んで矛盾なく、描き出されている。部屋に飾られたクリスマスツリーや雪の降る街並みが、英国のクリスマスの一風景を伝えてくれる。
『聖なる夜に』も『天使のクリスマス』も、現実にはありえないような出来事を扱っている。物語を表現する絵もファンタスティックな雰囲気を醸し出している。けれども、登場人物の行動に注目すると、ときに可笑しさを伴うくらい現実的だ。たとえば、『聖なる〜』で奇蹟を起こす人形たち。人形だから魔法でも使って一気に片づけるのかと思いきや、トンカチ片手に家の修理をしたり、背丈の2倍もありそうなカートを押してスーパーで買い物をしたりする。『天使の〜』のサンタや天使も妙に人間臭い。ソリからプレゼントをひとつひとつ取り出すサンタの傍らで、リストにチェックマークをつける天使。なんだか、注文したおもちゃが工場から出荷されるようなシステマチックな光景だ。
 それにしても、コリントンの絵は緻密だ。加えて、1冊当たり100枚ものカットが配されている。彼の絵本を見ていると、完成までにどれだけの時間を費やしたのかを考えてしまう。才能があるにしても、努力と忍耐のいる仕事だろう。“絵本職人”とでも呼べばいいのだろうか。もしかしたら、その努力を怠らない職人の信念が、クリスマスの心温まるエピソードにも現実というスパイスをたっぷり振りかけたのかもしれない。そして、ただの夢物語に終わらない、現実と非現実が交ざり合う不思議な世界が創りあげられた。
 こんなことを考えていたら、絵本の奥の奥の方から、仕事机にむかって絵筆を動かすコリントンが振り返り、うれしいことは努力した見返り、努力なくして甘いことを考えちゃいけないよ、と語りかけてくるような気がしてきた。

(河原まこ)

『聖なる夜に』BL出版
『天使のクリスマス』ほるぷ出版


『おりこうねこ』のレビューとコリントンの略歴は、こちらをご覧ください。
『聖なる夜に』のレビューは、こちらをご覧ください。(海外読物案内第38号)
コリントンの作品リスト

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「海外読物案内」はさまざまなジャンルの新刊翻訳書を紹介するメールマガジンです。
児童書は毎週火曜日配信。やまねこ翻訳クラブのメンバーが執筆しています。
http://www.litrans.net/v/bkg/
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レイモンド・ブリッグズの描く、とっても身近なサンタクロース


