************************** 『ジャズ・カントリー』Jazz Country, 1964 ナット・ヘントフ/作 木島 始/訳 ************************** |
主人公トムは、ジャズに夢中の高校生。あこがれの「ミュージシァン」モーゼ・ゴッドフリーの演奏を聴きたくて、中には入れてもらえなくても、毎日ダウンタウンのクラブに通っている。やがてトムは、モーゼやその仲間たちと親しくなり、「ヒップ」な彼らに魅せられて、ジャズへの熱い思いをいっそう高めていく。しかし一方で、白人である自分が、黒人の音楽であるジャズの世界に本当に入っていけるのかという不安もまた、強くなっていくのだった。
大学進学をするべきか、ジャズの道で生きていくか、大きく揺れ動くトム。トムはどのように「大人」になり、自分の生きる道を選択していくのか。まさにジャズの熱いビートのように語られる物語。(あらすじ by くるり)
★『ジャズ・カントリー』は子どもが成長するということはどういうことなのかを描いた傑作でいまも古びていません。またこの小説は他のあらゆるジャズ解説書・入門書以上にジャズの本質を深いところで平易な表現でつかまえていますね。ジャズの聴き始めにこの本と出会えたことは本当に幸せでした。 (Mkwaju)
★『ジャズ・カントリー』、私も、ヤングアダルト世代の小説としてこれを越えるものはないのではないかと思ったくらい衝撃を受けた作品です。成長するとはどういうことか、友情とはどういうことか、そしてfairnessについてもしっかりした視点で描かれていましたよね。読みながら、自分も窓の外からジャズクラブの中を覗いている少年になった気がしました。「体が熱くなるような本」と今でも思っています。
またこの作品は、訳者の木島始さんに出会ったと言う点でも私には大きな意味を持ちます。ラングストン・ヒューズやキーツ、フォークナー、ホイットマンなど、本当に「訳すのがものすごく難しい!」と思われる本をいきいきと、そして真摯に訳していらっしゃると思います。私の尊敬する翻訳家の方です。(あまのうずめ)
★とにかく、とにかく、おもしろかったです。主人公トムの少年らしい情熱にも胸が熱くなりますし、そんな彼を取り囲む、モーゼをはじめとするヒップなプロのジャズメン、トムの若い情熱を真剣に受け止めるトムの父親など、大人たちも本当にかっこいい。こんなに重厚で、それでいてかっこいい大人が、今の少年たちの周りにもいて欲しい!
そして、少年トムの成長とともに、もうひとつ重要なテーマになっているのが「差別」の話です。こちらもかなり示唆に富んだものでした。白人であるトムが、黒人音楽ジャズの世界に入ろうとするときに感じる疎外感や孤立感。一方、モーゼの息子が白人社会で必死に生きている姿。差別は、する側とされる側という単純な位置関係で生まれてくるものではないし、肌の色(人種)など関係なく、自分自身で生きればいい、という建前を実践することの難しさが彼らの苦悩を通して切実に伝わってきます。でも、すべてがあくまでもヒップに熱く語られていて、決して「スクエア」なお説教なんかではないんですよ! (くるり)
★まず、ジャズを愛するトムの率直さと決して飾らないまっすぐな熱意のようなものに心を打たれました。「なにかが好き!」っていうことは、ほんとうになによりも強いんだと思います。そして、(著者のヘントフが意図したとおりに)私もジャズについて知りたくて知りたくてたまらなくなってしまいました!
この本、私はずっと自分のそばに置いて、きっとこれから何度も読み返すことになると思います。その度に、力強くて大きな本物の勇気と、なにかに夢中になりながら生きることの楽しさを分けてもらえそうな気がします。 (こべに)
★ 別に、翻訳に限ったことじゃなく、スポーツでも何でも、とにかく何かを熱烈に愛していて、うまくなりたい、でも自分に果たして才能があるのだろうか、と悩んだことのある人には是非「読んでみて!」とすすめたい本です。いえ、何か特定のことでなく、人生そのものだって、本来はひとりひとりが「創造」していくものなんですよね。その意味で本書は、やはり青春のバイブルと言えるのではないでしょうか。あまりに手垢のついた言葉ではありますが、最近では「青春」という言葉すら死語になっているようなので、あえて使ってみました。 (BUN)
作者ヘントフについてナット・ヘントフは、1925年ボストン生まれ。バーナード・ベレンソンやレナード・バーンスタインなどを輩出したボストン・ラテン・スクールを経てノースイースタン大学卒。ハーバード、ソルボンヌでも学ぶ。学生時代からジャーナリズムの世界に入り、ラジオ局でスポーツ、報道、ジャズと様々な分野でアナウンサー、ディレクターとして活躍。のちボストンからニューヨークに移り、当時ジャズ・ジャーナリズムを代表していた『ダウン・ビート』誌のエディター・ライターとなりジャズ批評家として知られるようになる。次第に『ダウン・ビート』のメインストリーム偏重の姿勢に飽き足りなくなったヘントフはマーティン・ウィリアムズとともに『ジャズ・レヴュー』誌を創刊、ジャズの新しい波を積極的に紹介擁護し、示唆に満ちたジャズLPライナーを量産する。ジャズの世界におけるさまざまな人種的問題をつねに視野に捉えていた彼の批評活動は少年時代からのジャズ・ミュージシャンとの交流の記憶とともに『ジャズ・カントリー』に結実することになる。 (Mkwaju) |
*表紙の写真は出版社の許可を得て使用しています。
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