ぽってりと描かれたまんまるの黄色い月。ページをめくるとそれが朱色のお日さまにかわって、卵の殻からはいだしたばかりのトリケラトプスの赤ちゃんが5ひき、きょとんとあたりを見まわしている。添えられた文章はただ一つ。
A long time ago there were dinosaurs.
バイロン・バートンの絵本 Dinosaurs, Dinosaurs は、こんなふうにして始まる。
恐竜を描いた本や図鑑は、たくさんある。ページから飛びだしてきそうな、リアルな恐竜が満載のもの。大判の絵本の折り込みページを広げると、巨大なブラキオサウルスがあらわれるもの。どれもこれも迫力満点で楽しいけれど、体ごと、いや心ごとぽんと恐竜の世界につれてってくれるという点で、この絵本にまさるものは、見あたらない。素朴で、シンプルで、およそ「リアル」からはほど遠いのに。
ページをめくってゆくと、いろんな姿の恐竜たちが登場する。つののあるもの、とげのあるもの、大きいの、小さいの。子どもの描いた絵のようにカラフルでユーモラスな恐竜たちが、各ページで存在感を発揮する。日がしずみ、月がのぼり、空の色はうつろい、色と形がゆったりとしたリズムをきざむ。
言葉のリズムも心地よい。
dinosaurs with long, long necks and
long,
long tails
太古の悠然とした時の流れが、お腹の底に響いてくるようだ。
さて、ひととおり恐竜たちが登場すると、文章はこんな展開を見せる。
There were hungry dinosaurs
and very tired and very, very sleepy
dinosaurs.
ああ、こんなに何気なく、ふいっと恐竜の世界をひきよせてしまうなんて。眠るトリケラトプスのかあさんと5ひきの子どもたちをながめていると、悠久の時のへだたりを飛び越えて、しんとした眠気にひたされる。
6千5百万年の眠り。
お話は時を飛び越える。いともかるがると。
Dinosaurs, dinosaurs, a long time ago.
(内藤文子)
Dinosaurs, Dinosaurs
by Byron Barton, 1989
(HarperTrophy $5.95 36 pages)
邦訳『きょうりゅう きょうりゅう』
バイロン・バートン作・絵
中川千尋訳
(徳間書店 本体1300円) |
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