 赤い帽子に赤い服、あごに白ひげたくわえて、大きな体で陽気に「ホッ、ホッ、ホー」と笑う。これが世界中の子どもたちが頭に描くサンタクロースの姿だろう。ところが、今から約30年前にレイモンド・ブリッグズが『さむがりやのサンタ』で描き出したサンタクロースは、見た目はおなじみのサンタクロースだけれど、なんだかちょっとちがっている。このサンタときたらこんな風なのだ。24日の朝、眉根を寄せて目覚ましを止める。そしてやれやれといった様子で顔を洗い、服を着替え、新聞を読みながら朝食をとる……。とてもこれから世界中の子どもたちにプレゼントを配りに行くとは思えない。どちらかというと、同作者の別な作品『ジェントルマンジム』の主人公のように、公衆トイレの掃除にいくといったほうがぴったりだ。仕事がきらいなサンタなんて、なんだかその辺にいるオジサンみたい。
 さらにおかしなことに、北極に住んでいるはずのサンタだが、妙にイギリス人っぽい。まず、なによりお茶が好き。起きたらまず湯を沸かし、沸いたお湯をティーポットに注ぎ、顔を洗いながらお茶の葉の広がるのを待つ。仕事が終わって帰ってからも、まずやかんを火にかけお茶の準備をする。いっしょに住むのは犬と猫(もちろんトナカイもいるが……)。そして極めつけは、クリスマスプディング。プレゼントを配り終わり、ほっとしたサンタは、ひとり静かにクリスマスプディングに火をつけて、クリスマスを祝う。こんな彼にイギリス人はますます親しみを感じてしまうに違いない。
 さて、まるでイギリスの小市民のようなこのサンタクロースの夢といったら、もちろん暖かい所での休暇だ。サンタの部屋のあちこちに太陽の光あふれるリゾート地のポスターが張ってある。休暇を思えばつらい仕事も何のその、といったところか。そして『サンタのなつやすみ』では、とうとうそりをキャンピングカーに改造してしまい、フランス、スコットランド、ラスベガスと渡り歩く(もちろん、旅行中も何かにつけてお茶を飲む)。こちらの絵本の表紙では、サンタクロースがいかにもバカンスといったいでたちでうれしそうに立っている。出勤前(?)の赤い服に身を包んだ、『さむがりや〜』の表紙と同じ構図なのだが、ひげの下に隠れた微妙な口の跡で、表情が見事に違っている。ビーズのような目と赤い鼻しか見えないこの顔で、よくもこれだけ気持ちの違いを表せたものだと感心してしまう。
 このようにブリッグズは人物の顔をシンプルに描くのだが、それぞれのキャラクターは、彼の絵本の特徴であるコマ割りされたページの中では、とたんに表情が豊かに変わる。コマの流れが生み出す効果だろう。だが、このコマ割りの手法は気位の高いイギリス人にはまだまだ受け入れてもらえないとブリッグズは言う(ACHUKAのブリッグズへのインタビューより)。さらに、絵本自体が読み物と比較して軽んじられる傾向にあるとも嘆いている。それでも彼は絵本を作り、コマ割りにこだわり続ける。
 自分の作品の置かれた状況について不満を語りながらも、頑固に己のスタイルで仕事をするブリッグズの姿が、文句を言いながら子どもにプレゼントを配るさむがりなサンタの姿と重なって見えてくる。ひょっとしてブリッグズはイギリスの頑固親父である自分をモデルにサンタクロースを描いたのではないだろうか?などと勝手な想像をしてしまう。

(大塚典子)

『さむがりやのサンタ』すがはらひろくに訳/福音館書店
『サンタのなつやすみ』さくまゆみこ訳/あすなろ書房

ACHUKAのブリッグズへのインタビュー
http://www.achuka.co.uk/guests/briggs/int01.htm
クリスマスプディングについては、「お菓子の旅」のバックナンバーをご覧ください。
アメリカ、開拓時代のクリスマスにローラが食べたヴィネガー・パイもでています。
http://www.yamaneko.org/mgzn/corner/cake.htm
ブリッグズの作品リスト(準備中)


人気者クイズ答え

 

  人気者クイズ答え
『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』ジャネット&アラン・アルバーグ作/佐野洋子訳/文化出版局
『バーバパパのクリスマス』チゾン&テイラー作/やましたはるお訳/講談社
『カロリーヌのクリスマス』ピエール・プロブスト作/やましたはるお訳/BL出版
『ババールとサンタクロース』ジャン・ド・ブリュノフ作/やがわすみこ訳/評論社
『ゆうびんやのくまさん』フィービとセルビ・ウォージントン作/まさきるりこ訳/福音館書店


