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1969年に日本で紹介された、カニグズバーグの第1作『クローディアの秘密』。今では古典ともいえるこの名作に、小島希里さんはリアルタイムで出会い、幾度となく読み返した。それからおよそ20年後の1990年、亡くなった前の訳者、松永ふみ子さんを引き継ぐ形でカニグズバーグ作品の翻訳を手がけるようになり、これまでに6作を刊行。昨年は、小島さんが最も気に入っているという『800番への旅』など3冊が立て続けに出版された。 「カニグズバーグが一貫して描くのは、思春期の子どもたちの成長です。この時期には、周囲からの強力な『ピア・プレッシャー』(仲間に同化するよう求められる社会的圧力)をしのいでいくことが、『どう生きるか』に等しいくらいの意味を持つんです」 作品に登場するのは、多くが12歳前後で郊外育ちの子どもたち。物質的には何不自由ないが、精神的に圧迫感を抱えて自分のあり方を探っている。「そんな時、自分なりの『旅』をしてきちんと孤独を見つめ、信頼に足る大人と巡り会って、他者との関わり方を見出してゆく。それがカニグズバーグ作品の面白さですね」 前述の『800番への旅』では、主人公の少年マックスが、別れた父親の元でひと夏を過ごす。父はラクダ引きが稼業で旅から旅のしがない暮らしを送っているが、実は生きるための真の知性を備えた人物だ。この父が、ラクダ引きの生活になじもうとしないマックスに、こんなアドバイスを送る場面がある。“外国人みたいにこの土地に旅をして、ここの習慣を見守ってみたらどうだい?”。小島さんがとりわけ印象深いと感じる一節だ。 また、間もなく訳了する最新作 Silent to the Bone は、同じ旅でも内界への旅の物語。主人公の少年コナーが、異母姉の深い英知に助けられながら、ある事件に巻き込まれて傷ついた親友の心や、複雑にからみあう家族の思いを解きほぐしてゆく。「これまでの集大成ではないか」(小島さん)という傑作だ。 今年の年末からは、この最新作を含む選集の刊行が始まる。一ファンとして大いに楽しみであると同時に、より多くの子どもたちがこれらの作品に触れてくれればと、願わずにはいられない。目に見えぬ息苦しさの中で懸命に生きる思春期の子どもたちにとって、カニグズバーグの世界は絶好の「旅先」となるはずだから。 (内藤文子) |
「キッズBOOKカフェ」(月刊『eとらんす』2001年5月号掲載)のホームページ版です。
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