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やまねこ翻訳クラブ レビュー集

雪の写真家 ベントレー


9.Apr.2000 NO.78 Sincerely やまねこの絵本箱 by 吉崎 泰世

雪の写真家 ベントレー

J・B・マーティン作 M・アゼアリアン絵
千葉茂樹訳 BL出版

 時には眩しすぎて近よりがたく感じるほど、炎のように情熱的な人もいます。また、小さな灯りをともすように、静かな情熱を秘めた人もいます。あなたは、どちらのタイプですか?

 今回ご紹介します伝記絵本、『雪の写真家 ベントレー』(J・B・マーティン作/M・アゼアリアン絵/千葉茂樹訳/BL出版)の主人公ベントレーは、静かな情熱を持ちつづけた人でした。彼は一生を通し、ひた向きに「宝物」を追いつづけました。彼の「宝物」、それは雪でした。

「雪の写真家 ベントレー」表紙

 ベントレーは幼い頃から、雪の美しさに魅せられていました。雪が降りだすと友だちとも遊ばず、ひたすら顕微鏡で雪をのぞいては、その結晶をスケッチしていました。17才のとき、両親から乳牛10頭分もする高価なカメラを買ってもらってからは、もう夢中で雪の結晶を写真に撮りつづけます。

 やがて、雪に関する本や写真を公表するようになったベントレーは、アマチュアの雪の研究家として有名になりました。でも、彼自身はそんな野心があったわけではなく、ただ一途に雪の美しさを愛し、その美しさを他の人にも見てもらいたいと願っていただけです。この絵本の最後のページに、彼の手記がのっています。その最後を彼はこう締めくくっています。

 「酪農家からはいっぱいのミルクを。そして、わたしの写真からも、
  おなじくらいだいじなものを受け取ってもらえるだろうと、わたしは
  信じている」

 なんの気負いもないその言葉に、心がぽおっと暖かくなりました。くっきりと黒い線で縁どられた、素朴な木版画の絵からも、そんなぬくもりが感じられます。一生を一つのことに打ちこんだベントレー。なんとみごとな生き方でしょう。うらやましささえ覚えます。彼の一途な思いは、時を超え、たくさんの人々に伝わってきました。雪の研究者たち、村の人々、この絵本の作家、そしてそれを日本語に翻訳してくれた翻訳家……。きっと、この絵本を読む人々の心にも、伝わっていくことと思います。

 季節はもう、春。ベントレーの「宝物」とはしばらくお別れですが、これから一年で一番、命が輝きだす季節を迎えます。穏やかな春の光の中、外へお出かけになってみませんか。あなただけの「宝物」が見つかるかもしれませんよ。

※本の表紙は、出版社の許可を得て使用しています。


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