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やまねこ翻訳クラブ 資料室
千葉茂樹さんインタビュー
(翻訳家)


『月刊児童文学翻訳』99年11月号より

【千葉茂樹さん】

 1959年北海道生まれ。国際基督教大学卒業。児童書の編集者を経た後、英米作品の翻訳に従事。訳書に『心は高原に』「恐竜探偵フェントン」シリーズ(小峰書店)、『ちいさな労働者』『ウエズレーの国』(あすなろ書房)、『木』(小学館)、『みどりの船』(あかね書房)などがある。北海道当別町在住。  

Q: 以前は児童書の編集のお仕事をなさっていたそうですが、子どもの本に関わるようになられたきっかけを教えてください。

A: 子どもの本というよりも、ジャーナリズムに昔からとても興味がありまして、学生時代から新聞作りに携わっていました。ですから、最初は新聞社に就職するつもりだったんです。青臭い人間で、「自分の力で世界を変えたい」と本気で思っていました。最終的に児童書の出版社を選んだのは、未来を担う子どもたちに訴えかける本を作ることが、自分の理想をかなえることにもつながると思えたからです。


Q: 編集者時代に手がけられた本の中で、特に思い出に残っているものは何ですか?

A: たくさんあって困ってしまいますが、どれかひとつといわれれば、『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン著)ですね。これは、10年におよぶ編集者時代の集大成ともいえるもので、私が翻訳者として歩みはじめる間接的なきっかけにもなった作品です。今は新潮社から出版されていますが、これからも、レイチェル・カーソンの思想が受け継がれていくことを願っています。


Q: 翻訳者として再スタートなさったきっかけを教えてください。

A: 会社を辞めたいという私の願望と、長年の専業主婦生活を終え社会復帰を果たしたいというかみさんの願望が同時にかなうチャンスが訪れ、思い切って夫婦の役割の交換に乗り出したのがそもそものはじまりでした。幸いかみさんの就職先が第一希望の北海道に決まったので、すぐに引っ越し、私の「主夫」としての生活がスタートしたわけです。あくまでも、主夫になることが第一の目標で、翻訳者になるならないは二の次でした。早いもので、あれからもう6年、私の翻訳書もまもなく20冊になろうとしています。


Q: 翻訳者としてのデビュー作は、どのようにして決まりましたか? また、普段はどのようにして未訳の本を探していらっしゃいますか?

A: 実は、会社を辞めることを考えはじめるずっと前から、『夜の国』(ローレン・アイズリー作/工作舎)という本を共訳しておりまして、結局は、それがデビュー作になりました。その後、しばらくの充電期間を経て、持ち込みをはじめました。編集者時代に築いた人脈がありましたので、ほかの方に比べると出版社の敷居は低いわけですからとても有利だなとは思います。現在では出版社の方から声をかけていただくことも多く、持ち込みとの比率は半々ぐらいです。
 持ち込みの本は、半年に一度の上京のときに書店やエージェントをまわったり、インターネットで洋書を取り寄せたりして探しています。書評誌も購読していますが、新作よりも、埋もれた名作を探すほうが好きですね。いい作品が見つかったときに、その作品に興味を持ってくれそうな編集者の顔が浮かぶというのは、やはり児童書出版業界に関わっていた自分の強みですよね。


Q: 最新作の『ひねり屋』(ジェリー・スピネッリ作/理論社)が話題になっていますが、この作品について何かエピソードがありましたらお聞かせください。

A: あとがきにも書きましたが、最初にこの作品を原書で読んだときの印象は、決していいものではありませんでした。チャリティーの大義名分のもとに、毎年大量の鳩を銃で撃ち、瀕死の鳩の首をひねる「ひねり屋」という形で子どもにまで加担させている町、という設定が、あまりにも度を超しているように思えたのです(あとになって、実際にある話だということがわかったのですが)。でも、何度も読み返しているうちに、別の側面が見えてきました。「ひねり屋」になりたくないという葛藤の中で見事に成長を遂げる主人公の姿が、大人社会の矛盾やストレスを抱えて生きている子どもたちに、きっと勇気を与えてくれるだろうと思えたのです。
 実はこの本の発行準備が最終段階にいたったところで、千葉で60数羽の鳩が首をひねられて殺されるという事件が起こりました。あわてて出版社とも相談しましたが、そのような事件が現実に起きてしまう世の中だからこそ、なおさらこの本の意義は大きいのではないかとの結論にいたり、予定通りの刊行となった次第です。
 ニューベリー賞のオナーに輝いたこの作品、決して明るいストーリーではありませんが、大人向けの外国文学としても読むに耐える作品だと思っています。できるだけ多くの方に読んでいただければ幸いです。

「ひねり屋」表紙

Q: 文芸翻訳家をめざすみなさんへ、ぜひアドバイスをお願いします。

A: 「文芸翻訳家になりたい」という方に、どんな本を訳したいのか尋ねると、「特にない」という答えが返ってくることがあります。でも、それっておかしいですよね。訳したい本があるからこそ、翻訳家になりたいという気持ちもわいてくると思うんですが、いかがでしょう。みなさんには、未訳・既訳を問わず、とにかくたくさんの本を読んで、早く自分の訳したい本を見つけてほしいと思います。
 それから、児童書の翻訳をするときは、読者の側に立つことを特に忘れないでほしいと思います。対象となる読者に理解できないような言葉を並べて翻訳しても仕方がないですよね。これは、子どもを甘く見るということとはまったく違う問題です。


Q: 今後のご予定について教えてください。

A: 年末から来年にかけて、「恐竜探偵フェントン」シリーズ第5巻(小峰書店)を皮切りに、伝記絵本『雪の写真家ベントレー(仮題)』(BL出版)、科学写真絵本、ハードな冒険ノンフィクションなどが出る予定です。どうぞお楽しみに!

インタビュアー : 宮坂宏美

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。

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