世界のクリスマス

〜:〜:クリスマスは嬉しくてたまらない:〜:〜

『メリークリスマス 世界の子どものクリスマス』
R・B・ウィルソン文/市川里美絵/さくまゆみこ訳
冨山房 1983.12.10

 日本の子どもたちにとってクリスマスってなんでしょう。私が子どものころ、家では12月になるとツリーを茶の間に飾り、イブの夜には家族そろってちょっとしたご馳走とケーキを食べました。そして25日の朝、いつのまにか枕元にプレゼントが届いていて、私は兄とパジャマ姿で包みをあけました。我が家はキリスト教徒ではありませんでしたが、どの年のクリスマスも楽しい思い出として心に残っています。クリスマスがイエス・キリストの誕生日だと知ったのは、ずいぶん大きくなってからでした。
 さてこの絵本は、世界の子どもたちがどんなクリスマスを過ごしているかを描写しながら、各国のクリスマスの風習やクリスマスにまつわる伝説を紹介しています。クリスマスキャロルの楽譜、お菓子のレシピ、ツリーの飾りつけの作り方などもぎっしりと詰めこまれていますから、クリスマスの実用書としてもお勧めです。
 初めにキリスト生誕の物語が、わかりやすい文章でていねいに語られます。挿絵では、子どもたちがマリヤ、ヨセフ、天使、ヒツジ飼い、3人の学者に扮して、この物語を楽しそうに演じています。この劇もクリスマスの嬉しい行事のひとつなのですね。
 絵を描いているのは市川里美さん。子どもの表情やしぐさを巧みにとらえて、柔らかい線と色合いで生き生きと表しています。無心に賛美歌を歌ったり、はしゃいでお菓子を作ってほおばったり、サンタさんを待ちながら眠りにおちたり……。あどけない姿は、抱きしめて、ほおずりしたいほどかわいらしいです。また、服の模様のひとつひとつや、窓の向こうの景色までが丹念に描きこまれているので、ページを開けば、その国のクリスマスのお祝いが目の前で繰り広げられているように鮮やかに浮かびあがってきます。じっと眺めていたら、そのなかにすうっと融けこんでいけそう。
 雪に囲まれた北欧のクリスマス。オーストラリアの真夏のクリスマス。民族色豊かなインドやメキシコのクリスマス。お祝いの仕方は国によりさまざまです。そのなかで、私はフィンランドのイブの過ごし方がとりわけ気にいりました。冬の寒さにこごえお腹をすかせている動物たちのために、麦の束、袋に詰めた木の実、脂身を木や杭に結んだりぶらさげたりして、動物たちのクリスマス・ツリーをつくるのです。
 最後にこの絵本にでてきた子どもたちみんなが集まって、大パーティーが開かれます。国が違っても、風習が違っても、幼いころの私のようにクリスマスの意味がわからなくてもいいじゃありませんか。大切なのは子どもたちの笑顔。お祝いの日の、わくわくと胸の躍る、嬉しくてたまらないひとときこそ、最高のクリスマス・プレゼントではないでしょうか。

(三緒由紀)

(残念ながら、この絵本はただいま書店での入手ができなくなっています)


〜:〜:メキシコのクリスマスはポサダから:〜:〜

『クリスマスまであと九日――セシのポサダの日』
(初版タイトル:『セシのポサダの日――メキシコのものがたり』)
エッツ&ラバスティダ作/たなべ いすず訳
冨山房 1974年初版

