●トークイベント連動レビュー●
◆日常にきらりと輝きをくれる詩たち◆
『どれがいちばんすき?』 ISBN 978-4001112610
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『こうえん』 ISBN 978-4001112627
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ジェイムズ・スティーブンソン文・絵/千葉茂樹編訳
岩波書店 定価各1,100円(本体) 2017.03 48ページ
(詩集絵本 "Corn Book" シリーズ7冊から選んだ46編の詩を2冊にまとめた
日本版オリジナルアンソロジー)
★2017年やまねこ賞絵本部門大賞受賞作品
『どれがいちばんすき?』の表紙には、パンやケーキ、クッキーなど、かわいらしい
イラストが散りばめられ、裏表紙の色が水色。『こうえん』の表紙は、色とりどりの
花が並ぶ花屋さんで、裏表紙は若草色だ。1編につき見開き2ページを使い、詩ごと
に語り口や文字のデザインを変えた文章に、ペンで軽やかに描き、水彩の淡い色を付
けたイラストが添えられている。どのページを開いても、まるで一枚の絵画のように
美しい。小ぶりで軽いサイズは、手に持って読むのにぴったりだ。我が家では、7歳
の娘のベッドサイドが定位置で、寝る前に数編読み聞かせるのが習慣になっている。
楽しかった日はもちろん、叱り過ぎてしまった日は特に、この詩集に助けられている。
娘との距離が縮まるように、丁寧に言葉を追う。身近なものや風景から生まれた、あ
たたかな詩たちは、どんな日も笑顔で終わらせてくれる力を持っている。
私が特に好きなのは、「バスケット屋さん」。左のページに昼間の、右のページに
夜のバスケット屋さんのイラストを載せて対比した作品で、人物も背景も描かないシ
ンプルさが、昼のにぎわいと夜の静けさを際立たせている。通りの雑踏や、お店を営
む人の人生をあれこれ想像して、いつまででも見飽きない。娘のお気に入りは、アイ
スクリームを題材にした、「どれがいちばんすき?」。おいしそうなイラストと、
「どれがいちばんすき? すぐになんか こたえられない ぜーんぶ たべてみなく
ちゃね」という、甘やかすような優しい言葉が、読むたびに心を溶かしてくれる。
どの詩も文章が素晴らしく、最初から日本語で書かれていたかのような自然な訳な
のだが、千葉さんの講演を拝聴して、さまざまな工夫のたまものだったことを知り、
感銘を受けた。また、この2冊の詩集が刊行されるまでには、20年の歳月を超える千
葉さんの尽力があったという。素敵な詩を日本の読者に届けてくださった千葉さんに、
心からの感謝をお伝えしたい。生きることの面白さ、愛おしさに光を当てたスティー
ブンソンの詩が、多くの人の心を明るく照らしてくれますように。
【文・絵】ジェイムズ・スティーブンソン(James Stevenson):1929年ニューヨー
ク生まれ。米国の雑誌 "The New Yorker" でイラストレーターを務め、2000点近い挿
絵や1コマ漫画を描いた。絵本作家としても100冊を超える作品を創作している。邦
訳されたものに、『あたまにつまった石ころが』(キャロル・オーティス・ハースト
文/千葉茂樹訳/光村教育図書)などがある。2017年に87歳で永眠した。
【編訳】千葉茂樹(ちば しげき):本誌本号「レポート」参照。
【参考】
▼ジェイムズ・スティーブンソン追悼記事(The New York Times ウェブサイト内)
https://www.nytimes.com/2017/02/23/arts/james-stevenson-dead-new-yorker-cart
oonist.html
▽本誌2017年12月号「特集:第20回やまねこ賞」
http://www.yamaneko.org/mgzn/dtp/2017/12.htm#tokushu
(山本真奈美)
◆スピニー通りで謎ときを!◆
『スピニー通りの秘密の絵』ローラ・マークス・フィッツジェラルド作/千葉茂樹訳
あすなろ書房 定価1,500円(本体) 2016.11 296ページ ISBN 978-4751528631
"Under the Egg" by Laura Marx Fitzgerald
Dial Books, 2014
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ニューヨークのおしゃれな家が並ぶスピニー通りで、母と祖父と一緒に暮らす13歳
の少女セオ・テンペニー。画家でメトロポリタン美術館の警備員でもある祖父の手ほ
どきを受け、幼いころから本物の絵に囲まれて育ってきた。ところが、突然の事故で
祖父を失い、生活は一変してしまう。遺されたのは、時代に取り残されたようなおん
ぼろ屋敷とわずかな現金、そして「卵の下を探せ」という謎の言葉だけ。心を病んだ
母を抱え、これからどうやって生きていったらいいのだろう。藁にもすがる思いで、
セオは祖父の遺した言葉の意味を探ろうとする。
テンペニー家には毎朝恒例の儀式があり、庭で飼っている鶏が産んだいちばん形の
いい卵をアトリエの炉棚に捧げていた。この炉棚の上にあった祖父の絵に、セオは誤
って消毒アルコールをかけてしまう。すると表面の絵の具がはげ、なんと下から古い
まったく別の絵が現れたのだ! どうやらルネサンス期の巨匠ラファエロの描いた聖
母子像らしい。これを売れば生活苦から抜け出せるかも。一方で疑問が頭をもたげる。
なぜそんな貴重な絵がここにあるのだろう。贋作か、ひょっとしたら祖父が盗んだの
かもしれない。たったひとりで悩んでいたセオは、ひょんなことから同じスピニー通
りに住む有名俳優の娘ボーディと出会い、一緒に謎を追うことに……。
1枚の絵をめぐってテンポよく展開するストーリーに、ページを繰る手が止まらな
い。ラファエロの絵にまつわる秘密、第2次世界大戦中に特殊任務についていた祖父
の過去など、謎が謎を呼び、歴史をさかのぼる壮大なミステリーへと発展する。そし
て、謎ときの面白さもさることながら、なんと言っても読み手の心をつかんで離さな
いのが、主人公セオとボーディの絶妙なコンビだ。かたや図書館で専門書を読みあさ
る美術通。かたやインターネットを駆使する怖いもの知らずの現代っ子。まったく対
照的なふたりが、大人顔負けの推理力と行動力でニューヨーク中を駆けめぐる。脇を
固める個性豊かな大人たちとの軽妙なやりとりがまた小気味いい。一匹狼だったセオ
は、謎ときをきっかけに少しずつまわりに心を開いていく。セオが卵の下に見つけた
もの。それは、かけがえのない仲間だったのかもしれない。
【作】ローラ・マークス・フィッツジェラルド(Laura Marx Fitzgerald):米国生
まれ。ハーバード大学とケンブリッジ大学で美術史を専攻した後、本作品で作家とし
てデビュー。同じく美術をテーマにした作品 "The Gallery" が2016年に刊行されて
いる。現在、夫とふたりの子どもとともにニュージャージー州で暮らしている。
【訳】千葉茂樹(ちば しげき):本誌本号「レポート」参照。
【参考】
▼ローラ・マークス・フィッツジェラルド公式ウェブサイト
https://www.lauramarxfitzgerald.com/
▼作品・作者紹介ページ(Penguin Random House ウェブサイト内)
https://www.penguinrandomhouse.com/books/313482/under-the-egg-by-laura-marx
-fitzgerald/9780142427651
(手嶋由美子)
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