 この絵本はメキシコのクリスマスの様子がセシという少女の視点から書かれています。クリスマスが近づき、子どもたちはポサダのことを考えてわくわく。ポサダとは、クリスマスの特別なパーティのことで、クリスマス前9日間、毎晩違う家で行われます。セシは幼稚園に入ったので、初めて自分のポサダをしてもらえることになりました。各々の家のポサダの日、その家の子どもは自分のピニャタを宙につるします。ピニャタというのは、中に粘土のつぼの入っている紙の張子で、動物や鳥の形をしたものなど様々なものがあり、これを選ぶのが子どもたちの楽しみでもあります。
 ポサダのことだけではなく、メキシコの風俗についても絵本ではたくさん描かれています。たとえば、門のそばに腰かけて通りを眺めたこと、公園にいるアヒルに自分のポサダの話をしたこと、それから家にもどって、アヒルのまねをして水のお風呂に入ったこと。こういうセシの日常生活からメキシコの生活感が伝わり、一度も行ったことのない土地に、ぐーんと親しみがわいてきます。
 エッツの描く子どもの表情はとっても身近。うちの子どもたちもこんな顔して歌うなぁなどと、絵をなでてしまいたくなるほど。近づくクリスマスに心からわくわくしている気持ちも、セシの顔をみたらよく伝わってきます。
 さあ、セシのピニャタ選びの日がきました。今より小さい時はマーケットへお母さんと買い物に行くことは、止められていたのですが、今回はとうとう一緒のお出かけが許されます。このマーケットのページは私の一番のお気に入り。たくさんの動物の形をしたピニャタが、セシに選んでもらおうと目をキラキラさせているように見えます。それもそのはず。小さな女の子の初めてのポサダに選ばれたピニャタには、とってもすばらしいことがよくおこるそうなんです。我が家の小さい男の子たちも、このページではセシと同じように、「ぼくはこれ!」とピニャタ選びが始まります。私もその指さしにまぜてもらい楽しい買い物をした気分を堪能。
 さて、セシの選んだピニャタは? ピニャタの中には、おいしいお菓子がたくさん入っていて、それを子どもたちが目かくしをして割り、でてきたお菓子をみんなで食べます。セシは大好きなピニャタを割ってほしくありません。でもご安心を。ラストはあたたかさに満ちていますので、幸せな気持ちでページを閉じることができます。

(林さかな)

 


〜:〜:常夏のカリブの島のクリスマス:〜:〜

"O CHRISTMAS TREE"
by Vashanti Rahaman, Pictures by Frane(eの上に') Lessac
Boyds Mills Press  1996

 カリブ海の島に住む少年、アンセルムにとって、今年のクリスマスは特別でした。なにしろ、生まれて初めて本物のクリスマスツリーを買ってもらえるのです。南の島には、雪も、そりも、暖炉も、クリスマスらしいものは何ひとつありません。クリスマスキャロルに歌われている情景の中で、手に入るものといえば北の国から船で運ばれてくるもみの木だけ。アンセルムにとって、本物のクリスマスツリーを手に入れることは、本物のクリスマスを手に入れることと同じでした。
 クリスマスが近づいたある日、アンセルムは期待に胸をふくらませ、踊りながら港へ向かいました。港では大勢の男たちが船から積み荷を降ろしています。日没が近づいた頃、とうとうもみの木が姿を現しました。ところが、もみの木を見たとたん、アンセルムはことばをなくします。もみの木は枯れ果て、葉がすっかり抜け落ちていたのです。
「クリスマス」と聞くと、私たちはストーブをつけた暖かな部屋での団欒や、雪の中、プレゼントを手に家々をまわるサンタクロースの姿を思い浮かべます。ところが、この作品の舞台は常夏の島。クリスマスシーズンといっても、太陽が照りつけ、緑が生い茂り、人々は半そでのシャツを着ています。ラジオでは、クリスマスキャロルに交じって陽気なカリプソ(カリブ海のトリニダード島で生まれた民族音楽)が流れています。挿絵に描かれた街並みやアンセルムの家の中は原色であふれ、いかにも南国といった雰囲気です。
 伝統的なクリスマスのイメージとはまったく違うこの世界で、アンセルムは本物のクリスマスに対する憧れをつのらせていました。けれども、本物っていったいなんでしょう。雪やツリーがなければ、本物のクリスマスではないのでしょうか。そんなはずはありません。大切なのはクリスマスを祝う気持ちです。それさえあれば、お祝いのしかたに本物も偽物もないはず。そのことに気づきはじめたとき、アンセルムはもうひとつ、大切なことに気づきます。それは……。
 お話を書いたラハマンは、トリニダード島の生まれ。画家のレサックも、カリブ海に浮かぶモントセラートという島に長年暮らし、絵の勉強をしたそうです。作家たちのゆかりの地、カリブのクリスマスを描いたこの作品には、カリブの自然や文化を愛する二人の想いが込められています。

(中野伊都子)


〜:〜:季節が逆! オーストラリアのクリスマス:〜:〜

"Angel in a Gum Tree"
by Diana Chase & Valerie Krantz,Illustrated by Heather Hummel
Sandcastle Books 1999

 クリスマス。イエスキリストの誕生を祝って、様々な天使があつまり、愛と平和の歌をうたっています。中でも一番大声の一番ちびの天使が、世界中にお祝いをいってまわる役にえらばれました。ついでに、とても変わっているという、オーストラリアのクリスマスの様子を調べてくるようにともいわれます。
 そこで、ちび天使はユーカリの木の上から、家族や友達同士が集まって、クリスマスのガーデンパーティを楽しむところを見学します。みんなTシャツにショートパンツといったいでたちです。あらあら、サンタの帽子とひげをつけたおじさんは、ビキニ姿に変身できるエプロンをつけて、裸足でバーベキューコンロの前にいます。赤ちゃんは犬にアイスクリームを取られて泣いているし、水鉄砲をもった男の子が友達を追いかけます。夏の花々が飾られた教会では、子どもたちが人形を使って、おなじみの、イエス誕生の場面を表す飾り付けを始めました。おばあさんが、昔から伝わるクリスマスの物語を読む声も聞こえてきます。クリスマスイブの晩、全ての動物がベツレヘムに向かってひざまずく話、ミソサザイが神の御子のために、あたたかな上掛けを毛糸で編む話……。街中がツリーやモールなど、きらきらしたディスプレイであふれ、クリスマスの雰囲気は盛り上がります。どんなプレゼントを買おうかと、うきうきして店をのぞく人々は、半袖やノーズリーブを着ているんですけどね。
 クリスマスを祝う人は世界中にいます。そして、その国の文化によって様々な習慣があります。イタリアではベファーナというおばあさんがプレゼントを持ってきてくれたり、オランダではお菓子をたくさん入れた木靴と交換におもちゃをもらったりするのですって。(これはちび天使が教えてくれたんです)
 でも、文化のほかに気候によっても違いがでてきます。東北育ちのわたしは、東京に住むようになって、クリスマスなのに雪がないとよく文句をいっていました。今思うと、ホワイトクリスマスでなくちゃ本物じゃないなんて、なんて狭い考えでしょう!地球は丸い。わたしたちが寒くて震えているとき、水着でおよでいる人たちもいるのです。逆さまの気候にすむようになったオーストラリアの人々は、母国から持ってきた文化をどのように受け継いできたのでしょうか。
 まさにオーソドックスなクリスマスカードといった、ちょっと古めかしい絵が、ちび天使の見た夏のクリスマスの街やパーティの様子を細かく伝えてくれます。さてさて、ちび天使は、オーストラリアのクリスマスをどのように感じたのでしょうか?

(大塚典子)


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編集後記
やっぱり絵がみたい。そんなご要望にお応えして増刊号もホームページ版を準備中。12月4日公開予定です。レビューと一緒に表紙の絵もご覧ください。(か)
だれだって顔がほころぶクリスマス。当メルマガもいつもより少し肩の力を抜いてみました。いかがでしたか?(の)

and A Happy New Year!


発 行  やまねこ翻訳クラブ
発行人  瀬尾友子(やまねこ翻訳クラブ 会長)
企 画  河原まこ
編 集  大塚典子
編集協力 井原美穂 蒲池由佳 中野伊都子 林さかな ぱんち 三緒由紀 
     ベス みるか りり yoshiyu YUU
協 力  @nifty 文芸翻訳フォーラム 小野仙内


・増刊号へのご意見・ご感想は mgzn@yamaneko.org までお願いします。

増刊号のトップページ 月刊児童文学翻訳 やまねこ翻訳クラブ

 


日本で出版されている作品の表紙画像は、出版社の許可を得て、掲載しています。
海外で出版されている作品の表紙画像は、 オンライン書店との契約に基づいて、掲載しています。

▲▽本文および表紙画像の無断転載を禁じます。▽▲

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